表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
大宮サトミと凶悪犯編
PR
45/130

悪意の風〜The blade shines〜

悪意の風〜The blade shines〜



 ヤタガラスに警察からの要請があったことをヒジリさんから聞いた。

 しかもニュース速報に流れたあの不審死事件だという。さらに悪霊がらみでその相手がこれまたニュース速報になった連続殺人事件の犯人・星見アマツかもしれないときた。

 私は息を飲んだ。

 今までとは違う、悪霊。

 私が知っている悪霊は不本意にも負の感情を吸い込んでしまったかわいそうな亡霊たち。しかし、自ら望んで悪霊に堕ちるなんて、考えられなかった。

 自ら堕ちた悪霊の恐ろしさを私はまだ、知らない・・・。



 午後二十時。ナンペイ地区。住宅街。

 ナンペイ地区の住宅街に大きな黒い靄が現れる。その靄はやがて大きな悪霊となる。悪霊は大きな雄叫びをあげている。その前に立ちはだかるのは、サトミだった。

 今日の浄化当番はサトミだった。

 サトミはすぐに脇差を抜いて悪霊との間合いを取る。

「ふう・・・」

 サトミは呼吸を整えた。すると一瞬の隙をついて悪霊に斬りかかる。悪霊の体は一刀両断されてスパッと斬れた。悪霊はサトミによってあっけなく浄化された。サトミは脇差についた瘴気を振り払って鞘に収めた。

 サトミはインカムのスイッチを入れて報告を入れる。

「こちらナンペイ地区の大宮。悪霊浄化完了しました。これから草薙館に戻ります」

 サトミはインカムのスイッチを切って歩き出す。

 するとサトミは不穏な気配を感じた。ふとサトミは足を止めた。そしてすぐさまに脇差を抜いて索敵を行う。今夜は運悪く月の光がない。そこで街灯の光を使う。

 刃の熱を感じる。

「いる・・・」

 サトミはインカムのスイッチを押した。

「金山さん! 新しい悪霊の気配を察知しました。見つけ次第浄化します!」

 サトミはそう言うとインカムのスイッチを入れたままで走り出した。サトミは電信柱の陰に隠れた。

 気配を悟られないように息を殺し、ゆっくりと脇差を抜いた。

 サトミの武器である脇差は軽さを重視した接近戦に適した武器である。近づかなくては効果が出ない。

 サトミは一瞬に全てを賭けて電信柱の陰から飛び出す。

 するとサトミの動きは止まった。サトミの目が揺らぐ。

 サトミの目の前に入ったのは、人を襲う黒い影。サトミに急に押し寄せる恐怖心。サトミは過呼吸になりそうだった。すぐに助けなきゃと足を動かそうとするも全然足が動かない。

 サトミは悟った。

 悪霊に対してはこんな恐怖心は芽生えない。しかし、実在の人が人を襲っているところに耐性がない。サトミは今、か弱い女性になってしまっていたのだ。

 しかしサトミはイヤホンから流れるヒジリの声で目を覚ました。

『大宮!』

 サトミはその声で現実に引き戻された。そして声を出す。

「そこで何をしている?!」

 サトミの声に黒い影はサトミを見る。その眼光は鋭く、サトミに突き刺さる。サトミは脇差を抜いて威嚇する。生身の人間に刃を突き立てるのは勿論犯罪になり得る可能性が高いが、サトミは威嚇目的で脇差を振り上げる。

 するとサトミは腕を掴まれた。

「?!」

 そしてそのままサトミは吹っ飛ばされてしまう。かなりの力でサトミは受け身が取れ切れず、そのまま道路に叩きつけられた。

 薄れゆく意識の中でサトミはゆっくりと目を開ける。ぼやける視界の中に浮かんだのは、端正な顔立ちをした一人の男。しかしその顔からは表情が一切感じられない。まるで人形のような無表情。

 サトミは結局何も出来ずに意識を手放したのだった。



 翌日。午前九時。草薙館。作戦準備室。

 作戦準備室にはヒジリとシュンが待っていた。何が起こったのか。昨夜、サトミが遭遇した不審死事件が発生したと伝えられたのだ。

 現場はカワグチのナンペイ地区。被害者は仕事帰りと思われる女性だった。鋭利な刃物で襲われ、すでに亡くなっていた。まだ夜が明けきらない早朝にランニングにやってきた人によって発見され、警察に通報された。

 警察が駆けつけた際、少し離れたところにサトミが倒れているのが発見されたため警察からヤタガラスに連絡が入ったのだった。

「大宮は大丈夫なんですか?」

「気を失っているだけだ。とりあえずナンペイ地区の岩永邸に送って検査をしてもらっているよ」

 ヒジリはそう言った。

 ヒジリが駆けつけた際はサトミに大きな怪我はなかった。多分大丈夫だろうとヒジリは思っていた。しかし、ヒジリは懸念点がある。

「何か懸念でもあるんですか?」

「そこまで深刻なものとは捉えていないが、大宮はああ見えて・・・」

 ヒジリはシュンにあることを話し始めた。それを聞いたシュンは驚いたのだった。



 同時刻。ナンペイ地区。岩永邸。処置室。

 岩永邸に運ばれたサトミは酸素チューブをつけて、胸に多くの電極を貼っていた。モニターには心電図が流れている。少し弱々しい心音が響く。

 その様子をゴウが静かに見つめていた。するとゆっくりとサトミが目を開いた。

「気がついたか?」

「岩永さん・・・?」

「起き上がる気力もないか。だいぶ疲弊してるから当然か。今心臓の状態を確認してるからもう少し寝てろ」

 ゴウはそう言ってサトミを寝かした。

 数時間後になって検査を終えたサトミは起き上がってゴウの話を聞いていた。しかしサトミの鼻には酸素チューブがつけられたままだ。

 ゴウの手元にはサトミの心電図があった。

「とりあえずは心臓に異常はない」

「じゃあなんでこの酸素は外してもらえないんですか?」

「念のためだ。お前が自覚してないだけで疲弊してるんだ」

 サトミは慣れた手つきで酸素チューブを直す。

 サトミに異常がないことをつかんだゴウはサトミを車に乗せてヤタガラスまで送った。するとゴウは車の中でサトミに聞いた。

「最近、体調不良はないか?」

「全然ありません。激しく動いても大丈夫です」

「だったらいいんだが。一応君の主治医からヤタガラスに所属する条件として特定日の検査をするように言われてるんだ。その検査結果をしっかりと送ってるんだ」

 ゴウはそう言った。

 サトミは酸素チューブを直しながら本当に感謝してます、と言った。サトミは本日非番。体の大事をとって一日安静にするように言われている。

 サトミは酸素チューブを引っかけないように慣れた手つきで動かし草薙館へ戻った。酸素チューブをつけたサトミの姿を見てヒジリは表情を変える。

「大宮。大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。これは岩永さんがつけろって言うんでつけてるだけです」

 サトミは笑った。しかし部屋へ行くために階段を上がろうとするとゴウに止められた。ゴウはサトミをおんぶして部屋まで送ったのだった。



 午後十三時。草薙館。作戦準備室。

 ヒジリはゴウとサトミに関する話をしていた。

「大宮はそんなに悪いのか?」

「悪くないですよ。偶然今日が例の定期検診の日だっただけです。昨日気を失ったと聞いて精密検査もしたくなりますよ」

 ゴウはそう言った。

 サトミの姿はかなり大げさになってしまっているが、今のサトミにはこれくらいがちょうどいいとゴウは判断した。サトミのことは特に問題ないという話になり、話はサトミが来た時の話になる。

「俺は今でも覚えてますよ。大宮がここに来たと同時に大宮が通っていた専門スクールからかなり多くの書類が送られてきたのをね」

 ヒジリはそう言った。その書類は今でも大事にファイリングされている。その書類はこのように書かれている。


 日本御霊浄化組合浄化師詳細届

 大宮サトミ  Satomi Omiya

 右の浄化師を日本御霊浄化組合に所属するにあたり、月二回の心臓検診の実施の義務化。および主治医との医療連携の要請。

 体調悪化などの連絡は日本御霊組合かかりつけ医から主治医へ連絡し、とるべき処置を実施する。


 日本御霊浄化組合かかりつけ医の報告書

 本人がしっかりと任務を遂行できるよう、月二回の心臓検診はかかりつけ医の自宅で行うことは可能。酸素チューブや酸素ボンベ、酸素カニューレも常備しており、もしもの際は使用可能。

 本人が心臓に負担をかけるような行動または行為を行った場合は即かかりつけ医から指導が入り、体調管理を徹底していく。

 適切な処置を行い、主治医との医療連携を取ることをここに証明します。

 日本御霊浄化組合公認かかりつけ医、岩永ゴウ・岩永コノハ。


 内容はかなり重々しいものだった。

 サトミにある大きな秘密。それはサトミが心臓に疾患を持っているということ。報告書にはサトミは中学生の頃に手術を行い、心臓疾患は完治している。しかし、いつまた心臓が悪くなるか分からない。そのため、浄化師専門スクールの担当者はサトミが浄化師として活躍できるように様々な情報をヤタガラスに提供していたのだった。

 今やヤタガラスになくてはならない存在であるサトミの過去。

 ヒジリとゴウが話しているその間、サトミは部屋で酸素チューブをつけながら本を読んでいた。そしてその様子を静かに見ている弟のタクヤ。

 弟であるタクヤもサトミが酸素チューブをつけている姿を見て心が裂かれそうだった。

「またあの時と同じ・・・」

 サトミは一人でそう呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ