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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
闇の浄化師からの挑発編
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ダイヤモンドの原石〜Feeling frustrated〜

ダイヤモンドの原石〜Feeling frustrated〜



 私は入院していて意識不明だったからその時、ヤタガラスがどんなことをしていて何を考えていたのかは分からない。

 でもかつてない危機に陥っていたには違いない。

 それ以上に私の今後に関する話があったことは驚きしかない。

 ダイヤモンドの原石のような可能性を秘めていた私の、輝きを一瞬で曇らせる心配事が浮上したのだとか。



 午後十四時。チュウオウ地区。草薙館。作戦準備室。

 救急病院から帰ってきたコノハとシュンとヨシキは作戦準備室へやってきた。そこにはヤタガラス関係者が一同に会している。ヤタガラス所属浄化師であるヨシキ、サトミ、シュン、ミホ。所属研究者のアズミと研究者見習いのタイコウ。そして悪霊対策部のコウシロウ。

 ヤタガラスのかかりつけ医である岩永兄妹も参加していた。

 そして岩永兄妹によって怪我の治療を進めていたヒジリが回復してきており、ヒジリ立っての希望で岩永兄妹に支えられながら草薙館へ無事帰還した。

 ヒジリの登場に誰もが驚いた。ヒジリは笑っていた。

 怪我の度合いで言えば金山さんは嬢ちゃんより軽いから回復が早いんだよ、とゴウは行った。全員揃ったため、今回の一連の事件による報告が行われた。

「まずは心配させてすまなかった。残念ながら岩永のドクターストップが出ている関係でしばらく現場からは離れてしまうが、業務に支障はない」

「念のためにです。金山さんのことだ。ドクターストップを出さないと最悪現場に行くかもしれないからな。これはほんの妥協だ、妥協」

 ゴウの言葉にヒジリは少し笑いながら、怪我をした肩に触れた。

 早速報告を始めることになった。最初は事件に巻き込まれた被害者でもあるヒジリから当時の詳細が伝えられた。

「以前シンゴウ地区にて誰かに見られているかのようだったと報告を受けて、俺と阿部のペアでシンゴウ地区へ向かった。最初は何事もなかったんだが、突如として狙撃され俺と阿部は物陰に隠れた。阿部が動いた瞬間に狙われ、俺が撃たれた。確実に相手は無傷の阿部を狙う。そう考えた俺は今すぐ阿部に逃げるように伝えた。俺は物陰に隠れて止血をして助けが来るのを待った。数時間後に警察が来て保護されて、岩永のところに運ばれたって感じだ」

 ヒジリは報告を終えると、自分の判断で逃したスセリがヒジリ以上の重傷を負ったことに心を痛めていると言った。スセリの状態を聞いたのは処置を終えて意識がはっきりして判断が正常な時に聞いたのだという。

「そういうお前の体は大丈夫なのかよ」

「大丈夫。そうだろ? 岩永」

 コウシロウが聞いたことにヒジリはゴウに話を振る。ゴウは少し部が悪そうに頭を掻く。そしてゴウが記録したヒジリのカルテを取り出した。

「大きな怪我としては肩。弾丸は貫通。大量出血が予想されたが、金山さんは患部をきつく縛って止血し最小限に抑えた。おかげで輸血しなくても処置ができた。ただ弾丸は貫通していて完全に傷が塞がって腕の動きに支障がないと判断できるまで、現場へ行くことは控えるように金山さんには伝えている」

 ゴウはそう言ってカルテを置いた。

 とりあえずヒジリが無事でなによりだと言った。いい年したおっさんがそんなことするなってーの、とゴウが嫌みを言うとヒジリはお前の言う通りだと笑った。

 そしてスセリが入院している救急病院で主治医に病状などを聞いたコノハがスセリの現状を報告する。

「では阿部さんの状態について」

 コウシロウに言われてコノハが発言をする。

「阿部さんの主治医によれば、怪我は腕に弾丸をかすったためにできたと思われる傷と軽い火傷。そして一番大きいのは金山さんと同様に肩を撃たれたことによる怪我です。弾丸は貫通し、貫通した弾丸は犯人特定のために警察が押収しているとのことです。かなりの出血量で私たちのところまで保たないという警察の判断で近場で受け入れを応じてくれたハトガヤ地区の救急病院へ搬送になりました」

 コノハは主治医からもらったカルテのコピー、そして一枚の写真を取り出した。

「とりあえず怪我の処置は終わりましたが、意識不明のまま集中治療室に入り懸命な治療活動が行われています。意識が回復すればこちらに連絡が入るのですがまだ連絡がないのでまだ意識不明のままです」

 全員の顔は深刻な表情になり俯いた。するとヒジリはコノハに聞いた。

「話を聞けば出血がひどくて意識が戻らないということになるが、他に何かあるかい?」

 ヒジリを見てコノハは出血だけが意識不明の原因ではない、と伝えた。コノハは持っていた一枚の写真を机の上に置いて全員がそれを覗き込んだ。すると全員の表情が歪んだ。

「なんやねん、これ・・・」

 ミホが思わず言葉が漏れた。全員が言葉を失うほどの写真。それはスセリの首にできた痣。しかし全員が絶句した要因はその痣の形だ。その形は人の手の形だった。しかも子供の手のような甘いものではなかった。

 大きな大人の手の形がスセリの首に痣としてはっきり刻まれてしまっていた。

「これは治療後に看護師さんが撮影してくれたものです。阿部さんの首に両手で締めたであろう人の手の痣が浮かんでいました。痣の度合いからかなり強い力で締められたようです。怪我をしていて極限状態の中、体内の酸素が極端に減ったことが意識消失の一因ではないかと」

 ヨシキが机を思いっきり叩いた。

「許せない! 阿部をこんな目に遭わせるなんて!」

「熱田。お前の怒りは今この場にいる全員の総意だ。おそらく写真の手は俺を狙撃して、世間を騒がせている浄化師連続傷害事件の犯人だろう。もしかしたら阿部は犯人を見ているかもしれないな」

 サトミは確かにそうかもしれませんね、と言った。しかし、スセリの意識が回復しない限りスセリの口から聞き出すことはできない。

 ミホはコノハに聞いた。

「コノハ先生。スセリちゃんはいつ目覚めるん? 大丈夫・・・なんやろ?」

「とりあえず命に別状はないわ。ただいつ目覚めるかは分かりません。現在点滴による薬剤投与と酸素吸入を常時実施している状態です。主治医の先生からは人は極限状態になるとさらに強い力を発揮することができる。俗に言う火事場の馬鹿力を一気に発揮して怪我を中でさらに体に負担をかけてしまったこともあり、まずは休養をしっかりとれば意識回復の兆しは見えるとのことです」

 コノハからの報告は終わった。

 スセリの状態は予想以上に悪かったことに全員が驚きとスセリをこのような状態にするまで追い込んだまだ見ぬ犯人に憎悪を燃やしていた。

 ヒジリがコウシロウに警察から何か連絡は来ていないか、と聞いた。

「阿部さんの首にできた絞められた手の痣は警察の方でも犯人につながる証拠として今科学的捜査を進めているそうだ」

 ヒジリはそうか、と言った。

 するとアズミがスセリのツキヨミに関する懸念点があると指摘した。ヒジリはどういうことか、と聞くとアズミは説明し始めた。

「過去の研究結果で病気や事故などで大量の血が失われた場合、ツキヨミの力が弱まるもしくは消滅することがあると証明されているんです。今回、阿部さんは大量出血を伴う大怪我を負った。ツキヨミの力に何かしら影響が現れるかもしれません」

 アズミの言葉にタイコウが反応する。

「じゃあもしツキヨミの力を失えば・・・」

「悪霊が今後全く見えなくなる。そうなれば、一般人と同じ。浄化師としては致命的よ」

 アズミの言葉に全員が凍りついた。ツキヨミの力がなくなればスセリは一般人と同じだ。浄化師として仕事ができなくなってしまう。今までスセリが血の涙を流して努力したものがすべて水に流れてしまう。

 それだけはあってはならないとその場にいる全員が思った。

「アズミ先生! それを阻止する方法はないんですか?!」

「それはないわ。ツキヨミは完全に遺伝によるもの。ツキヨミの才能の源は体に流れる血。その血が失われるとその力はだんだんと弱くなる。今回の場合、五分五分ってところね」

 それを聞いたミホはそんな・・・、と俯いた。

 ヤタガラスにとっても痛手であった。スセリのツキヨミの力は夜見えるのはもちろんのこと、浄化水晶の入った弾丸を地面に撃ち込んで浄化水晶を飛散させると昼間でも悪霊の姿を見ることができる、ツキヨミの中でも希少な力を持っている。

 ヤタガラスはそのツキヨミの力で悪霊を昼間のうちから見つけ、夜に確実に仕留めるという形をとっていた。それができなくなるとなるとかなりの痛手である。

「とにかく阿部さんの意識が回復したら確認しなければなりません」

「分かりました。その時の対応は大浜教授にお任せします」

「感謝します」

 アズミは頭を下げた。

 コウシロウは改めて今後のヤタガラスの方針を発表した。

「報告された情報を踏まえ、悪霊対策部としての指示を伝えます。ヤタガラスの職務はこのまま継続してください。金山はドクター指示が解除されるまで現場出動を禁じ、草薙館内でできる雑務等を行う。そして阿部さんは無期限特別休暇とし、無事意識が回復し医師が問題ないと判断するまですべての業務を停止とします。大浜教授は阿部さんが意識回復した時、ツキヨミ能力の確認を速やかに行ってください。以上です」

 コウシロウの言葉に全員がラジャ! と声をあげて返事をした。



 午後十九時。チュウオウ地区。草薙館。大宮サトミの部屋。

 サトミの部屋にはサトミとミホ、そしてアズミが訪れており夜のティータイムをしていた。話すのはスセリのことばかりだ。

「大浜先生。神様の眼・・・じゃなかった、ツキヨミって遺伝っていうのは本当なんですか?」

 サトミが聞くと紅茶を一口飲んだアズミが答えた。

「ええそうよ。ツキヨミの強さは受け継がれた血の濃さで現れる能力の一つということが最近分かってきたの。ツキヨミ発現者の親、もしくは親戚、先祖に浄化師や同じようにツキヨミの人物がいれば、それを受け継いで発現する可能性が高いの」

「じゃあ私たちが結婚して子供が生まれたら、その子もツキヨミに?」

 するとアズミはサトミから紙とペンを借りて書き出した。

「それがね面白いことに受け継がれる場合とそうじゃない場合があるの。確率的には大きく見積もって半分以上の確率ね。血の濃さでツキヨミの有無が変わるのよ。不思議よね」

 アズミの言葉にサトミとミホはへえ、と言った。

 さらにツキヨミにも希少性が確認されており、スセリはその中でも希少性のあるツキヨミに分類されている、とアズミは説明した。

 サトミは真剣に聞いていたが専門用語が飛び交う会話にミホはついていくのがやっとだった。

「まずは阿部さんの意識が回復するまでツキヨミの力を信じるしかないわ」

 アズミはそう言った。

 夜行われた女子会は静かに幕を閉じたのであった。



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