表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリマステラの魔女  作者: 霜月アズサ
4.???の??の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/62

第47話『流れ星をも掴む盗っ人』

 私たちに襲いかかる人形の軍団の上で、三叉槍を掲げたメルティークが呪文らしき言葉を唱えた。


「《ロゼアト・ル・トーヴツェルフォ》!」


 するとそれに被せるように、フェリックさんも呪文を口にする。


「《レリルべ・リアフェト・クスウェベジ》」


 瞬間、三叉槍の先端から放たれた紫黒の鈍い光と、ネックレスの先端から放たれた青紫の淡い光が、中空でぶつかり合って火花を散らす。威力はフェリックさんがやや優勢。押し負けたメルティークは、弾かれながら宙返りを打った。


 一撃目を退けたフェリックさん。そこに、メルティークと揃いの槍を持った人形が肉薄する。が、槍を突き出そうとしたそのとき、人形が進行方向に転倒。太腿まで翻ったドレスから、長靴のように足にまとわりつく鉱物が見えた。

 続けて2体目、3体目と人形が迫る。しかし腕の関節や三叉を鉱物に固められ、突きの動作が出来なかったり、重さに耐えかねて槍を落としたりして、どの攻撃もフェリックさんには届かなかった。


 その間、私は茫然(ぼうぜん)としていて動かないリッカを、抱き上げようとしていた。

 リッカは男性だしおそらく年上だけど、華奢な見た目をしているから、ヴァンデロさんの筋トレメニューをこなしている最近の私なら、持ち上げられるんじゃないかと思ったのだ。


 けれど、


「エッ……」


 意外と鍛えているのか、立派な作りの騎士服が重たいのか、見た目以上に身体が重くて持ち上がらない。

 私がひそかに焦っていると、リッカの身体がほのかな光を帯びる。直後、嘘みたいに簡単に持ち上がった。


「うわっ!?」


「一旦逃げるよ、ステラちゃん」


 フェリックさんは召喚した箒に横から座り、隣にまたがるよう視線で示してきた。慌ててリッカごと飛び乗ると、箒はふわりと上昇し、展示場の奥に続く道を急発進。身体の前側にぐんと圧力がかかって、転がり落ちそうになった。


「……っ」


 人形の部屋を振り返る。人形たちは、フェリックさんに無力化された仲間たちを置き去りにし、押し寄せる波のように、集団でうごめきながら追いかけてきていた。頭上には黒い羽を羽ばたかせるメルティークの姿もある。

 箒を飛ばしているおかげで、まだ私たちの距離は詰まっていない。けど、この先は行き止まりだ。彼女たちとはいずれ面と向かって戦うことになるだろう。


 というか、それも気掛かりだけど――


「サイカ……あの部屋にいませんでしたね。ヴァンデロさんたちと同じように、どこかに飛ばされたんでしょうか……」


「……かもしれないね。楽屋で見たときは、歳の割に戦えそうな子だと思ったし、メルティークちゃん相手でも十分勝算がある気がしたんだけど……向こうも、それなりに対策してきてるのかもしれない」


「どうしましょう? メルティークと戦う前に、サイカたちの居場所を聞き出したほうがいいでしょうか」


「いや。たぶん、彼女からは聞けないと思う。ひとまず行き止まりにぶつかるまで、向こうの数を減らそう。攻撃はステラちゃんに任せていい? その間、リッカくんは僕が支えておくから」


「ええっ! ……は、はい。頑張ります」


 私は『星の杖』を握りしめ、もう1度追っ手を振り返った。


 これまでビームしか撃てなかった私だけど、火の国で化け猫、海の国で魔獣と戦ってわかったことがある――ビーム1本は、めちゃくちゃ戦いづらい!

 そこで最近、任務や作業の合間を縫って、シエルシータから新技を教わってたんだけど――予想より早く、成果を発揮するときが来たみたいだ。


 私は限界まで腰を捻りながら、杖を持った腕を伸ばして、先端の宝石を人形たちに向けた。ひし形の宝石が、煌々(こうこう)と青白く輝く。深呼吸。


「《プリマステラ》――」


 私は目をすがめて、小さな玉を思い浮かべる。それに呼応するように光が収束し、親指と人差し指で輪っかを作ったくらいの、光の玉が杖の先に現れた。続けて、アクシオくんにもらった呪文を唱える。


「《インヴィクタム》!」


 すると、キュインと甲高い音を立てて玉が発射された。玉は私の想定と異なる強いカーブを描き、人形たちを無視して天井に突き刺さる。


「あっ……」


 失敗した。そんな気はしてたけど。練習のときも1回も当たらなくて、シエルシータに慰められたんだよな。

 っていうか、今回は自分も標的も動いてるんだから、練習のときより難しいじゃん。当たらなくて当たり前だ。


 とはいえ、向こうは数が多い。精度が悪くても、数を打てば1発くらいは当たるだろう。

 ビームと違って、今回の新技――シエルシータからは『1発しか撃てない(マスケット)』と呼ばれている――は、少量の負担しかかからないし、チャレンジあるのみだ。


 私はめげずに挑戦し、通算3発目を外した。そのときだった。


「《ロゼアト・ル・トーヴツェルフォ》!」


 私たちと同じ速度で飛行し、距離を詰められずにいたメルティークが詠唱。持っていた三叉槍を、自身の前方に投げて突き立てた。


「……?」


 気のせいだろうか。槍が刺さった場所を中心に、床が波紋を広げたように見えた。その直後。私が視界端で捉えた壁画から、空間をつんざくような白い光が飛んでくる。


「――ッ!?」


 あまりの眩しさに目がくらみ、一瞬で視界が真っ暗になった。が、フェリックさんの詠唱と共に回復。私はおそるおそる顔を上げ、広がっていた光景に言葉を失った。

 嵐の夜の船を描いた壁画から水が溢れ出し、銅で作られた騎馬兵が手綱を引き、骨だけの竜が飛翔して火炎を吐いてきたのだ。


「フェ……フェリックさん……!」


「ごめん、ちょっと荒い運転になるかも……! 舌を噛まないように、歯を食いしばって!」


「歯……ウワァッ!?」


 それまで安定していた箒が、がくんと高度を下げる。頭上を剥製の大鷲が掠めたと思えば、真横から吹雪が吹きつけて睫毛が凍った。間髪をいれず、精微な模様が彫られたカトラリーが、四方八方から飛んでくる。


「……ッ、《レリルべ・リアフェト・クスウェベジ》……っ!」


 フェリックさんが詠唱すると、私たちを包むように半透明の結界が現れる。しかし、カトラリーが立て続けに突き刺さると、最後の攻撃と共に結界が割れ、粉々に砕け落ちていった。


「フェリックさん、右っ……左に避けて! 次はひだ、じゃない右! 次も右です! ウワァァーーーーッ下ーーーーッ!!」


 火矢が、万年筆が、カラスが飛んできて、間一髪すり抜けていく。私の背後、つまり箒の正面でも次々に襲撃が起きているようで、箒は落ち着きなく上下左右に揺れた。

 これだけ騒ぐと流石にうるさいのか、箒の真ん中に座っていたリッカが頭をもたげた。


「あ……すみません、オレ……何を……」


「人形の部屋で、展示品が突然君のもとに集まって、君は少し取り乱してたんだ。そのあと僕らはメルティークちゃんに会って、今は逃げながら敵を減らす……つもりだったんだけど。今や、全ての部屋が戦場だよ」


 フェリックさんが、正面を向いたまま答える。リッカは周囲を見回して絶句した。


「す、すみません! 肝心なときにオレ……」


「気を病まないで。後でゆっくり事情を聞くよ。けど、その前に……リッカくん、箒は操縦できる? そろそろ反撃といきたいんだけど、箒を飛ばしながらだと難しくてさ」


「で、出来ます……! え、フェリックさんの箒、そのまま使っていいんすか?」


「いいよ。準備ができたら合図をして。僕の魔力を引っ込めるから」


「……っ」


 リッカは自身の両脇、わずかに覗いた箒を指でぐっと摘んだ。


「……いけます!」


「よし、任せたよ」


「……うわ重っ」


 一瞬急速に落下するも、慌てて箒が持ち直す。すると、フェリックさんは箒を握った片手を鉱石で固め、飛び降りて、箒から垂れ下がった。リッカの開けた視界の下、フェリックさんはネックレスを口元に寄せる。


「《レリルべ・リアフェト・クスウェベジ》」


 刹那、やじりのように尖った鉱物が8つ、フェリックさんの周りに顕現(けんげん)。風を切って放たれたそれらは、内3つがメルティークによって弾かれたが、骨の竜を穿ち、剥製の大鷲を穿ち、人形3体の頭部を打ち砕いた。


「す、すご……っ!?」


 ここまで的中していない私は、フェリックさんの射撃精度に感動しつつ、焦りを覚えて再度マスケットに挑戦する。と、


「ステラちゃんのそれは、超高温を球体状に押し込めて操る魔法かな? それなら、人形1体を狙うよりも、足元の絨毯に向けて撃ったほうがいいかも。引火を狙ったほうが、確実に人形を壊せそうだ」


「えっ……でも、それだといつかミュージアム全体に引火して……」


「大丈夫。別の部屋では洪水も吹雪も起きてるからね。そうすぐには燃え広がらないよ」


「た、確かに……?」


 壁画から溢れ出した海水や、吹雪のことを思い出し、説得された私は杖を握りしめる。そして、眼下に広がる絨毯に向けて構えた。が、


「させると思った?」


 メルティークの言葉を合図に、人形たちが一斉に三叉槍を投擲(とうてき)。すぐさまフェリックさんが詠唱し、結界を犠牲に私たちは守られた――はずだった。


「――ッ!?」


 腕に熱が走る。視界端で血が噴き上がる。頭が真っ白になった。無心で熱源に目を向けると、私の二の腕に等間隔の穴が3つ空いていた。そして、そこから噴き出した血を浴びて、姿を隠していた三叉槍(それ)が輪郭を露わにした。


 目を見張る。直後、肩から指先にかけて痺れるような痛みが走って――私は、『星の杖』を取り落としてしまった。


「……ぁ」


 我ながら情けない声だった。私は一瞬痛みも忘れて、落ちていく杖に夢中で手を伸ばした。


 あれがないと、私は戦えないどころか『プリマステラ』だと認めてもらうことも出来ない。私には絶対に、あれがなきゃいけないんだ。

 念じる心もむなしく、杖は私の指をすり抜けていき、急行する箒からぐんぐん遠ざかる。


 ――奪われる。


 メルティークの目が杖を捉え、三日月のように口端を持ち上げたとき、私はそう直感した。ところが。


「不用心なプリマステラ! いいの? こんなに大事なものを……」


 黒い羽を羽ばたかせ、人形の軍団の先頭に躍り出たメルティークが、床に落ちた『星の杖』を拾い上げたその瞬間。強い磁力でも帯びたかのように、『星の杖』が私に向かって飛んできた。


「は、えっ、ウワッ!?」


 片や血みどろの手で、反射的にキャッチする。私も、メルティークも、何が起きたかわかっていなかった。少しの間呆然としていたけど、すぐに『星の杖』がした謎の挙動に思い当たって、私はリッカを振り返る。


 リッカは、私の手元の杖を見ながら、若草の目を見開いて、肩で息をしていた。


「せ……成功した……」


「い……今のはなんなんですか? リッカさんの魔法ですか……?」


「た、多分……? はい……」


 釈然(しゃくぜん)としないリッカは口をつぐみ、意を決したように口を開いた。


「オレは、あの子が言った通り……『欲の魔法使い』です。――所有権が他の人にあって、オレが欲しいと思ったものを、無意識に引き寄せます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ