王の剣
裏手の小道を慎重に進むミエラ達は月明かりの光を頼りに道を進んでいた。
「本当に大丈夫なの?ジンが捕まったら、私たちも危なくなるんじゃない?」
アイリーンは不安げにミエラに尋ね
「ジンを信じよう。ジンが時間を稼いでくれなければ、私たちはもっと厳しい状況に陥る。」
アイシャは彼女たちを見上げ、少し苛立った様子で呟いた。
「…あんた達、本当に変わってるね。こんな状況でも落ち着いていられるなんて。」
アイリーンが肩をすくめて返す。
「アンタ達のせいでしょ! でも、アンタも変わってるわね、自分を追い詰める奴らと一緒に逃げるなんて」
アイシャは少し苦笑しながら答えた。
「確かに、私もそう思う。でも、今は選択肢がないから。」
三人は息を潜めながら道を進み、騎士団の気配が遠のくのを確認した。
「少しここで様子を見ましょう。」
ミエラが提案し、全員が立ち止まった。
その場に腰を下ろし、彼女たちは静かに息を整えた。
「ジンが戻ってくるのを待つしかないね」
ミエラの言葉に、アイリーンもアイシャも静かに頷いた。
夜の静寂が彼女たちを包む中、緊張感が漂う。その中で、三人は次の行動を考えるためにじっと耳を澄ませていた
しかしジンは数刻経とうが戻る気配がなく、心配になったアイリーンが様子を見に行くといい、ミエラとアイシャは二人残される事になった
夜の静寂が二人を包み込み、緊張感がじわじわと広がっていく中アイシャは落ち着かない様子で足を組み替え、ため息をついた。
「…あんた達って外の大陸からきたの?」
ミエラは月明かりを見上げながら、穏やかな声で答えた。
「ええ、アイシャそれも情報として聞いていたの?」
アイシャは足をぶらつかせながな、小さく頷いた。
「そう。標的は外の大陸から来た竜族だって⋯。最初は驚いたけどね、あんた達が外の大陸から来たって事より竜族を殺せって事に」
アイシャが話すなか、ミエラは考えていた
(私達が外の大陸から来た事はやはり知られている⋯あの謁見の場にいた人間か、もしくは内通者を通して⋯)
アイシャはそんなミエラをみて心配そうに
「どうしたの?」
と語りかけ、ミエラは目の前の少女の声色に微笑みながら答えた
「ごめんね。考え事をしてたの。ねぇアイシャ。そう言えば、ここに来る前に言っていた、ケイオスが道具にしかに、ついて聞いてもいい。」
アイシャは言葉に詰まり、一瞬視線を泳がせた後、小さな声で答えた。
「…。あいつは英雄何かじゃない化け物だ⋯」
アイシャは声を絞り出すように続けた。
「あんた達は知らないかもだけど、あいつが何で神様に勝てたと思う?」
ミエラはそんなアイシャの様子に戸惑いながら静かに言った。
「優秀な七騎士と王の剣によってぐらいしか⋯戦いの詳細までは、聞いてないの」
アイシャは黙り込んだ後、少し笑い。
「そうだね。魔法使いが作った王の剣が神様を葬ったんだ⋯ねぇ⋯王の剣がどうやって作られたかしってる?⋯私はね知ってるよ⋯?」
ミエラは話すアイシャの表情から目を話せないでいた抜けた所がある少女は、今や幼い顔に大人の顔立ちをみせ、静かに微笑を浮かべている様に暗い色気を感じさせていた
「教えてあげる。あいつの剣はね。この国の人間⋯ううん人間だけじゃない多くの命で出来上がったんだ⋯私の家族も盗賊の仲間もあの剣にいるんだよ」
ミエラはアイシャの話しを聞きながら自分の予想があっていた事に複雑な思いを感じていた。
どうか別の方法で生み出された物であって欲しかったと
かつて母が⋯神レミアが語った魔法による、神への死は人の業を超えた者が唯一できる所業であった。多くの者を手に掛け、より死に近づき理解した者だけが得られる忌まわしき力。
ミエラは何故、英雄と呼ばれ悪しき神を打ち倒したケイオスを憎む者がいるのか⋯恐らくは神への信仰者だけではないのだろうと、その手にかけた者達は
「アイシャのご家族は⋯信仰者だったの?」
ミエラの問いかけに、アイシャは冷たい目でミエラを見つめ
「信仰者?⋯そうかもね、感謝してたよ。何かあれば神様ありがとう!嫌な事があれば、神様のバカヤロー!ってね」
アイシャは皮肉をこめて笑い、絞りだすように
「本当にそれだけだったんだ⋯でも連れてかれた。最期まで言ってたよ。ついてないなぁ~神様に何かしたっけって自分が何されるか知らずに呑気にね」
ミエラはアイシャの様子に聞いて良いものか悩んだが自身の欲求に逆らえず、聞いてしまった
「何をされたの⋯?」
そんなミエラにアイシャは微笑み
「とっても痛くて⋯酷い事。死を願うくらいに」
ミエラはアイシャの言葉に息を飲んだ。月明かりに照らされた彼女の顔は、年齢に似つかわしくない深い悲しみを湛えていた。
「アイシャ…」
ミエラは何かを言いかけたが、その先の言葉が見つからない。目の前の少女が抱えている傷の深さを思うと、軽々しく慰めることなどできないと感じた。
アイシャは苦笑を浮かべながら、自分の膝を抱え込むように座り直した。
「ねぇ、ミエラ。あんたはどう思う?“英雄”なんて呼ばれて、神様を倒したケイオスのことを。」
その問いに、ミエラは慎重に言葉を選びながら答えた。
「私は…ケイオスという人物について深く知っているわけではない。でも、彼の行いが誰かを救った一方で、別の誰かを傷つけたのなら…それは“英雄”なんて呼べるものじゃない。」
アイシャは静かにうなずいた。その瞳の奥には、少しの理解と疑念が交錯しているようだった。
「そうだね。私もそう思うよ。でも、あいつがいなかったら、この国はどうなってたのか…」
アイシャの声がかすれる。彼女の中で複雑な感情が渦巻いているのが明らかだった。
ミエラは優しく問いかけた。
「ねぇアイシャはその話を誰に聞いたの?」
アイシャはミエラに問いに
「うちの連中だよ。梟の夜会は元々は貴族とか城の連中とも付き合いがあったんだって。でもそれが原因か分からないけどボスは付き合いを止めた。私が入った時は生活や、行き場を無くした人達に合法では無いけど仕事や場所を与えてくれて⋯好きだった」
アイシャの言葉には懐かしさと痛みが入り混じっていた。彼女の瞳は遠くを見つめており、過去を思い出しているようだった。
ミエラは静かに問いかける。
「その場所が、今の夜会とは違ったの?」
アイシャは少し間を置いてから、小さく頷いた。
「うん。最初はね、助け合いみたいな感じだった。盗賊って言っても、ただ生きるために必死な人たちばかりで。みんなで協力して、少しずつ状況を良くしていこうって…そんな雰囲気だった。」
彼女の声にはかすかな希望の色があったが、すぐに暗い影が覆いかぶさる。
「でも、“真の王”の連中が絡むようになってから変わった。ボスも、何かに追い詰められてるみたいだった。命令はどんどん過激になって、仲間の誰かが捕まったり消えたりしても、誰も何も言えなくなった。」
ミエラは黙ってアイシャの話を聞いていたが、そっと彼女に寄り添うように座り直した。
「それでも、アイシャは夜会を離れなかったの?」
アイシャは苦笑を浮かべて答えた。
「離れられるなら、とうに離れてた。でも、家族もいないし、生きるためには従うしかなかった。それに…ボスが私を拾ってくれた恩もあったから。」
彼女の言葉に込められた感情は複雑だった。感謝と裏切り、希望と絶望。ミエラは目の前の少女が背負っているものの重さを感じ取った。
「…そのボスのこと、今でも信じてる?」
アイシャはしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「信じたい。でも…たぶん、もう⋯」
呟くアイシャにミエラが声をかけようとした時
近づく足音にミエラとアイシャは警戒をした
すぐ様にその警戒は無用だったと分かり
ミエラは戻ってきたアイリーンに声をかけた
「おかえり、アイリーン。大丈夫だった?⋯ジンは?」
ミエラはアイリーンに声をかけつつも戻ってきたのが一人だった事に不穏な空気を感じていた。
「ただいま!はぁはぁ。ジンに関してはまずは大丈夫。だと思う。捕まったわけではなさそうだけど⋯詳しくは」
ミエラはアイリーンが息を整えるまで待ち続く言葉を待った
「だけでも合流は直ぐには難しいわよ、あの様子だっと⋯やるなら私達だけで行くしかないわね。」
アイリーンの言葉に返そうとしたミエラを遮りアイシャが声を発した
「正気⋯?竜族のあなたは、そもそも狙われてるんだけど⋯買った豚が子供を宿してたもんじゃない」
「なに意味わかんない事、言ってんのよガキンチョ。アンタはアタシと同じで頭良くないんだから黙ってなさい」
アイリーンの言葉に抗議しようとしたアイシャを遮りミエラは
「アイシャの言葉も一理あるよ。私達だけでは危険だと思う。ジンの会ったロスティンって人の場所も聞いてないし」
ミエラがアイリーンに話した言葉は予想外の方から返答が返ってきた
「俺に用かな。お嬢さん」




