ヤタガラスへの手紙〜Messeage calling for help〜
ヤタガラス遠方地区出張編
ヤタガラスへの手紙〜Message calling for help〜
浄化師の使う用語の中で「悪霊出現率」という言葉がある。
この言葉の意味は該当地域に悪霊が出現する確率を意味している。出現率が高いほど悪霊と遭遇する確率は跳ね上がる。逆に低いと悪霊と遭遇する確率は減るのだ。
悪霊出現率が低いからと言って安全が保証されているわけではない。
浄化師が危機を募らせている中、一般市民は悪霊出現率を絶対的と信じている人もいてぬか喜びの安心を得ているに過ぎないのである。
午後十五時。草薙館。パブリックルーム。
「悪霊出現率?」
「そう。悪霊出現率は浄化師が使う用語よ。その意味はその該当する地域に悪霊が出現する確率のこと。高ければ悪霊と遭遇しやすいと言われているの。ただあくまで確率の問題だから100%絶対というわけではないの」
スセリとサトミが話している。
今日は非番の日。
パブリックルームでお茶とお菓子を並べて談笑している。
「じゃあカワグチの中での悪霊出現率ってどうなってるんですか?」
「悪霊対策部の調べではカワグチの中で悪霊出現率が一番高いのはシバ地区と言われてるわ。なんでか分かる?」
サトミから投げられた問いかけにスセリは少し考える。そして考えをまとめてサトミに言った。
「シバ地区は昔から大きな川や用水路がたくさん巡っている地区です。昔から水辺は幽霊を呼び寄せる場所とよく言われている。環境が影響して出現率が高いんじゃないですか?」
「まあ正解ね」
サトミは口にクッキーを頬張りながら言った。
「必ずしもシバ地区に悪霊が集中するわけじゃない。無害なものだってある。シバ地区で暮らしている人たちに偏見を持たないように」
「はい」
サトミはスセリにそう念を押した。
スセリは返事をした後にジュースを喉に流し込んだ。
最近のカワグチでは悪霊出現の緊急通報が舞い込んでこない。毎日のパトロールは欠かせないが、それでも異常無しと判断することが多い。その為、夜に該当地区に向かって悪霊浄化をすることが極端に減っている。
浄化師にとっては商売上がったりではあるが、平和なのが一番だ。
浄化師が出る幕がないのが浄化師たちが目指す理想の姿なのである。だからヤタガラスの浄化師たちは悲観したりしないのだ。
「それにしても小型拳銃の扱いに慣れてきたわね」
「まあ、それとなくですけど・・・」
スセリは小型拳銃を取り出してみる。銀細工が電気に反射してキラキラと輝いている。そういえばとスセリは思い出す。
サトミに草薙館に案内してもらった後で武器庫に案内されて、初めて渡された武器だったと。
「どうして私に小型拳銃を渡してくれたんですか? あそこにはサトミさんのような脇差やミホの使う弓矢もあった中でどうして小型拳銃だったんですか?」
それはね、とサトミは理由を教えてくれた。
浄化師になるためには浄化師を育成する専門スクールに通うことが必須となる。そこでは、浄化師として必要な技術や知識などを勉強する。そこでは全員が必ず小型拳銃から始めることになっている。
理由としては新人浄化師が扱いやすいため、武器の扱いに慣れるため、そして何発も撃たなくては悪霊を浄化できないためその分的中率を上げることができることも理由の一つと言われている。
新人浄化師たちは各々でキャリアを積み重ねるとその多くが小型拳銃から離れる。普通の拳銃に転向したり、サトミのように脇差に転向する人もいる。
ベテランの浄化師になっても小型拳銃を使い続ける浄化師はそうそういないらしい。
「だからサトミさんは小型拳銃を渡してくれたんですね」
「そうよ。いきなり拳銃なんか使ったら手の骨全部砕けるわよ。まあスセリさんの場合は両手打撲で済んだけどね」
サトミは笑った。
スセリは以前悪霊に追い詰められたヨシキを助けるため、今では考えられないがヨシキの使う拳銃を使って悪霊を浄化した。その際、スセリは衝撃による両手打撲の大怪我を負っている。素人が使えば両手打撲だけでは済まされない。手の骨が最低一本二本確実に折れてしまう。
「じゃあいずれ私も?」
「そうね。ある程度経験を積んだら小型拳銃を卒業するかもしれないわね」
サトミはそう言って笑った。
午後二十時。草薙館。パブリックルーム。
浄化師たちが仕事を終えてリラックスしている。今日も異常無し。夜の悪霊浄化もしなくていいという判断が下りた。
「なんかここまで平和やと不安になるわあ。そう思わへん? スセリちゃん」
「そうだね。なんか変な感じ。でも平和なのはいいことでしょ?」
「せやな」
ミホとスセリがパブリックルームで会話をしている。すると、風呂上りのヨシキとシュンがやってきた。
「おいおい。お前ら風呂は入ったのか?」
「入りましたよ!」
「髪の毛少し濡れてるやん! うちら!」
ヨシキの言葉にミホとスセリが反論する。
「そんな大声で言わないでもいいだろう? もう夜なんだから」
「す、すいません・・・」
シュンに言われてスセリとミホはシュンと落ち込んだ。
するとピンポーンと音が鳴る。
インターホンの音だ。
「誰か来たみたいですよ」
「もう夜の八時だぞ?! こんな時間に一体・・・?」
シュンが二階にあるインターホン応答システムに近づく。草薙館のインターホンにはカメラが備え付けてあり、それを見ると男性の姿が映し出されていた。
「はい」
『郵便局です。速達の簡易書留をお届けに参りました』
「はい。お待ちください」
シュンが応答した。
「郵便局だ。速達で簡易書留だそうだ。受け取ってくる」
シュンが階段を駆け下りて配達された郵便を取りに言った。
「でもこんな時間に郵便って・・・」
「確かにな」
スセリもミホもヨシキも不審がっている。
数分後。シュンが郵便を受け取って二階へ戻ってきた。
大きさは普通の大きさの茶封筒だ。茶封筒には草薙館の住所が書かれている。ヤタガラスの特定の誰かに宛てた手紙であるならば、「日本御霊浄化組合御中 阿部スセリ様」というように書かれるはずである。
しかしこう書かれていた。
日本御霊浄化組合 浄化師一同様
どうやら特定の人物に宛てたものではなく、日本御霊浄化組合つまりヤタガラスに送られたものであることが分かる。
送り主を見てみると、なんとも不可思議だった。
「送り主は匿名だ。名前が書かれてない」
シュンが言った。
そんな馬鹿なとヨシキやミホ、スセリが見ても封筒の裏にある送り主の名前が書かれているはずの部分には名前が何も書かれていなかった。
その代わり、送り主の住所らしきものは書かれている。
「どうやら差し出し先はアンギョウ地区のようだ」
住所はアンギョウ地区であることは特定できた。しかし、アンギョウ地区の中でも書かれている住所は適当につけられた番地であったことがわかった。
「手紙の中身は一体どんなことが書かれてるんでしょう?」
「匿名でしかも住所もあべこべ。これを俺たちだけでは開けられない。熱田、金山さんを呼んできてくれ。阿部、お前は大宮を呼んでこい。この手紙の主はヤタガラスに所属する全浄化師をご所望だ。ヤタガラスの浄化師全員で精査すべきだ」
シュンの判断により、ヨシキはヒジリをスセリはサトミを呼びに行った。
夜に速達で届いた謎の手紙が、ヤタガラスを大きな事件に巻き込むきっかけになることになるとは、この時は誰も想像していなかったのである。




