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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
闇の浄化師からの挑発編
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ヤタガラスに忍び寄る影〜Gunshot〜

ヤタガラスに忍び寄る影〜Gunshot〜



 闇の浄化師への対抗措置が取られてから一ヶ月後。

 カワグチでの浄化師襲撃はぱったりとなくなった。しかし悪霊対策部が安全確認が取れない以上は現状維持を続けるように指示があがり、私たちはペアでの行動を余儀なくされた。

 私たちは浮かれていたのかもしれない。

 闇の浄化師が襲ってこない現状に、安心と慢心を抱いていたのかもしれない。



 午後十九時。チュウオウ地区。草薙館。作戦準備室。

 作戦準備室には制服姿のスセリとヒジリがいた。今日の浄化当番はスセリとヒジリのペアだ。ベテランと新人という組み合わせだ。

「今回はどこへ?」

「今回はシンゴウ地区だ」

「シンゴウ地区ですか? 悪霊の兆候が?」

「いや、そういうわけではない。前にシンゴウ地区で阿部と熱田が言った時に妙な視線を感じたって言ってたな。それの確認だ」

 スセリは思い出した。

 その時は何事もなかったがその不安の種を実際に確認する必要があるとヒジリは思っていたのだ。

 わかりました、とスセリは答えた。

 スセリは急いでヒジリの運転する車に乗り込んでシンゴウ地区へと向かったのだった。

 車に揺られてスセリは車窓から景色を眺める。街灯が真っ暗な闇夜を照らす。もうすぐ着くぞ、とヒジリに言われてスセリは気を引き締めたのだった。

 草薙館から出て四十分後。シンゴウ地区に到着した。

 シンゴウ地区は夜になれば人通りが極端に減る。人はいるがまばらだ。スセリとヒジリは車を駐車場に止めてシンゴウ国際図書館へ続く道を歩き始めた。

 悪霊も気をつけなければならないがそれ以上に闇の浄化師に気をつけなければならない。本気で人間を殺しに来ているため十分警戒する。背中に冷や汗が伝って心臓の音がヒジリに伝わりそうだ。

 するとスセリはその場に立ち止まった。誰かに睨まれているかのような感覚に陥った。

 その感覚は前に遭遇した時と同じものだった。

「阿部?」

「金山さん・・・。誰かに見られてます」

 ヒジリは顔色を変えて言葉を発さずスセリを守るように周囲を見渡した。スセリも周囲を見渡す。誰かに見られているというのはスセリの心配からくる精神的なものだろうか。スセリはそう思っていた。

 するとヒジリの目にキラリと輝く何かが見えた。その瞬間、ヒジリはとっさにスセリの肩を持って動いた。

「動け!」

 その刹那だった。


 パン!


 コンクリートの道路に火花が散った。

 それを見たヒジリは一瞬で判断できた。自分たちは狙われて狙撃されたと。完全に狙撃主はスセリとヒジリを殺しに来ているということだ。

「狙撃されている! 急いで物陰に隠れるぞ!」

「はい!」

 スセリはヒジリの指示に従って動く。狙撃する相手はスセリとヒジリの隙を狙って撃つ。スセリとヒジリには対抗する武器がない。持っているものは悪霊用で意味はなさない。

 息も絶え絶えでスセリは肩を縦に動かして呼吸を整える。

「急いで通報しましょう!」

「そっちは、危ない!」

 スセリが動いたその瞬間だった。弾丸がヒジリの肩を撃ち抜いた。ヒジリは痛みをこらえる表情をして肩を押さえ地面に倒れた。弾丸は貫通し、地面に刺さる。ヒジリの飛び散った血がスセリの頬にべたりとくっついた。

「金山さん!」

 スセリは地面に倒れたヒジリに駆け寄り大きな声で名前を叫び続けた。するとヒジリは痛みをこらえながらスセリに言った。

「阿部! お前だけは・・・この場から離れろ・・・!」

「でも!」

「奴は恐らく一人になった阿部を狙うはず・・・! 俺のことは、気にするな!」

「だからって金山さんを置いていくなんて・・・!」

「いいから行け・・・!」

 ヒジリに強く背中を押されスセリは遮るものがない通りへ出た。スセリは荒ぶる呼吸を整えながら周囲を見渡す。狙われているならば銃口が光ると思ったからだ。

 スセリは銃口の位置を捉え、逃げる。

 必死に逃げながら狙撃手の視界から外れ、見失わせる作戦を取る。体力が尽きた瞬間にスセリの負けという大博打である。

 スセリが逃げ始めてから三十分が経過していた。スセリの体力はすでに限界を超えているが、なんとか狙撃手から逃れることに成功した。

 スセリは物陰に隠れて息を整えた。

「撒いた・・・?」

 周囲には狙っているような様子もない。スセリはもう狙われることはないだろうと思い急いでヒジリの元へ戻る決断をした。

 スセリの大博打は大成功したと思われた。

 背後に気配を感じスセリは振り返った。大きな手がスセリの首を抑えつける。気道が狭まり呼吸が苦しい。窒息寸前だ。スセリは自分の首を抑える大きな手に爪を立てる。すると街灯の光が顔を照らす。

 そこには男がスセリの顔を覗き込んで不気味に笑っていた。そして手には拳銃。拳銃はスセリの額を狙っていた。

 気道が狭まっているため声が出ないスセリは抵抗のうめき声を出す。不謹慎にスセリがもがく姿を見てニヤリと笑った。

「みーつけた」

「・・・!」

 スセリは直感的に意識した。今目の前にいるのがヒジリを襲った狙撃手で巷で騒がれている浄化師連続襲撃事件を起こしている闇の浄化師であるということを。

「なーんで逃げるかな? あとちょっとで殺せるところだったのに」

「・・・!」

「君、以外と可愛い顔してるね。ズタズタに切り裂きたくなるよ。でも顔が血で汚れちゃってる。残念だなあ」

 背筋が凍るような声。声の高さ。背筋がぞわぞわするような印象を感じた。スセリはホルスターに急いで手を伸ばし、小型拳銃を取り足元を撃った。

 もちろん小型拳銃の中に装填された弾丸は悪霊用。相手に痛みだけを与えるだけだが、相手がひるんだ隙にスセリは拘束から離れた。

 乱れた息を整えて言った。

「お前は誰だ?! 金山さんを撃ったのも、一連の浄化師襲撃事件の犯人もお前だろ?!」

 街灯に照らされたその姿は黒いズボンに白いシャツ。そして浄化師が着る制服のブレザーにも似たパーカー。フードを取ると三十代ほどの男性の顔が現れた。

「・・・そだよ」

「?」

「君の言う通り、俺がやったの」

 まるで子供のようにつかみどころがなく、まるでヘラヘラとした態度でスセリをイラつかせる。まるで大人の皮を被った子供のようにゆっくりとそして笑いながら話をする。

 男性は拳銃を持つ手を肩に乗せた。

「君、すごく面白いね」

「何を言ってるの?」

「俺があーんなに威嚇してるのに俺の足、そんな役立たずの拳銃で撃つなんてね! すんごい痛かった!」

 スセリは男性を睨みつけていた。

「浄化師の分際で・・・ムカつく」

 スセリはヒジリを撃たれたことによる怒りで男性を睨みつけている。笑っていた目は一気に怒りへと変わる。男性が拳銃で間髪入れずにスセリに向かって撃つ。スセリは急いで伏せた。弾丸は二の腕をかすった。腕を伝って血が流れる。

 じわじわと押し寄せる痛みにスセリは顔をしかめた。

 腕、手、指、そしてポタポタと垂れる血。

 それを見た男性はまた笑顔を見せる。

「綺麗な血。好きだなあ・・・」

「気持ち悪い。傷ついた人を見てよくそんなことが言えるね! 最悪!」

 スセリがそう叫ぶとそれで結構! と男は笑った。

 男性はスセリに言った。

「ねえ、君。名前はなあに?」

「・・・ヤタガラス所属の浄化師・阿部スセリ」

 スセリは名乗った。

 すると男性はスセリちゃんかあ、と言った。スセリは名前を呼ばれるのもゾッとするほどだ。虫酸が走って気持ち悪かった。すると男性は笑った。

「名前教えてくれたし、俺を楽しませてくれたご褒美に俺の名前教えてあげる」

 男性は腕を押さえているスセリに近づいて言った。

「俺は八十川ヤソガワエイタ。この世の浄化師をぜーんぶ殺す。巷では闇の浄化師って言われてる。どう? かっこいいでしょ?」

 悪ぶることもないその脅威にスセリは言葉を失って立ち尽くすだけだった。



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