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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
オフィスに潜む追跡者編
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自慢の親友〜My best friend is a purifier〜

自慢の親友〜My best friend is a purifier〜



 シバ地区の悪霊がチュウオウ地区に移動する人々の影に潜んで移動していたという巧妙な手口に私たちはしてやられたと思った。

 悪霊は負のオーラだけでなく他の悪霊からの力も吸い取って頭でっかちな悪意の塊になっていた。でも、大きくなりすぎて動きは遅い。

 まるで巨大なテディベアを相手にしているかのようだった。

 チュウオウ地区悪霊頻発事件はクライマックスに向かっていた。



 動きが鈍くなった隙を付いてヒジリが指示を出す。

 それぞれが持ち場に散り、悪霊を狙う。大きい悪霊にとってヤタガラスの浄化師たちは蟻同然だ。ちょこまかと動く浄化師たちに悪霊はなかなか攻撃を仕掛けられない。

「阿部! 僕と同時に撃つぞ!」

「ラジャ!」

 スセリがヨシキに言われ、ヨシキが二丁拳銃を構え引き金を引いた瞬間にスセリも引き金を引いた。弾丸は悪霊に見事命中。悪霊は悶える。

 すると悪霊の視線はスセリに注がれた。その冷たい視線にスセリは思わず振り返った。スセリは感じた。確実に狙われていると。

「阿部!」

 シュンの声が聞こえてスセリは避ける。しかし足元がふらつき地面に叩きつけられた。その様子をオフィスビルの中で見ていたハルカが驚いた表情をしている。

「スセリ!」

 ボロボロであそこまで痛めつけられているスセリを見るのは生まれて初めてで胸が締め付けられた。ハルカはスセリの元へ駆け寄ろうとオフィスビルから飛び出そうとする。

 するとタイコウが止める。

「外は危険です! まだここにいてください!」

「でも! スセリが! 私の大事な親友が!」

「ヤタガラスは大丈夫です。様々な困難を乗り越えた猛者です。スセリさんを信じてあげてください!」

 タイコウがハルカを説得する。ハルカはガラス張りのロビーの壁にうなだれた。

 スセリはゆっくりと立ち上がる。頬を手で拭い、もう一度小型拳銃を握りしめる。

 スセリはもう一度悪霊に向かって走りだす。

 するとスセリの体にあるものが巻き付いた。それに掴まれてスセリはこれ以上前に進めなくなっていた。何かに引っ張られるようのスセリの体は後ろへ移動する。すると、スセリのお腹をたくましい腕で掴まれた。

 スセリが見るとそこにはヒジリがいた。スセリのお腹を押さえているのはヒジリの腕だった。

 スセリのお腹に巻かれた正体もヒジリの鞭だったこともようやく気付いた。

「金山さん?! 何してるんですか?!」

「阿部。どうやら悪霊の狙いはお前らしい。俺の判断で一時避難させてもらった。また自分を囮に使う作戦を立てられては困るからな」

 スセリはハッとした。

 だけど! とスセリがヒジリの腕を抜け出そうとするが、さすがベテラン浄化師のヒジリである。スセリが動けないようにしっかりとホールドされて動けなかった。

「俺はこれ以上仲間を失いたくはない。俺の先輩でも何人かは悪霊に敗れて殉職した。俺は決めているんだ。仲間が危険な真似をしたその瞬間に、何が何でも抑え付ける!」

 ヒジリの言葉はとても重かった。スセリはその言葉に圧倒されて何も言えなくなってしまった。スセリはヒジリに抱えられた安全地帯から小型拳銃で悪霊を狙う。

 スセリの小型拳銃から一発の弾丸が悪霊に向かって発砲された。

 悪霊は苦しみだした。蓄積された浄化水晶の効果が現れ始めた。その様子を見たヒジリはインカムのスイッチを押して指示を出した。

「鳴海! 立石! 悪霊はもう動けないはずだ! 二人でとどめをさせ!」

 ヒジリの指示通りにミホは弓を構えて悪霊に狙いを定め、シュンも弾丸を装填してスコープを除き虎視眈々と悪霊を狙う。

 ミホとシュンはインカムを使用して攻撃をするタイミングを計る。

 そしてついに---。

 ミホの矢とシュンの弾丸が同じタイミングで悪霊に向かって進んだ。それが悪霊に触れた瞬間に、悪霊は雄叫びをあげて白い光の粒となって消えていく。その様子をスセリはヒジリに掴まれた状態で見ていた。

「熱田。大宮。どうだ?」

 ヒジリがインカムでヨシキとサトミに状況を確認する。

『こちら熱田。悪霊は消滅しています』

『こちら大宮。同じく悪霊はいません』

 それを聞いたヒジリは鞭を腰にかけてインカムに向かって言った。

「浄化完了。任務終了」

 その光景をスセリはそばで見ていた。真剣な横顔はとてもかっこよく見えたのだ。

 ヒジリはアズミとタイコウに浄化が終了したことを伝えた。

「こちら金山。大浜さん、木俣くん。そっちは大丈夫ですか?」

『こちら大浜です。こちらは問題ありません。木俣は?』

『はい、僕のところも特にありません』

「よかった。悪霊は無事浄化完了した。周辺の悪霊も一掃済みで安全が確認できた。避難している人々の避難を解除する! このことを避難している人たちに伝えて欲しいです」

『わかりました!』

 ヒジリの指示を聞いたアズミとタイコウが動きだす。

 アズミとタイコウが順番にオフィスビルの中に避難していた人たちを外へ出していく。オフィスビルの中に逃げていた人たちは安堵した表情で家路へ戻る。ヒジリと彼に抑え付けらているスセリの元へ一人の人影が近づいてくる。

「スセリ!」

 聞き覚えのある声にスセリはその声をした方向を向いた。そこにはハルカの姿があった。ハルカが涙目でスセリの元へ走ってきていたのだった。

「ハルカ!」

 スセリの反応にヒジリもハルカの方を見た。ハルカはヒジリに掴まれて動けない状態にあるスセリに困惑してしまう。はたから見れば若い女性の体をおじさんが抑え付けて動けなくしていることと同じで、変な勘違いをされかねない。

「君は?」

「香山ハルカです! オフィスビルに避難していました! スセリの親友なんです!」

「親友? 本当か?」

 ヒジリが聞くとスセリは本当です! と大きな声で言った。するとヒジリはスセリを掴むのをやめた。その瞬間にスセリは地面へ叩きつけられた。

 スセリにハルカが駆け寄った。

「スセリ! 怪我してない?!」

「大丈夫、大丈夫・・・!」

 スセリは苦笑いしながら言った。ハルカがどうしてスセリを掴んで離さなかったのかとヒジリに詰め寄った。ハルカにとってみればヒジリがスセリを拘束して良からぬことをしようとしていると勘違いしているようだった。

 スセリはハルカにヒジリがヤタガラスの浄化師でありヤタガラスを束ねるリーダーであること、そしてスセリにとっての上司であることを伝えるとハルカの興奮は収まった。

「でもどうしてスセリを?」

「彼女は自分を犠牲にするような作戦ばかり実行しようとするんです。なので、致し方なくこうして掴んでいたんです。これ以上仲間を失うのは勘弁なので」

 ヒジリはそう言った。ハルカは驚いてスセリに聞いた。

「スセリ。やっぱり、考え方は変わってないんだね。自分を犠牲にするなんて・・・」

「・・・」

 ハルカに言われてスセリは黙ってしまった。

 スセリがこのような作戦をする心理がハルカはなんとなく分かる。憎悪や嫌悪で歪められた感情が産み出した副産物だ。

 ハルカは久しぶりにスセリに再会した際、浄化師になったと報告したスセリに対して素直に喜べなかった。それはやはりハルカも知っているスセリの過去に原因があって、その中の様々な要因が重なって今の阿部スセリという人間を形作っているのだ。

「でもさ・・・、スセリはすごいよ。悪霊に立ち向かうなんて・・・」

「私はこの仕事・・・大好きだからさ」

 スセリはそう言って笑った。するとヒジリはスセリに他の先輩たちのフォローに行ってこいと指示を出す。スセリはまた休みの日に話そう、と言ってヒジリのそばから離れていき、その場にはヒジリとハルカだけが残された。

「所長さん。スセリはヤタガラスでどのように過ごしていますか?」

「そうですね・・・。自分を犠牲にする作戦をしようとしてしまうあたりは手を焼いています。しかし、彼女の仕事に対する真摯な態度、たとえ相手が悪霊でも慈悲の心を向ける。浄化師は悪霊に対して憎しみを持っている人が多い。彼女は才能でも何にでも希少な存在ですよ」

 ヒジリは言った。

 ハルカは避難していた人たちを誘導するスセリの姿を見ながら口を動かした。

「私、正直言うとスセリが浄化師になったこと聞いた時あまり喜べませんでした。スセリの過去を知ってるからこそ浄化師は辞めて他の仕事に就いたほうがいいんじゃないかって。でも、私はスセリから大切なものを奪おうとしていたんじゃないかって助けに来てくれたスセリを見て思ったんです」

 ハルカは息を吐いた。

 改めてハルカはヒジリに向き直って言った。

「どうか私の家族でも親友でもあるスセリのこと、宜しくお願いします」

 ハルカがヒジリに頭を下げた。ヒジリは勿論です、とハルカに言った。そしてハルカはヒジリに話したいことがあると言った。ヒジリはハルカからある話を聞かされることになるのであった。

 その頃スセリは誘導と片付けをしていた。

 誘導を終え、スセリは一息ついた。

 ミホたちの元へ行こうとした時、スセリは誰かに名前を呼ばれた気がして振り返った。

「・・・」

 しかしスセリは足を止めたままその場で動かなくなっていた。ずっと立ち止まっているスセリを見たミホが声をかけようと駆け寄った。

「スセリちゃん。もう誘導終わったで。うちらも帰ろ・・・、スセリちゃん・・・?」

「・・・」

 ミホは驚きのあまりこれ以上スセリに声をかけることができなかった。なぜならミホが見たスセリの顔はまるで恨みと憎悪を前面に出した殺人鬼のようだったからだ。いつもの明るい表情は歪み、悪霊が大好きな憎悪を孕んだ姿だった。



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