捜査開始〜Chase the invisible enemy〜
捜査開始〜Chase the invisible enemy〜
またもや不審死事件が発生してしまった。
その報告をヒジリさんから受けたのは二日後のことだった。しかもサトミさんからの情報もある。ヒジリさんたちが懸念していたことが現実になりつつある。
私たちヤタガラスが本格的に警察とタッグを組んで、捜査に乗り出す日は近い。
午後十三時。アオキ地区。カワグチ市庁舎内会議室。
ヤタガラス全員が悪霊対策部から呼び出され、カワグチ市庁舎の中にある会議室に集められた。全員がどうして呼び出されたのかは容易に想像がついた。
「ヤタガラスの皆さん我々の要請に応えてくれてありがとうございます。早速ではありますが連続不審死事件に関する会議を行います。
警察。ヤタガラス。悪霊対策部。三組織が集まる機会はなかなかないだろう。最初の口火を切ったのは大石だった。
「直近の不審死事件はカワグチのナンペイ地区で起こっています」
「それですがその日の夜はナンペイ地区で悪霊出現の兆候があり、浄化師が一名ナンペイ地区へ浄化活動をしていました。その際、不審死現場に遭遇し軽傷を負いました。ヤタガラスは不審死事件の重要参考人としてヤタガラス所属の浄化師・大宮サトミに証言させます」
ヒジリはそう言ってサトミを見た。
復帰するまでは邪魔くさい酸素チューブを鼻につけて生活をする羽目になった。酸素がしっかりと吸えていることを確認した後で酸素チューブが外れた。定期検診でも心臓に異常が見られなかった。
サトミはその場で何かあったのか話すことになる。
「ヤタガラス所属の浄化師・大宮サトミといいます」
「早速ですが大宮さん。事件発生の時のことを詳しく聞かせていただけますか?」
大石に言われてサトミはその時の状況を話した。
周囲は暗く顔までは判別できなかった。しかし確実に人を襲っている姿を目撃している。しかしサトミはかなり大きな力に吹き飛ばされて何もできなかった。
その中でサトミは不思議に思っていることがある。
「悪霊が出た時に感じるものがあったんです。私はそばに悪霊が出たと思って現場へ向かいました」
サトミの証言に付け加えてサトミの行動を示す証拠とばかりにヒジリが言った。
「それは彼女自身からの通信で俺が聞いています。彼女の言っていることは正しいです」
大石はそうですか、と言った。
「ご遺体を確認したところ殺害手口が一致しているため同一犯とみて我々は捜査しています。今回噂の根元となった星見アマツの事件捜査資料をもう一度我々で精査を行いました。犯行手口、出没した時間帯など一致する箇所が多かったことがわかりました」
「となると?」
「我々は星見アマツの悪霊の仕業だとしか考えられないのです」
それを聞いたヤタガラスの面々は顔を見合わせた。信じがたいが警察の人が言うならあながち間違ってないかもしれないと。
ヒジリは大石と間宮に言った。
「もしそれが本当だった場合、早く弱らせて浄化しない限り被害者は増え続けてしまいます。しかも話を聞く限り星見アマツは未練を残して死んでいった可能性が高い。生前のままであれば自ら悪霊に堕ちている可能性が高い。このままではカワグチが危険です」
それを聞いたスセリは息を飲んだ。
相手は死刑になるほどの凶悪犯。簡単に聞く耳を持つとは思えない。
「カワグチ全域に夜間の外出を控えるように要請します。悪霊対策部だけでは限界がありますので、ここは警察の人と協力すべきかと」
コウシロウが進言した。
コウシロウは捜査協力してそれぞれの特性を活用して事件解決に向けて動くいたほうがいいと。そのために情報共有の大切さを再確認した。
午後十八時。草薙館。パブリックルーム。
草薙館に戻ったヤタガラスの面々は夕食を取っていた。するとスセリがサトミに聞いた。
「サトミさん。今回の悪霊って今までのやつとは違うんですか?」
「違うわ。じゃあ悪霊の正体は何?」
「亡くなった人です。亡霊が現代社会の負のオーラを吸い込んで悪霊になってしまうんですよね?」
「正解」
サトミはそう言ってお茶を飲み干した。
「全部の亡霊が悪霊になるとは限らない。でも今回のような星見アマツのように凶悪犯といった常軌を逸した人たちは亡霊ではなく最初から悪霊に堕ちることが多いの」
サトミの言葉にスセリは身震いをする。するとヨシキが言った。
「確かに危険だ。だけど僕たちは唯一悪霊に立ち向かえる。僕たちが動かなければ、カワグチは大変なことになる」
「・・・そうですよね。明日から頑張らなきゃいけませんね」
スセリは恐怖心を抑え込むように言い聞かせた。
ヤタガラスは明日より警察と協力して悪霊のパトロールを実施することになった。残念ながら警察には悪霊を目で捉えることはできない。そのため、悪霊を捉えることができる目を持つ浄化師を伴うことで悪霊に対抗できるという作戦だ。
浄化師も一応護身はできるが、警察ほど本格的ではない。そのため浄化師と警察で役割分担をして事件解決を目指すことになったのだ。
午後二十二時。カワグチステーション付近のスーパー。
人通りが減ったカワグチステーションの近くにあるスーパーに見覚えのある人物が二名買い物をしていた。
サトミとスセリだった。二人は食材を買いにやってきたのだった。買い物かごには大量の食材を入れている。買い物を終えてサトミとスセリは草薙館へ戻る。
「サトミさん。もう体は大丈夫なんですか?」
「え? もしかしてスセリさんも私の持病のこと聞いたの?」
サトミはそう言ってはにかんだ。スセリはサトミが酸素チューブを鼻につけている光景を目撃し、ヒジリに聞いていた。サトミが子供の頃に心臓疾患を患っていたこと、その心臓疾患は手術で完治していること。しかしそれでも浄化師の仕事をこなすために定期的に検査の義務があること。全てだ。
「決められた日に必ず心臓の精密検査をしてるの。浄化師になってから今まで異常はない。酸素チューブは念のためにつけてるだけ。でもそういえば浄化師になりたいって言った時お母さんは猛反対したっけ」
「そうなんですか?」
「そうよ。考えてもみて。幼い頃から心臓に病気があって一度生死の境をさまよった人間が浄化師になりたいなんて言ったら普通は反対するわ」
サトミは昔話を話すかのように笑っていた。猛反対されて苛立ちもあっただろうに、サトミはそれすら感じさせない。サトミにとってはこれは輝かしい過去の思い出なのである。
「でも私はこの道を後悔なんてしてない。みんなの安全が守れて嬉しい限りだもの」
「その気持ち、とても分かります」
そう言いながらサトミとスセリが話していると不意にスセリとサトミは足を止めた。スセリは周囲を見渡し始めた。
「サトミさん。なんか変な感じがします」
「スセリさん。それ私も同じよ」
サトミもスセリと同じ気配を感じる。いい気配ではないことは確かだ。サトミはスセリに小型拳銃を抜いて索敵をするように指示を出す。スセリは小型拳銃を抜いて前へ突き出した。
するとカチャンと音が鳴って安全装置が外れた。それを確認した二人は急いで向かう。残念ながらサトミは今武器をもっていない。私服の浄化師が持つことを許されているのは拳銃だけだ。
そのため悪霊と対峙した時最前線に立つのはスセリだ。スセリはサトミの指示に従って行動することになる。そしてサトミにはある懸念があった。それはヤタガラスと警察が連携して解決しようとしている連続不審死事件かもしれないからだ。そのため、警察にも通報するように言われている。
スセリはいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた。しかし経験と知識と判断力には欠ける。そこでそれを補うのがサトミだ。戦えないサトミの代わりにスセリが動き、サトミは後方で指示を出す。
役割分担を徹底して近づいていく。
そして安全装置を外した小型拳銃を構えてスセリがいつでも飛び出せるようにしている。サトミはしっかりと状況を判断してスセリが飛び出すタイミングを伺っている。
「スセリさん。いい? スリー、ツー、ワン・・・ゴー!」
サトミが合図を出した。スセリはそのまま前へ飛びだした。銃口を向けるとそこには人影が一つある。スセリは声をかける。
「あなたは誰? そんなところで何をしてるの?」
スセリの声に反応して人影はスセリのほうを見る。スセリはその瞬間に背中に走る寒気を覚えた。スセリはその恐怖に飲まれそうになった。しかしそれをグッとこらえる。
「俺は血に飢えている・・・。邪魔をするな!」
人影はスセリに向かって襲いかかる。その速さに追いつけない。
「速い?!」
影から見守っていたサトミが言った。
影はスセリに襲いかかる。スセリは避ける暇さえなかった。しかしなんとか引き金を引いた。銃声が響く。
その刹那だった。スセリが膝をついた。アスファルトに真っ赤な血が数滴垂れた。太ももに大きな傷ができていた。スセリが膝をつくほどの痛みが襲う。
「邪魔するな」
「待ちなさい!」
スセリが痛みに耐えながらもう一度引き金を引いた。その弾丸はその影に命中。影は撃たれた箇所を抑えながら闇に消えていった。
「スセリさん!」
サトミがスセリに駆け寄った。スセリは大丈夫です、と言った。
サトミはこのことをすぐにヒジリたちに報告したほうがいいと判断した。そしてカバンの中からスマートホンを出して電話をした。
「もしもし、大宮です。例の不審死事件に関係あるであろう人影と遭遇しました。はい。詳細は戻ってから説明します。それよりもスセリさんが怪我をしてしまって歩くこともままならないんです」
サトミの連絡により、サトミとスセリを迎えにやってきた。
「姉ちゃん」
「タクヤ?!」
迎えにやってきたのはサトミの弟・タクヤだった。タクヤは怪我をしたスセリをおぶって草薙館へ帰る。
「すいません・・・」
「スセリさんが謝ることじゃないわよ。あのスピードは私でも敵わないわ。早くなんとかしないと被害者が増えてしまうわ」
サトミがそう言った。
そしてサトミはタクヤに対しても謝罪をした。
「別になんも思わねえよ。でもお前を見てると昔の姉ちゃん見てるようでほっとけねえんだ」
タクヤはスセリの顔を見ることがなかったがそう言った。スセリは私が? と首をかしげる。するとタクヤはゆっくりとサトミのほうを見る。
「変なこと掘り返さないで。それに、スセリさんのことお前だなんて乱暴よ。ちゃんと名前を呼びなさいよ」
「わかったよ! スセリ! これでいいだろ?!」
「馬鹿! 敬称をつけなさい!」
また姉弟の喧嘩が勃発してしまう。スセリは穏便に収めようと声を出した。
「別にスセリでもいいですよ! だから喧嘩はやめましょ?!」
スセリがなだめたおかげで姉弟喧嘩は勃発しなかった。
日付が変わった午前零時。草薙館。作戦準備室。
怪我の手当てが終わったスセリは疲れのせいか戻ってきてそのまま寝てしまった。そしてタクヤも借りている部屋で寝てしまった。ヒジリに状況を伝えるため、サトミが作戦準備室へやってきていた。
そこには緊急招集された大石が待っていた。
「夜分遅くにお呼びだてしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ。お話では怪我をされたと聞きましたが、大丈夫ですか?」
大石がサトミを見て言った。
「私ではなくもう一人の浄化師です。彼女の怪我は軽症です。なんの問題もありません」
サトミがそう言った。すると大石はそうですかと安堵する。早速ではあるが、とヒジリが口火を切った。
「大宮。何があったのか報告してくれ」
サトミは話し始めた。
一通り聞き終わったあと大石は腕組みをした。
「やはり星見アマツと同じに思えます。星見もかなりの俊足で追跡しても振り切られてしまうことが多かった。しかも悪霊となればかなりスピードは上がる」
「では大石さんの見解は?」
「星見アマツの悪霊に間違いないと思います。明日からの捜査はかなり気を張らなくてはいけないかもしれません」
警察官の大石が星見アマツの悪霊であることを決定付けた。明日の朝から始まる合同捜査に気合が入る。
サトミは報告を終えて作戦準備室を出ると自分の胸に手を当てた。静かに打ち鳴らす自分の心臓。だんだんと早くなっていく。
サトミは自分の心臓に言い聞かせた。
「私はここで死ぬわけにはいかない。大丈夫。私の心臓はもう完治してる。必ず星見アマツの悪霊を見つけて浄化させる」
サトミは覚悟を決めていた。
根拠などない。
しかし最近息が上がることが多くなっている。心臓に異常は今の所見つかっていない。でも今は大丈夫と束の間の安心感を得ているにすぎない。
階段をゆっくりと昇り、部屋に戻る。そして酸素チューブを鼻につける。機材のスイッチを入れて酸素を体に送り込む。サトミは結局そのまま眠ってしまった。




