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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
オフィスに潜む追跡者編
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ただいま〜Nostalgic for everyday life〜

オフィスに潜む追跡者編

ただいま〜Nostalgia for everyday life〜



 私阿部スセリが浄化師という仕事に就いてどれだけの時間が経過しただろう。私は浄化師になったあの日から今までのボケーっと刺激を求めるような日常に別れを告げた。

 浄化師の仕事は「非日常」の世界とばかり考えていた。でも、今の私にとってみれば「日常」となりつつある。

 そんな「日常」に影が差した時が私たちの「非日常」が始まる。

 私たちを追いかける追跡者を、闇の中から探し出す。

 それが、私たちの仕事だから---。



 午前十一時。チュウオウ地区。雑居ビルの立ち並ぶ道路。

 カワグチの玄関口・カワグチステーションのあるチュウオウ地区。そこのパトロールをするのはスセリだった。相変わらずたくさんの人が行き交うチュウオウ地区。スセリは悪霊が出そうな場所を重点的にパトロールする。

「今日も平和そうだなあ」

 澄み渡る綺麗な空を見上げてスセリは言った。

 ヤタガラスに変化が起きたのは数日前。明智大学大学院火災事件の影響で研究場所を失ったアズミとタイコウが期間限定ではあるがヤタガラスに研究者と研究者見習いとして加入することになったのだ。

 そして一昨日に悪霊対策部から日本御霊浄化組合の正式な研究者であることを証明する日本御霊浄化組合研究者証明証と腕章が届いた。

 研究者の腕章は浄化師と似て青色をしているが刺繍されているデザインが違う。研究者には知識を象徴する天球やラテン語で様々な言葉が刺繍されていた。真新しいかつ珍しい腕章にスセリは釘付けになったのを覚えている。

 チュウオウ地区はたくさんの雑居ビルやマンションなどが立ち並ぶ場所でかなり賑わう場所だ。裏路地などが多くあるため、悪霊の気配をスセリは察知させるように気を張っている。

 スセリはさらに進んで行く。

 すると大きなビルの前を通りかかった。スセリがふと足を止めた。ビルの中からはスーツを来た男性やスタイリッシュにかつオシャレな格好をした女性たちが出てくる。

 スセリは興味本位でビルへ近づく。するとビルの壁に入っている会社などの名称が書いてあった。その中に「株式会社キュテリア」の名前が。その名前にスセリはピンと来た。

 スセリの親友であるハルカが雑貨デザイナーとして働いている雑貨の会社・株式会社キュテリアだ。

 株式会社キュテリアがチュウオウ地区にあったことはハルカから聞いていた。しかし場所までは分からなかった。

「ハルカの会社、このビルの中にあるんだ。知らなかったあ・・・」

 ビルを見上げたスセリは歩き出した。再びチュウオウ地区のパトロールに戻って行ったのだった。

「それにしてもハルカも大変ね。シバ地区の実家からチュウオウ地区まで通っているなんて大変なのに。残業でもしたら帰り遅くなっちゃうんじゃないかな?」

 スセリはそう呟いた。



 午後十四時。草薙館。作戦準備室。

 午前のパトロールを終え、報告会が行われた。黒板には本日パトロールをする地区と誰が行ったのかという名前が書かれている。


 チュウオウ地区・ニシ地区・ナンペイ地区

 阿部スセリ


 アオキ地区・シバ地区

 立石ミホ


 ハトガヤ地区

 熱田ヨシキ


 トヅカ地区・カミネ地区

 金山ヒジリ


 アンギョウ地区・シンゴウ地区

 鳴海シュン


 それぞれが報告を開始する。

 スセリもチュウオウ地区・ニシ地区・ナンペイ地区をパトロールしたがこれといって悪霊の気配は一切感じなかった。悪霊出現率の比較的高いニシ地区でも悪霊の気配は一切しなかった。

「チュウオウ地区とニシ地区、ナンペイ地区に悪霊の気配はありませんでした」

 スセリは報告した。

 それ以外の地区も報告していく。どこも悪霊の気配はないと報告するが一箇所だけは違った。

「シバ地区の住宅街付近で悪霊の気配を察知しました。索敵をしたところ、動いていないようでした」

「そうか。今日の浄化当番は誰だ?」

「僕です」

 ヒジリが聞くとヨシキが言った。

「気をつけて浄化をすること」

「ラジャ」

 ヨシキは頷いた。

 パトロール報告の後、スセリはサトミの夕飯の支度を手伝うため二人で近くのスーパーで食材を買っていた。その帰り道。スセリはサトミに言った。

「またシバ地区で悪霊だそうです」

「そうなの? まあでも今日の浄化当番はヨシキでしょ? 大丈夫よ」

 サトミはそう言った。しかしスセリの心は晴れなかった。その感情の機微を悟ったサトミは何か引っかかることでもあるの? と聞いた。するとスセリは口を開いた。

「シバ地区に私の親友の実家があるんです。ちょっと心配で・・・」

「そうなのね。だったら電話とかしてみれば? 今日シバ地区に悪霊が出るからあんまり外に出ないでねって。そうすれば少しは安心するんじゃないかしら?」

「そうですね」

 スセリはそう言ってサトミの横を歩いて行ったのだった。



 午後十八時。草薙館。パブリックルーム。

 サトミが作った夕食がテーブルに並んだ。夕食の始まりだ。美味しい! と口々に言う。サトミは悪霊対策部の指示で療養期間で仕事が一切禁じられている。その代わり、サトミは草薙館の炊事を担ってくれた。

「ヤタガラスの皆さんはこんなに美味しいご飯を食べているなんて羨ましいわ」

 アズミが微笑んだ。当番制ですけどね、とサトミは言った。

 そして話題はシバ地区についてだ。どうしてシバ地区は悪霊が多発する地域なのかという話だ。スセリはどうしてシバ地区に悪霊が多発してしまうのかを理解しているつもりだ。

 シバ地区はアオキ地区に隣接する地区だ。水路が入り巡らされた地区で閑静な住宅街が広がっている場所だ。悪霊は水辺を好み、出現する場所は水があるというのは江戸の昔から言われている。

 それに比例するように悪霊対策部が提示している悪霊出現率も全部の地区の中でトップになっている。だからと言ってシバ地区に人がいないわけではない。シバ地区に暮らす人々は夜になると家の中に必ず入るという習慣が根付いている。

 そして街灯もたくさんついている。夜遅くに帰ってきても悪霊に襲われることを少しでも防ぐための対策もとられている場所だ。

「でも熱田さんなら大丈夫ですよね。ベテランさんらしいし」

「大浜先生は過度な期待をしすぎです」

 ヨシキはそう言って笑った。

 夕食後、スセリはお風呂に入り部屋に戻った。ベッドに腰をおろすと、おもむろにスマートホンを手に取る。

 サトミのアドバイス通りスセリはハルカに悪霊のことを伝えるため、電話をかけた。数回のコール音と共にガチャッとハルカが電話に出た音が聞こえてきた。

『もしもし?』

「もしもし。スセリだけど、夜遅くにごめんね。今大丈夫?」

『スセリ? 大丈夫だけど、何かあったの?』

 電話越しのハルカはいきなり電話をかけたスセリを心配そうにしている。その気持ちは電話越しの声色で伝わってくる。

「ハルカの実家ってシバ地区だよね?」

『え? まあそうだけど? それがどうかした?』

「今日のパトロールでシバ地区に悪霊が潜んでいることが分かったの。早く家に戻って」

『悪霊? もしかしてスセリ心配してくれてるの?』

 ハルカはスセリにそう言った。

 ハルカの声色はそこまで悪霊に対して重く受け止めていないようにスセリには感じる。スセリはそんなに軽く考えないで! と心の中で思った。

 スセリの心の声を悟ったのか、ハルカが言った。

『大丈夫。もうすぐ家に着くし。それに私は香山のお父さんお母さんに引き取られた子供の頃からずっとシバ地区で暮らしてるんだよ? もう悪霊と一緒に育ってきたようなもんだし』

「ハルカ・・・」

『スセリったら考えすぎ!』

 ハルカの笑い声が聞こえる。スセリもつられて笑ってしまう。スセリもこれ以上の深追いができず、そのまま電話を切った。

 同じようにスセリからの電話を切ったハルカは夜空を見上げた。


 悪霊か・・・。だったら早めに帰らなきゃ。


 ハルカは小走りで家路を急いだ。

 その後ろを黒い影が道路を這うようについていくところをハルカは知らなかった。



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