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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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旅の始まり

 外から轟く歓声が聞こえ、ミエラは目を覚ました。腰まで伸びた長い銀髪と、目覚めたばかりとは思えないほど整った顔立ちは、眠りから覚めた今でもその美しさを保っていた。


 ミエラは起き上がりながら、遠くから響く歓声の意味を考え、急いで声の元に向かった。


 今まで自分が寝ていた、海賊船ローグクランク号の従者室は、この海賊船の長セスナのいる船長室の真下にあった。


 セスナが粗暴な輩も多い、他の船員達から遠ざける意味もこめて改良されている一角はミエラにとっても有難いものだった。


 ただ船員室を抜けなければ外に出られない設計は、彼女にとって時折厄介だった。


 他にも出入り口はあるようだったが、何かのミスで見つかると面倒だからと、ミエラはこの出入り口しか教えては貰えなかった。


 ミエラが船員室に入ると其処にセスナの姿はなく、同じく歓声の元に向かったのだと結論づけたミエラは扉を開け、歓声響く甲板へと飛び出した。


 扉の外からは熱気と興奮が一気に押し寄せ、船員たちが一斉に見つめる先にミエラを視線を向けるとその姿が映った。


 遂に辿り着いたのだ、目的である


 呪われた大陸アルベストに


 日の光が薄く照りつくその大地は、不気味でありながらどこか神秘的でもあった。


 海の上で宿敵である、歪みのノストールを退け

 この海賊船に乗ること、2日で辿り着いた事に驚きながらもその光景に息を飲んだミエラに


「ミエラ嬢!」


 周りと同じく興奮した呼びかけにミエラは現実に戻され、振り返ると、ここまで航海を共にした仲間エイランが嬉しそうにミエラに駆け寄ってきた。


 細身の身体に一見すると頼りなさそうに見えるが、纏う雰囲気には何かしらの経験を積んだ男特有の余裕が漂っており30代という年齢に相応しい落ち着きが備わっていた


 顎髭と口髭が顔の輪郭を引き締め、その少し青みがかった癖のある長めの髪が、彼の独特な魅力を際立たせている。


 出会った頃に身に纏っていた高級感ある鎧は先の闘いで駄目になり、今は何処から拝借したのか、海賊達よりは少し上質な服を着込んでおり


 その腰には、誰の目にも一目で特別だとわかる立派なロングソードが下げられていた。その剣の鞘に刻まれた古風な紋章は、彼がただの傭兵ではないことを物語っていた



「ミエラ嬢、私達は辿り着いたのだ!アルベストに」


 エイランの顔は汗に濡れていたが、その瞳には達成感と期待が輝いていた。ミエラもそんな様子に思わず口元を緩め


「本当にここが……呪われた大陸」


 その声にはまだ半信半疑の色が混じっている。それを聞いたエイランは肩をすくめながら笑った。


「まぁ、この船でそれが正しいか分かるものはいないがね⋯だが私の感が指し示しているのだ! ここがアルベストだとね!」


 そう話すエイランにミエラも不思議と、ここがアルベストだと感じていた。幼き頃自分が生まれた大陸だと


「セスナ船長にも感謝しないと」


 そう呟いた矢先、ミエラたちの背後から透き通った声が響いてきた。


「構わん、お前達やあいつに出会わなければ、訪れる事なく命を枯らしていたかも知れんからな」


 振り返ると、そこにはセスナが立っていた。

 茶色の髪を長く伸ばし、切れ目と透き通った鼻スジが美しさを表していた。


 20代くらいの若さでこの船を纏めあげた

 女性海賊は男性の中での力の現れか、その装いは、戦いと航海の両方に適した実用的なものでありながら、彼女の美しさを際立たせるものだった。


 長身で黒いチューブトップに包まれた引き締まった身体と、腰に吊るした二本のサーベル。それだけで彼女がただの船長ではなく、戦士であることを物語っていた


 セスナは腰のサーベルの鞘を軽く叩きながら、船員たちに鋭い声を投げかけた。


「準備を怠るな。その一瞬が命取りになる。」


 その仕草ひとつで、彼女の言葉に宿る真実味を感じ取らせる力があった。


 慌てて作業する海賊達に続けるようセスナは甲板を見渡しながら、士気を一気に引き上げるような声で話し始めた。


「お前たち、これから先、何が起こるかは分からない。掴むべきものを掴み、この呪われた地を越えて新たな伝説を作る。それがローグクランク号の船員だ!」


 彼女の声が響き渡ると、船員たちは歓声を上げ、甲板全体が活気に満ちた。



 自分もいつか、あんな風に強くなれるだろうか――そんな疑念が胸を掠めたが、すぐに打ち消し


 ミエラはその場の騒ぎからは離れ船内で療養している友の元へと向かっていた



 アイリーンはミエラと同じ船室を希望したが、船長室の隠し通路を通れなかった為、船内の簡易的な医療室を部屋としてあてがわれていた。


 ノストールとの闘いでの傷も通常の人間が回復するより早いペースで治ってはいたがそれでもまだ療養を余儀なくされていた。


 ミエラは急ぎ医療室の扉を開けると自身の友は嬉しそうにミエラを迎え入れてくれた


「ミエラちゃーん!凄い騒ぎみたいだけど何があったの?」


 人ではなく竜族の彼女は青い鱗に覆われた肌を持ち、ドラゴンの顔に牙を見せた笑顔をミエラに向けていたがその顔はどこか疲れているようだった。


 アイリーンの大きな身体はベッドの上に収まらず

 身体を猫のように丸めながら床で療養していた。


 部屋の中は、その青い鱗が光石の明かりに反射して、部屋の中を淡い青色に染めあげており


 ミエラはその姿を見て安心しながらも、少し笑みを浮かべて答えた。


「遂に辿り着いたの。呪われた大陸、アルベストに。船全体が興奮に包まれているけれど、アイリーンがいたらもっと賑やかになったね」


 アイリーンは嬉しそうに目を輝かせ、床から顔を上げながらミエラに


「本当に? やだ、あたしも見たかったなぁ。でもまぁ、仕方ないわね、怪我がこんなじゃ無理できないし。ノストールとの戦いの後遺症がなければ、絶対に甲板に出て盛り上がったのに!」


 そう言いながらも、アイリーンの声には希望と高揚感が混じっていた。彼女のそばにいると、ミエラは自然と安心感を覚える。アイリーンの陽気さと力強さは、これまでの旅の中で幾度となくミエラを支えてくれたからだ。


「今は無理をしないで。アルベストに着いたらまた元気に動けるよう、今はしっかり休んでね」


 ミエラの言葉に、アイリーンは笑顔で頷いた。彼女の手はドラゴンの鋭い爪がついていたが、その仕草はどこか人間的で、優しさが滲み出ていた。


「そうね、そうしましょ。でも、ミエラちゃん、これだけは言わせてね。」


 アイリーンは少し真剣な顔で言葉を続けた。


「どんなに大変なことが待ち受けてても、私たちは絶対に一緒よ。私がいる限り、ミエラちゃんを一人になんてさせないから!」


 その言葉にミエラは胸が熱くなった。アルベストの不安と期待が入り混じる中で、彼女にとって仲間の存在は何よりも心強いものだった。頷きながら、ミエラはアイリーンの手を軽く握り返した。


「ありがとう、アイリーン」


 その瞬間、部屋の外から再び歓声が響いてきた。

 それはセスナの命令で再び航海準備が始まった合図だった。ミエラはアイリーンのベッドを整え、再び冒険へと向かう心構えを整えた。



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