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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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王と騎士

 男は玉座の間から出ていく大陸の外から来た者たちを見ていた。の胸の内には、抑えきれない高揚感が渦巻いていた。


(まさかここまでとは……)


 先程のケイオスとジンと名乗る青年の激突は、ただの力比べではなかった。それはまるで、神と人の運命が交差する瞬間を象徴するような、異質で神聖なものだった。


「…面白いものを見せてもらった。」


 男は微かに口元を歪め、瞳に獰猛な輝きを宿した。王ケイオス・オーデントは確かに強い。


 しかし、あのジンという男――彼の剣はそれに匹敵する。


 いや、だからこそ――


「邪魔になる…か。」


 男の頭の中に、ジンの最後の一閃が鮮烈に焼き付いていた。それは抑えられた力の奥底に潜む、解き放たれる寸前の刃の感覚だった。


「神殺しの剣」


 ケイオスがそう評したジンの―だが、男はそれだけではない何かを感じ取っていた。


(あれは“神を殺すため”だけではない⋯)


 男は内心でそう確信しながら、ふと口元を吊り上げた。


「彼はまだ、知らないんだろうな…力の本質を。」


 その言葉を誰に言うでもなく呟くと、男はゆっくりと玉座を確認した男は、玉座の間の光景を目に焼き付けるように見つめながら、静かに息を吐いた。


「ガルシアとライカン…。」


 二人の騎士は、王ケイオス・オーデントの前で跪きながら命を受けていた。


 その姿は、まさに忠誠と実力を兼ね備えた“七騎士”の名にふさわしい威厳を放っていた



 七騎士ガルシア⋯


 美しい容姿と金色の短髪を持つ若き女傑。


 貧民出身という過去を背負いながらも、その鋼のような精神力と卓越した剣技で現在の地位を勝ち取った存在。彼女の額に刻まれた古傷は、幾多の戦いを生き抜いてきた証であり、誇りでもあった。


 その瞳は鋭く、獲物を見定める鷹のような光を宿している。鎧は装飾を抑えた実戦向けのものであり、装飾に頼らずとも彼女自身の存在感が際立っていた。


「バスバが捕らえた襲撃者を調べ。町に蔓延る盗賊共と裏にいる者を見つけよ。」


 王の言葉に、ガルシアは迷いなく頷いた。


「はっ、。」


 彼女は短く答えると、視線だけを一瞬ライカンに向けた。そこには、仲間としての信頼と同時に、戦士としての敬意も感じられた。


 対象的にライカン・スクリームは


 60歳を超えてなお、鍛え上げられた肉体と鋭い眼光は、戦場に立つ者としての覚悟と誇りを示していた。


 その顔に刻まれた傷は無数―だが、それらはすべて彼が生き延びてきた証であり、語る必要すらない戦歴を物語っていた。白髪混じりの髪は、歳月を経た落ち着きと威厳を感じさせるものの、彼の内に宿る闘志は未だ衰えていない。


「バスバの報告や神の肉による被害。先のラウネル公の件。もはやベイルガルドの策略で間違えありません。ケイオス様。ご決断の時かと」


 重々しい声で進言するライカンに、王は静かに頷いた。


「兵の招集と近隣諸国にベイルガルドの所業を広めよ。ベイルガルドを捨て置くつもりはない。だが⋯国内で奴等に加担する者を見つけなければ、我らが勇姿をもってしても苦戦を強いられる。ガルシア、ライカン双方の働きが重要になる」


 ライカンは王の言葉に深く頷いた。


「仰せのままに。」


 その声は、重厚で揺るぎない覚悟を帯びていた。


「直ちに、軍の動員と諜報網の強化を進めます。テネグリラへの強力要請は如何されますか?」


 ライカンの言葉にケイオスは蔑みの声で返答した



「あの腐りきった者どもに頼るつもりはない。」


 声には冷淡な響きが混じっていた。


 テネグリラ――古く盟約を結んだはずのその国は、暴食の神との闘いの際、援軍を拒み、王国を危機に晒した過去がある。表向きは善神を信奉し、悪しき神を排除する正義の国と謳っているが、利己的な者が治める国へと成り下がっていた。


「あの者たちは信仰を盾にして自らを正当化しつつ、利益に従う。ベイルガルドと結託していてもおかしくはない。」


 ケイオスの声には明らかな軽蔑が含まれていた。ライカンは神妙な面持ちで深く頷いた。


「確かに、あの国に頼れば内情を漏らす危険もありますな。」


 ガルシアも口を開いた。


「ですが、テネグリラの軍備と情報網は侮れません。奴らを動かす必要はありませんが、逆に敵対しないよう手を打つ必要はあります。」


 ケイオスはしばらく沈思し、低く指示を出した。


「キシタンを使者として送れ。テネグリラの動向を探ると同時に、奴らがベイルガルドと通じていないかを確かめさせる。」


「キシタンを、ですか?」


 ライカンは眉をひそめた。キシタンは七騎士の中でも特に諜報活動に長けた存在ではあるが、同時にその忠誠心には疑問が残る人物でもあった。


「キシタンが裏切る可能性もあるかもしれません。」


 ライカンの忠告に、ケイオスは微かに口元を歪めた。


「それならそれでいい。仮にキシタンが裏切るならば、それも含めて利用するまでだ。だが⋯あやつは裏切らん。」


 ケイオスは冷静な眼差しをキシタンの名に向けた。


「あの男は、自らの価値を理解している。」


 その言葉には、確信と同時に揺るぎない支配者の自負が宿っていた。


 キシタン――七騎士の一人に名を連ねる男。


 暴食の神との闘い以降は、表舞台にはほとんど姿を現さず、主に暗部で任務を遂行する役割を担っていた。


 だが、王に仕える忠誠の証とし、裏切り者であった自身の家族を自ら処したという噂は、彼が信頼と共に恨みを抱える存在であることを裏付けていた。


 ガルシアは口を開く。


「しかし、彼を単身で送るのは危険ではありませんか?」


「よい、あれは腕と弁がたつ。上手くやるだろう」


 ライカンは拳を強く握りしめ、覚悟を決めたように頷いた。


「はっ、!。」


 ガルシアもまた口を開いた。


「私も引き続き国内の動向を監視し、敵の内通者を炙り出します。」


「頼むぞ、ガルシア。」


 ケイオスはそう言うと、ふと窓の外へ視線を向けた。


 彼の視線の先――遠くには重い灰色の雲が広がり、雷鳴が小さく響いていた。


 嵐の予兆。


「ベイルガルドの次なる一手が何であれ、我らはそれを迎え撃つ準備を整える。」


 その宣言は静かだったが、王としての覚悟と決意に満ちたものだった。


 男は静かにその光景をみて周りに悟られない笑みを浮かべた。


(オーデントとベイルガルドどちらが勝とうが興味はないが⋯私は歴史の目撃者になれる)


 男はふと壁にかかった古びた絵に目をやった。それは遥か昔、神々が人間に力を与えたという時代の象徴であり、今では忘れ去られた存在だった。


(神と人⋯か。どちらも愚かで⋯愛おしい)


 彼の目は冷たい炎のように光を宿し、やがて微かに笑みを浮かべた。


(運命も動きだした⋯ここから始まる。時代の節目が⋯アルベストという大陸から世界を巻き込み)


 その考えは壁に吸い込まれるように消えたが、男の内には確信が生まれていた。

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