表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
明智大学大学院編
PR
33/130

不思議な心の音色〜Love bell〜

不思議な心の音色〜Love bell〜



 私には家族がいない。

 両親は不慮の事故で他界し、親戚中からたらい回しにされ結局児童養護施設に落ち着いた。そんな過去をもっている。

 運良く里親に引き取られる子も見てきた。しかし私は引き取られることなく、上限の十八歳まで施設で暮らすことになった。

 草薙館の人たちは温かくて私はすっかり忘れていた。

 だけど思い出してしまったが最後。私の心の中にうごめく大きな悲しみは予想以上に大きかったことをすっかり忘れていた。



 スセリは自分の部屋に引きこもっていた。

 スセリには家族がいない。そのことを気にしたことはあまりなかったが、ヤタガラスに所属してからは目まぐるしい日々の中で家族がいないことも心の中に巣食う孤独も知らないうちに忘れていた。

 ヨシキとサトミとミホとシュンとヒジリと一緒にいることがスセリにとっての「普通」になっていたのだ。

 しかしそんな忘却の彼方に飛ばしていた孤独感は予告もなく容赦なくスセリに襲いかかってくる。

 ヤタガラスの労いイベントでしかも家族が来訪するイベントである。全員が家族と離れてシェアハウス形式で共同生活を送っている。必然に家族との会話に花が咲く。

 その中で家族がいないスセリはその場で取り残され、置いていかれる。その瞬間、忘れていた「孤独」を思い出してしまう。

 スセリは唯一残された写真に目を移す。

 写真の中に写る両親と幼いスセリは笑顔を浮かべている。

「どうして私だけ・・・。なんで私だけ・・・」

 スセリはうつむいて悲しみに暮れた。

 するとスセリの部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「阿部。僕だ」

 ヨシキの声がした。しかしスセリは声を出す気力すらなくなっていたため、反応すらできない。すると少し戸惑いがちの声で入るぞ、とヨシキが言う。

 扉が開いてヨシキはうずくまっているスセリを見つけた。

「阿部。何してんだ、立石が探してたぞ?」

「・・・行きたくないです」

「は?! 何言ってんだ?!」

 ヨシキが驚いて聞く。

 何も話したがらないスセリにヨシキが隣に座る。するとヨシキは部屋を見渡す。スセリの部屋のレイアウトはシンプルでかつ所々に可愛い小物やインテリアがちりばめられている。

 壁のハンガーにはヤタガラスの制服が下げられている。

「阿部の部屋初めて入ったが、なかなかいいじゃねえか。大宮も立石も全然レイアウト違うからな。これは面白いな」

 ヨシキはスセリの部屋のインテリアの話をし始めた。とりあえずスセリには触れずたわいもない話を始めた。

 するとベッド脇の小さなテーブルの上にある写真に目が行った。スセリの持つ唯一の家族写真だった。

 スセリに家族がおらず施設育ちであることはヨシキも知っているが、こうして写真を見るのは初めてだった。

「嫌だよな。自分以外の家族が全員来てて自分だけ誰一人としていない。寂しいし悲しいよな。まるで自分だけ置いていかれてるような感覚になる」

 スセリの思いをそのまま言葉にしたように話すヨシキ。スセリはゆっくりと顔を上げる。するとそばにヨシキの顔があった。

「図星だろ?」

「・・・」

 スセリは黙っていた。

 ヨシキはスセリに一言断り、写真立てから写真を取り出した。

 写真の後ろにはスセリの名前に加えてスセリの両親の名前が書かれている。

「阿部タケト、阿部サミラ。これが阿部のお父さんとお母さんか。すごくいい顔してる。本当に阿部のこと大好きだったんだな」

「どうしてそんなこと・・・」

「僕でもわかるよ。写真から伝わってくる。本当に、いい家族だな」

 ヨシキはそう言って写真を写真立てに入れ直して元の場所に直した。すると今まで沈黙を貫いてきたスセリの口がゆっくりと動き出した。

「私、忘れてたんです。家族がいない悲しみも孤独感も」

「忘れてた?」

「この目が覚醒してから私の日常は一変したんです。ヤタガラスのみんなは厳しくも優しくて・・・本当の家族みたいな感じでした。私の親友は過去の私を『憎悪の権化』って言うほどに酷い有様だったんです。知らないうちに私の中に巣食っていた憎悪も孤独も悲しみも劣等感も全部忘れていた。私は今の環境が当たり前のように感じていたんです」

 スセリはヨシキの顔を見た。

「でもふと周りを見ると忘れていたことを思い出して、また胸が苦しくなるんです」

「阿部・・・」

 ヨシキは言った。

「実はな、僕も子供の頃に一時期親と離れて暮らしてたんだよ」

「どういうことですか?」

 ヨシキはスセリに自分の過去を話し始めた。

 まだヨシキが幼い頃に経験した血に濡れた苦く悲しい経験だ。

 まだヨシキが幼い頃に両親と妹が悪霊に襲われ重傷を負ってしまったこと。その第一発見者が自分であったこと。両親ととても幼かった妹が病院で治療を受けている期間、ヤタガラスで保護されてそこでしばらく過ごしていたこと。

 そして、その事件がきっかけで浄化師を志し母親の反対を押し切って浄化師になったこと。

 スセリは興味津々で聞いた。

「だから僕は未だに血が苦手なんだ」

「それは、血を見ると当時の凄惨な現場を思い出すからですか?」

「まあな。最近はわりかし大丈夫なんだけど、前なんかは血を見ると思考は停止しその場から動けなくなってしまうことが多かった。浄化師としては致命的な欠点だけどな」

 ヨシキは笑った。

 スセリはそんなことないです、とスセリは言った。え? と目を見開いてヨシキが聞き返した。

「だってヨシキさんはすごく堂々としていて悪霊浄化もたくさん助けてもらって・・・。私にはヨシキさんが致命的な欠点があるなんて思えません」

「阿部は本当に優しいな」

 ヨシキは笑った。

「それはヨシキさんもじゃないですか?」

 二人は笑いあった。

 悪霊に家族を襲われもう二度と同じ目に遭って欲しくないために浄化師になった熱田ヨシキ。平凡な生活の中で突如として悪霊に襲われ目を覚醒、その目を生かしたいと願った阿部スセリ。

 始まりは違うものの根本の願いは繋がっているような気がした。

「ヤタガラスの奴らも全員が重い過去を抱えているわけじゃないが、みんないろんな思いを抱いてここに集まっているんだ」

「はい」

「阿部。お前は一人じゃない。僕たちがいるから」

 一番言って欲しかった言葉だった。スセリはまた俯いて静かに涙を流し始めた。安堵した涙であることをヨシキは願って静かにスセリを見守っていた。

「熱田先輩に任せてかまへん感じですね」

「そうね。ここはヨシキに任せましょう」

 スセリの様子を見に来たミホとサトミも扉の影から二人の様子を見守っていた。二人はスセリをヨシキに任せてその場から離れた。

 ヨシキは窓から差し込む光を見つめた。


 神様がいたら僕は何度も言う。どうしてこんな残酷な試練を僕に与えたのか。どうしてアカリにあのような呪縛のような傷を残したのか。いろいろなことを責め立てたい。

 阿部、お前も神様がいたら言いたいことは山ほどあるだろう? どうして自分から家族を奪ったのか。どうして親戚中から嫌われたのか。どうして親友に「憎悪の権化」と呼ばれるほどに性格を歪めたのか。

 この世界は本当に残酷で神様は人間に容赦なく試練を与え、そして容赦なく切り捨てる。

 きっと人間っていうのは、継ぎ接ぎだらけのハリボテにすぎないんだ。だからきっとそれぞれの過去を背負って生きていくしかないと僕は思うんだ。


 スセリは泣き疲れたのか部屋でヨシキにもたれかかってスヤスヤと眠ってしまった。



 それから数時間後。

 ヨシキが眠っているスセリを横抱きにして草薙館から出てきた。

「ヨシキ」

「大宮。阿部が少し疲れてるみたいだからテントに寝かしてくる」

「わかったけど、スセリさんは大丈夫だったの?」

 心配そうに見つめるサトミにヨシキは言った。

「阿部は大丈夫だ。ただ今まで忘れていた孤独感や悲しみを思い出しただけだ」

 ヨシキはテントの中にスセリを寝かせた。

「阿部にとってみれば浄化師の世界なんて非日常なんだ。きっと気疲れしたんだ」

「そうよね。私もスセリさんのこと全部知った気でいたけど、まだまだ知らないことが多いかもしれないわね」

 サトミはスセリを優しい眼差しで見つめていた。

 結局スセリはバーベキューパーティーに参加できずにずっとテントで眠り続けていた。目覚めた頃にはもう終わっていた。スセリはヒジリの妻であるナミが作った野菜炒め、ミホの母であるカナミが作ったお好み焼きと言った手料理をお腹いっぱいに頬張ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ