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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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夜の襲撃者

 オーデント国への道のりがまだ長いことを悟ったジン達は、バスバの提案で野営をすることにした。


 広い荒野の中、比較的平坦で安全そうな場所を選び、馬車を輪のように配置して簡易的な防御陣を形成し、騎士達は手慣れた様子で焚き火の準備を整え、周囲に見張りを立てる。焚き火の炎が辺りを明るく照らし、冷たい夜風を少し和らげた。


 ジンたちはそれぞれの役割を分担し、ジンが火を焚き付けるための枝を集め、アイリーンは馬の世話を手伝った。ミエラは少し離れた場所で、抱えている書物を開いて教会で見つけた情報を整理していた。


 焚き火が赤々と燃え上がる中、ジン達はその周りに集まり、簡単な夕食をとった。乾燥したパンや保存肉といった質素な食事だったが、温かい炎がジン達に安らぎを与えてくれた


 バスバが食事を終えた後、先に食事を終え、手合わせをしている騎士達とジンの見て問いかけた。


「お前の剣やその技量は不思議だな、大陸の外に伝わる物なのか?」


 ジンは自身に打ち込んでくる若い騎士の剣を捌きながら器用にバスバの問いかけ答えていた


「俺の剣術ですか?特に大陸に伝わる物でもないです⋯闘いの中で身につけたようなものです」


 バスバはそんなジンを興味深そうに見ながら顎に手を当て頷いた。


「確かに、一見規則正しいように見えて時には変則的。速さと柔軟さを兼ね備えている。だが、お前の剣にはそれだけではない何かが宿っているようにも見えたからな」


 ジンはバスバの言葉の中に自分を褒めている感情を感じて歯がゆい気持ちになりながらも若い騎士の剣を捌いていた。


「有難う御座います。なんというか俺自身、自分の剣術に自信があるわけじゃないんです。闘いの中で身につけたものだと言いましたが、それはただ生き延びるために動いていただけで⋯その、、嬉しいです」


 若い騎士は一歩引いて剣を収めると、少し悔しそうにジンを見つめた。


「それでも、あなたの動きには私たちのように訓練された技術とは違うけど、力強さがある。」


 バスバはその言葉に同意するように頷き、焚き火越しにジンを見据えた。


「確かにお前の剣からは、何か信念のようなものが感じられる。それは教えられた技術だけでは身につかないものだろう。」


 ジンは剣を収めながら、焚き火の炎を見つめた。


「信念……俺も皆さんと同じように守りたい者があるからそう感じるのかもしれないですね」


 ジンはその言葉で自身がアルベストに来た目的を強く思いだしていた。必ず成し遂げなければいけないと考えに耽っていると

 アイリーンがその場の沈黙を破るように軽く笑いながら口を開いた。


「ジンってば、そんな深刻そうに話すなんて珍しいじゃない。いつもはもっと軽い感じなのに」


 ジンはアイリーンの明るさに助けられた事に感謝しつつ苦笑いを浮かべ肩をすくめた。


「まあ、こんな静かな夜だから、つい話しすぎたのかも」


 そんな周りのように

 ミエラも書物を閉じて焚き火に近づき、静かに口を開いた。


「でも、大事なことだと思う。剣を握る理由があるって、それだけで力になる。私も自分の旅の理由を忘れないようにしなきゃって、改めて思った。」


 そんなジン達の様子にバスバは満足そうに頷きながら、自身の剣を軽く叩いた。


「守るための剣、か。悪くない。お前のような剣士なら、どんな戦場でも生き残れるだろう。だが、その理由を見失うな。剣に迷いが生じた時、命取りになる。」


 ジンはその言葉に真剣に頷きながら、自分の剣の柄を握りしめた。


「分かってます。俺の剣は、俺が守りたいものを守るためだけに振るうものです。どんな状況でも、その意志は変えません」


 焚き火の炎が大きく揺れ、夜風が一行の間を吹き抜けた。バスバは立ち上がり、見張りの交代を告げながら一言だけジンに告げた。


「その剣の意志が我らと同じ方向に向く事を願っているぞ」


 ジンはその言葉に軽く笑みを浮かべながら、焚き火の光を見つめて静かに呟いた。


「ええ⋯」


 会話の後、見張りの番を決め皆が寝静まった頃、ジンは焚火で刀を抜き一人考えを巡らせていた。


 ソルメーラより与えられた力、死を宿す力は確かに神を死に至らしめた。だがソルメーラ自身にはどうだろうか、もしもの時に備えて人が作った神を屠る力を手に入れたい。


 思案していたジンは焚火の音が静かに響く中、不思議な気配が近づいて来るのを感じていた


(⋯?人間⋯多いな、6人⋯か)


 焚き火の炎が静かに揺れる中、ジンは剣を握る手をわずかに強くした。


 その気配は明らかに周囲の静寂と異なり、ジンの感覚に警鐘を鳴らしていた。


 ジンの視線が暗闇の奥へと向けられると、まるでそれに応えるかのように、不意に遠くで小さな足音が響く。


(明らかに此方狙っているな⋯、旅の者とも思えない。)


 ジンは慎重に立ち上がり、焚き火の炎を背に隠すようにして周囲を見渡した。


 剣の鞘を静かに抜く音が微かに響き、冷たい夜風が頬を撫でる。焚き火の温もりとは対照的に、空気には緊張感が漂い始めていた。


 気配の中心と思われる方向に注意を向けると、6人分の影がゆっくりとこちらに近づいてくる。


 ジンは迷わず仲間たちに呼びかけた


「全員起きろ!」


 ジンの声が夜の静寂を打ち消すと、仲間達は直ぐに飛び起きた、バスバ達やアイリーンは慣れた様子で直ぐに状況を察していたが、ミエラはまだ経験の差か状況に慌てていた。


 ジンは気配が声に反応するよう警戒を強めたのを察し暗がりに呼びかけた


「誰だ?」


 ジンは呼びかけには答えないだろうと思っていたが

 予想に反して暗がりからは男の声が返ってきた。


「用があるのは其処の騎士共だけ、いや正確には七騎士バスバのみ、無駄に血が流れるのが嫌なら他のものは立ち去れ。」



 男の声が響いた瞬間、一行の間に緊張が走った。特にバスバはその声を聞くなり鋭い視線を暗がりに向け、剣の柄を握りしめた。


「何者かは知らんが、私を知って狙ってくるなら腕には自身があるようだが⋯周りの加勢があったら分が悪いらしいな?」


 その言葉に応えるように、暗がりの中から6人の影がゆっくりと姿を現した。彼らは粗末な布で顔を覆い、武器を手にしている。


「バスバ・デクスタ……貴様は俺たちにとってどうしても消しておかねばならない存在だ。」


 バスバは冷笑しながら一歩前に出た。


「名乗らずに向かってくるなら、ただの無法者に過ぎん。何者が裏にいるのか吐かせたい所だがな」


 そういいバスバは剣静かに抜くと洗練された構えをとった。

 男たちのリーダーらしき人物が、バスバの気迫に動じず低い声で


「どれほどの実力か、確かめさせてもらおう。」


 ジンがバスバの隣に立ち、刀を構えながら声を潜めて言った。


「これは交渉になりそうもないですね。どうするつもりですか?」


 バスバは一瞬ジンを見やり、口元に冷たい笑みを浮かべた。


「やるしかないだろう。だが、奴らの狙いは俺だ。お前達を巻き込ませるわけにはいかん。ミエラ、アイリーン、ジン……お前たちは引いていろ。」


 ジンは即座に首を振り


「加勢します。俺達自身オーデントに行くのは目的の1つなので⋯それにかなりの手練のようです」


 アイリーンも弓を引きながら笑みを浮かべた。


「そうよ! 見た目からして悪い奴らと騎士ならアンタ達を助けて方がいいし、人数的にも有利だしね」


 ミエラはまだ緊張で体をこわばらせていたが、意を決して頷いた。


「私たちも戦います。バスバさんだけに任せるわけにはいきません。」


 バスバは一瞬言葉を失ったが、すぐに深く息をついて剣を抜いた。


「……恩にきる。ただし、命を粗末にするな。」


 男たちはその言葉が合図とばかりに武器を構え、一斉に襲いかかってきた。


 ジンは最初に突進してきた男の剣を受け流し、周りの状況を確認した。


 アイリーンは後方から次々と矢を放ち、敵の足を止めていたが、正確無比な射撃と強力な威力の矢を襲撃者達は、素早く回避をしながら騎士達の身体を死角に立ち回っていた。


 バスバは敵の中心に突進し、まるで岩のような守りで彼らの攻撃を盾や剣で受け止めていた。その剣捌きは重厚でありながら素早く襲撃者達も苦戦を強いられていた。


 ジンは自身に向かってくる襲撃者の剣を刀で受けるとそのまま襲撃者の剣の上を滑らすよう、刀を動かし一瞬でその首を跳ね飛ばした。


 荒野の夜に剣戟の音と鳴り響いたが

 その時間は短かった。


 ミエラの魔法が襲撃者達を襲ったからだ


 ジンは改めて魔法の脅威を⋯ミエラの力を目の当たりにした


 土がまるで意思を持っているかのように一人の騎士と剣を交えていた、襲撃者の足を包み込み、その動きを止めると。

 凄まじい風が別の襲撃者を吹き飛ばしていた。


 バスバと凄まじい攻防を繰り広げでいたリーダーの男は驚愕したように、バスバから距離をとると


 苦々しげにミエラに叫び、向かっていった。


「⋯! 魔法使いか!? 神の力を使いながらオーデントに与するか!」


 その叫びに、ミエラは一瞬動揺したが、すぐに表情を引き締め、リーダーの男に手を振りかざした


「私の魔法は、私自身の意志で動く力よ!」


 彼女の言葉に男は嘲笑を浮かべながらも、繰り出された突風を交わし、次々と繰り出される土の魔法からも素早く逃れミエラに叫んでいた


「意志だと?神が与えた力をそう名乗るのか。愚かだな……だが、それもここまでだ!」


 男はミエラの魔法をくぐり抜け突進してきた。


 ジンはすかさずその動きを読み、刀を構えながら男の進路を阻むように間に入った。


「諦めろ、既に仲間は倒れて貴方一人だ」


 ジンの声は低く鋭く響き、男の目が一瞬揺らぎ、素早く周りを確認していた。


 既に他の襲撃者はミエラの魔法により倒された1人を残して、アイリーンの矢やジンの刀、騎士の剣によりこの世にもいなかった。


 しかし、それでも男は止まらず、ジンに向かって剣を振り下ろした。


 ジンはその一撃を冷静に見極め、刀で受け流した。鋭い金属音が夜の静寂を切り裂き、男の剣が軌道を外れる。


「……そうか」


 ジンは低い声で答え、刀を構え直した。

 その気迫に、男の動きは一瞬鈍った。


 しかし、男は牙をむくような表情を浮かべ、負けじと剣を振りかざす。


「忌々しい王子から解放され!我らはオーデントを解放する!」


 その叫びと共に男は一瞬で間合いを詰め、ジンの脇を狙って鋭い突きを繰り出した。

 だがジンは一歩後退してその攻撃をかわし、逆に男の懐に入り込む。



「……これで終わりだ」


 その言葉と同時に、ジンの刀が閃き、男の手から剣を弾き飛ばした。


 男の武器が地面に落ちる音が響き、彼は愕然とした表情でジンを見つめた。


 しかし、諦めた様子はなく。


 男は懐から短剣を取り出し、自身の首に当てた


「死なせるな!!」


 バスバが叫ぶと同時に、アイリーンの放った矢が飛び、男の短剣を弾き落とした。


「これ以上無駄なことはやめなさい!」


 アイリーンの鋭い声が響くと同時にジンは男を地面に押さえつけると、瞬時に引き裂いた男の衣類を口に突っ込んだ。


 ジンは押さえつけた男を鋭い眼差しで見下ろしながら、静かに言った。


「これ以上は無駄です。仲間は倒れ、貴方自身も逃げ場はない」


 男は苦々しい表情でジンを睨みつけたが、口に押し込まれた布のせいで言葉を発することはできなかった。


 バスバが男のそばに膝をつき、冷たい声で問いかけた。


「お前たちを操っているのは誰だ? 忌々しい王子⋯恐れ多くもケイオス様の事を言っている事やオーデントの解放⋯お前が話さずとも此方は見えてきたぞ? お前の口から聞ければ楽ではあるがな」


 男は激しく頭を振り、目で拒絶を示した。


 アイリーンがジンの横に立ち、弓を構えたまま呆れたように


「無駄よ。自害を選択した人間が話すわけないわよ、こっちのリーダーよりミエラちゃんに吹き飛ばされて伸びてるやつに聞いた方が良いんじゃない?」


 バスバはアイリーンの提案に短く頷いた。


「それも一理あるな。お前達、この男を縛り上げておけ。もう一人の方から情報を引き出そう」


 バスバから命令を受け騎士達が男をしっかりと縛りあげてる間も男は静かにバスバを見つめていた。


 もう一人の襲撃者は完全に伸びているらしく、バスバが多少手荒に意識を戻そうとしても駄目だった。ジン達は一旦もう一人の襲撃者が起きるまで待つことに決め


 バスバに先程の会話について問いただした


「あの男の会話から察するに、オーデント国の者でしょうか?」


 ジンの指摘にバスバは苦々しげに笑いながら静かに答えた


「そうだろうな。オーデント国は一枚岩ではない先の村でみたように、国で信仰禁じているが今だに真実から逃れるように信仰を続けるものも多い。特にケイオス様が国を治めるようになり、信仰を禁じてからは反発する者がいたのは隠せん」


 ジンは先の村での出来事を思い出していた。

 オーデント国にありながら信仰により自ら村を滅ぼしていた彼らを


 そんなジンの思案をよそに襲撃者から目を離したミエラはバスバに


「ですが暴食の神の被害を受けたのに、それを打ち倒した方を何故⋯? お話を聞く限りそんな昔の出来事ではないのでは⋯。」



 ミエラの指摘に対してバスバは話すのを躊躇していたが、暫くして重い口を開きだした。

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