因縁の再会〜Confrontation〜
因縁の再会〜Confrontation〜
シュンさんのお兄さん・ダイゴさんが元浄化師。
最初は驚いたが小型拳銃の腕は嘘をついていない。
悪霊を見つめる眼差しは、シュンさんと同じ。獲物を狩る時の獣の目だ。
私はシュンさんが迎えに来るまで、カフェクロンカで休ませてもらえることになった。
午後二十二時。カミネ地区。カフェクロンカ店内。
ダイゴの出してくれたコーヒーをスセリは静かに飲んだ。スセリはダイゴが元浄化師であることをダイゴの口から聞いた。それを聞いてあの腕前に納得がいったのだ。
「元浄化師ってことは、悪霊の姿が見えるんですか?」
「勿論。浄化師を引退しても一度身についたものはなかなか落ちないからね。ただ、俺はスセリちゃんと違ってツキヨミじゃないから昼間は勿論見えないよ」
ダイゴはそう言って笑った。
ダイゴが浄化師を引退した要因でもある肩の大怪我をスセリは心配したが、あの怪我からだいぶ時間が経過している。ライフルは扱えないが、小型拳銃くらいならば扱えるとダイゴは話す。
「じゃあシュンさんの兄さんなら大丈夫、って言葉は・・・」
「多分、俺が元浄化師だから底辺悪霊くらいだったら対処できるって思ってるんだと思うよ。実際は武器がないとどうにもできないけどね。今回はスセリちゃんの武器があったから応戦できるけど」
ダイゴは自分のコーヒーを持ってスセリの隣へ座った。
ダイゴはシュンのことを話す時はとても心配そうな表情になっていた。
「俺たちの両親共々早くに亡くしてて、シュンにとっても俺にとっても肉親は兄弟だけだからね。俺はシュンに俺のような思いをして欲しくなくて浄化師になるな、って言ったんだけど」
「浄化師になるな、ですか?」
「でもシュンはその言葉を一切聞かなかった。嬉しいことに最初は俺への憧れから浄化師になりたいって言ってたんだけど、いつの間にか、俺を怪我させた奴に復讐するために浄化師になるって言っていた時はショックだったよ」
ダイゴは少し落ち込んだ表情で笑って見せた。その横顔がスセリには悲しそうで寂しそうにも見えた。
スセリはまるでシュンがかつての自分と同じように見えて仕方ない。
「きっとまだシュンは憎しみを抱えている。俺が植え付けたようなものだよ。さっき、小型拳銃を撃った姿を見たら、シュンは怒るかもね」
「怒る?」
スセリが聞くとダイゴは頷いた。
ダイゴが浄化師を引退する原因となった肩の大怪我。当時ライフルを使用していた
ダイゴにとってみれば負担がかなり高い。大怪我は全快したものの、当時の手術痕が数年経過した現在もダイゴの肩に異様な存在感を出し続けている。
ダイゴは肩を露わにしてスセリに見せた。その傷はスセリから見ても無残なものだった。
「そんな状態で拳銃なんか撃って・・・大丈夫なんですか?」
「大丈夫。小型拳銃にはトリガーがかかってるからね。小型拳銃くらいだったら影響はないんだ」
ダイゴがそう言ってコーヒーを飲んだ。
スセリには聞き馴染みのない単語が出てきた。「トリガー」。何かを指す単語であることは分かるが、恐らく引き金のことを指す言葉ではないだろう。スセリの勝手な予想だ。
スセリは「トリガー」の意味を聞いてみた。
するとダイゴはスセリから小型拳銃を借りて指を指す。
「トリガーの正式名称は『衝撃解除装置』。小型拳銃を撃つ時に発生する衝撃を最小限にする、浄化師専用武器だけにある装置だよ」
ダイゴは小型拳銃に指を滑らせて、鳥の銀細工を指差した。
「これがトリガー? なんか想像と違う・・・」
「浄化師が使う武器は普通の武器と違って装飾が美しいことでも有名だよ。高価なものなら、美術品レベルの装飾がつくものだってある。相手に悟られないようにという名目でトリガーは装飾に混じらせて作らせることが多いんだ」
ダイゴがそう言って小型拳銃を手に取り、持ち手の鳥の装飾を軽く押した。すると浮き出ていた鳥の銀細工が凹み、平面に埋め込まれた。
今ダイゴが行ったのが、トリガー解除である。
「トリガーを解除したらどれくらいの衝撃が来るんですか?」
「ヨシキくんが使っている、拳銃と同じ衝撃が来るよ。衝撃解除装置は小型拳銃にしか搭載されていないものだ。最小限に衝撃が抑えることができるから、新人が使用必須になっているんだよ」
スセリは以前ヨシキからこんなことを聞いたことがある。小型拳銃はあくまで武器に慣れるためのものである。大体の人はそこから拳銃や他の武器へ転向するのが一般的なのだ。
小型拳銃を好んでベテランになっても使用する人はごく稀だということ。
スセリはそんなことを考えながらトリガーをもう一度押して、装置を有効に作動させた。
「私はまだこのトリガーを外す勇気がありません。現状維持は退化の兆しとよく言いますが、私は・・・」
スセリがそう言うと、ダイゴはスセリの頭にポンと手を乗せた。
「大丈夫。スセリちゃんのペースで言いんだ」
スセリの顔がほのかに赤く、熱くなったのは気のせいではなかった。
午後二十三時。
カフェクロンカの扉が開いた。その音に反応してスセリとダイゴが見ると、そこにシュンが立っていた。
「シュンさん」
「阿部。無事か・・・?」
「ご迷惑おかけしてすいませんでした」
スセリが頭をさげると気にするな、とシュンは言った。シュンはスセリに車に先に乗り込んで待っていろ、と指示を出した。
スセリは少し疑念を抱くも、シュンには逆らわず素直にシュンの指示に従って立ち上がった。スセリはダイゴにお世話になりました、と頭を下げた。
ダイゴはまた遊びにおいで、といつもの笑顔をスセリに向けていた。ダイゴに見送られ、スセリは一人で店の外へ出て車の後部座席に座った。
店の中には二人きりになったが、口火を切ったのがシュンだった。
「兄さん。悪霊撃っただろ?」
「え?」
ダイゴは驚いた。ダイゴが撃ったことを知っているのはスセリただ一人だ。現場にいなかったシュンがわかるはずのないものだ。ではスセリがシュンに情報をもたらしたのか。その可能性も低かった。スセリがシュンに話す隙などほとんどないのだ。
「どうしてそう言い切れる?」
「店の外の地面に弾丸が食い込んでいた。阿部はトリガーを作動させていない。阿部が撃つと至近距離でない限り地面に食い込むほどの威力はない。だけど、食い込み方がかなり深い。これは拳銃でもない限りここまで食い込まない。トリガーを解除して撃ったんだろう?」
シュンがそう言った。
それを聞いたダイゴは静かに笑った。それを見たシュンはその推理が正解であることを悟る。するとシュンは怒りに身を任せ、ダイゴの胸ぐらを掴んだ。シュンはダイゴに怒りをぶつける。
「そんなことしたらまた治った怪我が悪化するだろう?! どうして、そんなことをするんだ?!」
感情に身を任せているシュンとは正反対にダイゴは動じなかった。ただいつもの優しいダイゴの表情で、しかし、口ぶりはダイゴとは正反対の冷血漢な言葉が出てきた。
「どうしようと俺の勝手だ。それにお前は今、憎しみに取り憑かれている。俺は言ったはずだ。そんな感情を持つくらいだったら浄化師になるな、と。浄化師は憎しみを持てば、悪霊に対する考え方は野蛮になる。もはや悪霊を殺す、殺人鬼と変わりない。そんな奴に俺のライフルを使う資格なんざ、ねえよ」
口ぶりがシュンの使う口ぶりへ若干の変化を見せる。
それを聞いたシュンは頭から冷水を被ったかのように、冷静さを取り戻し始める。
ダイゴの言葉は一言一句間違っていない。
シュンには背中に背負ったライフルがとても重く感じた。
すると次の瞬間、シュンの背中にゾクッと痛烈な悪寒が走り抜けた。その悪寒はシュンだけではなく、目の前にいるダイゴも感じた。二人は店の外へ何も言わずに飛び出した。
周囲は暗く、深夜に近い時間帯のため人はほとんどいない。
「・・・誰だ」
シュンはライフルを構えて、警戒している。するとキラリと光るものが見えた。それをいち早く見つけたのはダイゴだった。
「危ない!」
シュンの上に覆い被さったダイゴの近くを光の一閃が走る。それは壁にぶつかった。よく見るとそれは弾丸だった。
「兄さん!」
「大丈夫だ」
「奴だ! 兄さん! 阿部を頼む!」
「待て! シュン!」
シュンはライフルを構え、腰ベルトに付けたライトをつけて狙撃された方へ走り出した。ダイゴの制止を無視して不乱に走り出す。
確実にシュンのことを狙っていることを察したシュンは、狙撃してきたのは闇の浄化師であると確信があった。シュンは走って狙撃されたポイントへやってくる。
本物の拳銃に対抗は難しいため、ライフルを構える。
「おい! 八十川! 出てこい! お前の狙いは俺だろ?!」
シュンはライフルを構え、周囲を見渡して叫んだ。
シュンは何かの気配を感じて一瞬で伏せた、その瞬間に弾丸が通過する。シュンはすぐさまライフルを構え、ためらうことなく撃った。すると物陰から人が現れた。
「八十川・・・!」
シュンが立ち上がると、エイタはニヤリと笑った。まるでこの状況を楽しんでいるかのようにも見えた。
「なーんだ。スセリちゃんじゃないじゃん。お前、誰?」
「ヤタガラスの鳴海シュンだ。お前が妨害して大怪我をした鳴海ダイゴの弟だ!」
シュンは顔を歪ませた。そしてライフルを構えた。それを聞いたエイタはえーっと、と思い出す仕草を見せる。しかしその軽い態度にダイゴの記憶がそれほど記憶に残っていないということに絶望した。
「ごめーん。やっぱ覚えてないや」
エイタは笑った。それを聞いた瞬間にシュンの中にある怒りの糸がプツリと切れた。シュンは躊躇なくエイタに向かって引き金を引いた。
弾丸はエイタの腕をかすった。
「お前の目的はなんだ?! どうして浄化師を狙う?!」
シュンの問いかけにエイタは静かに笑った。月明かりに照らされたエイタの狂気に満ちた表情は恍惚としていて、寒気さを感じるほどの気持ち悪さを覚えた。
「生きててなーんにもいいことなかった。つまんねえんだよ、この世界。そんな時、浄化師たちを見た。悪霊が出始めてから浄化師は英雄扱い。あんなにちやほやされて・・・、ムカつくんだよ。そんな時、悪霊が囁いたんだよ。『浄化師を殺してしまいなさい』と」
まるでエイタの醜い妄想にも見えるが、妙に現実味のある話にも感じてしまう。
シュンはエイタの出す悪意に呑まれまいと身構えた。
「浄化師を殺して殺して殺しまくったら、今までの迷いも怒りも吹っ切れた。俺は、だから浄化師を殺すんだよ。俺が一番殺したいのは、おたくの可愛い可愛い阿部スセリちゃんだけどね」
エイタは拳銃を顔に寄せてスセリの顔を思い浮かべて、恍惚な表情を浮かべた。まるで片想いをしているかのようにも見えるが、考え方を変えれば重度のストーカーにも見える。
「阿部を殺す? 阿部には一切手出しするな。その前に、俺がお前を捕まえて警察に突き出す。兄さんの復讐がここでできるとは夢にも思わなかったぜ」
シュンはそう言ってライフルを構え、エイタを狙った。
目の前にいるのはダイゴの仇だ。シュンは殺す勢いでエイタに宣戦布告した。エイタはその宣戦布告を受けた。シュンの発砲をきっかけに銃撃戦が始まった。
真っ暗闇の中で発砲音が何回も発生する。その音は離れたところにいるダイゴのところにも聞こえてきた。
ダイゴはスセリの乗っている車の前で立っていた。
発砲音を聞いてから気が気ではなかったのだ。
「シュン・・・」
ダイゴの心配をよそにシュンはほぼ丸腰状態でエイタに挑んでいる。シュンは完全に冷静さを失っている。
目の前にいるエイタを戦闘不能にしようともがく。
ところが、ライフルの弾丸が切れてシュンは本格的に焦る。補充用の弾丸も尽きてシュンは対抗手段を失った。
シュンが動き出そうとした次の瞬間だった。
「っ?!」
シュンが痛みに歪む表情をする。シュンの左腕から血がだらだらと流れていた。視線の先には血に濡れた弾丸。撃たれたと自覚し始める。シュンは銃槍部分を抑えた。
「もうおしまい? ヤタガラスのスナイパーも大したことないね。ゴミ以下だ。せいぜい這いつくばってな。お前の・・・哀れな兄貴のように・・・」
それを聞いたシュンの中にある怒りの炎が燃え上がった。最初はダイゴのことすら覚えていないと言っていたが、その口ぶりからダイゴのことを認識している。
「八十川! 待て!」
「うるせえな!」
エイタは動けないシュンをなぎ倒してシュンの体を乱暴に踏みつけた。シュンは残り少ない体力でエイタを睨む。
「お前に俺は殺せない」
エイタはそう言ってニヤリと笑い、闇の中に消えていった。シュンは地面を拳でたたきつけた。
時間は深夜。怪我をしたせいでシュンもだいぶ体力を消費して動けないほどになっていた。薄れゆく意識の中でシュンは呟いた。
「兄さん・・・、ごめん・・・」
シュンはそう言って意識を手放したのだった。




