冷徹
「では、準備が整い次第、すぐに出発します。宿に残る者たちへの指示は私が出します、安心してください。」
ガルシアの言葉は強い信頼感と責任感を感じさせるものであった。ジンは内心の警戒を緩めることはなかったが、その場では彼女の主導権を尊重することに決めた。
「ありがとうございます。私も仲間たちが無事であることを確認したいと思いますので、迅速に準備します。」
そう言うと、ジンは部屋の隅にある荷物へと足を向けた。短時間で必要最低限の準備を整え、再びガルシアの前に立った。
「準備は整いました。では、行きましょう。」
ガルシアは頷き、部屋の外に待機していた他の騎士たちに指示を出した。
「準備は整いました。では、行きましょう。」
ガルシアは頷き、部屋の外に待機していた他の騎士たちに指示を出した。
「部隊を二つに分けます。騎士団に報告及びに捕らえた盗賊を尋問、もう一部隊は私たちと行動します。」
その指示を受けた騎士たちは迅速に動き出した。その様子は、長年の経験によって培われた規律と信頼を感じさせるものだった。
ジンはその動きを静かに見守りつつも、内心では複雑な感情が渦巻いていた。
この状況が単なる偶然ではなく、何らかの意図が絡んでいる可能性を否定できなかったからだ。
外へと出ると、夜空には薄い雲がかかり、月明かりがわずかに街路を照らしていた。ガルシアが口を開いた。
「まずは貴方の仲間たちの行方を追いましょう。盗賊のアジトの可能性が高い場所を既に部下に調べさせています。」
ジンは頷き薄明かりの中を歩き始めた。
夜風が冷たく吹き抜ける中、ガルシアはジンに歩調を合わせながら、部下が報告した情報をまとめて伝え始めた。
「報告によれば、街の外れにある区間が怪しいとのことです。最近、不審な動きが増えており、そこで盗賊たちが集まっている可能性が高いようです。」
ジンはその話を聞き、冷静に問い返した。
「その区間というのは人目があまりないのでしょうか?」
「ええ、かつては賑わいも見せていた区間ですが、町から炙れた連中が集まるようになり、まともな人間は次々に別の区間へと移動して、今では目に生気のない人間の憩いの場になっています」
ジンは頷きつつも、内心では緊張を隠せなかった。仲間たちの安否が気になっていたからだ。
道中、ジンはふと口を開いた。
「ガルシア殿、ひとつお伺いしたいのですが、なぜそこまで迅速に私たちの動向を把握されていたのでしょうか?」
ガルシアは一瞬間を置いた後、静かに答えた。
「バスバから聞いた情報も一因ですが、貴方たちを気にされていた方からの情報があったので」
その言葉には何かを隠しているような響きがあったが、ジンはそれ以上問い詰めることはしなかった。
今は仲間たちを無事に見つけ出すことが最優先であると考えていたからだ。やがて、目的地である区間にたどり着くと陰湿な光景が視界に入った。
荒廃した石造りの建物が犇めくなか、周囲は不気味な静けさに包まれていた。ガルシアは手を挙げ、部下たちに合図を送ると、声を潜めて言った。
「ここがその場所です。まずは私たちが周辺を調査し、必要であれば援護を呼びます。ジン殿、少し待機していただけますか?」
ジンは一瞬迷ったが、冷静に頷いた。
「わかりました。しかし、もし仲間が見つかりましたら、すぐに知らせてください。」
ガルシアは小さく頷き、部下たちとともに周辺の探索へと向かっていった。ジンは待機しながらも、周囲の様子を注意深く観察していた。
荒れ果てた区間の中で、ちらほらと見える人影たちは、自らの境遇を受け入れたかのように無気力に時間を浪費しているように見えた。
地面に寝転がる者、何かを無意味にいじっている者、そして影の中に隠れるように存在を消している者。
どの姿も共通して希望の光を失ったように見えた。
ジンはその光景に眉をひそめながら、自分が立ち入ろうとしている場所の危険性を再認識した。待つこと暫く、ガルシアが戻ってきて、その表情は鋭さを保ちながらも、何かを掴んだ様子だった。
「ジン殿、少し進展がありました。部下が周辺の情報を聞き込みした所、青い肌の竜族が数人と共に更に奥へと向かっていったのを目撃した者がいました」
「奥ですか…盗賊の隠れ家の可能性が高いですね。」
ジンは冷静を装いながらも、内心で仲間たちがそこにいる可能性を考え、焦りを感じた。ガルシアは頷き、続けた。
「危険ですが、私たちが先行します。ジン殿、貴方も同行していただけますか?」
ジンは即座に頷いた。
しかし頭には疑問が残っていた、宿での話しだと自分達をなるべくこの案件には関わらせたくないだろうに何故自ら同行を要請するのか⋯
しかしジンは仲間達の安全を考え、もしかしたら気持ちを汲んでくれているのだろうと納得させガルシアの言葉に従った
「もちろんです。仲間がいるならば、危険です。急ぎましょう」
ガルシアは満足げに頷き、手元の剣を握り直した。その仕草には、何が起こっても動じない決意が感じられた。
ガルシアの部下に言われた場所に来たジンは思わず呟いた
「明らかに行き止まり⋯と言うよりは壁しかありませんね」
かすかに響く足音が異様な静けさを際立たせた。薄暗い壁に阻まれてジンは誤報ではないかと思っていたが、ガルシアは小声で部下に指示を出しながら、前方を注意深く確認していた。
やがて、近くで寝ていた男にガルシアは直接聞き込みを始めていた。
ジンはその様子を横目でみていると鋭い悲鳴があたりに響き渡った。ジンは刀に手をかけ悲鳴の方に向き直るとガルシアが先程の男の手を切り落としていた
ジンは目を見開き、その場に張り詰めた空気が一瞬にして変わったことを感じ取った。
ガルシアが冷酷な表情で立ち尽くしている様子は、これまでの毅然とした態度とはまるで違う雰囲気を纏っていた。
切り落とされた男の手は地面に転がり、彼は痛みにのたうち回っていたが、ガルシアはそれを一顧だにしなかった。
彼女は冷静に剣を拭いながら、ジンに振り返ることなく言葉を放った。
「この男が嘘をついていた。時間を無駄にするわけには生きません。こいつは盗賊の仲間です」
ジンはその言葉に驚きと困惑を隠せなかった。
冷酷とも取れるガルシアの態度に、彼女の行動の意図がわからず、内心で警戒心を強めた。
目の前で手を切り落とされた男は痛みに叫びながらも、恐怖で体を震わせていた。
「盗賊の仲間…ですか?」
ジンは静かに問い返した。その声には疑念が滲んでいた。ガルシアはその視線を受け止めながら、冷静に答えた。
「ええ、先ほどの聞き込みでわかりました。この男が他の盗賊たちに警告を送ろうとしていたのを部下が見つけたのです。情報を得るためには多少の手荒な手段も必要でしょう。それに」
「こいつが死のうとその命は王の糧になるだけです」
ジンはその説明を理解できないまま、目の前の状況を見つめた。手を切り落とされた男は、震えながら必死に口を開いた。
「た、頼む…俺は本当に何も知らない⋯!」
男の言葉にガルシアは眉一つ動かさず、壁を指さして部下に指示を出した。
「調べなさい。」
指示の元、部下達が壁を調べ始めると、ガルシアは男を冷たい視線で見つめると静かに言い放った。
「もしここで本当の事を話せば、楽に送ってあげましょう。ですが⋯言わず隠し通すなら。お前の命はベイルガルドとの戦いに使わせてもらいましょう」
男は怯えた顔でガルシアの剣をみて、ガルシアをまじまじ見て、低く笑い呟いた。
「貧民が王の力を得て英雄気取りか⋯?イカれた王子と寝て、貰ったちか⋯あぁぁぁ!」
ガルシアは男が言葉を、発する前に剣を男に突き立てた
突き立てた剣とガルシアはまるで男の悲鳴を聞くのが目的かのように苦しめていた。
ジンは思わず叫んだ
「よせ!!」
ガルシアはジンの叫びに感情なく目線を向けると
「この男の卑小な命はせめて国の為に使わないといけません。それに貴方もおわかりでしょうがこいつは盗賊の一員でした。」
ジンはガルシアの返事も聞かず、飛び出すと刀を抜き去り男の首を跳ね飛ばした
「⋯っ! 何を!」
ガルシアは怒りの表情でジンに向かい剣を構えたが男の手に握られていた、短刀をみて構えを解いた。
その場の空気が再び張り詰める中、ジンは血のついた刀を静かに納めた。
「手負いの敵程怖いものはありません。盗賊の一員だったら尚更です。何か目的があったかも知れませんがすみません⋯短刀が見えたので思わず」
ガルシアは一瞬黙り込み、ジンをじっと見つめた。
その目にはどこか計り知れない複雑な感情が宿っているようだった。暫くするとガルシアは剣を収めジンに微笑むと
「ジン殿、私の方こそお礼を言わないといけません。この男が持っていた短刀には気付いてましたが、隙を見せた事で貴方の手を煩わしてしまいましたね」
ジンはガルシアの微笑みに少し戸惑いながらも、表情を引き締めた。
「いえ、ガルシア殿がこの場をまとめてくれたおかげで、私は冷静に動けました。ただ、これ以上の犠牲が出ないようにしたいだけです。」
その言葉にガルシアは少しだけ口元を緩めたが、すぐに表情を引き締めて部下たちに向き直った。
「全員、引き続き警戒を怠らず周囲を調べなさい。この壁の向こうに何かがあるはずです。」
部下たちはガルシアの指示に従い、壁を入念に調べ始めた。やがて、一人の部下が壁の一部に不自然な仕掛けを発見した。
「ガルシア様此方をみて下さい。」
その報告にガルシアは素早く近づき、壁を確認した。
「この窪み⋯なるほど。ジン殿。その男が持っていた短刀を此方にお持ち頂けますか?」
ジンは言われた通りガルシアに短刀を渡すと、ガルシアは短刀を窪みに差し込み仕掛けを操作した。
壁は重い音を立ててゆっくりと動き、暗い通路が姿を現した。通路の奥からは、わずかに松明の明かりと低いざわめきが聞こえてきた。
ガルシアはジンに目を向け、小声で言った。
「どうやら、この奥が奴らの隠れ家のようです。気を引き締めて進みましょう。」
ジンは頷き、刀を握り直した。
「わかりました。私も全力で協力します。」
二人は部下たちとともに通路に足を踏み入れた。




