君を守りたい〜Flashback〜
君を守りたい〜Flashback〜
ハルカを襲ったシバ地区の悪霊騒ぎから一週間が経過した。
その後、シバ地区から悪霊の浄化指示が出されることがなく私たちヤタガラスは平和な時を謳歌していた。そしてカワグチも悪霊が出ずに人々はおろか、私たち浄化師でさえ平和を謳歌していた。
しかし、その平和は突如として終わりを告げる。
全ての始まりはチュウオウ地区で悪霊が出たという緊急通報だった・・・。
午後十八時。チュウオウ地区。ハイカラ商店街付近。
夕方の夕飯時。いつも賑わいを見せるはずのハイカラ商店街だったはずだった。賑わいを遮るように悲鳴が広がっていた。
ハイカラ商店街はチュウオウ地区にある大きな商店街だ。カワグチステーションができる以前からチュウオウ地区に存在し、日用品から食料品、ラーメン屋や駄菓子屋まで網羅する昔ながらの商店街だ。
ハイカラ商店街はいつものように人通りが多い。
多くの人々が逃げ惑う。その元凶は真っ黒な靄。人々はすぐに電気が照らす店の中へ逃げ込んだ。
悪霊が動き出したその時---。
「全員伏せてください!」
人々がすぐさま体勢を低くした。その瞬間に頭の上を一本の光の道が通った。その光の道は悪霊に貫通した。光の道の正体は弓矢。弓矢から緑色のきらめきが見える。そして悪霊は唸り声をあげながら光の粒となって消えた。
「大丈夫ですか?!」
光の矢を放ったのはミホだった。ミホは制服のポケットから可愛いカードケースの中に入れられた浄化師証明証を取り出して見せた。
「浄化師の立石ミホや! 悪霊は浄化しました! 怪我した人はいますか?!」
ミホが声をかけて店に逃げ込んだ人々に聞き始めた。幸い怪我人はおらず、ミホはハイカラ商店街を後にした。
ミホはインカムのスイッチを入れる。
「こちら立石。ハイカラ商店街に出現した悪霊は無事浄化しました」
『こちら金山。お疲れさん。怪我人はいたかい?』
「いいえ。おらんへんです」
『了解。じゃあ気をつけて帰っておいで』
ヒジリに連絡後ミホはインカムを切って草薙館へ戻り始めた。ミホは伸びをした。そして息を吐いた。空はもう暗い。星が綺麗に輝いている。
「はあ。うち、生きとるわあ。やっぱり人の役に立てるってええなあ」
ミホが感慨に浸っていると懐かしいそして腹の虫を刺激する香りが漂い始める。その香りはミホの心をさらに高鳴らせた。
「この香り、たこ焼きの香りや! 今焼いてるんかいなあ?!」
ミホはたこ焼きの香りに誘われて小走りになった。
ミホがやってきたのはハイカラ商店街にあるたこ焼き屋だった。たこ焼き屋では店主である男性がたこ焼きを焼いている。
「おっちゃん! たこ焼き買ってもええ?!」
「おお! ミホちゃん! 仕事終わりかい?」
「はい! そうや! ヤタガラスのみんなにも買っていこう!」
ミホのテンションは上がる。思わず方言が飛び出して敬語が外れてしまう。しかし、このたこ焼き屋にはヤタガラスに所属してから通っている。ミホはこのたこ焼き屋の常連なのだ。
ミホはヤタガラスの人数分たこ焼きを大量購入した。両手にたこ焼きを持って礼を言う。
「また来てくれよ!」
「はい!」
大量のたこ焼きの入った袋を両手に持ってミホは草薙館へ急いだ。
午後十九時。草薙館。パブリックルーム。
ミホが任務から帰ると早速買ったたこ焼きをテーブルに並べた。
「このたこ焼きミホが買ってきてくれたの?」
「はい!」
「ちょうど夕飯のメニューに悩んでたけどこれで解決ね。助かったわ」
サトミが言った。たこ焼きの香りに誘われてスセリやヨシキ、シュンもやってくる。
「このたこ焼きどうしたんですか?」
「この量、立石。またかい?」
驚くスセリ。少し呆れるヨシキ。反応はバラバラだ。ミホはええやん! と悪びれる様子もなく笑顔だ。状況を理解できないスセリにサトミが教えてくれた。
「スセリさんはハイカラ商店街って知ってるわね?」
「あ、はい。チュウオウ地区にある商店街ですよね? それがどうかしたんですか?」
するとサトミはテーブルに人数分のコップを置きながら続けた。
「そこにねたこ焼き屋さんがあるのよ。そこの旦那さんがミホと同じオオサカ出身でミホはそこのたこ焼き屋さんの常連なのよ。だからことあるごとにこうやって私たちに買ってきてくれるのよ。すごく助かるわ」
そうなんだ・・・とスセリはつぶやいた。
たこ焼きは白い湯気をあげている。するとミホがスセリに話しかけた。
「ここのたこ焼きはめっちゃうまいんや! スセリちゃんも食べてみぃ!」
スセリはテーブルに置かれたたこ焼きに楊枝を突き刺して口の中に運んだ。トロトロと溶ける生地、そしてほくほくのタコ。スセリは美味しいとつぶやいた。
全員でたこ焼きを食べた後、ミホはヒジリにハイカラ商店街で浄化した悪霊について話した。
「それにしてもハイカラ商店街は悪霊が出ることはあまりなかった。ハイカラ商店街に出現したのはとても驚いたな」
「確かに」
ヒジリの言葉にシュンが言った。
「ハイカラ商店街なんか数年に一回のペースで悪霊が出現する。今日がその日だったのかもしれませんよ?」
「確かにそれは考えられる。引き続き様子を見ていこう」
とりあえずハイカラ商店街の悪霊の話は終わった。するとアズミがヒジリに言った。
「金山所長。後でお話があるのですがお時間よろしいでしょうか?」
「いいですよ。込み入った話なら所長室でお話を聞きますよ」
ヒジリはそう言った。
アズミは礼を述べるとお茶を喉に流し込んだ。
午後二十一時。所長室。
所長室は暖かいアンティークのランプが光っている。ヒジリはそこで書類の整頓をしていた。
すると所長室の扉がノックされ入ってきたのはアズミだった。
「大浜さん。お待ちしていました」
「夜分遅くにすいません。お伝えしたいことがあります」
アズミはヒジリに促されてソファに座った。アズミは手に持っていた書類と大きな地図をテーブルの上に広げ出した。
地図はカワグチ全域が描かれたもので地図上には赤い印と青い印が所々示されている。
「大浜さん。これは?」
「ここ一週間の悪霊出現の場所を地図上に示しています。悪霊出現はそこまで多くないのですが、気になることが・・・」
「気になること?」
ヒジリが聞くとアズミは地図を指差した。
アズミはあることを二種類の色に分けて地図に示している。赤の印は悪霊が実際に出現して浄化師によって浄化された場所を示す。そして青の印は昼のパトロールで悪霊出現の可能性があるとされた場所を示す。
この二つの位置がとても不自然だとアズミは言うのだ。
ヒジリはどこか不自然かアズミに聞いた。不自然だと思う理由をアズミは説明した。そしてホッチキス止めしてある書類も提示した。
「これはヤタガラス所属の浄化師に昼間のパトロールにて悪霊出現の兆しがあった具体的な場所を木俣がまとめたものです」
ヒジリはそれに目を通した。
【昼パトロールで悪霊出現の兆しがあった場所】
シバ地区住宅街付近 浄化師・鳴海シュン
シバ地区用水路付近 浄化師・阿部スセリ
カミネ地区森林公園付近 浄化師・熱田ヨシキ
シンゴウ地区小学校裏 浄化師・熱田ヨシキ
シバ地区大通り 浄化師・阿部スセリ
シバ地区住宅街付近 浄化師・立石ミホ
ニシ地区繁華街付近 浄化師・鳴海シュン
シバ地区大通り 浄化師・阿部スセリ
ニシ地区裏路地 浄化師・鳴海シュン
以上である。
ヤタガラスの浄化師聞き取りを実施してシバ地区に悪霊出現の兆しが多く出ていることが分かった。
報告者・木俣タイコウ
「この報告書ではやはりシバ地区の悪霊出現が多いですね。でもシバ地区は用水路など水辺が多い地域で悪霊が多く出現してしまうのは致し方ないのでは?」
「はい。確かにシバ地区は水路や川が多い為に悪霊が多く出てしまいます。しかし、この地図で示した赤い印はチュウオウ地区やナンペイ地区に出現することが多くなっているんです」
アズミはそう言った。
地図を見ると確かにチュウオウ地区とナンペイ地区に悪霊出現が集中していることが示されている。悪霊出現の兆しがあるのは主にシバ地区が多いが、シバ地区では実際に出現しておらず、チュウオウ地区など別の地域での悪霊出現が多発しているのだ。
「このようなデータから私はシバ地区からチュウオウ地区などの他地域に悪霊が流れ込んできているのではないかと推測しているんです」
アズミが見解を示す。その見解は手元にある資料や調べた結果に基づいてたどり着いものだ。
それを聞いたヒジリはそれは一理ありますね、と同意を示す。しかしヒジリには全ての同意ができない理由があった。それはトウキョウで暮らしていたアズミには分かるはずもない、カワグチという地域に仕組まれた巧妙な悪霊対策のことだ。
「シバ地区から他地区に悪霊が流れてくるのは少し考えづらいんです」
ヒジリはアズミにあることを話した。
シバ地区は河川の多さや用水路の多さで水辺が多い環境下にある。その環境のせいで悪霊が多く出現してしまう。シバ地区は悪霊出現率ワーストワンの場所だ。しかし、シバ地区は閑静な住宅街で緑も豊かな魅力的な地域だ。
そんな場所を悪霊対策部が野放しにしているわけではないのだ。
悪霊が出現してから人間は試行錯誤をして対策を実施してきた。その中の主な対策は町のいたるところに浄化水晶を埋め込むこと。これは草薙館も行っている悪霊対策だが、草薙館以上に対策をしているのがシバ地区なのだ。
「シバ地区には至る所に浄化水晶が埋め込まれていて、その量は草薙館以上です」
「そうなんですね。ちなみにどの色の浄化水晶を使用しているか分かりますか?」
「かなり前ではありますが、シバ地区にある浄化水晶は全て赤の浄化水晶です」
それを聞いたアズミはそうですか、と息を吐いた。
赤は浄化水晶の中でも最強の浄化力のある水晶だ。その赤い浄化水晶がシバ地区には埋め込まれているのだと言う。
「浄化水晶は劣化しない。他地区に流れ込むなんて考えにくいですね」
「そうなんです。しかし、大浜さんの考えも一理あるんです。引き続き調査をしてもらってもいいですか?」
「勿論です。何かありましたら私でも木俣でもいいので教えて下さい」
アズミはそう言って資料を持って所長室を出て行った。
そして同時刻。
ミホはベッドに横になってテレビを見ていた。するとミホのスマートホンが鳴り出した。ミホはテレビを消してスマートホンの画面をタップする。
「もしもし? ママ? どうかしたん? うちは元気やよ。心配せんでええのに。長期休みもらったらオオサカ帰るさかい・・・うん。じゃあね」
ミホは画面をタップして電話を切った。電話の相手はミホの母・立石カナミだ。オオサカに暮らす家族からこうして電話がくる。
ミホは窓の外を見る。そしてこう呟いた。
「帰るのあんまり乗り気しないんよなあ」
明るいミホからは想像できないほどに哀愁の表情がそこから溢れていた。




