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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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別れと上陸

 ジンは船の周囲を取り囲む岩壁を軽やかに登りながら、器用にロープを結び付けていった


 まだ青年になったばかりの優しそうな瞳に精悍な顔つきをしており、目元にかかるほど伸ばされた無造作な黒髪は、荒々しい風に揺れ、彼の鍛え抜かれた肉体を飾るようにまとわりついている。


 ジンが身に纏う服は戦いや過酷な労働で擦り切れたもので、ところどころ肌が露出していたが、その隙間からは引き締まった筋肉が覗いており、彼の生き抜いてきた過去を物語っていた。


 腰に下げられた刀は、一見するとただの古ぼけた武器に見えるが、死の神より生まれた神、永劫のソルメーラの力を宿していた。

 死の神から生まれたというこの神は、ジンにとって守る対象であると同時に殺すべき対象でもあった


「なんでこんなことまで……」


 その声には、自らの役割に対する微かな不満と、どこか諦めを含んだ響きが混ざっていた。それでもジンは作業を止めることなく、黙々と船を安定させるための準備を続けた。


 遠くでは、小船の準備をしている他の船員たちが笑いながら作業を進めている。その光景を横目で見ながら、ジンは一瞬だけ恨めしそうな視線を送った。それでも何も言わずに再び岩壁へと向き直り、己の役目を果たしていた。


 作業を終えたジンが船に降り立つと既に複数の小船に乗り込んでいる船員たちの姿が目についた


 ジンはノストールとの闘いの後、交わした約束を思い出し目的の人物を探すと、目立つ銀髪の為直ぐに見つかった


「ミエラ!」


 ジンが呼びかけるとミエラは直ぐ様にジンの元に駆け寄ってきた


「よかった。ジンの姿、全然見当たらないから小船に乗って先に向かったのかと思った。」


 ジンは息を整えながら、自分に向かって駆け寄るミエラの姿を目に留めた。


 彼女の銀髪が日光を反射して輝き、ジンを見る顔に安堵の表情を浮かべていた


「ごめん、船を固定する作業が終わるまで時間がかかったんだ。」


 ジンは落ち着いた声で優しく答えた。謝罪の色はあれど、どこか距離を保とうとする冷静さが含まれていた。


 ミエラはジンの姿を見上げ、微かに不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫なの?ノストールとの戦いの後、休む暇もなくこんな作業ばかりして……」


 ミエラの言葉には心配の色が濃かったが、ジンは少しだけ肩をすくめると軽く笑った。


「平気さ。こういうのには慣れてる。それに……」


 ジンは腰の刀に手を触れ、少しだけ目を伏せた。


「俺の目的はまだ終わってないから」


 その言葉にミエラから返事が返ってくる事はなかった


 ジンはただ国を追われてアルベストを目指していると、刀は譲り受けた物と話していたが、ミエラは信じていないようだった


 自分の少し抜けている性格やノストールとの闘いや会話から仕方ないとは思っていた。



「ジン……」


 その声に込められた感情は言葉にしがたいものだった。心配、共感、そしてどこか哀れみのような感覚が混ざっていた。


 ジンはミエラの視線から逃げるように一歩前に出た。


「さて、俺たちも行く準備をしよう。知らない土地というか大陸だから何があるか分からない。暗くなる前に何処か休める場所を確保したいからね」


 彼の言葉には少しだけ軽さを装った響きがあったが、その裏に隠された覚悟を、ミエラは感じ取った。


 二人は並んで甲板を進み、他の船員たちが準備する小船の方へと向かった。


 ジンが自分達が乗る船を探していると

 後から声をかけられ振り向くと、其処にはエイランとセスナがいた


「ジン、私は暫くエイランと行動を共にして大陸を探索する予定だ。全ての船員たちを連れていくのはできないからな。船の留守はボルボに任せ少数で動くつもりだ、エイランは何処で知識を得たのか知らないが多少はアルベストの地理に理解があるようだからな」


 ジンはセスナの話を聞き、別れの時が来たことを察していた。


 元々アルベストを目指す為に同行した中だったが予想はしていたが、エイランと共にいくのには少し驚いていた。


 ミエラと行動を共にしていたエイランは自分をグランタリスの貴族とは名乗っていたが、その目的までは話さなかった。


 ジンも似たような物だったから気にはしてなかったがセスナがそれを許した上でアルベストの地を同行するのには少し疑問が残ってはいた


「ミエラ嬢、そういう訳だ。先の闘いで仲間を失って⋯、いやすまない、その何だ、ミエラ嬢のせいではない!とにかくだ私は目的の為にセスナ嬢とお仲間の力を借りることにしたのだ。聞くと想像していた海賊とは違うようだからね」


 ミエラはエイランから仲間の話が出た際に表情を曇らせていたが、直ぐに隠しエイランの話を聞いていた


「それでお前達はどうするんだ? 私達はお前達が望めば共にいく事もできるが」


 セスナの申し出にジンは返答しようとしたがその言葉にはミエラが返していた


「いえ、有難う御座います。でも私はオステリィアを目指すので、目的の場所が一緒なら喜んでお受け出来るんですが⋯私は知ってのとおりノストールに狙われています。皆さん其々目的があるなら別に行ったほうが安全ですから⋯」


 セスナはミエラの言葉に頷きながら、その言葉の裏に隠された覚悟と寂しさを感じ取ったようだった。


 彼女の鋭い視線が一瞬だけミエラに注がれ、次にジンへと移った。


「分かった。それがミエラの意思なら、私はそれを尊重する。ただし、道が重なった時は迷わず声をかけろ。共に神を退けた中だ」


 セスナの声には厳しさと優しさが同時に込められていた。彼女の言葉に、ミエラは感謝の気持ちを込めて深く頷いた。


 エイランはそのやり取りを眺めながら、優しい口調でミエラに声をかけた。


「ミエラ嬢、君は立派だ。私はね君が同行しないと分かっていた。ノストールを退けてからも生き残った船員たちを見る、君の目をみてね。だから少しでも君の悲しい目を失くせるなら、私は仕方ないと、許してほしい君の傷を消すことは出来ないが、私もセスナ嬢と同じ気持ちだ。」


 ミエラはエイランの言葉に小さく微笑んだが、目にはやはり罪悪感が見え隠れしていた。


 それを見たジンは小さく息を吐いて、エイランとセスナに


「あの、いつの間にかミエラだけ誘って断られてる感じになってますが俺もいますからね、、ただ俺はミエラと共にいきます」 


 ジンの言葉に、ミエラは不安と喜びを入り混じった笑顔で応え、そんな二人をみたエイランは少し肩をすくめるように笑い、セスナは興味を示さないように見せつつも、静かに微笑んでいた


 そしてセスナは再びミエラとジンに向き直り、短く言葉を告げた。


「それじゃあ、私達は先に行く。アルベストの地は広い。だが、再び会える日を楽しみにしている。」


 そう言うと、セスナは背を向けて小船へと向かい、エイランもそれに続いた。

 ジンとミエラはその背中をしばらく見つめていた。


 残された甲板で、ミエラが口を開いた。


「ジン、本当にこれで良かったのかな……」


 その声には少しの迷いが混じっていた。


 ジンはミエラの顔を見つめながら静かに答えた。


「元々目的は違ったもの同士だから仕方ないさ、だけども二人は何かあったら助けてくれると言っていた。其処に嘘はないと思う。」


 ジンは腰の刀、ソルメーラに手を触れながら


「それに……俺には守るべきものがある。それが何であろうと、俺はその役目を果たすつもりだ。」


 その言葉にミエラは再び沈黙した、ジンの言葉の奥にある決意の重さを理解しつつ、自分自身の選択に迷いを持たないようにと、そっと自分に言い聞かせるようミエラは


「私も、私の役目を果たすつもり」


 ミエラの言葉に、ジンは目を細めて微かに笑みを浮かべ船の準備を始めようとした矢先、二人を呼ぶ声が聞こえてきた


「ミエラちゃーん! ジンー!」



 声の主が誰か直ぐに分かったジンは振り向くと

 竜族のアイリーンが巨大な弓と共に此方に駆け寄ってきていた


 アイリーンの姿を見たミエラとジンは、驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。療養中で動けないはずのアイリーンが、大きな弓を手にして駆け寄ってくる姿は、誰もが予想していなかったものだった。


「アイリーン!何をしているの?まだ傷が癒えてないはずでしょ!」


 ミエラは焦りながら駆け寄り、止めるように声を上げた。


 しかしアイリーンは、その青い鱗が日差しを受けて輝く中、満面の笑みを浮かべて答えた。


「大丈夫!あたしは竜族よ、普通の人間よりずっと早く回復するんだから!それに……あんたたちを見送るなだけなんて、そんなの耐えられないわ!」


 その言葉には、彼女の仲間を思う強い意志が込められていた。大きな体躯で駆け寄る彼女を見て、ミエラは溜息をつきながらもどこか嬉しそうに呟いた。


「本当に無理してない?』


 アイリーンはミエラの心配を一蹴するように、持ち前の明るい声で笑い飛ばした。


「大丈夫よ!安心してミエラちゃん、傷の痛みなんて気にしてる場合じゃないのよ。アルベストに着いたって聞いて、じっとしていられるわけないじゃない!アタシの故郷なんだから、、」


 彼女の言葉に、ミエラは一瞬だけ厳しい表情を浮かべたが、次の瞬間には微笑みを浮かべて小さく頷いた。


「……わかった。でも、無理は絶対にしないでね。アイリーンがいるだけで、私たちは心強いんだから。」


 その言葉を聞いて、アイリーンの笑顔はさらに明るくなった。


「任せてよ!あたしがいれば、どんな困難だって蹴散らしてやるんだから!」


 そう言うと、アイリーンは手にした巨大な弓を振り回しながら、船の小船の準備をする船員たちの方へと向かった。


「ジンに相談なしに決めちゃたけど良かった?』


 アイリーンの背を呆れたようにみていたジンに不安そうに確認をとるミエラに


「ん? 野営するときには人数がいた方が寝れる時間が多くなるから助かるよきっと」


 と笑顔で返し、ミエラは戸惑い混じった笑みで


「そ、そうだね」


 と返事をした。


 しかしその瞳には、まだ少しだけ不安が残っているようにも見えた。


 ジンはそんな彼女の表情を見つめると微笑み


「大丈夫だよ、ミエラ。アイリーンが加われば、何があっても、切り抜けられるさ。多分」


 その言葉に、ミエラは少しだけ気を取り直したように深く頷いた。


「……ありがとう、ジン」


 その言葉には、ジンへの感謝が滲んでいた。


 アイリーンが船員たちと共に小船の準備を進める中、ジンとミエラも自分たちの荷物をまとめ始めた。風は依然として荒れていたが、太陽は高く昇り、アルベストの未知なる地が近づいてくるのを感じさせた。


 ふと、ジンは腰の刀に目を落とした。その古びた刀――ソルメーラ――が静かに佇む様子に、彼の心は再び揺れた。


「……守るべきもの、か。」


 彼は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。ミエラもアイリーンも気づかないその呟きの中には、これからの旅路への不安と覚悟が入り混じっていた。


 ジンは顔を上げると、強い意志を湛えた目で前方を見据えた。


「さあ、出発しよう。俺たちにはまだやるべきことが山ほどある。」


 その声に、ミエラとアイリーンもそれぞれの決意を胸に秘めて頷き小船に乗り出した。


 こうして、ジンたちは新たなる地での冒険に向け小船を漕ぎ出した。

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