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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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人無き村

 ミエラは地面に向けて手を伸ばすと、地面から土の塊が魔物へと向かって飛び出していった


 土の塊を顔に受けた魔物


 背丈は先程まで一緒だったムムムよりやや大きいぐらいだが、二足歩行の身体は緑色で衣類など纏っておらず。ツルツルの頭に尖った耳に涎を垂らした口元、尖った鼻に二つの黄色い瞳が、人間と魔物の境目を分けていた。


 森を抜けようしていたミエラ達は何度もこの魔物に出くわしこれで5回目の交戦だった。


 個々でなら大した事はないが、必ずと行っていいほど複数で襲いかかってきて、何よりミエラを率先して狙ってくる事には厄介さを感じていた



 ミエラの魔法により、致命傷にはならなかったが怯んでいた魔物は木々が生い茂る森の中でも、存在を発揮している、アイリーンの矢によって小さな身体は見るも無惨に抉り取れていた。


 そんな仲間の様子に怯えがみられた、残り2体の魔物はジンの刀によって瞬く間に切り捨てれていた。


「これで……何体目だっけ?」


 アイリーンが矢を番えたまま呟く。


「13体目だ。大人気みたいだ」


 ジンは刀を鞘に戻しながら、苦笑いを浮かべミエラをみていた



「やっぱり私だけ狙われている感じがするよね⋯?どうして……?」


 彼女の言葉にジンもアイリーンも答えられなかった。理由の検討は何となくついているが、2人とも口には出さずミエラを守ろうと目を合わせていた。


「目的が分からないわ、でも、これ以上消耗する前にさっさと森を抜けちゃいましょう」


 アイリーンが弓を背負い直しながら提案した。


「……そうだね。森の出口はもう近いはずだ。このまま進もう。」


 ジンが先頭に立ち、一行は再び歩き出した



 何度かの闘いを経て飛び出すよう森を抜けた

 ミエラ達を広大な草原とそよ風が迎え入れてくれた。晴天がちらつく草原は、ここが呪われた大陸と言われていたのが嘘のようだとミエラに感じさせた。



 ミエラは広大な草原に一歩足を踏み入れると、ほっとしたように深呼吸をした。


 これまでの緊張感がわずかに和らぎ、森の中で味わえなかった自然の温かさが肌に伝わってくる。


「……やっと抜けたわね。」

 アイリーンが青空を見上げながら呟いた。彼女の声には安堵と疲労が混じっていた。


 ジンは辺りを見渡しながら、刀を握る手を少し緩めた。


「ここが呪われた大陸だなんて信じられないな……。この景色だけを見ると、普通の草原にしか見えない。」


 ミエラも周囲の風景に目をやりながら頷いた。

「そうだね……森の中とは全然違う。風も温かいし、空もこんなに広い……。でも、油断はできない。何が起きるか分からないから。」


「その通りね。」


 アイリーンが弓を背負い直しながら、ふと遠くに目を凝らした。


「見て、あそこ……村があるみたい。」


 ミエラが指差した先、遠くに小さな村が確認出来た。


 草原の穏やかな景色に溶け込んでいるようにも見えるその村だが、どこか不穏な空気が漂っているような気もした。


「村か……ムムムが言っていたのはあの村の事かな」


 ジンが服に纏わりついた木の葉を落としながら言うと。


「そうね、なんか静かじゃない?噂は本当かも知れないしもっと近づいて確かめた方がよさそうね。」


 アイリーンが警戒を解かずに言葉を続けた。


 ミエラは少し不安げな表情を浮かべながらも頷いた。


「そうだね……でも、この草原で人の住む村が見えるのは希望が持てる。私たちがどこに向かっているのか、手がかりを掴めるかもしれない。」


 ミエラ達は村へ向かって歩き始めた。



 草原を進む間、そよ風が三人の疲れた体を優しく撫でるように吹き抜けていった。鳥の囀りが聞こえ、森の中で味わった恐怖がほんの少しだけ薄れていく。しかし、村に近づくにつれて、徐々に違和感が強まっていった。


 畑は荒れ果て、作物の枯れた茎が風に揺れている。近くの家は綺麗な外観を保っているが其処が村の異常を象徴していた。


「……本当に人が住んでいるのか?」

 ジンが村の入口で立ち止まり、辺りを見渡した。


「煙が出てるってことは、少なくとも誰かがいるはず。でも、何かがおかしいわね。」

 アイリーンが小声で返し、矢をすぐに射れるよう準備を整える。


 ミエラも周囲を警戒しながら村の奥へと足を進めた。


 村の中心に近づくと、誰かの姿が見えた。ぼろぼろの服を着た老人が一人、井戸の傍らで腰を下ろしている。彼は三人の足音に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。


「……旅人か?」


 声は掠れており、疲れきった様子が伝わってくる。

 老人はアイリーンの姿に驚いてはいたが、人への興味を失っているのか、パクパク口を動かしてはいたが

 ジン達に尋ねる事はなかった。


「ええ、オステリィアを目指しておりまして、道を尋ねる傍ら、身支度を整える場所を探してます。」


 ジンが短く答えると、老人は苦笑しながら首を振った。


「そんな場所はないぞ。この村は、もう終わっている……お前たちの助けにはならん。」


「どういうこと?」

 アイリーンが一歩前に出て問いかけた。


 老人はアイリーンに喋りかけられた事に驚きつつも、重い口調で話し始めた。


「最近になって、村の人間が次々と消えた。消えたというよりは連れて行かれたが正しいが……もう、この村にはわしの他に数えるほどしか人間はおらん。」


 ミエラは疲れたように話す老人に同情的に話を聞きだそうとした


「誰が村人を連れていったんですか?」


 老人は頭を振った。

「領主様と黒衣の伝道者⋯ベイルガルドの人間じゃよ。最初は、村に神への信仰の教会を作ると言われわしらは其れを受け入れた。」


 老人の言葉に、一行は耳を傾けた。声は掠れ、弱々しいが、その内容には不穏な響きがあった。


「最初は善意ある者たちに見えた……黒衣の伝道者たちは、神への祈りを捧げることで村を豊かにすると言った。信じたさ。困窮していた我々には希望が必要だった。」


「そして恩恵は確かにあったのじゃよ。村は豊かになり人々は笑顔になった⋯」


 老人はそう言うと、目を伏せて絞り出すように続けた。


「だが、教会が建つとすぐにおかしなことが起き始めた。夜な夜な奇妙な音が聞こえ、村の者が一人ずつ姿を消した……。尋ねても伝道者たちはただ『選ばれし者が神の元へ招かれたのだ』としか答えん。」


 ミエラは眉をひそめ、老人に尋ねた。


「その神というのは……ベイルガルドが信仰するアスケラ様のことですか?」



 老人は一瞬怯えるように顔を歪めたが、首を横に振った。


「いいや、違う。我らは病の神を頼ったりはしない。建てられた教会も慈愛の神オルフィーナ様の為だった。」


「オルフィーナ様? だってベイルガルドはアスケラを信仰してるんでしょ?何でオルフィーナ様の教会を建てるのよ」


 アイリーンが問い返すと、老人はかすかに震えながら答えた。


「ベイルガルドが信仰するのは神そのもの⋯アスケラ様だけではない、オルフィーナ様も信仰の対象じゃよ」


 老人の言葉に、一行は驚きの表情を隠せなかった。ミエラが慎重に言葉を選びながら尋ねる。


「でも、オルフィーナ様は慈愛の神で、アルベストではその存在はほとんど忘れられていると聞きました。ベイルガルドがその神を信仰の対象にしているなんて……一体どういうことですか?」


 老人は少し目を伏せ、疲れた声で続けた。


「ベイルガルドは確かにアスケラ様を中心に据えた国じゃ。神々すべてを取り込み、その力を利用しようとしとるのかもしれん……。慈愛のオルフィーナ様を表向きに掲げて、村人を安心させたんじゃろう。」


 ジンが険しい表情で口を挟む。


「安心ですか⋯?信仰が禁止された国で何故村人は違う国の言葉を信じて伝道者に着いていったんでしょうか。」


「分からん。ただ、教会が完成してから、村に黒衣の伝道者たちが現れるようになった。彼らは夜遅くまで何かを祈り続け、やがて村の者を『神に会わせる』と言って連れて行った……」


 その言葉に、ミエラは心がざわつくのを感じた。彼女は考え込むように目を伏せる。


「オルフィーナ様はそんなこと望まないわ!」


 アイリーンが叫び、鋭い目で老人に尋ねた。


「教会の中はどうなっているの?その伝道者たちはまだそこにいるの?」


 老人は少し怯えたように視線をそらした。


「教会には、村の誰も近づかん。あの場には重苦しい空気が満ちておる……。伝道者たちはもういない。彼らにとって何か望む事が出来たのかその姿はもうない。行くなら止めはしないが、何も残っとらんよ」


「それでも、確かめたいです。」


 アイリーンがため息をつき、肩をすくめる。


「もう、仕方ないわね⋯でも、一人で突っ込むのはなしよ。」


 ジンは真剣な目でミエラを見つめ、ゆっくり頷いた。


「行こう。教会の中に何があるのか確かめる。アスケラに関して少しでも分かるなら俺は知りたい。」


 ミエラとアイリーンも頷き、一行は教会に向かって歩き出した。

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