王
ジンはケイオスの問いは準備的にも必ず来るだろうとは思っていた。しかし予想に反した問いに言葉を詰まらせていた。
(何故⋯神の力だとわかる⋯)
ジンには分からなかった。思えばセスナも神の力だと⋯神器だと見抜いていた。
しかしそれは、セスナ自身がジンの刀を調べたからだと思っていた。だがケイオスはただ目で見ただけで、同じ結論に達している。
ジンはケイオスの鋭い視線を受けながら、内心の動揺を隠せなかった。
この国が⋯ケイオスが神を良しとしてないのは知っている。
もし自分がゴリョウ大陸を出る前に秘密裏と言われた目的を話しても、ケイオスを満足できるか分からない。それどころか一枚岩ではない、この国で話せばアスケラの信仰者に知られる可能性もあった。
ジンはケイオスの視線を受け止めながら、心の内で冷静さを保とうとしていた。
(ここで迂闊なことを言えば、俺たちの目的が敵に漏れる可能性もある⋯)
ジンは慎重に言葉を選びながら、口を開いた。
「私はジンと申します。この刀の力が何なのかは、私自身にも完全には分かっておりません。私は自身がいた、グランタリス大陸を王族の派閥争いに巻き込まれ追われた身です。その際にミエラの母⋯神レミア様に助けて頂き、娘を守れとこの刀を授かりました。まるでそれが運命かのように⋯」
ジンの答えにミエラと特にアイリーンが何も言わないことを祈り、ジンは苦し紛れに嘘をついた。
幸い二人は、場の空気の重さを感じ取り、言葉を差し挟むことはなかった。ケイオスは鋭い目を細め、ジンの言葉の裏に隠された意図を測るようにじっと見つめ返した。
「神に助けられ⋯刀を授かったと?」
その声音は低く、玉座の間に響き渡ると同時に周囲の空気が張り詰めた。
周りの騎士や貴族達もその空気に姿勢を更に正していた。ジンはその緊迫した空気の中、呼吸を整えながら、ケイオスの反応を慎重に観察していた。
(まずいか…? )
そんなジンに向かってケイオスは立ち上がり一歩近づいた。
「その言葉を聞いて確信した。やはりお前達は運命の神によってこの地に導かれたのだ」
ジンはケイオスの言葉に驚き、思わず息を呑んだ。
(運命の神…?)
その単語はジンにとって予想外だったが、ケイオスの表情は真剣で、疑念よりも確信を帯びていた。
「この大陸において『運命』とは、人々が抗えぬ力の象徴。そしてその力は、人と時には神と結びつく。我々はその力を警戒し、遠ざけてきた。だが同時に、その力が新たな時代を切り開く鍵となることも知っている。」
ケイオスはジンの剣を指さした。
「お前達が私の前に導かれた事さえ、神々の手の上」
ジンは内心の動揺を押し殺しながら、ケイオスの鋭い視線を受け止めた。
(神々の手の上…? それは、俺たちの旅路すら誰かに操られているというのか?)
「私たちがここに来たことまで、神々の意志だと?」
ジンはあえて問い返した。その声には疑問と反発の色が混じっていたが、ケイオスは微動だにせず答えた。
「そうだ。そして、お前たちが導かれた先に何が待つのか―興味深い。私が今ここでお前達を斬り伏せてもそれすら運命になる。」
ジンはケイオスの言葉に思わず刀の柄を強く握りしめた。
ケイオスの言葉には、王としての威厳と戦士としての獰猛さが滲んでいた。その眼差しはまるで、ジンの心の奥底を見透かすようだった。
「そして問答で得た答えから――お前達の運命はまだ、先にあるのだろう。」
そう言いながら、ケイオスはゆっくりと剣の柄に手をかけた。
「お前達が運命――神の力で守られているならば、ここでは死なぬだろう。もし私の剣がお前達を切り捨てるならば、それも運命⋯神の力か、あるいは――」
ケイオスの視線は揺るぎなく、まるでこの瞬間こそが運命を試す場であると確信しているかのようだった
「人が神を超えた証拠だ」
ジンはケイオスの言葉に息を呑んだ。凄まじい勢いで繰り出された剣閃はジンが振り抜いた刀の剣閃と合わさった
ジンの剣閃とケイオスの一撃が激突した瞬間、凄まじい衝撃波が玉座の間を満たした。
鋼と鋼がぶつかり合う音が響き渡り、周囲の騎士や貴族たちは息を呑んで後ずさった。
ジンは強い力で押し返されながらも、踏みとどまり、歯を食いしばった。
(この威圧感……! 王としての強さだけじゃない。この男は戦士としても、俺を試そうとしている!)
ケイオスは微かに目を細め、ジンの反応を測るように刃を押し込んだ。
「悪くない…だが、神の力に頼る者がどこまで耐えられる?」
ジンはケイオスの圧倒的な剣圧に耐えながらも、周囲の騎士たちが動き出した気配に気づいた。
彼らの足音が玉座の間に響き、ジンに向かって詰め寄ろうとした瞬間――
「よい」
ケイオスの低く響く声が、場を凍りつかせた。
騎士たちは即座に動きを止め、その場で膝をついた。
「これは私自身の闘いだ。誰も手を出すな。」
ケイオスは剣を構えたまま、周囲の騎士たちを威圧するように言い放った。
その一方で、ミエラとアイリーンも駆け寄ろうとしていたが、ジンはわずかに手を上げて制止した。
「来るな!」
ジンの叫びに、ミエラは足を止めた。
「ジン…!」
ミエラの声は震えていたが、彼女はそれ以上踏み込もうとしなかった。
アイリーンもまた、悔しそうに拳を握りしめながら立ち止まった。
(今は…俺自身がこの状況を乗り越えるしかない)
ジンは覚悟を決めるように深く息を吐き、刀を構え直した。
ケイオスはそれを見届けるように、再び口を開いた。
「仲間を守ろうとする意志を認めよう。」
次の瞬間、ケイオスは猛然と踏み込んだ。
ジンは咄嗟に振り下ろされた剣を受け止めたが、ケイオスの剣圧は凄まじく、再び地に押し込まれた。
「ぐっ…!」
踏みとどまるジンの足元に微かな亀裂が走り
(強い…!だがそれ以上に⋯この剣⋯!)
ジンは剣圧に必死で耐えながらケイオスの剣が放つ光の脈動を感じていた。
(これが⋯人によって作られた、神を殺す剣⋯!)
バズバから話を聞いていた、暴食の神を屠った⋯王の剣は今や人であるジンをその光の剣閃で消し去ろうと輝いていた。
その存在感は圧倒的だった。まるで意志を持つかのように、ケイオスの剣は凄まじい輝きを放ち、ジンを飲み込もうと迫ってくる。
ジンの腕は痺れ、膝は震えそうになっていた。それでも、踏みとどまらなければならなかった。
(死ぬ訳にはいかない⋯俺は帰らなければ行けない⋯!)
ジンは刀を強く握りしめ、光の圧力に抗いながらさらに力を込め、ソルメーラの力を使用した。
その瞬間―
ジンの刀もまた、黒い光を放ち始めた。
ケイオスはわずかに目を細め、その変化を見逃さなかった。
「ほう…それがその剣の力か⋯」
ジンの刀が放った黒い光は、まるで闇の中で燃える炎のように揺らめいた。
ケイオスはその光を見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「やはり、その剣はただの神器ではないな…」
黒い光はケイオスの剣の輝きを押し返すように脈動し始める。
ケイオスは剣を構え直し、低く声を響かせた。
「おもしろい…人の剣か神の剣どちらが残るか」
次の瞬間、ケイオスは再び猛然と斬りかかった。
ジンはケイオスの猛攻を防ぎながら疑問を感じていた。
凄まじい剣閃の数々だったが、明らかに動きがおかしかった。
まるで自身の剣技を抑えてるような⋯
ジンはケイオスの言葉を思い出し、ケイオスの剣とジンの刀が重なった際にケイオスに問いかけた
「自身の剣技を使わず⋯あくまで人と神の力を競い合わせたいのですか」
ケイオスの剣がジンの刀と激しくぶつかり合い、火花が散った。
しかし、その動きには確かに抑えがあり、全力を解き放っていないことが明らかだった。
ケイオスは目を細め、口元にわずかな笑みを浮かべると次の瞬間、鋭く踏み込んだ。
「お前も私を殺す気はないらしな」
ケイオスの言葉に答えるよう、振り下ろさた一撃を弾いたジンをみて、ケイオスは剣を納めた。
ジンもまたそんなケイオスに合わせるかのように刀を納めると。
「…やはり、神殺しの力を秘めているか。」
ジンはその言葉に息を呑んだ。
ケイオスは厳しい視線をジンに向けた。
「その剣は…暴食の神を屠った私の剣に似ている。だがそれ以上に、制御された意思を持つ。神を殺し、人の手に余る力を宿している。」
ケイオスは鋭い目を細め、まるでジンの心の奥底を覗き込むように視線を向けた。
ジンは息を呑んだ。
(やはり、この男は剣の本質を見抜いている…!)
ケイオスは口元に微かな笑みを浮かべた。
「私の剣では⋯今はまだ、お前達の運命は断ち切れないようだ。手心を加えられた中では興も冷める」
ケイオスはジンを真っ直ぐみると
「ジン。グランタリスの剣士よ。良き剣だった。無粋な剣での立ち会い許せ」
「私の方こそ。殿下との剣の交わりで多くを学ばせて頂き⋯有難う御座います」
ジンはそう答えながらも、胸の奥に残る違和感を拭えなかった。
(神殺しの剣に似ている…か。)
ケイオスの言葉は、ジンの心を波立たせるものだった。
自分が振るうこの刀は、果たして本当に神を殺すために作られたのだろうか。
もしそうだとすれば、それを手にした自分は何を成すべきなのか。
ジンは自問を続けながら、ケイオスの鋭い視線を正面から受け止めた。
「お前の旅路は、神々が敷いた道かもしれん。しかし…」
ケイオスは言葉を続けた。
「その道をどう進むかは、お前自身の意志に委ねられている。」
ジンはケイオスの視線を受け止めながら、拳を強く握った。
(神々に敷かれた道か。だが、俺はその道を歩くだけの存在ではない。)
「私は神々の意志に従うつもりはありません。この刀も、この運命も―すべて俺自身の手で切り拓きます。」
ジンの言葉に、ケイオスは満足げにうなずいた。
「その心意気、しかと見届けた。だが忘れるな――運命は抗う者を試し続ける。」
ケイオスは剣を鞘に収めると、背後の騎士たちに目を向けた。
「この者たちを外へ送れ。決して道を阻むな。」
騎士たちは驚いた様子を見せたが、ケイオスの命令には逆らえず、一斉に膝をついて敬意を示した。
ジンはその光景を見ながら、ケイオスがただの戦士ではなく、この国を治める王としての器を持つことを改めて理解した。
(この男もまた―抗う者なのかもしれない。)
ジンはふと、ケイオスの剣を思い出した。
――神殺しの剣。
彼の剣と自分の刀、そしてその背後にある運命が再び交わることを予感させる何かがあった。
ケイオスは振り返り、最後にこう言った。
「お前達の旅の成功を信じているぞ」
ジンはその言葉を心に刻み、ゆっくりと頷いた。
王でもなく、神でもなく⋯
人として⋯
祈るでも、願うでもない。
信じると行ったケイオス・オーデントの言葉を




