初接触〜Warriors carrying wounds〜
初接触〜Warriors carrying wounds〜
八十川エイタ。
まるで腹の底が見えない真っ暗な人だった。その笑顔は背筋が一瞬で凍りつく。飄々としてつかみどころがなく考えは何も分からない。
思考回路がショートしたブリキのおもちゃのように出てくる言葉は幼稚極まりない。
感情も無くし、人を敬う心も無くした壊れたおもちゃ。
その冷たい笑みを浮かべて笑顔で人を平気で傷つけ、殺す。
異常人格者。
彼にはきっとこの言葉がお似合いだろう。
時刻不明。シンゴウ地区。現在地不明。
スセリはおそらくシンゴウ地区内であろう場所を逃げ回っていた。しかも現在は夜。よも更けてきて人っ子ひとりいない真っ暗闇を一人で逃げ回っていた。
逃げているのはもちろんエイタからだ。
スセリは浄化師である以前に女性だ。目の前にいる男性にはどう頑張っても差は出てしまい、ねじ伏せられてしまう。そこでスセリがとった行動は逃げること。
エイタは拳銃をかざしながらスセリを追い詰める。スセリが卑下した冷徹な笑顔で。
「スセリちゃーん。どこに行った? 俺から逃げられると思ってるの?」
スセリは建物の影など様々な物陰に身を潜めた。息を殺して時が過ぎるのを待つ。隠れながら打開策を考えている。しかし脳裏にシンゴウ国際図書館付近で離れたヒジリのことが頭から離れず、思考回路を阻害してくる。
エイタが発砲した弾丸がスセリのそばに来るとスセリはすぐさま移動して別の物陰に隠れていた。スセリがいくら逃げてもエイタはほぼ絶対的な確率で弾丸がスセリのそばへやってくる。
物陰に身を隠しても、息を殺しても、私を殺すための弾丸はそばに落ちる---! 察知能力がずば抜けすぎよ?!
スセリは心の中で叫んだ。
エイタは誰よりも人の気配を読む察知能力がずば抜けているのだ。絶対的ではないが、それに近い確率でターゲットを追い詰める。
エイタが闇の浄化師と呼ばれる所以はそこにあるのかもしれない。
スセリが逃げ始めてすでに二時間以上が経過していた。
スセリは走り続けたせいで疲労が溜まり、深夜ということもあり急激な眠気などが襲い始めて集中力を奪い始める。一瞬の油断が命取りとなる現場でスセリは必死に耐え続けていた。
悪霊と戦う現場とはまるで違う、見える脅威に怯えるのだ。
スセリは思わず赤い浄化水晶のネックレスを握った。目をぎゅっと閉じて念じた。
助けて!
その瞬間だった。
肩に鋭い痛みが襲った。スセリは衝撃で前に倒れた。冷たいアスファルトの上に叩きつけられたスセリは起き上がろうとするが肩に鋭い痛みが走り起き上がれない。触れば、ベトっとした気持ち悪い感触が手にあった。
アスファルトには大量の血。そしてアスファルトに食い込んだ弾丸。それを見てスセリは察した。
スセリは肩を撃ち抜かれたのだ。
スセリは肩を押さえながら起き上がろうとするとあの冷たい視線を感じた。
「ああ! やっとみぃつけた! 薄汚い浄化師の女の子が!」
「・・・!」
スセリはこれ以上逃げる体力も残っていなかった。つまりは抵抗することもできない。今すぐ小型拳銃を出して威嚇射撃をすることもできなかった。
エイタは笑いながら血に汚れたスセリの腕を掴んだ。あまりの痛みにスセリは悲鳴をあげた。体がどうにかなってしまいそうになる。
スセリは疲労のせいで集中力を奪われ、もうこれ以上何も考えられなくなっていた。
「どうやって殺そうかなぁ? こいつで風穴だらけにしても面白そうだなあ」
エイタが楽しそうにスセリの殺し方を考えていると、スセリは最後の力を振り絞って口を動かした。
「あなたの・・・目的は、何? どうして浄化師を・・・襲う?」
それを聞いたエイタは静かに笑い、スセリに言った。
「そう簡単に教えてあげるわけないじゃーん! ばーかっ!」
スセリを嘲笑い、力強くスセリの体をアスファルトへ叩きつけた。もうスセリが怪我を負い動けないと察したエイタはスセリに拳銃を向けた。
「じゃあね。哀れなスセリちゃん」
エイタが引き金を引こうとした次の瞬間だった。
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。しかもその数は多い。その音に気付いたエイタはチッと舌打ちをしてスセリを殺すことなく、拳銃をしまいその場から逃走しようとしてスセリから離れ始める。
スセリは這って追いかけようとするもうまく動けない。するとエイタはスセリに近づいて結んでいた髪を掴んで強引に顔を上げさせた。
「命拾いしたね。今回はおとなしく退散するよ。今度会ったら、スセリちゃんのこと・・・殺してあげるからね」
「必ずお前の心臓は私が貫く・・・。覚えておけ。ヤタガラスは神様を先導した・・・聖なるカラス。神様を裏切ったお前のような堕ちた野ガラスに・・・私たち聖なるカラスが負けるわけないだろ・・・」
挑発とも取れるスセリの言葉を聞いてエイタは「それは楽しみだ」と笑いながらその場を去った。
スセリは近づいてくるパトカーのサイレンの音を聞きながらゆっくりと意識を手放したのだった。
パトカーは二台が止まり、残りはそのままエイタが逃げた方向へ走っていった。パトカーからは警察官がゾロゾロと降りてきて懐中電灯を持って倒れているスセリの方へ歩いてくる。
警察官一人の懐中電灯が倒れているスセリを照らした。
「負傷者発見!」
警察官の声に多くの警察官が群がる。警察官は倒れたスセリを見て意識確認を行う。しかし、スセリは意識不明。そして怪我の状況も確認する。
「負傷者意識不明の重体。肩を撃ち抜かれています。かなり出血している様子です。ただ息はしています!」
「弾丸は?」
「貫通してアスファルトに」
「弾丸採取! まさか彼女も・・・」
警察官はスセリの体をゆっくりと動かして仰向けにさせた。すると腰にある小型拳銃を入れたホルスターを下げるベルトにヤタガラスの腕章が引っかかっていた。その腕章を見て警察官は判断する。
腕章からスセリが浄化師であることは分かった。次にスセリの所持品を確認する。スセリが持つ浄化師証明証を確認する。
「やはり彼女がヤタガラスから捜索願が出ていた阿部スセリさんだ!」
警察官が声をあげる。
警察官の一人がヤタガラスのかかりつけ医である岩永兄妹の家に連絡を入れようとした瞬間、現場を仕切る警察官が電話をしないように言った。
理由は本来ならば岩永兄妹に連絡し、ナンペイ地区まで運ぶのが妥当である。しかしスセリは現在肩を狙撃されており出血も多い。かろうじて生きている状況でナンペイ地区まで運ぶのはリスクが高すぎるのだ。
そこで現場の判断で救急車を要請し、救急病院に搬送する判断を下した。
警察官一人が指示を出し、警察官がそれぞれ動いていく。
救急車の要請。ヤタガラスへの連絡。警察本部への連絡。情報が飛び交う。
数分後には現場に救急車が到着しスセリは意識がない状態で担架に乗せられ、酸素マスクをつけられて救急病院へ搬送された。
スセリが警察官に発見され救急車で運ばれた時間。
午前一時だった。発見された場所はシンゴウ地区とアンギョウ地区の境目の人気のない裏通りだった。
スセリは三時間以上も逃げ回っていたことになっていたのだ。
救急車でガタガタと激しい揺れに襲われるが、スセリは一切目を覚まさなかったのであった。
午後一時四十分。ハトガヤ地区。救急病院処置室。
スセリを乗せた救急車はハトガヤ地区の救急病院に到着した。スセリはストレッチャーに乗せて運ばれていき、救急医のいる処置室へ運ばれる。すぐさまベッドに移され、様々な機械につながれて体のデータを取られる。
肩の怪我の状況を確認し、怪我の処置が行われる。出血を抑えて患部を覆い包帯できつく圧迫する。処置を終えたスセリは点滴をされながら意識が回復するのを待つのみとなった。




