オーデント王国
ミエラたちの視線の先には、壮大な光景が広がっていた。
オーデントは巨大な城壁に囲まれ、その内側には数多くの建物が立ち並んでいた。遠くには王城と思われる荘厳な建物が、朝日に輝くようにしてそびえ立っている。外周には農地や村落が点在し、活気あふれる人々の姿が遠目にも見て取れる。
ミエラは目を見張り、思わず声を漏らした。
「すごい…!こんなに大きな国だったなんて…」
アイリーンも馬上から周囲を見回し、感嘆の声を上げる。
「これだけの規模の城塞都市、ここまで守りが堅そうだと、逆に攻めるのは骨が折れそうね。」
バスバは誇らしげに微笑みながら
「これがオーデントだ。大陸の中でも特に堅牢な城塞都市とされている。ケイオス様が治めるこの国は、内部で争いを抱えつつも外敵には一切の隙を見せない。その象徴がこの城壁だ。」
ジンもその景色を目にしながら、静かに息をついた。
「確かにこれだけの国を維持するのは並大抵のことではないですね…。内部の問題を抱えながら、ここまでの統治を保てているのは、ケイオス様の力と知略の賜物なんでしょう。」
バスバは軽く頷きながら、先を促す。
「だが、それだけではない。お前たちがこれから目にする現実は、決して綺麗事だけではないだろう。それを理解しておくんだ。」
馬車を走らせながら、城門が近づいてくる。門には厳重な警備が敷かれており、多数の衛兵が行き交っている。彼らはバスバの姿を認めると、すぐに整列して敬礼をした。
「お帰りなさいませ、バスバ様!」
衛兵のリーダーらしき男が敬礼しながらバスバに声をかける。その視線はジンたちにも向けられ、特に捕らえられた襲撃者たちに注目していた。
「捕虜をお連れですか?」
バスバは短く頷き、冷静に命令を下す。
「そうだ。すぐに王城へ報告を入れ、こいつらを地下牢へ送れ。詳細は追って報告する。」
衛兵たちは迅速に動き、襲撃者二人を取り押さえながら馬車から引きずり下ろした。その間、ピリ厶は怯えた様子で押し黙っていたが、リーダーの男は相変わらず冷徹な表情を崩さなかった。
ミエラはその様子を見て、複雑な表情を浮かべた。
「本当に、ここで彼らの命運が決まってしまうのですね」
アイリーンはミエラの肩を軽く叩き、微笑んで言った。
「そんなに深刻にならないの。アタシ達はアタシ達の目的を果たさないと。」
バスバは城門を通り抜けながら振り返り、ジンたちに言葉を投げかけた。
「さあ、お前たちを王城へ案内する。ここからが本番だ。覚悟を決めろ。」
ミエラは静かに頷きながら、再び前を見据えた。
荘厳な城門を抜けた先には、広大な街並みが広がっていた。石畳の道を行き交う人々、整然と並ぶ商店や住居、そしてそこに溢れる活気に、ミエラたちは思わず目を奪われた。
ミエラは馬車の上から周囲を見回しながら、感嘆の声を漏らした。
「すごい、人々の生活がこれだけ賑やかだと、あの城壁の内側がどれだけ平和に守られているかがよくわかりますね。」
バスバは彼女の言葉に応えるように、馬を進めながら静かに語った。
「この城壁はただの防御ではない。この国の象徴であり、民を守る盾だ。だが、それでも内側には解決すべき多くの問題が山積している。それを忘れないことだ。」
ジンは馬車を進めながら、街の一角に目を留めていた。ミエラが同じ方向に目を向けると。路地裏で子供たちが遊んでいる一方で、貧しげな身なりの者たちが物乞いをしている姿もあった。
アイリーンは腕を組みながら、少し斜に構えた口調で言った。
「まあ、どんな国でも表と裏はあるわよね。問題は、その裏がどれだけ噛み合ってるかってこと。」
ジンは彼女の言葉に頷きながらアイリーンをみて静かに呟いた
「しかし、注目を集めてるなぁ⋯」
これだけの人でもやはりアイリーンの姿は目につくようだったが、ミエラは視線が少し違うことに気づいた。恐れよりは何処か期待に溢れた視線が多いのはこの大陸での竜族の立ち位置なのだろうと
ミエラ達は多くの視線が集まる中に困惑していたが、バスバは厳しい顔つきのまま、王城への道を指さした。
王城に近づくにつれて、周囲の雰囲気はさらに厳かになり、兵士たちの警備も一層厳しくなっていた。荘厳な門の前で馬車を降りたミエラ達を待ち受けていたのは、威圧感すら感じさせる城の石造りの佇まいだった。
バスバは馬を降りると、ミエラ達に振り返って短く告げた。
「ここがオーデントの王城だ。これからお前たちが目にするのは、この国の核とも言える場所だ。覚悟を決めてついて来い。」
ミエラ達はバスバの言葉に静かに頷きながら、城門を見上げた。その荘厳さに圧倒されながらも、それぞれの胸には使命感と緊張が入り混じっていた。
城門をくぐると、王城内の広大な庭園が目に飛び込んできた。整然と手入れされた木々や花々、噴水が美しく配置され、その奥にはさらに荘厳な王宮がそびえ立っている。
ミエラはその壮大な景色に目を奪われながら、小さく声を漏らした。
「綺麗…これが王の住まう場所」
アイリーンも軽く微笑みながら付け加える。
「こういうのを見ると、いかにもお金と権力が詰まってるって感じよね。まあ、見かけだけじゃ測れないものもあるけど。」
バスバは振り返り、厳しい口調で一言。
「ここでの言動には気をつけろ。特に王宮内では不用意な発言や行動が命取りになる。」
アイリーンは謝るよう手を合わせ頷き、バスバはそんな様子をみて不安そうな表情をしていた
「これからケイオス様にお前たちを引き合わせる。その前に、俺が進言する形で襲撃者の件も含めた報告を行う。お前たちは、王に対する礼儀を忘れずにいることだ」
ミエラは不安げに呟いた。
「王子⋯王に直接お会いするが始めてで⋯」
ジンはそんなミエラの様子に
「大丈夫。とりあえず膝をついて、いつも通りにしてれば」
アイリーンも軽く笑いながら付け加えた。
「まあ、王様に会うなんてアタシも初めてだけど、あんまり固くなると逆に怪しく見えちゃうわよ。リラックス、リラックス。」
そんなアイリーンを見ながらバスバは眉間に皺をよせ
「お前が一番心配なのだ⋯竜族である事に加えてその態度、頼むから大人しくしてくれよ」
ミエラはそんなバズバの様子に少し同情していた。
王宮の中に入ると、さらに緊張感は高まり
豪奢な装飾が施された広間、大理石の床に響く足音、そして要所に控える衛兵たち――その全てが、ここがただならぬ場所であることを物語っていた。
やがて、ミエラ達は広間の奥にそびえる大扉の前に立ち止まった。バズバは一度ミエラ達を振り返り、静かに言った。
「この先が玉座の間だ。ケイオス様が待っておられる。無駄な言葉は控えろ、ただ聞かれたことに答えればいい。」
ジンたちは緊張しながらも頷き、扉が静かに開かれるのを待った。
扉が開かれると、その奥には壮麗な玉座の間が広がっていた。高い天井には美しいフレスコ画が描かれ、両脇には色とりどりの旗が掲げられている。そして、その奥には一人の男が静かに玉座に座っていた。
ケイオス――オーデントの王子にして王。その姿は威厳と冷静さを兼ね備えており、鋭い目つきが一行を見据えていた。
バスバは一歩前に出て、深々と膝をついた。
「ケイオス様、戻りました。そして、報告すべき件がございます。」
ケイオスは静かに頷き、その深い声で言葉を発した。
「話せ、バスバ。」
バスバはミエラ達を一瞥しながら、襲撃者の件や捕らえた情報を簡潔に報告した。その間、ケイオスの鋭い目は一度も揺らぐことなく、バスバの言葉を受け止めているようだった。
報告が終わると、ケイオスの視線がミエラ達に移つり。
その重い視線に、ミエラは息を呑み、ジンとアイリーンも身構えた。
そして、ケイオスは静かに言葉を紡いだ。
「大陸の外から来た者よ、お前たちがこの国に何をもたらすか、見定めさせてもらう。その覚悟があるなら、目的を話すがいい」




