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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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馬車の上で

 教会での戦いを終えたミエラたちは、疲れた体を引きずりながら村へと戻ってきた。夕日はすでに地平線に沈みかけ、村の空は薄い紫色に染まっていた。


 広場に到着すると、井戸のそばに腰を下ろしていた村の老人がゆっくりと顔を上げた。ミエラたちを見ると、目に微かな希望の光を浮かべた。


「戻ってきたか……」


 老人の掠れた声に応えるように、ミエラは少し前に進み出た。書物をしっかりと抱え、静かに口を開く。


「はい。教会の中で何が起きていたのか、分かりました……。」


 ミエラの言葉に老人は眉をひそめ、険しい表情を浮かべた。


「……何が分かったのじゃ? 教会で何が起きていたのか……村人たちはどうなったのじゃ……?」


 ジンがミエラの隣に立ち、冷静な声で説明を始めた。


「教会では“神の肉”と呼ばれるものを生み出す儀式が行われていました。黒衣の伝道者たちは、村人たちをその材料として利用し、異形の存在――失敗作を生み出していたようです。」


 老人はその言葉に目を見開き、震える声で問い返した。


「材料……だと? 村人たちが……?」


 アイリーンが口を挟み、少し優しい声で続けた。


「アタシたちも信じられない気持ちだけど、実際に目の前で見たわ。元は人間だったと思われる“何か”が、化け物として動いていたの……。」


 老人はその場に崩れ落ちるように座り込み、呆然とした表情を浮かべた。


「そんな……信じられん……我らは神にすがっただけじゃ……助けて欲しいと祈っただけじゃ……」


 ミエラはその様子を見て、心を痛めながらも前に進み、老人の肩に手を置いた。


「信じたい気持ちは分かります。でも、その信仰を黒衣の伝道者たちは歪めて利用したんです。あなたたちが悪いわけではありません。」


 老人の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。手を震わせながら呟く。


「わしらが信仰を許したばかりに……縋ったばかりに」


 その場に重苦しい沈黙が流れる中、バスバが一歩前に出て低い声で言った。


「老人よ、我々オーデント騎士団がこの事態を鎮める。我が王の名のもとに、この村の無念を晴らすことを誓おう。」


 老人は涙ながらに顔を上げ、力なく頷いた。


「どうか……お願いじゃ……もう、これ以上犠牲を出さんでくれ……」


 ミエラたちはその言葉を胸に刻みながら、改めて決意を新たにした。


 教会での出来事と村の真実を伝え終えた後、ミエラ達は夕暮れの村を後にし、新たな目的地――オーデントへと向かう準備に取り掛かった。


 バスバ達はこの村迄馬で来たというが、ミエラ達は馬等連れていなかった。

 相乗りを提案され、それしかないかとミエラ達も考えていた矢先、広場の老人がミエラ達の元へと訪れた


「騎士様方は足が必要では? 宜しければ、輸送で使用してました。馬と馬車をお使いください。竜族の女性も助かるかと⋯今の私どもには必要ないので⋯」


 ミエラたちは老人の申し出に一瞬驚いた表情を浮かべたが、その真摯な態度を見て、ジンが静かに頷いた。


「ありがとうございます。貴重なものを譲っていただくなんて……大切に使わせてもらいます。」


 老人は寂しげに微笑みながら頷いた。


「村の皆を助けられなかったわしらにできるのは、せめてお前たちがこれ以上の悲劇を止める手助けをすることだけじゃ……」


 その言葉にミエラは胸が締め付けられるような思いを感じながらも、しっかりと顔を上げて答えた。


「有難う御座います。ご厚意感謝致します」


 バスバもまた老人に向き直り、騎士としての礼を尽くした。


「あなたのご厚意に感謝する。必ずこの地に平穏を取り戻す。そのために、我が剣を尽くすと誓おう。



 老人に案内された場所には、簡素ではあるが頑丈そうな馬車と2頭の馬が待機していた。馬はしっかりと手入れされており、村人たちが大切に扱ってきたことが窺える。


「この馬たちなら、どんな荒地でも行けるはずじゃ。馬車も丈夫に作られておる……どうか、お役に立ててくれ。」


 アイリーンが馬車を確認しながら感心したように呟く。


「これなら荷物も積めるし、移動中に休むこともできそうね!ありがたいわ~」


 ジンは馬の手綱を手に取りながら、少し笑みを浮かべた。


「いい馬だ。これならオーデントまでの道も安心して進めそうだ、だけども騎士の方々に飛ばされたら流石についてはいけないかな⋯」


 馬車に乗り込み、進みだしたミエラ達はバスバ達と合流して村を振り返ると、老人が遠くから手を振り、見送ってくれており、その姿は小さく、村全体が寂しげに見えた。



 ミエラは馬車の中からその光景をじっと見つめ、心の中で誓いを立てた。



「この旅で、私たちができる限りのことをする。それが、この村のためにもなるはず……」



 ジンとアイリーンもそれぞれの思いを胸に抱えながら、馬車揺られ新たな目的地――オーデントへ出発した。



 一行が走らせてる馬車は楽ではあったが老人には悪いが乗り心地は良いとはいえず、元々は人を乗せる為に作られてはいない上に整備された道ではない荒地を進んでいるため、揺れは激しく、ミエラたちは体を支えながら移動を続けた。


 それでも、馬車があることで大幅に移動が楽になったことは間違いなく、全員が感謝の念を抱いていた。


 アイリーンが馬車の揺れに苦笑いを浮かべながら呟く。



「確かに移動は楽だけど……これ、長旅には向いてないわねーでも歩くよりはマシか!」


 ジンも同意するように頷きながら、手綱を器用に引きながら外の景色に目を向けた。


「それでも、善意でここまでしてもらったんだ。無駄にはできないな。揺れるのも慣れてくるさ。」


 ミエラは書物を抱えながら静き答えた


「あの村の人たちのためにも、この旅を成功させなくちゃ。」


 バスバたちオーデント騎士団の隊列は、馬車の前後に広がり、堅実な警戒態勢を保ちながら進んでいた。その姿にジンは再び感心しながら呟く。


「さすがだな……こうして一緒に旅をするのも、いろいろ勉強になる。」


 アイリーンが軽く笑いながら茶化す。


「アンタがそんなに感心するなんてね、でも、確かにあの騎士団は強そうよね」


 バスバがその言葉を聞きつけたのか、馬を軽く走らせて馬車の横に並んだ。そして静かな声で一行に話しかける。


「騎士団の動きが気になるか?」


 ジンは少し驚いていたが、正直に答えた。


「ええ、これほど整った隊列で動いてるのは流石に、感服しました」


 バスバはわずかに口元を緩め、満足そうに頷いた。


「鍛錬の賜物だ。だが、実戦を重ねることでしか身につかない部分も多い。我らオーデント騎士団は闘いの中でそのすべを磨いていったのだ」


 その言葉に、ミエラはバスバ達に関してまだ知らない事だらけだと、このタイミングでオーデントについて詳しく聞いてみた。


「バスバさん。私達は大陸の外から来て、まだこの大陸の事を知りません。それこそ今向かっているオーデント国についてもです。実戦で身についたという言葉やベイルガルドとの事も踏まえると戦中なんでしょうか?」


 バスバはミエラの質問に少し間を置き、真剣な表情で答えた。


「そうだ。オーデントは信仰なき国。常に戦場と隣り合わせの国だ。我々の国はこの大陸の北東に位置しており、周囲の国々、今は特にベイルガルドとはな。そのため、戦火が絶えない。」


 ジンはバスバの話を聞き興味深そうに問いかけ


「特に⋯それはベイルガルドだけではないって事でしょうか」


 バスバは少し目を伏せた後、静かに続けた。


「原因は信仰と領土だ。この大陸はアスケラの力により古くから呪われた大陸と言われているそうだが、我ら住まう者には別の意味で言われている。」


 ミエラは静かにバスバの言葉を待っているとバスバは苦々しく続きを話始めた。


「アスケラは大陸に結界を作ったがその権威を振る舞う事はなかった。むしろ最近になりアスケラがベイルガルドを影で操っているなど言われ始めたが、それ迄は病にかかったものが救いを求めて祈るぐらいの存在だった。」


「我らが対抗していたのはそれ以外の国々と神達だった。特に暴食のグルンとホイスタリンという国だった」


 ミエラは聞き馴染みのない神に興味が惹かれていたが、バスバの表情をみて、自身の感情を直ぐ様に隠した。バスバの目は燃えるようなギラつきを放ち、怒りをそのまま笑顔に変えたような表情をしていた


 バスバの目に宿る怒りと闘志の炎を見て、ミエラは息を呑んだ。バスバの話は、ただの説明ではなく、苦悩と覚悟の重みが詰まっているように感じられた。


 バスバは少し息を整えながら、低い声で続けた。



「暴食の神とホイスタリン……奴らの信仰と野望は、この大陸の調和を壊すものだった。暴食のグルンは、その名の通り、全てを喰らい尽くす力を象徴とする神だ。その信者たちは、神の名のもとに領地を侵略し、人々を食料のように扱ってきた」


 ミエラはその言葉に眉をひそめ、口を挟んだ。


「人を……食料に?」


 バスバは鋭い目つきでジンを見返し、静かに頷いた。


「信じ難いことだが、現実だ。奴らは信仰を盾に人々を捕らえ、家畜のように扱った。そして、その暴挙を正当化してきた。」


 アイリーンが眉を吊り上げて不快そうに言った。


「そんなの、信仰でも何でもないじゃない……ただの狂気よ。」


 バスバは苦々しい表情を浮かべながら続けた。


「狂気もまた信仰なのだ。だからこそ、我らオーデント騎士団は奴らを止めるために戦ってきた。そしてホイスタリン国との闘いは、我らが《《王》》ケイオス様が暴食の神を打ち倒しオーデン国が勝利したのだ。」


 ミエラはバスバの話に驚愕していた、ジンやアイリーンも同じようで、直ぐ様バスバに


「神を打ち倒した⋯?神を殺したということでしょうか?」


 ミエラの疑問にバスバは誇らしげに


「そうだ。ケイオス様が持つ王剣デュランダルは神の力ではなく、人が魔法により生み出した神殺しの剣だ。そしてその場で共に戦った騎士達に、ケイオス様は特別な名と力を与えてくれたのだ」


「王の力が宿った武具と七騎士とな」


 誇らし気に自分の事を指し示すバスバを無視してミエラは自身の考えに耽っていた。


(神殺しの剣……それに、王が神の力に抗う力を持つなんて……。この大陸では、信仰と神の存在が絶対的だと思っていたけれど、オーデントはその枠を超えた存在なのかもしれない……)


 ジンはミエラの様子に興味深そうに目を向けていた


「ミエラ、何か気になることでもあるのか?」


 ミエラは少し躊躇しながらも、自分の考えを口にした。


『うん、、私は自分の目的の為にオステリィアに向かう前に成り行きだったけどオーデントに行くのは運が良かったと思って』


 アイリーンはそんなミエラに苦笑しながら口を挟んだ。


「本当に変な感じよね、ミエラちゃんと出会ってどんどん大きな話になるけど、不思議と繋がっていくのよね~《《運命》》ってホント不思議! って!   そうだ! 自分の目的忘れちゃう所だったわよ! バスバちゃん! アタシの種族って言えばいいのかしらね? って何処にいけば会えるの?」


 アイリーンの勢いと呼びかけに驚いて馬の手綱を思い切り引いたバスバは馬から振り落とされそうになりながらも持ち堪えアイリーンに返した


「バ、バスバちゃん⋯? お前は変わった奴だな⋯とにかく急に叫ぶな……。だが、質問には答えよう。竜族がこの大陸でどこにいるか、だな?」


 アイリーンは頷き、真剣な眼差しでバスバを見つめた。


「すまないが、分からない。正確に言うと会おうと思えば会える、何処に住んでるのかが分からない。アイリーン。お前の一族⋯いや種族は特殊だ、この大陸ではそれこそお前が先程発した《《運命》》にまつわる時に現れる。」


 アイリーンはバスバの言葉に驚き、少し困惑した表情を浮かべた。


「運命?どういうこと?」


 バスバは手綱を引き直し、少し間を置いてから静かに答えた。


「竜族はこの大陸でも特別な存在だ。お前たちのような存在は、普通の人々には決して近づけない場所に住んでいると言われている。それは隠れるためではなく、むしろ時が訪れるまで姿を現さないためだ。」


 アイリーンは少し苛立ったように腕を組んだ。


「時が訪れるまで? そんなの待ってられないわ! アタシはここにいるのに、種族のことを知りたいだけなのよ!」


 バスバはその気持ちを察しつつ、冷静な声で続けた。


「分かっている。しかし、竜族はこの大陸の歴史の中で重要な役割を果たしてきたとも言われている。彼らが姿を現すのは、何か重大な変化が訪れる時だ。お前自身がこの地にいるということ自体、その“変化”が近づいている証かもしれん」


 ミエラが口を挟んだ。


「じゃあ、アイリーンが探さずとも、この旅の中で自分の種族に出会う可能性があるってことですか?」


 バスバは頷いた。


「そう考えるのが自然だろう。だが、その“運命”というものが、どのような形で訪れるのかは誰にも分からない。お前たちがどう行動するか次第だ」


 アイリーンは真剣な眼差しでミエラとジンを見渡した。


「つまり、アタシが動けば動くほど、その運命に近づけるってことね……。よし、分かった!アタシはどんな手がかりでも探すわ」


 ジンはアイリーンの決意に微笑みながら頷いた。


「その意気だ」


 ミエラも力強く同意した。


「もちろん⋯一緒に頑張ろう、アイリーン」


 アイリーンは二人の言葉に笑顔を浮かべた。そして、バスバにも感謝の意を込めて言った。


「ありがとう、バスバちゃん。なんだか少しだけ希望が見えた気がするわ。」


 バスバは軽く肩をすくめた。


「お前たちは不思議な連中だ。だが、そういう不思議な者たちこそ、何かを動かす存在になるのかもしれない。」



 揺れる馬車の中、ミエラはアイリーンの言葉について考えていた


(アイリーンが運命にまつわる種族、、私と出会った事も、、?)


 ミエラはアイリーンと出会った時を思いだしていた。偶然がいきすぎていた出会いを


 もし自分を助けてくれているのも、いや自分が助けているのも、ただ運命によって決められているだけだったら⋯ミエラはそんな思いを振り切り、ジンに向かってしつこく絡んでる友人に目を向け、空を見上げた


 馬車はゆっくりと荒地を進み、夕焼けの空は次第に夜の帳へと変わりつつあった。



 そんな中、ミエラの目は星々を映しながらも、心の中では様々な思いが渦巻いていた。

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