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Dear mermaid  作者: 青山 壇
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episode 6

デルタ社を出た一行は飛空艇の中でお勉強会を始めていた。

テニーとソルは今まであったことを話し、クラリスと母親にクローンがいたこと、

クローンである母親と接触をしたこと、デントという青年と知り合ったことを情報として共有した。


ラグ「なるほど。 つまりまとめると、そっちのクラリスはクローンで、同じように母親にもクローンがいて、そいつらは海に逃げ出したと。 で、これからどうするかを決めるということだな?」


ソル「そういうこと。 んでさ、そっちのクラリスさんは何て読んだらいいの?」


クラリス「この子はマーライ。クローンを作った際に、他のクローンと区別化するために付けられた名なの。博士が、ね。」


マーライ「私は博士にだいぶ気に入られていたからね、マーメイの中には入れられなかったよ。」


ソル「待って、また話が分からなくなってきたよ?」


クラリス「こっちにもいろいろあって、何から話したらいいのか...。」


ソル「そうだろうねぇ。 えっと、クラリスがマーメイで?そっちのクラリスさんがマーライなの?なんで?」


クラリス「マーメイはただの名前よ。私の名前はクラリス・ド・マーメイ。」


クラリスはクスクス笑いながら名を明かす。 ソルはマーメイという名前も区別化するための名前だと思っていたらしい。


ソル「あぁ、なるほど。 で、そちらさんがクラリス・ド・マーライってこと?」


マーライ「そう呼ばれたことは無いけど、まぁ必然的にそうなるね。」


テニー「あの動かなかった子にも名前が?」


ソル「クラリス・ド・なんとか?」


マーメイ「待って、笑わせないでよ。」


マーメイとマーライはクスクスと笑い出す。

このおかしさは身内にしか分からないのだろう。


マーライ「私がクラリス・ド・マーライならあいつはクラリス・ド・マーレイだな。 あいつは失敗作だよ。 作った当初から生命反応しかなかった。 植物人間だよ。」


テニー「植物...ってことは、生きてるってことでしょ?置いてきてよかったの!?」


マーライ「連れてきてどうする? だいたい、あんたがあのカプセル割った時点で死んだようなもんさ。」


それを聞きテニーは顔を真っ青にする。

自分はクラリス...マーレイを助けるどころか生面線を切ってしまったのだ。


テニー「ご、ごめんなさい...。」


クラリス「別に、謝ることじゃないわ。 クローンなんて作っている時点で非人道的なのだから。」


テニー「うぅ、ごめんなさい...。」


ますます青くなるテニーに気を遣うかのようにソルが話題を変えた。


ソル「でもさ、クラリスとマーライって、仲いいよな! ......なんで?」


それ以上先の言葉を考えていなかったソルはとりあえず相手に質問を投げる。

この世で最もひねりのない質問を。


クラリス「アーライは作られてからずっとあのカプセルの中だったわ。 私も母さんのように50体近くクローンを作ったけど、その中でずば抜けて脳波が高かったのがマーライなの。」


マーライ「いったろ?区別化のために名前つけたって。 私は脳波がすごいからマーライ。

あいつは植物だからマーレイって区別したんだよ。」


クラリス「脳波が高いということは勿論研究員全員が把握していたわ。 でも、実際に目覚める事が時折あることは私しか知らなかった。 2人だけの秘密だったのよ。 私たちはアイコンタクトでコミュニケーションをとっていたわ。」


つまりはこういうことだ。

クラリス・ド・マーメイのクローンを生成した際に、50体中2体、反応の異なるクローンがいた。

それぞれはマーライ、マーレイと名付けられ、ずっとカプセルの中に保存されていたのだ。

マーレイはともかく、マーライに関してはカプセル内で時々目を覚ましていたようだ。

それにたまたま気付いたクラリスは研究員に秘密でコミュニケーションをとっていたのだ。

それもそうだ。 クラリスにとって自分はこの実験における被害者だ。

それに加え、マーライに意識があるなどと教えてはマーライがなんの実験に使われてしまうか分からない。

クラリスとしては研究員に正確な情報を与える義理などないのだ。


ラグ「なるほど。じゃあ、マーライの方は俺たちに敵意があるわけじゃないという認識でいんだな?」


マーライ「その心配はないさ。 むしろ鏡を見て欲しいね。」


ラグ「ずっとカプセルの中にいたという割には口が達者だな。」


マーライ「ふん。」


マーライとラグはあまり友好的ではないようだ。

マーライはともかく、ラグは先程からずっとクラリスやソル、テニーに振り回されているためにストレスを抱えていた。


ソル「はいはい!質問! クラリスはクローン以外にも実験されたって言ってたけど、何をされたんですか!」


ソルが間を割って質問を投げかける。

マーライとラグを近づけてはいけないと悟ったのはソルだけではなかった。


クラリス「えぇ、その話ね。 んー...これはとてもややこしくて...。」


ラグ「ファイルがあったんだろう? 何で持ってこなかった?

同じ説明を何度もするより手っ取り早いと思わなかったのか?」


ソル「違うよ、俺たちが見つけたのはお母さんのファイル。」


ラグ「じゃあテニーの方か? クラリスのカプセルの部屋に行ったんだろ?」


テニー「えー?ファイルなんてなかったよー? あの近くにあったのかなー?」


マーライ「あの部屋の奥の部屋にあったよ。」


テニー「えー!? ラんラん何で言ってくれなかったのー!?」


マーライ「知らないよそんなの。 あんたが何者かだって分からないのにんなこと...。」


ラグ「多少頭は回っても気は回らないんだな。」


マーライ「あ?」


テニー「もー!文句あるんだったら今から戻って取りに行けばいいじゃん!まだ間に合うよ??」


飛空艇内の様子はどうもよろしくない。

パイロットであるテニーは行くも戻るも自由である。

二度手間だろうがなんだろうがこのいがいがとした空気を回避できればなんでもよかった。


テニー「で、どうするの? 戻るの?」


手にーがムスっと頬を膨らませて問いかける。


ラグ「戻ろう。それを読めば何もかも、全てが分かるんだ。」


マーライ「読めば分かるなんて量じゃないっての。何年閉じ込められてたと思ってんだ。」


ラグ「お前の説明が不十分だからだろう?」


テニー「戻るって言ってるんだからやめてよ! ラg...もう何でもない!」


テニーは言いかけたものをグッとこらえた。

余計な一言が次の反論を招くと理解したのだ。

テニーは黙ってハンドルをきると、機体は大きくUターンして来た方向へと向き直る。

一方、ラグの一言を気にしていたのはマーライではなくマーメイだった。

この重苦しい空気の中、クラリスはただ縮こまっていることしかできなかった。

静まり返ってしまった飛空艇の中、ソルは誰にも分からないようにクラリスの手をきゅっと握った。

クラリスは少し驚いた様子を見せたが、それ以上は何もせず、己の膝下へと視線を落とした。

お互い目を合わせることもなく、その体温だけで慰めあう。

その最中、ソルはひとり思う。


ソル(クラリスの体、いつも冷たい...。)


****************************************


一行は再びデルタ社へ戻ると、今度は海からではなく正面のエントランスから堂々と中に入っていった。

社内の様子は先程と変わらないが、相変わらず死体の歪んだ表情には慣れなかった。


ラグ「二手に別れよう。 テニーとマーライでクラリスのファイル、俺たち3人で母親のファイルだ。」


テニー「分かった。 じゃ、後でね。」


テニーはそれだけ言うと、マーライと2人でさっさとエレベーターへ乗り込んで行ってしまった。

エレベーターの中でテニーは愚痴をこぼす。


テニー「なんでラグってあんなにトゲトゲしてるんだろ?

昔はあんなんじゃなかったのに...。 それにさ、このチーム分けも気が利かないと思わない?

男手のこと考えてソルとラグが別れればいいのに!」


マーライ「完全に配分間違えたな、あの男。 母親のことは私は知らないけど、とっくの昔に死んでるならマーメイのファイルの方が多いに決まってるだろうに。」


テニー「本当だよね! ......え、ホントに? それ分かってるならなんで言わなかったのよー...。」


マーライ「思い知らせるなら理論より実践だよ。 叩き込ませるなら前もった躾よりも取り返しのつかない絶望を。」


テニー「やだ、ラんラん怖い...。」


そんなこんなをしていると、エレベーターはチンと音を鳴らして扉を開けた。

テニーとマーライは通路へ出て例の実験室へと向かう。


テニー「何か変なにおいしない? こげたような...。」


マーライ「こげたようなにおいなんか嗅いだことないけど、確かに変なにおいするね。」


テニーとマーライは実験室へ入り、奥へ進むとそのにおいの正体に驚愕した。


ソル「燃やされてる...。」


時同じくして実験室にたどり着いたソル達もまたテニーらと同じ光景を目にしていた。

資料室は黒くこげており、スプリンクラーによって消化された後だった。


ラグ「これはどういうことだ...クラリス?」


クラリス「分からない...こんなの、誰かがやったとしか...。」


ラグ「お前が言っていたデントって男じゃないのか?」


ソル「そんなわけない! あいつはそんなことしないよ!」


ラグ「どうだか。元々デルタの社員なんだ。 信用なんかできやしない。」


クラリスと母親の過去を物語る重大な証拠は燃えてしまった。

クラリスの過去はこれからいくらでも聞けるだろうが、母親の過去話に関しては全く、知る由もなくなってしまった。


ラグ「くそっ!だから最初からファイルを持ってきておけばこんなことにはならなかったんだ! この会社にはまだ生存者がいる!」


ソル「あぁ、それは悪かったよ、ホントに...。」


ラグ「はぁ...。きっともう生存者は逃げた、くそ。 この会社はまた蘇るかもしれない。 しかも、海には50体近くの母親がいる。 もう何もかもが規格外だ...。」


ソル「だから、悪かったって。 俺の頭が弱かったよ。 だから次のこと考えようよ。」


ラグ「次のことだと? 何をすると言うんだ?

この広い世界から誰かもわからない生存者を割り当てて殺すか? デントとかいうのを仲間に勧誘したといったな。 そいつだって信じられたもんじゃない。 こんな話するつもりはなかったが、俺は殺したぞ。生き残っていた社員をな。 ソル、お前は昔から甘い人間だった。 何かあればすぐ見ないフリをして...」


ソル「んな話今はどうだっていいだろ!? 昔のこと掘り出したって今何が変わるわけじゃないんだ! だいたい、ファイルがそんな大事か? 今大事なのはクラリスとお母さんのこれからのことじゃねぇのかよ!? 過去なんかもうどうだっていいだろ!?」


ラグ「俺たちはこの会社の隠した過去に対して戦いを仕掛けたんだ。 お前から過去なんかどうでもいいなんて言葉が出るとは思わなかったな。」


ソル「同じ言葉を使っていても意味が全然違」


突然、ソルの言葉を断ち切るかように社内全体でブザーが鳴った。

スライド式のハイテクドアは勝手に閉まり、その更に上にシャッターが降りた。


ソル「なんだよ、何が起きた!?」


カプセルの間をくぐり抜け、ドアまで戻ると両拳で力いっぱいにドアを叩きつける。

天井からは何やら灰色の筒がいくつか伸びてくる。


ソル「ヤな予感...。」


次の瞬間、筒から力強く炎が噴射された。


「っ!」


3人は思わず頭をかばい、姿勢を低くする。 が、このままでは焼ける前に一酸化炭素中毒になって死んでしまう。


クラリス「ソル、ナイフかして!」


そう言うとクラリスはすぐさまソルのポーチからナイフを取り出し、迷うことなくドアに斬りつけた。

すると、小さなナイフで斬りつけたものとは思えないほどの大きな亀裂が一本、綺麗に入った。

クラリスは四角く切れ込みを入れ、もろくなったアルミシャッターを蹴り飛ばすと、ドアごとすっぽりと抜け、穴を開けてしまった。


クラリス「さぁ、早く!」


ソル「それも魔法の力?俺も欲しくなってきた!」


3人は通路へ出るが、出た先も同じように炎が噴射され、階段とエレベーターにもシャッターが降ろされていた。


クラリス「エレベーターはもうダメね。階段から行きましょう!」


クラリスは小さなナイフでシャッターに斬り掛かり、蹴り倒して穴をあけては次のシャッターに斬りかかりと忙しない。


ソル「テニーとマーライは大丈夫かな?」


ラグ「クラリスがもうひとりいるようなもんだ、大丈夫だろ!」


一方その二人はというと、カプセル室に閉じ込められ、テニーに関してはそれはもう騒ぎ立てていた。


テニー「ちょっとぉぉぉぉぉなにこれ!? 普通の会社の設備じゃないわよぉぉぉぉ!!」


マーライ「それかしな!」


マーライはテニーのベルトからリボルバーを抜き取ると、シャッターに向けて発砲した。

筒からは鉛ではなく、赤く光る細かな粒が錯乱して放たれる。

赤い粒はシャッターに当たると直径2センチ程の穴をいくつも開けてしまった。

穴の周りは金属が熱されたときのようにじんわりと赤くなっている。

マーライは更に撃ち込みを入れ、クラリス同様もろくなったシャッターを蹴り、人が通れるサイズの穴をあけてしまう。 2チームは自力で通路を作り、真っ直ぐエントランスへと向かう。

先にエントランスへ到着したのはクラリス、ソル、ラグの3人チームだった。

しかし、エントランスにも炎が噴きつけられ、身動きも取れない程に大火事になってしまっていた。


クラリス「2人は!?大丈夫なのかしら!?」


ラグ「この様子じゃあまり待ってもられないぞ!」


ソル「じゃあ探しに行けばいいだろ!」


ソルが走り出した瞬間、西通路の奥のシャッターから火花が散り、例のごとくシャッターに穴をあけてテニーとマーライが出てきた。


ソル「テニー!」


テニーはソルの掛け声に気付くとマーライの手を引いてエントランス目掛けて全力で走る。

無事に合流できた5人はそのまま出口へと走り、エントランスと外との境界線である最後の砦を破りにかかる。

が、今までのシャッターとは違い、とても頑丈な防火壁は小さなナイフ1本では刃が通りそうになかった。


マーライ「マーメイ!」


マーライはクラリスに自身が使っていたリボルバーを投げつける。

クラリスはそれを空中で受け取ると、素早く銃を構え、両足を開いてがっしりと立った。


クラリス「みんな、離れて!」


一同は後ろへ下がり、距離を取る。

が、クラリスは銃を構えたまま動こうとしない。


ソル「...え、何してんの、クラr」


言いかけた瞬間、クラリスはリボルバーの引き金を引き、その細い筒から出たものとは思えない程の太い光線を放った。 若干赤みを帯びたその光線に当たった床は削れ、防火壁にはぽっかりと穴があいた。 身長2メートル越えの人間でもすんなり通れそうな大きな穴だ。


クラリス「さぁ、行きましょう!」


一同は唖然としながら外へと出て、クラリスの後を追う。

外から会社を見てみるが、降りたシャッターのおかげでいつもと何ら変わりない会社のように見えた。


ラグ「そのうち炎がこの会社をまるごと焼き尽くしてしまうだろう。 この近くの建物も無事では済まないな。」


ソル「もう、ここにいてもしょうがない。 行こうぜ。」


そう言うと一同は近くに停めておいた飛空艇に乗り込み、今度こそデルタ社を後にした。

飛空艇に乗り込んだはいいものの、マーライはひどくぐったりとしてしまっていた。


クラリス「マーライ、大丈夫?」


マーライ「あんたと違って...特別魔法の訓練を受けていたわけじゃないんだ...。 腕の痺れがひどいよ。まったく...。」


テニー「あの銃、やっぱり魔法の銃だったんだね。」


クラリス「えぇ、私がトレーニングの時に使っていたものなの。 みんなも魔法が使えるようになったら、これも商品化されるんじゃないかしら。」


クラリスの使っているリボルバー銃は魔法と合わせて使える魔法銃だ。

外見こそ普通の銃と変わらないが、機能性は使い手によって変わるので、その可能性は無限と言えよう。

もちろん実弾も使用できるが、実弾よりも魔法の方が断然威力が高いというのがファンタジーの不思議なところだ。

この銃の特徴は、リボルバーで威力が決まるところだ。

リボルバーに開いた穴は6つ。

魔力を込めると穴が埋まり、埋まった穴の数が多いほどその威力も上がる。

先程クラリスが放った一発は4つ分。

マーライが放った弾は穴一つ分を散弾にしたものだ。


ソル「へぇ、いいなーそれ。さっき俺のナイフも巧みに使ってたし、魔法ってなんでもできるんだな!」


ソルがそう言っているすぐそばでは、ラグが不機嫌そうに座っていた。


ソル「ラグ、まだ怒ってるの?」


ラグ「別に怒ってはいない。 次どうするか考えていただけだ。」


テニー「そうだ、結局クラリんの実験のこと、分からなかったね。 ほかの事ってなんだったの?」


飛空艇の中では再びクラリスの過去話になった。

クラリスは一息つき、ゆっくりと口を開いた。


クラリス「私のクローンは私の中に入っているという話よ。」


テニー「どういうこと?」


クラリス「私の心臓は少し改造されているの。 ここからはあまりいい話ではないわ。」


クラリスにはクローン実験に加えてもう一つ、デルタの社員によって実験が施されていた。

クローン実験と併用した実験ではあるが、それはあくまで個人の実験だった。

デルタの研究員たったひとりによって行われた実験。

その内容を知るのはその研究員とクラリス、たった二人だけだ。


ソル「キャンプに着くまでまだ沢山時間あるし、聞かせてよ。」


クラリス「...そうね。あなたたちにはデルタのやってきたことを知ってもらいたい。」


ここから先はマーライも知らない話だ。

一同は視線を落とし、クラリスの口が開くのを静かに待った。

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