負けず嫌いの聖なるカラス〜Crow with broken wings〜
負けず嫌いの聖なるカラス〜Crow with broken wings〜
深夜に浄化師二名が襲われ重傷を負った。
私が襲われた翌日の朝の情報番組ではそのニュース一色になっていた。それと同時にカワグチ全部が恐怖に包まれたと聞いている。
重傷を負った私は怪我の完治に相当な時間を費やすと言われてしまった。
私たちは負けるわけにはいかない。
神様を先導した聖なるカラスは負けず嫌いのカラスが多いのだから。
午前十時。ハトガヤ地区。救急病院の集中治療室。
スセリが救急病院に運ばれてから数時間が経過した。処置後スセリは容体が安定するまで集中治療室に入れられた。麻酔の効果もあり、まだ意識が回復していない。未だ昏睡状態のままだ。
集中治療室の見えるガラス窓を隔てた廊下に連絡を聞いてやってきた、ヨシキとコノハとシュンが変わり果てたスセリの姿に言葉を失っていた。
「覚悟はしていたが想像以上ですね」
「ええ。警察の判断は正解よ。普通ならうちに連絡が来て搬送されるけど、あれほどの重傷なら救急病院で対応しなければならなかったわ」
現役で医師をしているコノハが言うのだからよっぽどのことだとヨシキは思った。シュンはただ何も言わずに昏睡状態のスセリを見守っていたが、ヨシキが話しかけた。
「シュンさん。大丈夫ですか?」
「・・・ああ。阿部の容体は大丈夫なんですか?」
「これから主治医の先生と会って聞いてくるわ」
コノハがそう言った矢先、コノハは主治医に呼ばれ別の部屋へと移動した。ヨシキとシュンはベンチに座ってコノハの帰りを待つことになった。
昨晩は深夜まで活動していたため二人の疲労はピークに達し、うたた寝をしてしまった。思い出すのは昨日の夜のことだった。
時間は遡って昨日午後二十三時。チュウオウ地区。草薙館。パブリックルーム。
いつまで経っても戻ってこないスセリとヒジリが心配でパブリックルームに集まりだしていた。
「遅くないですか?」
「ええ。金山さんが一緒なのにこんなに遅いことはある?」
ミホがサトミに聞いた。心配する二人の元へヨシキとシュン、アズミとタイコウもやってきた。
「確かに明らかに遅いわ。まさか・・・例の傷害事件に巻き込まれたんじゃ・・・」
「大浜先生! なんて縁起の悪いこと言うんですか?! 金山さんが一緒なんですよ?!」
「だからってこんなに遅いことある?! もうすぐ日付が変わるのに帰ってこないなんてただ事じゃないわ」
アズミはタイコウの言葉を振り切ってシュンに今すぐ警察に通報することを提案した。浄化師連続傷害事件が発生した影響で悪霊対策部から特別措置が出ている状態だ。その状況下でこの事象は明らかに事件に巻き込まれたと考えるのが妥当だ。
シュンはすぐに指示を出した。
「確かに大浜さんの言う通りです。大浜さん、今すぐ警察へ通報し状況報告をお願いできますか? 必ず行方不明者の名前と両名が浄化師であることを伝えてください」
「分かりました」
アズミはすぐに自分のスマートホンを取り出して警察へ電話をする。その間にシュンは他の浄化師たちにも指示を出していく。
「大宮。お前はこのことを綿津見さんに連絡。電話番号は所長室にある」
「分かりました」
「立石。熱田。お前たち二人は制服に着替えて悪霊出現に備えて待機だ」
「分かりました」
「ラジャ!」
「木俣。お前は熱田と立石の武器の緊急メンテナンスをして悪霊出現に備えてほしい」
「はい」
それぞれに指示を出した後、シュンも自分のスマートホンを取り出した。電話をかけたのはヤタガラスのかかりつけ医である岩永兄妹のところだ。
それぞれが行動に移す。
アズミはパブリックルームの椅子に座り机にはメモができる用意をして警察へ通報した。
「もしもし。警察ですか? 私、日本御霊浄化組合研究者の大浜と言うものです。所属の浄化師二名が作戦に行ったまま戻ってこないんです。名前は金山ヒジリ、阿部スセリです」
「夜遅くにすいません。ヤタガラスの大宮です。綿津見さん。金山さんとスセリさんが作戦に行ったまま戻ってこないんです」
「夜遅くにすいません。鳴海です。金山さんと阿部が出動したまま帰ってこないんです。もしかしたら例の襲撃事件に巻き込まれた可能性が高いです。もしかしたらそちらに連絡が来ると思うので対応お願いします」
それぞれが役目を全うしやるべきことをしていった。
警察からは二人がシンゴウ地区に行ったことを伝えて警察官による捜索活動が始まった。
警察へ通報してから一時間後。
サトミからの連絡を受けたコウシロウが草薙館へやってきた。
「大宮さん。遅くなって悪かった」
「綿津見さん。夜遅くにすいません。中へどうぞ」
サトミが応対し、コウシロウは作戦準備室へ通された。そこにはすぐ動けるように制服姿と武器を装備したヨシキとミホも同じように待機していた。
コウシロウは状況を把握するため情報を求める。
警察には通報済みですでに警察による捜索活動が行われていること。警察はスセリとヒジリが浄化師であることを把握していること。岩永兄妹にも連絡をして警察からの搬送要請があればすぐに連絡してくれることを約束してくれたこと。
コウシロウも迂闊には動けない。捜索活動が進んでいる中で警察からの連絡を待つしかなかった。
作戦準備室にスマートホンを持ったアズミがやってきた。
「た、大変!」
「?!」
「警察からで金山所長が保護されたって!」
それを聞いたヨシキとミホは一瞬顔が安堵したがすぐに冷静になって呟いた。
「金山さんだけが保護された?」
「じゃあ・・・スセリちゃんはまだ・・・行方知れずなん?」
アズミは静かに頷いた。コウシロウはその電話は警察とつながっているかと聞くとまだ通話中です、とアズミが言った。電話を代わるように言って電話口に出た。
「すいません。お電話代わりました。私、カワグチ悪霊対策部所属の綿津見です。日本御霊浄化組合の浄化師たちから事情は把握しています。金山が保護されたと聞きましたが詳しい状況と金山の状態をお教え願います」
その様子は冷静沈着で必要な情報を警察から聞き出すため、簡潔にまとめた言葉たち。その姿に作戦準備室にいた三名はコウシロウに釘付けになった。
悪霊対策部はここまでのイメージはなかったが、コウシロウの姿に悪霊対策部の凄さを改めて感じた。浄化師を管理・統括する部署は名前だけではなかったのだ。
「・・・かしこまりました。では金山はナンペイ地区のかかりつけ医の元へ搬送お願いします。引き続き、阿部の捜索をお願いします。では」
コウシロウは電話を切った。
コウシロウは全員を作戦準備室へ集め、警察からの電話から聞き取った情報を開示した。
「先ほど警察から電話があり、金山がシンゴウ地区のシンゴウ国際図書館付近で保護された。ただ肩を撃たれている」
「肩を撃たれた?! 無事なんですか?!」
「ああ。弾丸は貫通したが命に別条はない。意識が朦朧としていて歩ける状態ではないらしい。出血は金山自身で抑え込んでいたから酷くはない。今、俺が指示をして岩永のところへ搬送してもらっている」
コウシロウの言葉にとりあえずは安堵した。
コウシロウはカワグチ全体の地図を見ながら言った。
「ただ阿部さんはまだ行方知れずだ。女性の足だ。しかもシンゴウ地区は意外と広い。女性の足だとシンゴウ地区の中にいるのは間違いないと思うんだが・・・」
するとコウシロウにシュンが近づいて聞いた。
「浄化師連続傷害事件と関連は?」
「金山が襲わているということはその可能性は高い。そして撃たれたということは最悪阿部さんも・・・」
「あの馬鹿に逃げ回る体力はそれなりにある。だが人間には限界がある。もしかしたら隙を突かれて撃たれて怪我をしている可能性はありそうですね」
シュンの言葉に再び全員に緊張感が走りだす。
警察に通報して二時間。
すでに日付をまたぎ、眠気が襲う。そこでタイコウとミホを仮眠室へ移動させ先に休ませた。残った大人たちで連絡を待った。
その瞬間は訪れた。
アズミのスマートホンに着信が入った。すぐに画面をタップして電話に出る。
「もしもし。綿津見です。見つかった?!」
その言葉に見守っていたヨシキやシュン、サトミとアズミがコウシロウへ視線が集中する。
「で彼女の容体は? はい、はい・・・。そうですか・・・。意識は? でしたら近場の方がいいかもしれません。では救急車要請をお任せする形で・・・。わかりました・・・。搬送先が決まりましたらまたお願いします。では・・・」
コウシロウは電話を切った。
コウシロウの表情が曇っている。コウシロウの口から電話で報告された内容が伝えられる。
「シンゴウ地区とアンギョウ地区の境目のあたりで阿部さんが見つかった」
「本当ですか?!」
「ただ・・・、金山と同じように肩を撃ち抜かれている」
コウシロウから伝えられた情報に表情が絶望に変わった。しかもそれに追い打ちをかけるようにコウシロウからさらに情報が伝えられる。
「阿部さんは新人だ。金山のように肩を撃たれた時に応急処置などできない。大量出血で意識不明の重体だそうだ。現在位置から岩永兄妹のいるナンペイ地区まで搬送しても保たない。だから近場の救急病院へ搬送するように警察に任せた」
サトミは目を抑えて涙を流し始めた。命の灯火が尽きるかもしれない。そう考えただけで悲しみが支配する。
そんなサトミをアズミを優しく抱きしめた。
コウシロウはとりあえずは警察に二人とも保護されたため、これ以上の被害を被ることはないと判断し全員休むように伝えた。
コウシロウが作戦準備室で仮眠などをしていることですぐに連絡が来てもいいようにすると伝えた。しかし全員自分の部屋に戻ることができず、男女に分かれて作戦準備室近くの仮眠室で休むことになった。
そして夜が明けて警察から連絡があり、ハトガヤ地区にある救急病院に搬送され、処置後も意識は回復せず重体であることは変わらないため、集中治療室へ入ったと連絡が入った。
ヨシキとシュン、そしてコノハは状況を確認するためにハトガヤ地区の病院へ向かったのだった。
時間は戻って午前十一時。ハトガヤ地区。救急病院。集中治療室の廊下。
コノハが主治医との話し合いが終わり、部屋から出てきた。
「では、彼女のことよろしくお願いします」
頭を下げて部屋を出て行った。
コノハの元へ駆け寄るヨシキとシュン。どんなことを言っていたのか聞いた。
コノハは全員が揃う草薙館で話すと伝えた。
ヨシキとシュンは分かりました、と言ってコノハと一緒に廊下を歩く。シュンは不意に立ち止まり集中治療室で眠るスセリを見ていた。
その瞬間、シュンの脳裏に蘇る思い出。シュンの頭の中に蘇る思い出に足を止めてしまう。その時、ヨシキがシュンの名前を呼んでシュンは現実へ引き戻された。
こうして三人は病院を後にしたのだった。
ヤタガラスの浄化師が浄化師連続傷害事件に巻き込まれたというニュースはカワグチ銃を駆け巡り、全員が震え上がった。カワグチ全域を対象として悪霊の脅威から守る役目がある。
カワグチに暮らす人々の多くの不安を誘った反面、怪我をしたヒジリと意識不明のスセリの安否と回復を願う人々が多かった。
変わり果てたスセリの姿を見たヨシキたちは心に誓った。
ヤタガラスが必ず正義の弾丸を撃ち抜くと。必ず仇は取ると。そう思いながら草薙館へ戻って行ったのであった。




