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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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なれの果て

 ジンは薄暗い地下通路を進みながら、自分たちの前後を挟むように行進するオーデントの騎士達の姿に静かに感服していた。


 重厚な甲冑を身にまとい、無駄のない動きで周囲を警戒しつつ進む騎士たちの姿は、長年の経験と訓練に裏打ちされた"精鋭"そのものであった。


「……さすがだな。」

 ジンは小さく呟き、前を行くバスバ・デクスタに目を向ける。彼の背中は大きく、まるで岩のような安定感がある。


 アイリーンが低い声で言った。

「何か思うところがあるの?」


 ジンは刀の柄を軽く握りながら答えた。

「いや、見事な連携だと思って。隊長がしっかりしているからだと思うけど。堅物にみえて、俺達の行動を縛らずに同行させる柔軟性や、逃げられないように前後を抑えてるのも守る為もあるんだろうけど、凄いなぁと」


「騎士団……だからこそ守れるものもある。でも、縛られるものもあんのよ。」


 アイリーンの言葉にはどこか皮肉めいた響きがあったが、その視線には騎士たちへの敬意も感じられた。


 ジンはそんな騎士達に囲まれながら思案していた。神の肉⋯

 自身の目的が直ぐに見つかったのは有難い気持ちだったが、話を聞く限り事が大きすぎる案件だった。


 この国だけではなく何故ジンがいたゴリョウ大陸に迄その脅威を広げたのか⋯もうこの大陸で目的を果たしたからなのか、それとも目的を果たす為に必要だったのか。


 ジンが深く考えていると心配そうに見ていたミエラが小さくジンに囁いてきた


「大丈夫⋯? 神の肉って聞いてからずっと考えこんでるけど⋯?」


 ジンはミエラの様子にふっと妹の姿を重ね、懐かしい気持ちと共にミエラに優しい笑みを向けた。


 ジンの表情からは、少しだけ張り詰めていた空気が和らいだように見えた。


「大丈夫だよ。」


 ジンは静かに答えながら、ミエラを見つめているとそんなジンに、ミエラは目を丸くしながら彼を見上げ、直ぐ様怪訝な顔になり


「え、何⋯?」


 ジンは一瞬言葉を探し


「いや、ごめん。妹を思いだして⋯何でだろう似てると思って」


 そんなジンの言葉を聞いて、ミエラは何か勘違いしたように


「そっか⋯妹さんいたんだもんね」


 そう呟き、黙り込み、暫くの沈黙が二人の間には生まれたジンはミエラの反応に気付き、少しばかり焦った様子で口を開いた。


「いや、まだ《《生きてるよ》》。ただ……ミエラが心配してくれるのが、どこか妹に似ていて。」


 ミエラは書物を抱えたまま少し拗ねたようににジンを見上げる。


「それって、私が子供っぽいってこと?」


 ジンは苦笑いし、手を軽く振った。


「違うよ。ミエラは立派だよ。こういう状況でしっかり前を見てるし」


 その言葉にミエラの表情が少し柔らぎ、静かな声で尋ねる。


「……妹さん、今はどうしてるの?」


 ジンの顔に一瞬だけ影が走る。だがすぐに彼は前を向き、静かなトーンで答えた。


「故郷にいるよ。」


 ジンは静かにそう答え、目の前の暗い地下通路に視線を戻した。だがその声はどこか遠くを見つめるような響きがあった。



 ミエラは小さく頷きながらも、静かに言葉を継いだ。

「……ジンの妹さん、きっと待ってるはず。どれだけ時間が経っても、"帰ってくる"って信じてると思う。」


 ジンはその言葉に少し驚いたような顔をしてから、ふっと笑った。


「……そうだといいな。」


 そんな二人の会話はバスバが鋭い動きを見せたことで、終わりを迎えることになった。

 ジンはミエラとの会話を切り上げ、地下通路の奥に目を向ける。どこかから冷たい風が漏れ出てきているように感じる。


「……変な感じですね」

 ジンが刀の柄を握り直しながらバスバに尋ねると、彼は静かに手を上げて一同を制止した。


「静かに。」

 バスバの声は低く、だが命令の響きを帯びていた。騎士たちは即座に動きを止め、その場に構えを取る。空気がさらに張り詰め、誰もが息を潜めた。


 通路の奥から、微かに響く音――それは何かが地面を這う音ともつかない不気味な音だった。


 ミエラが小さな声で呟いた。

「……これは、何の音?」


 バスバが松明を掲げると、暗闇の中からその「何か」が姿を現した。微かな光に照らされたその形は、まるで歪んだ人間のようでありながら、人間とはかけ離れた異様さを放っていた。


 赤黒い全身はまるで肉をさらけ出してるようで、身体の周りは粘液のようなもので覆われていた、手足は細長く変形しており、身体には不規則に同じ手足がいくつもついていた。そして顔にあたる部分にはいくつもの目や口、鼻が取り付けられ、それはまるで、人間を無理やり纏めた物のように


「……これは……!」

 ミエラが怯えた声を上げ、ジンはそんなミエラの様子をみて自分と同じ考えだと気づいた。


 ノストール。船で戦った神より歪ではあるが

 ツギハギだらけの身体等、似ている部分があった


 ジンは刀を引き抜き、身体を低く構え交戦の準備にはいった。

 一同の緊張が一気に高まる中、バスバも剣を構えながら低い声で命じた。


「陣形を崩すな!これ以上近づかせるな!」


 騎士たちは盾を前に出し、槍を構えながら連携して動き出す。異形の存在は不規則に蠢きながらも、まっすぐ一行に向かって進んできた。


 異形は明らかに狙いを定めている。一行の真ん中――おそらくはミエラを標的にしているようだった。


「狙われてるわね、ミエラちゃん⋯」

 アイリーンが冷静に矢を番え、ジンに目配せをする。


「わかってる。俺たちで止めるしかない。」


 ジンは刀を握り直し、低く構えた。その瞬間、異形が突然跳躍し、一行に襲いかかった。


「来るぞ!」

 バスバが叫び、盾を突き出して異形の突進を受け止める。鈍い衝撃音とともに、異形の力が全員に伝わるほどの衝撃を放つ。


「こいつ!」

 バスバが耐えながら叫ぶ。


 ジンはその隙をつき、素早く異形の側面に回り込むと刀を振り抜いた。その一閃が異形の身体を裂いた――かに見えたが、裂けた部分はすぐに再生し、元の形に戻る。


「……!」


 ジンの驚きは再生した身体ではなく、自身に伸びてきた無数の手に対してだった。

 後ろに飛び、異形の手から逃れた筈だったが


 異形の手はまるで足りない距離を補うように手と手を合わせていき、まるでそれ自体に意思があるかのようにジンを追い詰めていった。



 ジンは素早く身を翻し、再び刀を振り抜いた。その一閃が異形の伸びた手を切り裂く。


 しかし、その切り離された手は地面に落ちるや否や、瞬時に蠢きながら本体へと戻っていった。


「さがっていろ!」


 その言葉と共に、バスバは持っていた盾を異形に向け投げつけると、盾は凄まじい威力で異形の身体へとめり込んでいった。


 異形は盾という異物を出そうとしていたがその隙を

 アイリーンの矢が逃さず


 異形の頭を吹き飛ばしていた。


 頭が無くなった筈の異形はそれでも怯まず、なおもミエラに向かってじりじりと進んでいく。


 後ろに控えていた騎士達が守るように、ミエラの前に繰り出すと、異形の足は大きく膨れ上がり。

 凄まじい音と共に、騎士達とミエラに突進していた。


 ミエラを守るように立ち塞がっていた騎士に突撃した異形だったが、歴戦の騎士達は守る事に関しては

 異形を上回っており、重なり合えように盾を構え


 異形の爆発的な突進を防いでいた


 異形は無数の手を使い騎士を弾き飛ばそうとしたが

 その前に全身をミエラの魔法が包みこんでいた


 ミエラは松明の火を操り、異形の顔を燃やすと火は徐々に強くなり、瞬く間に異形を包みこんだ。


 火の力により異形は騎士達から離れ、もがきながら

 言葉を発した




 《……痛いよ……苦しいぃ……だれかぁぁ……》


 異形の口から放たれた言葉に、一行は一瞬動きを止めた。その声は低く、何重にも重なって聞こえる不気味な響きだったが、どこか人間的な感情も感じられるものだった。


「嘘でしょ……子供の声⋯?」

 アイリーンが信じられないというように声を漏らした。


「馬鹿な………」

 バスバも剣を構えたまま険しい表情を崩さない。


 ミエラもその言葉に目を見開いた。


「……まさか……元は……人間……?」


 ジンは異形のもがき苦しむ姿を見据え、冷静な声で言った。


「かもしれない。だが、今のこいつは化け物だ。このまま放っておくわけにはいかない。」


 異形は燃え盛る炎の中でさらに叫び声を上げた。

「……嫌だぁ………!」


 その言葉を聞いたミエラは一瞬手を止めかけた。


「ミエラ!迷うな!」

 ジンが鋭い声で制した。



 その時、異形の手が突然伸び、ミエラに向かって襲いかかってきた。

 ジンが即座に反応し、その手を刀で切り裂く。だが、異形は怯むどころか、なおももがきながら彼女に近づこうとしていた。


「苦しい……殺してくれ……助けて……神様」


 異形は炎の中で叫び続け、その体が少しずつ崩れていく。


 ミエラはその声に呼応するように炎をさらに強めた。


「……ごめんなさい。」


 炎は一気に異形を包みこんだ。


 異形は最後の叫び声を上げ、その体は完全に燃え尽き、黒い粘液も灰となって消え、辺りには静寂が訪れた。



 異形が完全に消滅した後、ジンは刀をゆっくりと鞘に収め、深く息を吐いた。


 ミエラはその場で灰を見つめ静かに呟いた

「……人間だった」


 そんなミエラを心配そうにアイリーンが矢を収めながら、ミエラの横に寄り添うと


「……たぶん、そうだったのかもしれないわね。でも、あれは……もう戻れない存在だったわ。」


 バスバも険しい顔で周囲を見渡し、静かに言った。


「ベイルガルド……!黒衣の伝道者め、、我が国でよくも⋯!」



 バスバの怒りに満ちた声が地下通路に響き渡る。彼の拳は強く握りしめられ、その背中から放たれる威圧感は、一行の中で特に強烈だった。


 ジンはそんなバスバをちらりと見やりながら、冷静に言葉を続けた。


「黒衣の伝道者……そいつらがこの歪みを作り出しているってことか。」


 バスバは鋭い目をジンに向け、静かに頷く。


「奴らは歪んだ信仰を広め、この地を腐らせている。我々騎士団はその調査と殲滅を命じられているのだが、これほどまでの犠牲が出ているとは……。」


 アイリーンが不安げな表情を浮かべながら呟いた。


「でも、人間が……こんな形にされるなんて……。いったい何をどうすればこんなことになるのよ?」


 バスバは苦々しい表情を浮かべたまま答える。


「分かっている事は奴らは、神の肉を生み出す。それがこれだ。」


「神の肉……」

 ミエラは呆然とした表情でつぶやいた。


「そんな……普通の人たちが、こんなふうに……?」


 ジンは冷静に

「奴等は神の肉を作って、神を生み出す。それなら今交戦していたのは⋯?神ではなく人のようでしたが」


 バスバはジンの質問に答えるように、低い声で言葉を絞り出した。


「奴らは"神"を完全な形で降臨させるために、信者や捕らえた人間を使い"試作品"を生み出している。先ほどの異形は、おそらく失敗作……だが、それでも十分に危険な存在だ。」


 アイリーンが眉をひそめながら問いかけた。


「でも、それじゃ……黒衣の伝道者ってのは、ここ以外でもこんな事をしてるの!?」


 バスバは険しい顔をさらに引き締め、最奥の模様を指さした。


「これを見ろ。ここに奴らが神を生み出すための手順が記されている。肉を重ね、意識を結びつけ、魂を縛りつけることで、信仰の塊を作り上げようとしているのだ。」


 ジンは腕を組みながら考え込む。


「……つまり、奴らの目的は、この“完成品”をどんどん作ることか」


 バスバはジンの言葉に重みを感じたのか、力強く頷く。


「それを止める為にもお前達の持つ情報が我らには必要なのだ、もはやオステリィアに行くというお前達をそのまま行かすわけにはいかない。悪いが共に来てもらうぞ。」



「我らが仕えし王の中の王。王神ケイオス王の元に」

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