ムムムの親切
ジン達はムムムを先頭に森の奥深くへと進んでいった。
森の中は薄暗く、月の光もほとんど差し込まない。それでもムムムは道をよく知っているらしく、迷う様子もなく進んでいく。その後ろ姿はどこか頼もしいものがあった。
「ムムムさんのお家って、どんなところなんですか?」
ミエラが声をかけると、ムムムは振り返りながら耳をぴょこんと動かして答えた。
「んー、ボクの家はそんなに大きくないけど、あったかい場所だよ。食べ物も少しだけどあるし、君たちには喜んでもらえると思う!」
ムムムの声には、どこか誇らしげな響きがあった。「暖かい場所か…助かるな」
ジンが小さく呟き、アイリーンも大きな弓を抱え直しながら、「可愛い見た目だけど、頼りになるウサギさんね」と微笑んだ。
道中、ムムムは森のことを少しずつ話してくれた。この森は「アグナの森」と呼ばれ、ムムム達を作った神。慈愛のオルフィーナが姿を消し
ムムム達はその見た目から愛玩動物として狙われる日々だったと。
そんな矢先、一人の魔法使いケンニグが現れこの森に結界を作ったらしい。
ジンはそんな話を聞きながら、良い人もいるんだなぁと思っていたが。ミエラやアイリーンは驚き顔を見合わせていた。
二人は直ぐ様、ムムムにグランタリスに伝わる話をすると、今度はムムムが驚き
「えっっ!? 君達大陸の外から来たの?本当に⋯? ボクを騙してない?」
暫くムムムとミエラ、アイリーンの三人はケンニグの話や大陸の話で盛り上がっており、話に入れないジンは一人寂しく辺りを警戒していた。
やがて、ムムムの家が見え、それは森の中の小さな丘の斜面に作られた穴倉のような住処で、入口には可愛らしいランタンがぶら下がっていた。中から漏れる柔らかな光が、夜の冷たい空気を温かく照らしている。
「さあ、着いたよ! ここがボクの家!」
ムムムは誇らしげに胸を張った。
「素敵な場所ね!」
アイリーンが感嘆の声を上げると、ムムムは嬉しそうに耳を揺らしていた。
案内された、家の中は意外なほど広く、木でできた家具や温かそうな毛皮の敷物が整然と並べられていた。壁にはさまざまな道具や装飾品が飾られており、どこか人間の文化と似たものも見受けられる。
「さあ、ここでゆっくり休むといいよ。森の外よりは寝心地は良いからね!」
ムムムの言葉に、一同は心からほっとした。安心して眠れる場所を得たことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ムムムさん、本当にありがとう。お世話になります」
ジンとアイリーンもそれぞれ感謝の言葉を述べ、一行は暖かな空間で自分の居場所を確保すると
寝る時間を割き、道中での話やアルベストの事をムムムに質問した
まず、ムムムに聞いたのは、慈愛の神オルフィーナが去った後にケンニグという人間が現れた時の話だった。
今やグランタリス大陸で話の対象となり、道中共にしたエイランの国が崇める神だ。
大陸が分断される前だったらおかしい事は何一つなく、一行はすんなり受け入れたれたが、グランタリス大陸で伝わる話と、ムムムの話からして、どちらも大陸が分断された後の話だったのだ。
ムムムは少し首を傾げ、困ったように耳を触りながら答えた。
「ボクも何で大陸の外でオルフィーナ様の話が言ってるかはよく分からないよ。話だけが伝わった可能性もあるけど。でも、ケンニグは森に結界を作る際に「これが僕の使命だ」って言ってたそうだよ」
ジンは話を聞きながら、話が何らかで伝わりその国の者となる事は理解できたが、オルフィーナがグランタリス大陸で神としている事実だけは、理解が追いつかなった。
横にいる、ミエラやアイリーンもその様子だったが夜の時間も短い。
ムムムが夜行性なのかは分からないが時間を割くのも可哀想だと、ジンは話を中断してアルベストについて確認した
話題がアルベスト全体のことに移ると、ムムムの表情は少し曇った。
「アルベストも昔は神々や眷属、それに人間が一緒に暮らしていた土地だったんだ。でも、いつしか神様を崇める人間や眷属達と人間だけの国が対立するようになって。僕らのように神様に置いてかれた種族とかは隠れて生活するようになったんだ。」
アイリーンはその話に驚いたようで、目を見開いた。
「アスケラが大きな力を持って大陸を治めてるわけじゃないの?」
ムムムは少し考え込むようにしてから答えた。
「うん、アスケラ様は昔は絶大な力で大陸を治めていたけど、いつしかその姿を消してね。噂ではベイルガルドって国に顕現してるとは言われているけど。今じゃあ、誰も知らないよ、それにこの森を出て町に向かうならアスケラ様の話しはしないほうがいいよ⋯」
ムムムが耳を押さえながら不安そうに話すのを聞いた、ミエラが眉をひそめて
「アスケラ様の話をしないほうがいいって、どうしてですか?」
尋ねると、ムムムは慎重に言葉を選びながら答えた。
「この森がある場所は人間達が収まる国。オーデントって国なんだ、昔は神様の信仰も許していたんだけど今じゃあそれも禁止していて。それに近頃色んな場所で変な事が起きてるみたいなんだ、よね。其れをアスケラ様の仕業だって町の人間は言ってるみたいだよ」
ジンはムムムの『変な事』を深く問いただした
「うーん、ボクもよく知らないんだ。色んな町で人が消えてるとか、病が流行ってる、魔物が生まれてるとかね、でも最近の噂だとこの森の近くの村から人が消えているっての聞いたよ」
ジンはムムムの言葉を聞いて、「人が消える」という言葉が不気味に引っかかっていた。
ミエラはそんなジンとムムムを心配そうにみながら、自分の目的であるオステリィアについてムムムに聞いていた
「ムムムさん私達はオステリィアという国を目指しているんですが詳しい場所とかわかりませんか?」
その言葉にムムムは耳を垂らし、困ったように答えた。
「オステリィアは行くのは簡単だよ、この大陸の中心にあるからね何処の国からも行きやすい国だけど、入るのは難しいと思うよ⋯いま話した変な事のせいもあって、オステリィアは国を閉ざしてるから。ボクも見てはいないから噂でしかないけど」
ミエラはムムムの話を聞きながらもオステリィアが存在している事に喜びを感じているようだった。
ジンはそんな様子をみて、ふっと時間が大分経ってることに気づき話を終わらせることにした
「ムムムさん有難う御座いました。夜遅く泊めてもらうだけでなく、話まで。最後にお聞きしたいのですが何故こんなに親切にしてくださるのですか?」
ジンはずっと疑問だった。隠れて住まうムムムが何故始めてあったジン達にここ迄親切に対応するのか、そして危険な外の情報をこうまで話してくれるのか。
ジンの発言にミエラは不安そうに、アイリーンはきょとん、とした目で二人をみていた
沈黙の中、ムムムは困ったように耳をしならせ
「ボクもわからないんだよね。今までのボクなら絶対ありえないんだけど、君達をみてたら、いや⋯ミエラをみてたら何だか助けたいなぁって⋯なんだろうね?」
ムムムの話にアイリーンは嬉しそうに
「分かるわぁ! 何だかミエラちゃんって助けてあげたくなるのよね~、ムムムちゃんこれがジン一人だったら助けてなかったでしょ?」
そう話すアイリーンにムムムは元気よく
「うん! ジンとアイリーンなら助けてないよ」
「アタシは助けなさいよ!」
ムムムとアイリーンのやり取りに、ミエラは思わずくすりと笑った。険しい旅の中でこうした軽口が交わされるのは、どこか安心できると考えていた。
「でも、ムムムさん、本当にありがとう。私たちを助けてくれたこと、絶対に忘れません。」
ミエラが真剣な目でお礼を言うと、ムムムは少し照れくさそうに耳を動かしながら答えた。
「いいんだよ。ボクが助けられるのはせいぜいここまでだからね。それに、君たちがこの大陸で何かを成し遂げる気がするんだ。それが良いことか悪いことかは分からないけど……ボクにはそれを止める力はないし、だったらせめて応援させてよ。」
その言葉にジンが静かに頷いた。
「……有難う御座います。ムムムさん、貴方のおかげで道が見えてきた気がする。俺たちは、オステリィアへ向かう前に、近くの村によってみます。人が誰もいないなら通り過ぎるだけですし」
「うん気をつけてね。それよりもう寝てもいいかな、⋯ボク流石に眠たいし」
ジンはムムムが夜行性でない事を知ると共に
ムムムが寝る時は人間のようにベッドで寝るわけでなく身体すっぽり収まる、毛布が詰まった小さな小屋に入っていくのみて静かに微笑んだ
翌朝、森の朝靄が薄く広がる中、一行はムムムの家を後にする準備を整えた。
途中まで見送ってくれるというムムムと一緒に、朝靄の立ち込める森を進むジンたち。ムムムは軽快な足取りで、時折耳をぴょこんと動かしながら道を案内してくれ
「ムムムさん、ここから先は危ないところが多いって聞きましたが、何か気をつけることはありますか?」
ミエラが尋ねると、ムムムは振り返りながら少し真剣な表情で答えた。
「そうだね……この先は森の結界を抜けたら、魔物が出るのは勿論だけど、道に迷わないよう注意してね。君達が結界の力を抜れたのは不思議だけど、もし偶然なら戻ろうしても結界の力でここには戻れないから」
「わかりました。気をつけます」
ジンは素直に頷き、ミエラとアイリーンもそれに倣うように静かに頷いた。
ムムムの話を聞くと、この森にはまだ知らない秘密がたくさん隠されているように感じられた。
やがて、森の霧が薄れ、木々の間からわずかに空が見え始める場所にたどり着いた。ムムムは立ち止まり、振り返る。
「ここまでがボクの案内できる範囲だよ。この先は森を抜ける道が続いてるけど、何があるか分からないから気をつけてね。」
「ありがとう、ムムムさん。ここまで来られたのも、あなたのおかげです。」
ジンが感謝の言葉を述べると、アイリーンも明るい声で続けた。
「そうそう、ムムムちゃんには本当に助けられたわ。次に会うときは、また何かお礼をさせてね。」
ムムムは照れくさそうに耳を動かし、柔らかな声で答えた。
「そんなこと言われると照れるよ。でも、君たちが無事でいられるように祈ってる。それに、また会えたらいいな。」
ミエラが一歩前に出て、ムムムの手を軽く握った。
「本当にありがとう、ムムムさん。また絶対に会いましょう。」
その言葉にムムムは嬉しそうに微笑み、耳をぴょこんと動かすと、軽く手を振って小さな体を森の奥へと戻していった。
ジンたちは森を抜ける道を進みながら、それぞれの胸にムムムの親切と、森の中で得た情報を刻み込んでいた。
次に訪れる村がどのような状況になっているのか、誰も知る由もない。
ジンは刀の柄を握りしめ、周囲を警戒しながら静かに呟く。
「気をつけていこう」
ミエラとアイリーンもその言葉に黙って頷き、一行は前へと足を進めていく。
森の先に広がる謎と試練に向けて。




