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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
オフィスに潜む追跡者編
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解決への糸口〜Evil spirit annihilation strategy〜

解決への糸口〜Evil spirit annihilation strategy〜



 チュウオウ地区悪霊頻発事件。

 一体悪霊を浄化したと思えば別の場所で悪霊が出現し、無限に走り回るというある意味浄化師殺しの奇妙な事件。

 しかし私たちはそんな事件の真実にようやくたどり着いた。

 かなりシンプルなものだったが、その巧妙なに私は思わず驚いたことを覚えている。

 全てはヤタガラスの報告会から始まった。



 時間は遡りチュウオウ地区オフィス街での悪霊騒ぎの二日前。

 午後十三時。草薙館。作戦準備室。

 浄化師全員とアズミ、タイコウも揃った報告会が行われた。

 ヒジリ以外の浄化師はどうして集められたのか知らない。あのシュンですら聞かされていないのだ。

 ヒジリが全員揃ったことを確認すると報告会が始まった。議題はチュウオウ地区悪霊頻発事件に関してだ。原因がまだ分からないためなかなか徹底的に浄化できないというのが悩みの種だった。

 ヒジリはそんな状況に一筋の希望が生まれたことを話した。詳細はアズミの方からということだったため、アズミは黒板にカワグチ全域の地図に印をつけた大きな地図を貼り出した。

「単刀直入に言うとチュウオウ地区に悪霊が頻発していた原因はシバ地区の悪霊が流れ込んでいたからです」

 それを聞いたスセリたちは驚いた。するとシュンがアズミに質問した。

「もし流れ込んでいるとしていつ流れ込んでいるというんですか? シバ地区には草薙館以上に浄化水晶が埋め込まれた場所。悪霊はそう簡単にシバ地区から抜け出せないはず」

「そこよ」

「?」

 アズミがシュンの言葉の一つを指摘した。

「『シバ地区には草薙館以上に浄化水晶が埋め込まれた場所。悪霊はそう簡単にシバ地区から抜け出せないはず』。鳴海さんの言う通りよ。実際のシバ地区は草薙館以上に悪霊対策が施された場所だった。だけど、それが盲点だったんです」

「盲点?」

「改めてこちらを」

 アズミは地図を見てもらうように声をかけた。

 アズミはここでタイコウに説明をするように促した。タイコウは少し緊張した表情をしながらも説明を始める。

「この地図には二色でカラーリングされています。青は昼のパトロールで悪霊出現の可能性があると目星をつけた場所。赤は実際に悪霊が出現した場所を示しています。青の印のほとんどがシバ地区に集中しています。しかし実際に現れた悪霊を示す赤の印はチュウオウ地区に集中していることが分かったんです」

 タイコウはそう言って全員を見渡した。

「この地図で示したものであれば悪霊がチュウオウ地区に流れているという証拠にはなります。だけどこれだけではなかなか信じられないと思って、金山さんに協力してもらってシバ地区でパトロールに同行させてもらいました」

 ここからは専門的になるためアズミに発表のバトンを渡す。

「金山所長に悪霊索敵などをしてもらったところ悪霊は確実にそこにいるという結果が出ました。しかしほんの数秒後にはその気配は全く無くなってしまっていた。明るい太陽の下で悪霊が一瞬で姿を消すのはまずあり得る話ではない。考えられるのは・・・」

 アズミが続けようとした時ヨシキが挟んだ。

「どこかに身を隠したとか? でも、奴らに身を隠せるような場所なんか・・・」

「それがあるのよ。浄化師すらにも怪しまれず、昼間の明るい時間でも悪霊が身を隠せる恰好の場所がね」

 アズミがニヤリと笑った。そしてアズミは満を持したように口を開いた。

「影よ」

「影?」

 スセリが口を開いた。

 確かに太陽の光があれば建物だけでなく人の影もできる。しかしその影に悪霊が身を隠せるのか? とスセリは考えてしまった。しかし、周りの浄化師は驚いた表情をしていた。

「確かに影ならば悪霊が隠れられる。しかし、確証は?」

「以前、阿部さんからこんな話を聞きました。シバ地区へのパトロールに行った時のこと覚えてる?」

 アズミから話を振られてスセリは「はい」と言った。スセリはアズミにあの時のことを思い出して欲しいと言われた。

「以前にシバ地区のパトロールに行ったって聞いたわ。覚えてる?」

「はい。シュンさんとミホと行きました」

「あの時、何か不思議なことがあったって言ってたわよね? 改めて教えてくれないかしら?」

 アズミに言われてスセリは話し始めた。

「あの日はシバ地区の大通りでシュンさんとミホでパトロールをしてました。あの時悪霊が二体近くにいるのが見えました。だけど大通りを走る車の方へ吸い込まれるように消えていったんです。だけど車の中には悪霊の姿はなくて・・・。変だなあって思って・・・」

 それを聞いたシュンはすぐにアズミの言わんとすることが理解できた。シュンは立ち上がり、アズミに言った。

「まさかあの時は車に吸い込まれたんじゃなく、車の影に潜んでいる様子を阿部が見たということですか?」

「大正解」

 スセリがしっかりとその目で悪霊が吸い込まれる様子を見ていた。しかし、スセリは経験の少なさと確証のなさからあまり深入りできなかったものだった。

「じゃあ私が見たのって悪霊のヒッチハイクみたいなものですか?」

「まあそんなところね。影はいたるとこにできる。シバ地区にある大通りは車の通行量が多く、あの大通りはチュウオウ地区を経由してトウキョウへ通じている道路でもあるの。だから大通りやチュウオウ地区へ移動する人たちの影の中に潜んでおけば・・・」

「あとは自然に人や車が悪霊をチュウオウ地区に運んでくれるってこと・・・?」

 サトミが聞くとアズミが言った。

「でも悪霊の流れを食い止める方法はあるんですか?」

 スセリが聞くとアズミはある作戦を伝えた。

「悪霊はある程度の力があれば群れを作って集団になることもある。今回の場合、皆さんがくれた情報から悪霊は集団化している可能性があると思います。必ず奴らは現れます。ちなみにチュウオウ地区で一番人の出入りが激しいのはどこですか?」

 アズミの質問に全員が考える。

 チュウオウ地区はカワグチステーションをはじめとした人の往来が元々多い地区だ。一番人の出入りが激しい場所と言われても簡単に絞ることができない。

「アズミ先生。チュウオウ地区が元々人がぎょーさんおる場所やねん。一つに絞るのはムズいです」

 ミホがそう言うとアズミは質問を変えましょうと言ってさらに限定的な質問をする。

「シバ地区の人々が多くやってくるのはどこ?」

 その質問にサトミがハッとなる。その表情を見たアズミはニヤリと笑った。

「どうやら大宮さんはわかったみたいね」

 アズミの言葉に全員がサトミの顔を見る。

 サトミは口を動かし始めた。

「シバ地区の人もカワグチステーションを利用する。でもシバ地区のほとんどの人たちはカワグチの中で仕事をしている人が大半。チュウオウ地区で会社がたくさんあるところといえば・・・オフィス街しか考えられないわ」

 アズミはその言葉を聞いて確信した。悪霊は必ずシバ地区から通勤で多いオフィス街に出現するのではないかと。

「そうなると・・・ハルカも・・・?」

 スセリがそう言うとハルカを助けてからハルカのことを把握しているヨシキはスセリの方を見て言った。

「もしかしたら香山さんも知らない間に悪霊に潜まれている可能性が高い。大浜先生。影の中に潜んだ悪霊を浄化する方法はあるんですか?」

「勿論。それがあるからこそ私はこうして喋っているんです」

 アズミはそう言って喋り始めた。

 影の中に潜む悪霊を浄化する。影に向かって武器を構え、悪霊索敵を行う。そこで悪霊がいるという反応があった瞬間に攻撃をする。浄化水晶が影に隠れた悪霊を浄化することができるというものだ。

 悪霊索敵をして反応が出た瞬間に攻撃をするということにもしっかりと理由がある。

 悪霊も浄化水晶に反応することがある。浄化水晶の存在がわかれば攻撃を仕掛けてくるからだ。スピードとの戦いである。

「この方法ならば影の中に潜む悪霊を浄化することができます」

 アズミはそう言って笑った。

 そうなるとヒジリはオフィス街に狙いを絞ると決めた。そして作戦決行の時間帯は仕事が終わり帰宅ラッシュが始まる午後十八時から十九時の間と決めた。

 その時間帯になるまでオフィス街で張込みを行うと。

「いいか。帰宅ラッシュは人がかなり多くなる。連携して人々から悪霊を守るぞ!」

「ラジャ!」

 ヤタガラスはそうして作戦を練り、オフィス街に潜んでいたのだった。



 時間は戻って二日後。

 午後十九時。チュウオウ地区。オフィス街。

 ヤタガラスが包囲したオフィス街には仕事帰りの人々がしゃがんでいた。ヤタガラスの浄化師たちはその場で待機しているように声をかけた。

「日本御霊浄化組合です。皆さんの影を確認するためしゃがんでお待ち下さい!」

「被害はありませんのでご安心下さい」

「浄化作業が終わったらお手数ですが一度オフィスビルロビーへの一時避難をお願いします。浄化師の許可が下りるまでロビーから出ないでください!」

 悪霊の親玉とも呼べる悪霊を包囲しているのはヨシキ、シュン、ヒジリ、サトミのベテラン浄化師たち。そして人々の影を確認するのはスセリとミホの二人。そして誘導にはアズミとタイコウも助けてくれた。

 スセリはハルカの影に小型拳銃を向けて索敵をする。

 背中を伝う冷たい汗。緊張の瞬間だ。

 安全装置が外れた瞬間にスセリは躊躇なく引き金を引いて撃ち込んだ。大きな音にハルカは驚いたがその瞬間に悪霊の断末魔が聞こえ、悪霊が浄化した光景がスセリには確認できた。

「浄化完了。ハルカ、私たちがいいって言うまでオフィスビルのロビーに避難してて!」

「スセリ! どういうこと?!」

「説明はあと! お願い! 私にはまだやらなきゃいけないことがあるの! このままじゃ悪霊が溢れてしまうの!」

 スセリはハルカに見せたことのない切羽詰まった態度でハルカに言った。ハルカはここまで慌てているスセリを初めて見た。ハルカは何も言えず、ここはスセリに従うと決めた。

「わかった。約束だから!」

「うん!」

 ハルカは立ち上がり、オフィスビルの中へと消えていった。

 スセリはハルカがオフィスビルの中へ入ったことを確認して前を向いて他の人の影を探索し始めた。

 するとスセリのインカムが音を鳴らす。スセリがボタンを押す。

『スセリちゃん? 立石や!』

「ミホ?! どうかしたの?!」

『うちの範囲にいた人たちの悪霊浄化は終わったで! 何体か影の中に潜んどった。スセリちゃんとこは?』

「私のところもあと数人で終わる!」

『オーケー! 全員オフィスビルに避難させたらうちらも前線へ向かうで!』

「ラジャ!」

 スセリがインカムを切って残った人たちの影も確認するのであった。

 スセリは順調に影の中に潜んでいる悪霊を次々と浄化していき、アフィスビルへの避難誘導を無事に終わらせた。

 するとタイコウが手を振ってスセリに合図を送る。タイコウの合図は無事に全員を避難させたという合図だ。これでスセリとミホが前線に加勢へ行けるということだ。

 スセリはミホに避難が完了したことを伝えると二人は前線へ行くことになった。スセリはタイコウとアズミの持つインカムに通信を入れた。

「こちら阿部です。タイコウ! 大浜先生! 聞こえますか?!」

『大浜よ。聞こえるわよ。木俣、生きてる?!』

『大浜先生。僕は生きてますよ! スセリさんは無事ですか?』

 耳につけたイヤホンからアズミとタイコウの声が聞こえて来る。スセリはアズミとタイコウの安全を確認する。二人が今どこにいるのかを聞くとアズミは小さなオフィスビルの中。タイコウはハルカが避難したオフィスビルの中だった。これで二人の安全が確保された。

「では私とミホはこれから前線へ行きます。私たちがいいと言うまで避難している人をオフィスビルの外に出さないでください!」

 スセリのこの言葉に了解! と声が聞こえてインカムが切れた。

 スセリはミホに連絡を取り、二人は前線へ駆けて行った。

 一方前線では銃弾が飛び交っていた。ヨシキやシュンが撃ち込んだ弾丸、サトミが斬りつけた脇差の刀傷、ヒジリが地面を鞭で叩いたときに舞い上がる浄化水晶の破片。

「さすが親玉! こんなに浄化師が寄って集っても勢いを落とせないなんて!」

「恐らく吸い込んだ負のオーラと同じくらいに他の悪霊の力も吸い取ってるんだろう」

 サトミが汗をぬぐいながら言うとヒジリは一歩引いて言った。

 ヒジリは悪霊を睨みつけた。しかし悪霊に対して黄色や橙色の浄化水晶が入った弾丸を撃ち込んでいるため、確実に弱っている。

 すると遠くから声が聞こえてきた。

「金山さん! お待たせしました!」

「ご苦労!」

 人々の避難を終えたスセリとミホが走ってやってきたのだ。これで戦力が増えた。

 ミホが弓を構え矢を悪霊に向かって放った。矢はまっすぐ悪霊に向かって飛びグサリと命中した。

「ぐわああ!」

 悪霊が断末魔をあげた。

 その瞬間、ヒジリがヤタガラス全員に指示を出す。

「ヤタガラスの浄化師に告ぐ! ここから総攻撃を仕掛ける! 短時間で悪霊を浄化するぞ!」

「ラジャ!」

 ヒジリの声が響いてヤタガラス全員がそれぞれの持ち場に移動した。



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