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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
オフィスに潜む追跡者編
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見えない脅威を追う〜Bad luck〜

見えない脅威を追う〜Bad luck〜



 シバ地区。

 その場所は悪霊出現率が高い場所。それは昔から水路などがたくさん流れている場所で水が多いことが理由の一つ。昔から悪霊のみならず幽霊は水辺を好むのだとか。

 シバ地区に暮らす人々は悪霊に襲われる危険と隣り合わせで生きているのだ。

 しかしハルカはそんな危険を一切感じない。私はハルカから何も悪霊に怯える不安を感じ取れなかった。

 そう、私はそんなハルカの笑顔と態度に安心しきっていたのかもしれない。



 午後二十時。シバ地区。住宅街。

 今日の悪霊浄化当番であるヨシキはシバ地区の住宅街へやってきた。チュウオウ地区も明るいが、シバ地区も明るい。チュウオウ地区とは別の意味での明るさであることはヨシキも知っている。

「さあて・・・、どこにいるんだ?」

 ヨシキは腰にあるホルスターから二丁拳銃を取り出してかざした。

 索敵を行うとカチャンと安全装置が外れた。悪霊がいることは確認できた。しかし、安全装置が外れたのが昼間に伝えられた悪霊とは限らない。それはシバ地区であるということもある。

 シバ地区はただでさえ悪霊の好む環境がある。敵は一つではないことを思い知らされる。

 ヨシキはそれを警戒しながらシバ地区の住宅街を進んでいく。

 するとヨシキは強烈な悪霊の気配を感じてその場に立ち止まった。周囲を警戒する。ヨシキの頭の中にあるのは二択。ヨシキ自身が悪霊の近くにいるため強烈な気配を感じる。もしくは、ヨシキよりも遠くに悪霊はおりその発する気配が強烈なものである。

 どちらも恐ろしいが後者の方がとても恐ろしい。

 ヨシキは走り出す。

 五感を全て研ぎ澄ませ、悪霊を探す。

「奴はどこにいる?!」

 ヨシキが苛立ち始めた刹那のことだった。近くに悪霊の気配を感じたかと思った瞬間だった。

「きゃあ!」

 女性の声が聞こえた。

 ヨシキはその声がする方へ向かって駆け出した。ヨシキが現場へ到着するとそこにいたのは地面にしゃがみ込み悲鳴を上げているハルカだった。

 ハルカがスセリの親友であることを知らずにヨシキは二丁拳銃を構えた。

 ハルカのそばには男の悪霊が襲わんとしている。ハルカには黒い靄しか見えない。しかし、ヨシキには悪霊の姿や形がはっきりと見える。

 ヨシキは躊躇なく引き金を引いた。

 二発の弾丸は悪霊に命中し、悪霊は大きな呻き声を上げて白い光の粒になって消えた。ヨシキは二丁拳銃をホルスターにしまい、ハルカのそばへ行った。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 ハルカは立ち上がってよれた洋服を綺麗に整え始める。

「お怪我はありませんか?」

「はい。助けていただいてありがとうございます。親友から気をつけろって言われたばかりなのに情けないです」

 ハルカに対してヨシキはそんなことないですよ、と続けた。

 ヨシキはハルカに対して浄化師証明証を取り出してそれを見せた。

「僕は日本御霊浄化組合所属の浄化師、熱田ヨシキと言います。また何かありましたら・・・」

 ヨシキがそう言った瞬間だった。ハルカの中で何かが繋がって思わず声が出た。

「日本御霊浄化組合ってもしかしてスセリのいる?!」

「スセリ? もしかして・・・」

「はい! 阿部スセリです! 私は香山ハルカと言います! 彼女は私の親友なんです。同じ施設で育った大事な!」

 ヨシキは驚いた。

 ヨシキは浄化師証明証をしまい、ハルカを見る。

「もしかして先ほどの親友からの気をつけろって言われたのは・・・」

「スセリからの連絡でした」

 ヨシキははあ、と驚いて息を漏らした。しかしヨシキは改めてハルカにシバ地区は悪霊が出やすいから気をつけるようにと注意喚起を促した。

 ハルカは分かりました、ありがとうございます、とヨシキに言った。ヨシキはハルカに会釈をした。

「スセリによろしくお伝えください」

 ハルカはそう言った。

 ヨシキはその後日付を超えるまでシバ地区を巡回したが、悪霊が出現することはなく任務を終えて草薙館へ戻ったのだった。



 翌日。

 全員揃って朝食を食べている時だった。ヨシキがスセリに話しかけ、昨日のシバ地区での出来事を話したのだった。

 ハルカが悪霊に襲われかけたところを助け、そこでスセリと繋がりがあったことを話されたと。するとスセリは驚きを隠せなかった。何より案じたのはハルカの安否だ。

「ハルカは大丈夫だったんですか?」

「大丈夫だ。まっすぐ家に戻ったと思うよ。それにしても阿部の親友がシバ地区に暮らしてるとは思わなかったな」

 ヨシキはそう言ってご飯を一口食べた。

 スセリは牛乳を飲み干すと話し始めた。

「私とハルカは子どもの頃同じ児童養護施設で育ったんです。親戚とのギクシャクが原因で当時の私はかなりやさぐれてて全てを拒否してたんです。でもハルカはそんな私に根気強く話しかけてくれた唯一の友達だったんです。ハルカは里親に引き取られたんですけど、引き取られた家が偶然シバ地区にあるだけなんです」

 ヨシキはスセリの頭に手を乗せた。ん? とスセリが見上げると優しそうな笑みを浮かべたヨシキの顔が近くにあった。

「香山さんは阿部のことすごく嬉しそうに話してた。いい親友を持ったな」

「ありがとうございます。それよりも・・・」

 スセリはそう言って頭に乗ったヨシキの手を握る。そして頭から話した。

「頭に手を乗せて撫でたりなんて、恥ずかしいじゃないですか。私、子どもじゃないんです」

 スセリが少し頬を赤らめてそう言うと、ヨシキはごめんごめん! と言った。そして弁明させてほしいとスセリに言った。

「妹がいてな、どうしても妹にしていたことをやっちゃうんだ。特に年下の女の子に対しては・・・」

「私は妹じゃないです」

「熱田。阿部をアカリちゃんと一緒にしたら阿部もかわいそうだろう?」

 会話を聞いていたヒジリが笑いながら言った。

 ヨシキは悪かった、とスセリに謝った。

 朝食後、スセリはその足で研究室のある別館へ向かった。別館の扉を開けると研究室の中でファイルを眺めているアズミが見えた。

「大浜先生」

「阿部さん。待ってたわ」

 スセリをアズミは迎い入れた。スセリはアズミの向かい側に座る。スセリの目をしっかりと見るためにレンズをあてがう。

「やっぱり、虹彩も瞳孔も問題なし。星見アマツが目が光ってるって言ってたのよね?」

「はい。だから特別な力を持っていることが分かるって」

 アズミは腕組みをした。

 アズミの持っている研究者の論文の中にも悪霊だけがツキヨミを目の光で認識することができるという発表はある。それはツキヨミの目に特別な虹彩があるからとされている。

 しかし、スセリにはこれといった特徴が一切ない。普通なのだ。

「でも相変わらず昼は浄化水晶を撃ち込まないと見れない?」

「はい。昼に悪霊を見るときは地面に浄化水晶を撃ち込んでいます」

 アズミはあることを期待していたことをスセリに言う。それはなんのことかと聞くと、アズミはスセリのツキヨミがまだ発展途上で時間が経てば簡単に悪霊を見ることができるのではないか、と考えていた。

 しかしツキヨミを発現させてから数ヶ月が経過している。

 夜に悪霊はもちろん見えるが、昼は浄化水晶がなければ見ることができない。これ以上の発展は望めないとアズミは判断した。

 ツキヨミは人によって特性は様々だからだ。

 昼は浄化水晶を撃ち込むことで見ることが出来て、夜は何もせずに見える。これがスセリの持つツキヨミの特性なのだと。

「でもスセリさんはツキヨミの力を自分のものに出来てきてる。それはとてもいいことなのよ。でも目に何か異変を感じたらすぐ言うのよ」

「はい」

 アズミの言葉にスセリは返事をして頷いた。

 すると研究室の扉が開き、大きなダンボールを持ったタイコウが入ってくる。

「タイコウ?」

「ああ。木俣には資料を運ばせていたところなんだ。運んでいるのは明智大学大学院火災事件の炎から免れた大切な資料たちだ。聞いたらこの建物は耐火構造になっているそうだからね。全部運ばせていた」

「大浜先生は人使いが荒いんです!」

 タイコウが悲鳴をあげた。そしてテーブルの上にダンボールをドン! と置いた。

「大浜先生も少しは手伝って下さいよお」

「でもそのダンボールで最後だろ? お疲れさん」

 アズミは笑いながら言った。

 その日スセリは簡単な質問を受けるだけで終わった。スセリは空を見上げた。

「ハルカ、大丈夫かな」

 思うのはハルカの心配ばかりだった。



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