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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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盗賊ロスティン

 ミエラ、アイリーン、アイシャの三人は驚き、声のした方に目を向けた。そこには、月明かりの下で不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。


「アンタは…?」

 アイリーンが即座に身構え、敵意を込めた目で問いかける。


 男は黒髪を無造作に伸ばし、荒れた髭が特徴的だった。年齢は中年に見えるが、その鋭い目つきには並々ならぬ経験を積んだ者特有の余裕が感じられる。彼はゆっくりと手を広げるような仕草を見せ、微笑みながら答えた。


「落ち着けよ、竜族のお嬢さん。俺は君達が今話していたロスティンだ。」


 その名前を聞いた瞬間、アイシャが動揺を隠せない様子で声を上げた。


「ロスティン⋯!?なんであんたがここにいるの!?」


 ロスティンはアイシャの驚きに気に留めることもなく、彼女に向かって


「アイシャ。それはこっちのセリフだな。見たところ標的と一緒に行動しているようにしか見えないが⋯?カイードの奴が珍しく失敗したようだから、来てみればお前が原因かな?」


「⋯!?」


 アイシャが身構える中、ミエラが冷静にロスティンに声をかけた。


「あなたがロスティン…ジンが言っていた人ですね。どうしてここに?私たちをどうやって見つけたんですか?」


 ロスティンはニヤリと笑い、懐から煙草のようなものを取り出し火をつけた。煙をくゆらせながら言葉を続ける。


「別に探してもいないがね。ただ仲間の任務が失敗したようだから、興味本意で見に来てみれば、宵闇から俺の名前が聞こえてねビックリして声をかけさせて貰っただけさ」


 ロスティンのその余裕たっぷりの態度に、アイリーンは苛立ちを抑えきれずに声を上げた。


「ビックリって何よ!アンタ!用がないなら消えなさいよ!」


 ロスティンはゆっくりと煙を吐き出し、アイリーンに呆れた視線を向ける。


「まぁ落ち着けよ。俺を探してるんじゃないのか?なのに消えたら困るのはお前達だろうが」


 ミエラはロスティンの言葉に微妙な違和感を覚えつつも、慎重に問いかけた。


「私達が何故貴方に、用があるのか理由までは分かりますか?」


 ロスティンは肩をすくめた。


「ああ、アジトを探してるんだろ⋯?俺は其処にいる半端者や竜族のお嬢さんと違って頭は回るからな」


 その言葉を聞いたアイシャは唇を噛みしめ


「半端者って言ったわね…!あんたが私の状況を分かるってわけ?」


 ロスティンはアイシャの反応を受け流すように軽く手を振り、冷静な態度を崩さなかった。


「分かるとも。任務に失敗した半端者はべらべらと内情を話し、事情を聞きたい竜族と仲間達は事情を知る者に直接聞いてみよう。取引の段階で半端者を見逃す条件でな」


 ミエラはアイシャを制し、冷静にロスティンを見据えた。


「ロスティンさん、お話頂いた通りです。ここで争うつもりはありません。今、私たちに必要なのは何故アイリーン⋯竜族の彼女が狙われたか知りたいだけです」


 ロスティンは小さく溜息をつき憐れむ表情を浮かべた


「聞かれて話すわけがないだろう?そもそも理由なんて俺も知らないが。だが俺は一つお前達の願いを叶えてやれる」


 ミエラはロスティンの言葉に僅かに眉をひそめながら尋ねた。


「一つ願いを叶える…?それはどういう意味ですか?」


 ロスティンは煙草の火をゆっくりと指先で消しながら、彼女たちに目を向けた。その目はどこか底知れない知恵と、何かを試すような鋭さを帯びていた。


「連れていってやろう。アジトに⋯仲間が仕留め損ねた標的とその連れ⋯そして裏切り者として」



 瞬間ミエラとアイリーンは身構え、アイシャもつられて身構えていた。


 ロスティンはそんな様子を楽しそうに眺め


「俺の任された任務は人探しだ。半端者達の尻拭いをする必要はない。だが目の前に転がる金貨を拾わない人間でもない。抵抗されても人目について仕事がやりにくくなる。」


 ロスティンは静かに話しを続け


「どうだ?お前達はアジトに行ける。俺は半端者達が取り逃した獲物をアジトに届ける。まぁ生きたままだが他の奴が依頼された任務に手出しは無用だからな」


 ミエラはロスティンの言葉に強い警戒心を抱きながらも、その提案の裏に潜む意図を探るように問いかけた。


「…連れて行かれて、ただ利用されるだけになる可能性もあります。それに貴方にあまり得があるように思えません。ここで標的を仕留めていた方が良いのではないですか?」


 ロスティンは口元に薄い笑みを浮かべ、冷静な口調で返答した。


「その通りだな。ただ、無駄にリスクを負うのはバカのする事だ⋯ここでやり合う必要は先程も言ったように俺にはない。それにリスクを上回る得もない時に人は動くときがある⋯未知への興味だよ。」


 ミエラはその言葉に思わず言葉を詰まらせた。


「カイードが仕留めそこなったお前達を連れていったら奴がどんな顔をするか⋯そしていけ好かない真の王とやらの反応もみれる。さぁどうする?俺を制する事が出来ても口は割れんぞ?」



 ミエラはロスティンの言葉を慎重に考えながら、視線をロスティンから外さず、背後にいるアイリーンとアイシャの表情をちらりと確認した。二人とも緊張しながらも、彼女の判断に委ねるような目をしていた。


 ミエラは静かに呟いた。


「興味だけで動くというには、随分と大胆ですね。ですが、私たちに選択肢が少ないのも事実です。ただし…条件があります。」


 ロスティンは微かに眉を上げ、興味深そうに彼女を見つめた。


「条件?面白い。言ってみろ。」


 ミエラは一歩前に出て、毅然とした態度で答えた。


「私たちがアジトに案内されてる間、私たちが安全であることを保証してください」



 ロスティンはその言葉に満足げに笑い、煙草を投げ捨てて靴で踏み消した。


「上等だ。じゃあ決まりだな。さっさと行こう。時間が無駄になる。」


 ロスティンが先に立ち、ミエラたちはその後をついていった。緊張の中、月明かりの小道を進む彼らの足音が夜の静寂を切り裂いていった。

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