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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
大宮サトミと凶悪犯編
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恐れていた大ニュース〜Be a dream〜

恐れていた大ニュース〜Be a dream〜



 私が風邪で寝込んでいる間に大きな出来事が二つあった。一つは社会的な出来事。もう一つは身内の出来事。

 社会的な出来事。トウキョウを震撼させた連続殺人事件の犯人の死刑が執行されたこと。身内の出来事。サトミさんの弟である大宮タクヤくんが一時的に草薙館にとどまることになったこと。

 世の中は忙しない。

 風邪で臥せっている私は時間の流れに置いていかれているかのように錯覚してしまう。なんだかんだで風邪は快方に向かって行ったのだった。



 深夜。詳しい時刻不明。カワグチ某所。

 月の光もない真っ暗な夜中。冷たいアスファルトの上をすーっと黒い靄が通過する。その靄は漆黒の闇。

 何も見えない。闇が通り過ぎた後には、人影が一つ。

 漆黒の闇は形を変えて人型へ変化する。そして地面に転がった何かを見つめてニヤリと笑う。不気味で身震いするような笑みだった。

 漆黒の闇は汚いものを見るかのような視線を地面に移してそのまま消え去った。



 翌日。場所は変わってチュウオウ地区。草薙館。

 今日の朝食当番はスセリだ。風邪はすっかり治り、久しぶりにキッチンに立つ。

 スセリは複雑な境遇ゆえに一人暮らし歴は長い。しかしだからといって料理が得意というわけではない。並みの料理はできるというだけだ。

 スセリが作ったのは、だし入り卵焼き、わかめと豆腐の味噌汁、焼き魚、ご飯と特製フルーツヨーグルトの四品だ。

「おおうまそうな匂い!」

 スセリの作った料理の香りに誘われて続々とパブリックルームに集まってくる。

「おはようございます! もうご飯できてますから食べてください!」

 スセリはキッチンから大きな声を出して言った。

 ヤタガラスの浄化師たちに混じり、高校の体育着姿のタクヤも現れる。するとスセリはタクヤと目があった。

「昨日の?」

「チッ・・・」

 タクヤはスセリを見てばつが悪そうにしてそっぽを向く。知らなかったとはいえ病人のスセリを引き倒したのだ。タクヤの背後から刃物で刺されるかのような痛い視線が突き刺さる。

 案の定サトミだ。

 これは謝罪するしか手はないと踏んだタクヤはスセリに向き合って話す。

「あの・・・この前はすいませんでした・・・」

「あ、いえ! そんな! ちゃんとした対応ができなくてゴメンなさい!」

 スセリはタクヤ以上に慌てて言葉を返す。

「私自己紹介してませんでしたね。私・・・」

「阿部スセリ」

「え?」

 タクヤのから自分の名前が出てきたことに驚いている。どうして? とスセリが聞くとタクヤはまた言った。

「姉ちゃんから聞いた」

「姉ちゃん?」

 スセリが首をかしげた。するとタクヤの背後から見覚えのある顔が接近してくる。すらっとした長い足を持ち、ヤタガラスの女性浄化師の中で一番のキャリアを誇る、サトミだ。

 サトミは笑顔をスセリに向けながら強烈な怒気をタクヤに向けた。タクヤの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら言った。

「一般人だったのに悪霊に襲われて、訓練なしで悪霊が見えた稀なケースを持つ女の浄化師。その名前が阿部スセリだってことは姉ちゃんから聞いた」

「まさか、姉ちゃんって・・・」

 スセリの視線がサトミに行く。

「そうよ。私がタクヤに話したの。こいつは大宮タクヤ。高校生で私の愚弟だ」

「サトミさんの弟さん?!」

 スセリは驚いている。しかし言われてみればどことなく雰囲気は似ている。するとスセリはすっとご飯の入ったお茶碗をタクヤに手渡した。

「じゃあタクヤくんも朝ごはんどうぞ」

「え?」

「どうぞ」

 スセリは笑顔でお茶碗を渡した。タクヤは少し戸惑ったものの、お茶碗を受け取って席に着いた。

 すると最後にヒジリがやってきた。全員が揃って朝食が始まる。するとヒジリはミホに言った。

「立石。悪いがテレビをつけてくれないか?」

「はい」

 ヒジリに言われてミホはパブリックルームにある共同テレビのスイッチを入れた。朝はほとんどがニュース番組だ。ニュース番組をつけると今日の天気や最近のトレンドなどが紹介されている。

 するとニュース番組のキャスターが少し慌てだした。

「突然ですがニュース速報です」

 朝っぱらからニュース速報とは大変だなあとスセリはそんな呑気なことを考えながら朝食を食べていた。

「本日早朝、カワグチの路地で女性が血を流して死亡しているところを発見し、警察に通報がありました」

「えー? カワグチで?! 物騒やなあ」

 ミホがテレビを見ながら言う。早朝から怖いニュースを見せられて全員がテレビに夢中になる。ニュース速報では分かっている状況を伝え始めた。

 警察の見解では亡くなった女性は昨日の深夜に襲われたものと思われるという。深夜未明に歩いているところを襲われてしまったとのことだった。しかも時間帯が災いし発見されることがなかったという。

 するとヒジリのスマートホンが鳴り出した。

「誰だ? こんな早朝に・・・」

 ヒジリが電話に出た。

「もしもし? 綿津見か? どうした、こんな朝早くに・・・」

 電話の相手は悪霊対策部のコウシロウのようだった。ヒジリはテレビを見ながら電話をしている。

「ニュース速報だろ? 今ちょうどヤタガラスのみんなでパブリックルームで見てるが、それがどうかしたのか?」

 電話を受けているヒジリの顔がだんだんと曇り始める。その表情の変化をシュンだけがしっかりと捉えていた。

「わかった。準備ができたらそっちに向かう。向こうで会おう」

 ヒジリは電話を切った。

「何かありましたか?」

 シュンが聞くとヒジリは静かに頷いてその場にいる全員に言った。

「朝食の後、出かけてくる。綿津見がヤタガラスの見解をご所望のようだ。鳴海、おまえも来てくれるか?」

「もちろんです」

 ヒジリはシュンを同行させることを決めた。

 一体どういう理由でヒジリとシュンが呼び出されたのかはわからない。しかし、浄化師歴の短いスセリにはわからずじまいだった。



 午前十一時。チュウオウ地区。カワグチチュウオウ警察署。中会議室。

 浄化師の制服に身を包んだヒジリとシュンはチュウオウ地区にあるカワグチチュウオウ警察署にやってきた。中会議室で綿津見と共に待っていると扉が開いて、スーツを着た刑事が二人入ってきた。

「急にお呼び立てして申し訳ありません」

「いえいえ」

 二人の刑事が座り、持っていた書類を机の上に置いた。

「私、本件を担当する大石オオイシです。そしてこちらも同じく本件を担当している・・・」

間宮マミヤです」

 するとコウシロウがヒジリとシュンを紹介する。

「このお二方はカワグチを管轄としカワグチ内に出現した悪霊を浄化する日本御霊浄化組合所属の浄化師です。今回の件をお伝えし、専門職の方をお連れしました」

 コウシロウの言葉の後にヒジリが挨拶をする。

「日本御霊浄化組合で所長兼浄化師の金山ヒジリです」

「同じく、鳴海シュンです」

 ヒジリとシュンが挨拶をすると、二人はポケットをまさぐった。取り出したのは、浄化師証明証だ。これを提示した人間が悪霊対策部が認めた浄化師の資格を持つ人ということを示している。

「本物の浄化師さんなんですね」

 間宮が浄化師証明証を見て言った。ヒジリは自分が所属しているヤタガラスは比較的若い人材が揃っており、自分とシュンはその中でもキャリアはあることを伝える。多少の疑問ならば答えられると思うと伝えた。

「ではご用件をお聞きしましょう」

 ヒジリが話を切り返した。すると大石は書類を二人の目の前に見せた。そこに書かれていたのは、朝、テレビのニュース速報であった夜中に女性が何者かに襲われ死亡した事件だ。

「これって朝のニュース速報であった・・・」

「はい。本日早朝にカワグチで女性が血を流して倒れているところを発見されました。検死では刺殺。現在現場で証拠を探しているのですが・・・」

 大石の顔色が曇った。

 何かあったのですか? とヒジリが聞くと大石は答えた。

「現場に証拠が一切残されていないんです」

「本当ですか?」

「あくまで現時点ではです。現場での捜査はまだ行っています。何か証拠が出れば希望は見えるんですが・・・」

 警察からの相談事は早朝から流れたニュース速報の事件に関することだ。しかし、実際の事件に対してどうして浄化師の意見を取り入れるのか。ヒジリはそれだけが気がかりだった。

「しかしそれだけではどうして我々が呼ばれたのか分かりません。もう少し説明をお願いします」

 ヒジリがそう言うと間宮がそれがですね・・・、と言った瞬間にピリリと電話の着信音が響いた。大石は立ち上がって「失礼」と言って電話を取った。

「間宮さん。それで?」

「それがですね、私たちの捜査本部でなんかこう・・・噂がありまして」

「噂?」

 間宮がヒジリたちに言いたかったのは、捜査本部の中に流れる噂。噂を信じるようには見えない刑事が浄化師に訳ありの「噂」を話すのはあまりない話だ。

 間宮が話そうとした瞬間、

「何?! それは本当か?! だとしたらとんでもないことになるぞ?! そうか、わかった。引き続き頼む」

 大石が大きな声を出した。大石が電話を切った。すると大石は間宮に耳打ちをした。間宮は驚いている。一体何の話をしているのかヒジリもシュンも分からない。

「どうかなさいましたか?」

「突然申し訳ありません。現場で調べている捜査員から連絡を受けていました」

「大石さん。あの噂は本当なんですか?」

「俺も信じられない。しかし、そうとしか考えられないんだ。ここは浄化師のお二人に助言を求めるべきだろう」

 間宮は大石に聞いた。大石の言葉に間宮は息を飲んだ。間宮はもう一度二人に向き直って話し始めた。

「実は今回の事件に関して噂が出回っています。お三方は星見アマツという男をご存知でしょうか?」

「星見アマツ? それってトウキョウで起こった連続殺人事件の犯人で、この前死刑が執行されたってニュースで・・・」

「はい。星見はすでにこの世にはいません。しかし、今回起きた事件は星見アマツの手口にそっくりなんです。そこから捜査本部には星見の亡霊が殺人を犯しているのではないかという根も葉もない噂が流れたんです」

 警察官の二人から聞かされたのは、星見アマツの亡霊の噂だった。

 ヒジリとシュンの顔が凍りついた。

 それは浄化師である二人だからこそわかる事態の深刻さだ。

「我々はあまりこの噂を鵜呑みにはしておりません。しかし先ほどの電話で星見アマツの手口を裏付ける証拠が発見されたんです」

 ヒジリはそうですか、と言った。

 悪霊の正体というのはかつてこの世を生きてきた人間だ。しかし人間も生きている者として必ず「死」という終わりがやってくる。死を経験した人間はあるべき場所へ向かう。しかし、中には未練を残して現世にとどまり続ける者もいる。

 それはまだ亡霊止まりでせいぜい肝試しで人をワッと驚かすくらいの被害だ。何もない限り人を傷つけることはない。

 しかし亡霊は現代社会が生み出した負の感情や負のオーラを吸い込むことで、悪霊になってしまい生きる人間を攻撃してしまう。

「星見の亡霊とおっしゃられましたが、もし星見がこの世にとどまり続けているならすでに悪霊と化している可能性は高いです」

「どうしてそのようなことが?」

「悪霊は現代社会が生み出した負の感情を大量に吸い込むことで亡霊が悪霊になってしまいます。しかし生前に犯罪を起こした人物や星見アマツのように世間を騒がせた凶悪犯の場合は、亡霊にならずに自分の出す負の感情で歪んだ狂気から悪霊に堕ちることがあるんです」

 シュンは説明をした。

 すると大石はヒジリとシュンに今回の事件に星見の亡霊が絡んでいるかもしれないという懸念からヤタガラスの協力を求めるべきという意見が多数あり、事件解決と事件阻止のための協力をしてもらいたいという要請をしたいと言った。

 ヤタガラスも過去に悪霊がらみの事件を解決するために警察に協力することもある。

「相手が悪霊ならば専門職の我々が協力するのが一番でしょう」

「では!」

「ヤタガラスを束ねる者として今回の事件解決に向けて警察の要請をお受けします」

 ヒジリはそう言った。シュンも同じ考えであったため反論はしなかった。ヒジリの考えは協力をするというものだが、最終判断は悪霊対策部のコウシロウに委ねられる。

 悪霊対策部が首を縦を振らない限り、どんなにヒジリが協力したがっていても許可できない。

「綿津見・・・」

「俺も金山と同じだ。この事件解決に向けてヤタガラスの協力を許可します。あとで私の名前と金山の名前を連名した報告書を警察の方に提出いたします」

 コウシロウは大石に言った。

 大石はありがとうございます、と頭を下げた。すると間宮はどうして協力するためなのにコウシロウとヒジリの連名が入った報告書を提出するのかと聞いた。すると大石は馬鹿か、と頭を小突いた。

 大石はまだ若い刑事で無知で申し訳ない、と言った。

「分からないも無理ありませんよ」

 コウシロウは笑った。コウシロウはどうして報告書を提出するのかを説明した。

 実はヤタガラスは警察と同じように国家公務員のような立ち位置にいる。日本御霊浄化組合は一つの組織として独立しているのだ。

 ヤタガラスにとって悪霊対策部の決定は絶対でしっかり悪霊の仕業なのかどうかを見極めなければならない。しかも警察官の人口よりも浄化師の人口の方が圧倒的に少ない。浄化師は今やなくてはならない職業だ。少なくなってもらっては困る。

 浄化師を守るためにも警察がらみの案件は必ず悪霊対策部に話を通さなければならない。

 その際、悪霊がらみの事件の要請があり悪霊対策部とヤタガラスの意見が一致すると、連名の報告書が出される。すると警察と協力関係となる。

 つまり警察がヤタガラスを動かすことが可能となるのだ。

 その後三人は大石と間宮から事件の詳細と資料のコピーをもらい、話を聞いたのだった。

 ヤタガラス史上まれに見る警察がらみの案件を受けることになったのだった。



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