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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
闇の浄化師からの挑発編
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緊迫〜Bitter and bitter〜

緊迫〜Bitter and bitter〜

 午後十四時。アオキ地区。カワグチ市庁舎内会議室。

 悪霊対策部に呼び出され、ヤタガラス全員がカワグチ市庁舎へやってきた。通されたのは会議室。会議室で待機すること三分後。

「突然呼び出して申し訳ない」

 そう言いながらコウシロウがやってきた。コウシロウは席に座る。そして呼び出した理由を話し始める。

「全員浄化師連続傷害事件はご存知ですか?」

「それってさっきニュースでやってた・・・?」

 そうです、とスセリの言葉にコウシロウは反応した。そして改めて今回発生した事件に関する内容をコウシロウが話し始めた。

 全ての発端は二カ月前。時間帯は深夜未明。悪霊浄化の任務中に何者かに拳銃で撃たれて怪我を負うという事件が起こった。しかし、それだけでは止まらず、トウキョウだけではなく全国で同様の事件がぼちぼちと起こり始めているという。

 そして昨日の夜も浄化師が襲われ重傷を負った。警察では関連性が指摘され、連続傷害事件として捜査を始めているという。

「浄化師ばかりを狙う・・・浄化師に対して恨みでもあるのか?」

「それはまだ分からない。犯人の動機すら分からない」

 ヒジリの質問にコウシロウは答えた。

 悪霊対策部では警察からの緊急通告を受けて浄化師たちの安全を守る為に対策をすることになったという。

 それをコウシロウは説明し始めた。

「浄化師が一人でいるところで悪霊を見たなどと言って誘導し孤立させて襲われている。二人以上での行動をするようにしてほしい。特に夜間帯だ」

 コウシロウは一人での行動を避け二人以上での任務遂行を指示したのだった。ヒジリは分かったと首を縦に振った。

 そしてコウシロウは最後にヤタガラスに向かって再度言った。

「いずれにせよ犯人は浄化師を狙っている。警察が今事件を追いかけている。絶対夜間の単独行動は控えるように。誰一人怪我をしないようにすること。また何かあれば伝える。俺からは以上だ」

 ヤタガラスにそれはとても重く突き刺さった。犯人が簡単に事件を終わらせるわけがない。全員がそれを噛み締めたのだった。

 カワグチ市庁舎を後にしたヤタガラスは車に乗り込んで草薙館へ戻る途中のことだった。沈黙の車内で口を開いたのは意外にもシュンだった。

「金山さん」

「なんだい?」

「綿津見さんの言いたいことは分かりました。でも二人以上での行動はうちでは難しいんじゃないんですか?」

 それを聞いたスセリはその言葉の意味がなんとなくではあるが分かった。

 それはヤタガラスが抱える事情がある。カワグチにある日本御霊浄化組合は長年人手不足に悩まされていた。もし十分な人員がいればヒジリは現場にはあまり赴くこともない。

 しかし現状としてヒジリも現場へ向かっている。

 それだけ人手が少ないことを指す。

 現在のヤタガラスは、金山ヒジリ・鳴海シュン・熱田ヨシキ・大宮サトミ・立石ミホ・阿部スセリの浄化師合計六名。そして途中加入した研究者の大浜アズミ・木俣タイコウを加えても合計八名しかいないのだ。

 少ない。

 ヒジリはこれに頭を抱えていたことを知っていたシュンはそこを指摘していた。カワグチはヤタガラスが思っているほどに広い。広いカワグチという町をたった六名の浄化師によって守られているというのは、かなり過酷なものである。

「でも命には代えられないだろ?」

「それはそうですけど・・・」

「俺は誰も怪我させたくないし、死なせたくもない。何かあれば・・・俺が全力で盾になる。それくらいの覚悟はある」

 ヒジリの言葉にシュンは何も言えなくなってしまった。それだけヒジリは覚悟があるということだろう。

「みんな。二人での任務遂行は明日から実施だ。それまでにペア割を俺の方で考えておく。心の準備はしておけよ」

「はい・・・」

 全員が覇気なく返事をした。



 翌日。午前八時。作戦準備室。

 スセリは制服姿で作戦準備室へやってきていた。

 作戦準備室にある出勤を示す名前札をひっくり返し、そして壁に貼られた張り紙に目をやる。

 それは悪霊対策部からのペアによる任務遂行の指示を受けてヒジリが一夜漬けで作った即席のペア割だ。

 今回の措置にはヤタガラスの仕事内容も大幅に変更することになっている。それは十時に行われる政府の記者会見で明らかになる。

 その内容も張り紙に書かれている。

 ヒジリが作成した張り紙にはこのようなことが書かれていた。


【ヤタガラスペア割表】

 熱田ヨシキ・阿部スセリ

 大宮サトミ・立石ミホ

 鳴海シュン・熱田ヨシキ

 大宮サトミ・阿部スセリ

 金山ヒジリ・立石ミホ

 金山ヒジリ・鳴海シュン

 熱田ヨシキ・大宮サトミ

 鳴海シュン・阿部スセリ

 熱田ヨシキ・立石ミホ

 金山ヒジリ・熱田ヨシキ

 鳴海シュン・大宮サトミ

 金山ヒジリ・阿部スセリ

 鳴海シュン・立石ミホ

 このペアをローテーションし任務を遂行する。

 悪霊対策部からの方針でペア任務遂行指示が解除されるまで日中のパトロールを臨時で中止とし、夜間の浄化のみを行う。ただし、緊急通報には対応しそれは日中・夜間問わず任務を実施すること。

 特に夜間はペアで行動することを原則とし、何かあれば近くの交番へ駆け込むこと。緊急性が問われるため、ヤタガラスへの連絡は不要。交番に駆け込んで安全が確保され次第の報告をすること。

 何か不具合などがあれば金山まで。


 という内容だった。

 そして今日はペア行動での指示が出た初日。

 初日を担当するスセリは張り紙を読んでいた。すると後ろから声がする。

「やる気まんまんだな」

「ヨシキさんこそやる気まんまんに見えますよ」

 ヨシキはそうか? と言う。

「今日から昼のパトロールなくなるんですね」

「ああ。でもこれを知ってるのは僕たちだけだ。仕事内容の大幅な変更の対象はカワグチのヤタガラスだけじゃない。全国に発令されるんだ。みんな驚くだろうな」

 ヨシキはそう言って張り紙を眺めた。

 満遍なくペアが組まれているはずが、スセリとミホが組まれているペアがない。これは新人で経験もあまりない二人がもし犯人に遭遇してしまった場合をヒジリが懸念してあえて作らなかったのだ。

 スセリとヨシキは二人揃って作戦準備室を出て行く。すると廊下でヒジリと鉢合わせる。

「金山さん」

「初日はお前たちだったね。これを・・・」

 ヒジリはポケットからボタンが付いているだけの小さな機械をヨシキとスセリに手渡した。ボタンと上げ下げする小さなスライド式レバーが付いているものだ。

「これは緊急通報アラームだ。ここのボタンを押すと音が鳴ってその瞬間に位置情報が警察とヤタガラスに転送される。万が一犯人やそれに該当する輩が現れたら問答無用で押せ」

「少しハイテクな防犯ブザーってことですか?」

 スセリが言うとヒジリは頷いた。

「気をつけろよ」

「ラジャ」

 ヨシキとスセリは返事をした。



 午後十八時。シンゴウ地区。シンゴウ国際図書館付近。

 日も傾いた夕方だった。

 ヨシキとスセリがやってきたのはチュウオウ地区から離れたシンゴウ地区だ。シンゴウ地区から悪霊出現の緊急通報があったため早速出動することになった。

 シンゴウ地区にあるシンゴウ国際図書館の付近で二人は悪霊の気配を察知し、悪霊を見つけ出し無事に浄化することができた。

 悪霊浄化も慣れてきてスセリ一人でも簡単に浄化できるようになってきていた。

「浄化終了。阿部、帰るぞ」

 ヨシキに言われてスセリはヨシキの後ろへ付いて行く。

 その時だった。スセリがふいに足を止めた。ヨシキが振り返った。

「どうした?」

 スセリが周囲を警戒している様子が見えた。ヨシキがスセリに近づくとスセリは小さな声で言った。

「誰かに見られてる気がします」

「?!」

 ヨシキはスセリを守るようにスセリの背後に回り、スセリを自分の体で覆い隠し周囲を警戒する。

 悪霊から向けられる熱視線かもしれないが、しかしその視線は悪霊からではないかもしれないとスセリの勘が言っていた。ヨシキはスセリを守りながら静かに拳銃を引き抜いた。

 しかし安全装置は外れなかった。

 ヨシキはスセリの肩に手を乗せて力強く握った。

「急いで帰るぞ」

 ヨシキの言葉にスセリは頷いてヨシキに手を引かれて急いでシンゴウ地区を後にしたのだった。

 二人が立ち去り静まり返ったシンゴウ地区に二人の走り去った先を見つめる怪しい視線。それは悪霊と同等、いやそれ以上に恐ろしいものであった。


 翌日。

 草薙館ではスセリとヨシキがヒジリに昨日のことを報告していた。ヒジリは無事で何よりと言葉をかけた。浄化師が常日頃から備えている危機察知能力が今回は功をそうしたのだ。

 スセリは緊張感が解き放たれて息を吐いた。

 するとヒジリは表情を歪めた。

「二人は知ってるか?」

「え?」

 ヒジリが唐突に言った言葉に二人は眉をひそめた。一体何のことを言っているのか、と。

「何を知ってるんですか?」

「浄化師になった人間ならば必ず聞いたことがある、噂話にも過ぎない存在。闇の浄化師の話だよ」

 スセリは勿論知るわけがない。スセリが隣にいるヨシキの顔を見る。するとヨシキの顔は険しい表情になっていた。ヨシキが知っているということはかなり根深くそしてヒジリとヨシキほど年齢が離れていても分かっていることが不思議だ。

 『闇の浄化師』。

 この存在がヤタガラスをスセリを恐怖と狂気のどん底へ突き落とすこととなるのである。



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