憎しみに燃える瞳〜Worst reunion〜
憎しみに燃える瞳〜Worst reunion〜
悪霊の大好物は人間が発する憎しみ・恨み・嫉妬から生まれる負のオーラ。それを大量に吸い込むと無害な亡霊が悪霊となってしまう。
私はすっかり忘れていた。
浄化師も人間であるということを。
人間である以上感情がしっかりとあって知らぬ間に負のオーラを出してしまうことを。
チュウオウ地区悪霊頻発事件の翌日。
午前十時。チュウオウ地区。草薙館。作戦準備室。
大きな事件が落ち着いてひと段落したのもつかの間だった。スセリの心は晴れないままだった。ヤタガラス全員が話しかけづらいほどのオーラをスセリが醸し出していた。
それは昨日、こんなことがあったからである。
時間は遡って昨日。
チュウオウ地区。オフィス街。
スセリが誘導を終えてミホたちの元へ向かおうとしている時だった。
「スセリか?」
名前を呼ばれた気がしてスセリが振り返った。その視線の先にいたのは初老の男性だ。ビシッとスーツを決めている立派な大人だ。スセリの姿を見て驚いた表情をしている。
しかし初老の男性の驚き顔よりもスセリが絶望に満ちた顔で驚いているものと比べれば全然違う。
スセリは目を見開いてその場で凍りついた。動悸が激しくなる。そして同時に消えたと思っていた憎しみの炎が燃え上がる。
「・・・」
スセリが言葉を失った原因となったこの男性。
スセリの遠い父方の親戚・大山ケンジだった。スセリがこの世で消し去りたいと豪語し、この世で一番憎んでいる人物だ。彼の発言によりスセリの施設行きを決定付けたと言っても過言ではない。
ケンジはスセリに気づいて近づいていく。スセリは顔を歪ませてケンジをギラリと睨みつけた。その視線はまるで威嚇する肉食動物のように鋭い。
その視線の鋭さにケンジも驚いて身を引いた。
「・・・何しに来た」
スセリの声のトーンが心なしか低い。ケンジはスセリが今とても怒っていることを空気で感じる。しかし、ケンジはスセリに話しかけた。
「久しぶりに会えて驚いたよ。今年大学を卒業したって風の噂で聞いたよ。その制服は・・・君も浄化師に・・・」
ケンジが話している最中にスセリは歯を食いしばり、小型拳銃を構えてケンジに向けた。真っ直ぐに銃口がケンジへ向けられた。小型拳銃を向けられたケンジは動揺して言葉を失う。
「何をするんだい?!」
「・・・久しぶりに会えて驚いた? 私を見捨てた奴がよくそんな呑気なことを言えるな!」
スセリの怒りが頂点に達しようとしていた。目に篭った憎しみの炎をメラメラと燃やしてスセリはケンジを撃ち殺す勢いである。
するとスセリに声をかけたミホがやってくる。
「スセリちゃん! 何やっとんのや?!」
「ミホ?!」
スセリがミホの登場に驚いている隙にケンジはその場から離れようとする。しかし、浄化師としての察知能力が働いたのかスセリはその場から離れたケンジに大声で叫んだ。
「待て! また私から逃げるのか?! お前が私にしたことを絶対に許さない! 私は恨み続ける! 必ず私が味わった苦しみ憎しみを何千倍にして返してやるからな! いつか、必ず!」
今にも殺しそうなスセリをミホが抑えた。スセリの叫びを聞いたヒジリやハルカ、ヨシキたちも集まり出し暴れ馬になりかけたスセリを抑え込んだ。
「スセリ! 落ち着いて!」
ハルカの言葉もスセリは冷静になって聞くことができなかった。するとヒジリは周囲を見渡した。嫌な気配を察知したヒジリは腰に付けてある鞭を取り出して地面を叩いた。
その瞬間に叩いた周辺が一瞬で浄化される。浄化水晶がきらめいて夜空に輝く星のようだった。
悪霊が見えない・気配を感じないハルカにとってみれば何が起こったのか戸惑うばかりだ。ヒジリは指示を出す。
「今すぐ阿部を連れて草薙館へ帰還する! 阿部の負の感情が強すぎて新しい悪霊を引き寄せている!」
スセリの負の感情が原因で悪霊が現れる兆候が出てしまったのだ。
するとヒジリの指示を聞いたヤタガラスの浄化師たちはスセリを抑え込みながら移動する。しかし暴れ馬状態のスセリは言うことをなかなか聞かない。
「スセリさん! 落ち着いて!」
「スセリちゃん! 帰ろ! はよう!」
「阿部! 大丈夫だ! 大丈夫だから!」
興奮したスセリに対してサトミ、ミホ、ヨシキが話しかけるが火に油を注ぐ行為になってしまったのかスセリの興奮は抑えられなかった。
するとスセリのお腹に一撃がお見舞いされる。その瞬間、スセリは気を失いその場に倒れこんだ。一撃をお見舞いしたのはシュンだった。シュンは相手が女性であるスセリにも容赦することはなく、まさしく暴れ馬を一瞬で大人しくさせたのだった。
ハルカがスセリの名前を呼んだ。するとシュンがハルカに言った。
「大丈夫だ。腹に一発入れて気絶させただけだ。どうしようもない暴れ馬だったからこれくらい許せ。阿部、悪く思うなよ」
シュンはそう言ってスセリの頭に手を置いた。
そして現在。
シュンに気絶させられたスセリは草薙館へ強制連行された。
今日は全面非番の日でスセリは作戦準備室で一人席に座り猛省していた。その時の状況を聞いてスセリは反省し、現在猛省しているのであった。
またハルカはスセリが心配ということで草薙館に泊まった。運良く昨日の悪霊騒ぎで悪霊対策部の指示でオフィスビルは閉鎖されている。閉鎖が解除されるまで臨時休業を余儀なくされた。
ハルカはヒジリのいる所長室にいた。
「私のわがままを聞いてもらいありがとうございます。両親には心配しないように連絡はしてあります」
「いいえ。我々よりも長い時間一緒にいた香山さんがそばにいれば阿部も安心するでしょう」
ヒジリはそう言った。
ハルカは静かに頷いた。そして思い出したのはハルカがヒジリに話したこと。それはハルカが知っているスセリの過去だった。スセリが感情を爆発させてしまったこともあり、ハルカは改めてもう一度話そうと思ったのだった。
「阿部の過去は俺が想像している以上に壮絶で驚いた。両親が早くに亡くなって施設で育ったことはすでに聞いていたが、ここまで壮絶とは思わなかった」
「私もあそこまで感情が暴走しているスセリを見たのは初めてです。スセリが親戚をかなり憎んでいることは知っていましたが、想像以上です。私はスセリが浄化師としてやっていけるのか不安です」
ハルカがスセリに対する不安を吐露するとヒジリはハルカをしっかりと見据えた。
「確かに今回はイレギュラーです。自分が心底憎んでいる相手が目の前に現れたらマグレでも動揺する。今回のようなことが二度とないとは言い難い。でも俺たちは阿部のことをしっかり見守っていきます。不安にならないでください」
ヒジリの言葉にハルカは静かに頷いた。
ハルカはその日家へ戻って行った。
ハルカが戻ったあと、スセリはパブリックルームに移動して共用ソファに横になっていた。頭がボーッとしてしまいしっかりと考えることができない。
昨日に感情を爆発した代償だろう。
そこへサトミがやってきた。サトミはスセリの顔を真上から見る形で覗いてきた。いきなり現れたサトミの顔にスセリは驚いて言葉を失った。
「落ち着いた?」
「・・・サトミさん?」
サトミは笑ってスセリの隣に座った。手にはサトミが作ったおにぎりがあった。スセリは申し訳なさそうにサトミに言った。
「昨日は・・・ご迷惑かけてすいませんでした」
「え?」
「偶然だったとはいえ感情が爆発してなかなか静止しなかったって聞いてます。もう・・・、情けなくて・・・」
サトミは静かに息を吐いた。
「考えすぎよ。私たち浄化師だって人間だもの。私だっていつ感情が爆発するか・・・。あんまり考え過ぎてもいいことはないわ。だって、スセリさんは昔のスセリさんではないんでしょ?」
「・・・まあ、はい」
サトミは手に持っていたおにぎりをスセリに手渡した。おにぎりはほんのりと温かい。スセリがサトミの方を見るとサトミは優しく微笑んでいた。
「今日は全面的にヤタガラスは休業だから、心と体を休めて次の任務に備えましょ」
「はい」
スセリは静かに頷いた。
午後十九時。草薙館。所長室。
ヒジリのいる所長室にある人物が呼び出された。
「待ってたよ」
「久しぶりですね、金山さん。金山さん直々に呼び出されるとは思いもしませんでした」
所長室にやってきたのは、情報屋のフウマだった。フウマはヒジリに向き直った。
「で、ご依頼は? また悪霊の情報ですか?」
「いや、今回は悪霊がらみじゃないんだ」
「悪霊じゃない? じゃあ何か?」
フウマが驚いてヒジリに聞いた。ヒジリはフウマをまっすぐ見つめて言った。
「日本御霊浄化組合所属の浄化師・阿部スセリの過去について調べて欲しい」
「新人ちゃんの過去? そんなことを調べて何するんですか?」
ヒジリが依頼したのはなんとスセリの過去に関する調査だった。フウマがどうしてスセリの過去を調査するのかと聞いた。
まさかスセリが裏切るような行為でもしているのか、と聞くとヒジリはそういうことではない、と念を押した。
「昨日阿部の親戚であろう男と現場で鉢合わせてな。その時の阿部は感情が爆発して俺たちで抑え込むのがやっとだったんだ。彼女の親友である香山ハルカさんから聞いてはみたが、もう少し詳しいことが知りたい。彼女が抱えているものは俺たちが想像する以上に、闇深い。俺はヤタガラスを束ねる人間として知りたい。三嶋、頼まれてくれるか?」
ヒジリは言うとフウマは少し考えた。
「いいですよ。そこまで言われたら断る理由がありません。じゃあ報酬はニシ地区にある焼肉屋の焼肉バイキングで」
「・・・いいだろう。三嶋、頼んだぞ」
「分かりました」
フウマはそう言って所長室を出て行った。
ヒジリはスセリの過去を改めて知る為にフウマを使うことになった。それを当人のスセリが知ることは一切なく、スセリはサトミからもらったおにぎりを食べていたのだった。




