浄化師の都市伝説〜The looming fear〜
浄化師の都市伝説〜The looming fear〜
『闇の浄化師』。
これは浄化師になった人間なら知らない人間はいない、闇の噂。嘘か本当かわからない、所謂都市伝説というもの。
金山さんやシュンさんといったベテラン浄化師からヨシキさんやサトミさんといった中堅浄化師、ミホのような新人浄化師でも知っている有名な都市伝説だという。
その都市伝説は私が想像をしている以上に恐ろしく、身の毛もよだつものだったのを今でも覚えている。
午前十三時。草薙館。パブリックルーム。
ヒジリに呼び出されてヤタガラス全員がパブリックルームに集められた。話すのは、先ほどスセリとヨシキにも話した闇の浄化師の話である。
「全員揃ったな。では、話そう」
ヒジリがゆっくりと口を開いたのだった。
闇の浄化師は悪霊対策部が発行する浄化師証明証を持たない非公認の浄化師のことをを指す。俺たちが使用する武器は人間に一切危害を加えることがない対悪霊用で浄化水晶が埋め込まれたものしか使用できないものだ。だが、闇の浄化師が持つ武器は悪霊ではなく、簡単に人間を殺傷できる凶器であることだ。
闇の浄化師は我々浄化師の浄化任務の妨害を図ることが多い。
実際今まで様々な場所に出没しては浄化師の妨害をしている。
ただ闇の浄化師は用意周到で今まで被害にあった浄化師は、その姿を見た人間は誰もいないという話だ。闇の浄化師によって大怪我を負わされ再起不能となって浄化師引退を余儀なくされた人も多い。
ヤタガラスだけではなく、日本全国にいる浄化師にとっての脅威だ。
姿形を見た人間もおらず、神出鬼没の浄化師の敵。闇の浄化師はだんだんと浄化師の間で黒い噂として語り継がれ、都市伝説のような扱いをされているんだよ。
ヒジリが語り終わるとスセリは背筋が凍った。
悪霊も怖いが、それ以上に生身の人間なのが恐ろしい。するとタイコウがヒジリに言った。
「闇の浄化師の噂は聞いたことがありますけど、でもそれはあくまで都市伝説ですよね? なんでそんなに金山さんは都市伝説を信じるんですか?」
タイコウの考えは最もだ。都市伝説は嘘か本当かも分からない、人々の間でまことしやかに話される噂話に過ぎないのだ。
ヒジリほどのベテランが都市伝説を信じるというのもなんだかおかしい話だ、とタイコウは主張した。すると、ヒジリが確かにそう見えるよな、と笑った。
「言っただろう? この事件が公になる前に同じような事件が発生していると。その時と手口が酷似していて、綿津見とも話し合っている。闇の浄化師はカワグチの悪霊対策部は公式に認めている」
「公式って・・・もう都市伝説じゃないじゃないですか?!」
ヨシキが立ち上がって言った。
ヒジリは改めて全員に言った。
「相手は悪霊ではなく、我々人間に刃を向ける。みんな気を引き締めて業務に当たるように。では解散」
ヒジリの言葉にゾロゾロと立ち上がる。スセリも立ち上がると、ずっと座っているシュンの姿が目に入った。全員が動く中一人地蔵のようにずっと座って難しい顔をしている。話しかけるのも癪に触ってしまうかもしれないとスセリはあまり乗り気ではなかった。
しかし気になっていたスセリはシュンに話しかけた。
「シュンさん」
「・・・」
「シュンさん」
「・・・?!」
スセリが何度か話しかけて驚いたようにスセリの方を見たシュン。その表情はとても驚きと呆気にとられていた表情でスセリがあまり見たことのないシュンの顔だった。
あまり見ない表情にスセリも言葉を失ってしまう。
しかしシュンもすぐにいつもの表情に戻り、スセリの顔を見た。
「阿部。驚かせるな。どうかしたか?」
「・・・そ、それは! シュンさんに何度も声をかけているのにボーっとしているからですよ。何度も声かけたのに。振り返ったと思ったら、変な顔してるし・・・」
「阿部に変な顔呼ばわりされる筋合いはねえんだけどな」
シュンはそう言って席から立ち上がった。ええ?! と少し納得しないスセリはシュンの後をついて行ったのだった。
午後十六時。アオキ地区。カワグチ市庁舎。悪霊対策部。
日が傾いた時間帯にヒジリがやってきたのはアオキ地区のカワグチ市庁舎。そろそろ業務終了で締め作業に入っているところへカワグチ市庁舎の中にある悪霊対策部の受付へやってきた。
「遅くにすいません。綿津見はいらっしゃいますか?」
「少々お待ち下さい」
受付でコウシロウの名前を出していた。
受付で待つこと十分後。カバンとコートを持って慌てた様子でコウシロウがやってきた。ヒジリが立ち上がった。コウシロウはやれやれと頭を抱えた。
「終業時間ギリギリに来るってお前は迷惑な客だなあ」
「悪いな。てことは上がりかい?」
「ああ。お前が来た時には締め作業は終盤だったからな。俺はこのまま直帰さ。で、俺に何か用か?」
「立ち話もなんだから草薙館へ来いよ」
「は?」
コウシロウは理由もわからないまま、ヒジリに言われるがままにコウシロウはカワグチ市庁舎を出て行ったのであった。
アオキ地区にあるカワグチ市庁舎からチュウオウ地区のアオキ地区までバスに乗って数分だ。二人はバスに乗り込んでチュウオウ地区まで移動し、バス停を降りた後に草薙館まで歩いたのだった。
ヒジリが戻ってくるとコウシロウが一緒にいるところが不思議すぎて全員が驚いた。ヒジリはコウシロウを連れてパブリックルームへやってきた。
キッチンに立っていたサトミは珍客に驚いた。
「金山さん。夕ご飯これから作るところなんですけど、みんなと分けて作りますね。今ならリクエスト一応答えられますよ」
サトミの言葉にヒジリはじゃあ今日は甘えさせてもらうよ、とサトミに酒に合うおかずをリクエストし、サトミは早速作り出す。
コウシロウはサトミに気を使わなくてもいいよ、と言ったがキッチンからは「お気になさらず!」とサトミの明るい声が聞こえてきた。
一時間後にはサトミ特製のニンニクの香りが漂う唐揚げやキュウリの乗ったサラダが並べられた。
「大宮。悪いな」
「いいえ。金山さんはパブリックルームで食べてください。私たちは作戦準備室で食べますから。話したいこともあるでしょうし」
サトミはそう言って今日の夕ご飯を作り始めた。
サトミが作った料理と帰る途中に買ってきた缶ビールのタブを外した。炭酸が弾ける爽やかな音が二つ分聞こえてきた。
仕事の疲れを吹き飛ばす爽快な音だ。
缶ビールを互いに交わし、仕事の疲れをビールの力で一気に吹き飛ばす。うまっ! とおもわず本音が漏れる。
「それで? 俺に何の話だ?」
コウシロウが言った。ヒジリは缶ビールを机に置いて一呼吸置いた。話だそうとした瞬間にコウシロウが分かっていたかのように口が開いた。
「おおよそあの都市伝説のことだろう?」
「なんで分かった?」
「なんとなくだ。何年の付き合いだと思ってるんだよ」
コウシロウはビールを飲んだ。
「浄化師専門スクールからの付き合いだろう? 全国各地で起こってる浄化師連続傷害事件の犯人があの都市伝説だと考えてるんだろう? まさか、お前の部下たちに感化されたのか?」
そういうわけではない、とヒジリは言った。あくまで可能性の一つとして考えているだけで本気にしているわけではないと言った。
しかしコウシロウもこの闇の浄化師の存在を簡単に否定することができないのだ。コウシロウも話し出した。
「悪霊対策部にも闇の浄化師に関する情報があるのが事実だ。悪霊対策部には全国にいる浄化師の名前や振り分けられた番号が書かれた記録がある。どれにも該当しない浄化師がいるのは事実だ。そいつが・・・」
「闇の浄化師か・・・」
ヒジリは缶ビールを置いた。
コウシロウは断言した。闇の浄化師は確実にいると。ヒジリはそうか、と言って息を吐いた。
「それにしても・・・時の流れってのは恐ろしいな。いつの間にかベテラン浄化師って言われるようになったんだからな。俺たちもオヤジになったもんだ」
ヒジリがそう言うとそれと同じくらいに自分も歳をとったんだと言った。
二人は思い出話をし始めた。
まだまだ未熟で向こう見ずだった若かりし頃のことを思い出しては笑いあったのだった。




