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Dear mermaid  作者: 青山 壇
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episode 5

クラリスを連れて歩いていたテニーはふと時計を見た。

あと20分。 集合時間までまだ少しある。

今は剣を向けられていないので、先ほどよりは気楽に歩いていた。

クラリスの方は剣を持っているものの、どこか別の所を見ながら歩いている。

こちらにはあまり興味はなさそうだ。

今なら何か聞き出せるかもしれないと考えたテニーは、思い立ったらすぐ行動するタイプだ。

いつもの調子でクラリスに話しかけた。


テニー「えーっと。 マーメイ?はあなたのお姉さんなの?」


クラリス「さぁ、何て言うんだろうねぇ。」


テニー「あなたの名前はなんて言うの?」


クラリス「マーメイに聞いてみな。」


テニー「えーっと...。 あなたたちは3つ子...なのかな?」


クラリス「さぁ、数はどうだったかな、忘れた。」


とてもやりにくかった。

何一つまともに答えが返ってこないのだ。

どうしたものかと考えていると、テニーは歩くのをやめて急止した。


クラリス「っ、何さ。」


つられてクラリスも止まると、テニーは近くに転がっていた女性研究員へ近寄った。


テニー「あの、あなたが良ければなんだけど、靴、履く?」


クラリス「靴?」


テニー「ちょっと、ご遺体さんのお靴をお借りして...。」


クラリス「あぁ、そういうこと。」


そう言うとクラリスは自分で女性研究員の靴を脱がし、裸足の足をすっぽりと入れた。

若干ヒールの高い靴だ。


クラリス「なにこれ、歩きにくい。」


クラリスは慣れない足つきで脱いだり履いたり歩いたり。

カツカツとヒールの音を響かせながら自分のペースで歩き始めた。

それを見て歩いていたテニーは思わず吹き出してしまった。


クラリス「...何よ...。」


テニー「だって、クラリんはヒールの高い靴でも綺麗に歩くのに...顔も髪型も同じだからおかしくって...。」


言葉に笑いを交えながらテニーは肩を小刻みに揺らす。

クラリスはそれが気に入らないようで


クラリス「うるっさいなぁ...。 マーメイの方が能力が上なのは当たり前のことでしょ?」


相変わらずクラリスが何を言っているのか分からなかったが、少しお近づきになれた気がした。


テニー(この人、悪い人ではなさそうだなぁ)


テニーはクラリスの見えないとろこでふと笑うと、自分のペースで歩き始め、そして


クラリス「ちょっと、少しは気を遣え!」


クラリスは不自然な小走りでテニーについて行った。


*******************************************


ソルに強く抱かれたクラリスは次第に落ち着きを取り戻し、呼吸を正常に戻していく。

クラリスはもう大丈夫というサインを含めてソルの服をぎゅっと掴んだ。


ソル「ごめん、クラリス。 俺、何もできなかったよ...。」


クラリス「違うの...。 この人はきっと、私の母さんじゃないんだわ...。」


ソル「それは、どういうこと?」


クラリス「きっと、私と同じことをされたんだわ。 多分、この辺に母さんを監禁していた実験室があると思うの。 カプセルがたくさん置いてある部屋があったら、きっとそこだわ。」


ソル「クラリスは一体、何をされていたの?」


クラリス「話すと長いの。 追々説明していくわ。」


混血ということを利用した魔法の実験の他にも何かいじられていたようだ。


ソル「分かった。 まだちょっと時間もあるし、その部屋を探そう。 お前も来るよな?」


そう言うとデントの方を見る。 デントは先程から2人が何を言っているのかが分からず、おずおずとしていた。


ソル「この会社が自分の知らないところで何をしていたか、知りたいと思わないか?」


デント「...そうだな。 会社がこうなった理由が分かるわけだ。」


クラリスとソルは立ち上がり、改めて母親の方に目を向けた。

濡れた髪は体にへばり付き、頭には穴があいているために、あまり綺麗な姿ではない。

これが海の中で悠々と泳ぐ姿だったら美しかったのだろうか。


ソル「どうしよう、遺体は持って帰ったほうがいいのかな?」


デント「この会社の惨事の重要な証拠になる。 俺が後で回収しておく。」


ソル「いいや、それはダメだ。 もうこの会社には渡さない。」


クラリス「きっと、社長も死んでるわ。 この会社はもう終わりよ。」


クラリスは静かな声で言う。 この会社自体はどうでもいいといった態度だ。


ソル「お母さんはまた後でここに来て、その時持っていこう。 まずは部屋を探そうか。」


デント「待て、社長の安否も気になる。」


クラリス「社長室はこの建物の最上階よ。 そっちから行ったほうが早そうね。」


クラリスはそう言いながらエレベーターの呼び出しスイッチを押した。


クラリス「ここのスタッフは全寮制で監禁されているようなものだから、外へ出張なんてことはしないでしょうし。 全滅したと考えていいんじゃないかしら。」


クラリスの態度がおかしい。

母親を失い、もう失うものなどないと投げやりになってしまっているのだろうか。

いやしかし、先程クラリスは‘母親じゃない’と言った。

あれは一体どういうことなのだろうか。

考えていると、エレベーターがベルのような音を鳴らして扉を開けた。

3人はエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。 この会社のエレベーターはとても速く、あっという間に最上階へ着いてしまった。

流石に社長のいるフロアとなると重圧が違った。

落ち着いた雰囲気に高級そうなオフィスカーペット。壁には絵画が掛けてある。

少し歩いていくと、‘社長室’と書いてあるプレートが埋め込まれているドアに至った。


デント「俺が行く...。」


デントがドアをノックし、恐る恐るドアを開け、中を覗いてみる。

サッと中へ入り、20秒ぐらい経って出てきた。


デント「駄目だった。 本当に全滅なんだな...。 この会社はもう駄目だ。 ...行こう、その実験室とやらに。」


3人は再びエレベーターに乗り込み、適当にボタンを押し、しらみつぶしに探すことにした。


クラリス「多分、壁にタッチパネルが埋め込まれている部屋がそうよ。 壁と同じ色をしているから、見落としやすいんだけど...。」


それを聞き、2人はまじまじと壁を見ながら部屋を探す。

そうして探し続け、そして


ソル「あった!あれじゃないか?」


タッチパネルのある扉のまわりは今まで見たどのフロアよりもぬめりとウロコがひどく、多少血も混ざっていた。


ソル「パスワードみたいなの、分からないけど...どうすればいい?」


デント「こいつがあるさ。」


そう言うとデントは銃を取り出し、パネルに向かって発砲した。

テニーの時と同様、パネルは電気の走行音を立てるとドアロックシステムを解除した。

扉を開け、3人は中に入ってゆく。


そこにあったのはクラリスの言った通り、カプセルだ。 数もそこそこある。

綺麗に並べられたカプセルはみな割れ、中に入っていた液体で床全体が濡れていた。


クラリス「やっぱり...。」


クラリスはそう呟くと部屋の奥へと入っていった。

奥にはもうひとつ扉があり、クラリスはその中へとさっさと入ってしまう。

2人は追いかけて扉を開けると、そこにはファイルが大量に置かれていた。

棚に納まりきらないファイルは机の上にぶちまけられていた。

クラリスはファイルの項目に目を通すと、棚から1冊のファイルを取り出し、パラパラとめくりながら口を開いた。


クラリス「あのカプセルは、クローンを作るためのものなの。 ぬめりやウロコの量を考えて、あれは母さん一人のものじゃないわ。」


ソル「クローンだって? この会社はそんなことまでできたのか...。」


クラリス「この会社は実験結果を快く世間に公開するような会社じゃないわ。それはマーメイドの歴史を知っている貴方もよく知っているはず。 クローン生成は私も受けたわ。 そして、それを命にする実験も。」


デントはもちろん、ソルもクラリスの言っていることは理解できなかった。

クラリスの声色の洗脳能力を利用し、会社に対する信者と定期的な資金収入を得ていたのは知っていたが...。

クラリスが魔法を使えること、クラリスの母親がいた事、クローン実験のこと、自分たちは何一つ知らなかった。

この計画実行に至るまで、自分たちは仲間の命を失ってまでもこの会社の調査を進めてきた。

ほとんどのことは把握しているつもりだったが...。それはあまりにも浅い情報だった。

裏のそのまた裏でそのような事が行われていただなんて思いもしなかった。

ソルは自分たちの小ささを知った。

今こうしてクラリスを手元に置くことはできたが、その他に自分たちは何ができただろうか。

目の前で殺してしまった母親がクローンだったとしても、助けられなかったという事実に変わりはない。

関わる命は自分たちの命だけだと思っていたが、それはあまりにも浅はかな考えだった。

責め苛むべきデルタ社は死んだ。

こうなってはマーメイドの存在を世に明かしたところでただの驚異にしかならないだろう。

いま自分にできること。 考えたが、もう何がいい方法なのか分からなかった。

そもそも何に対するいい方法を考えているんだ?

分からない。何をすべきなのかも。

とにかく今はただ、クラリスと母親がこの会社に何をされていたのかを知ることしか...。

ソルが一人で考えている間にもクラリスはファイルから目を離さなかった。

そして呟いた。


クラリス「母さんは死んだんだわ。」


ソル「え?」


クラリスは自分の見ていたページをそのまま2人に見せ、指差す。

そこに書かれていたものは

「○○年○月○日 被検体:ヘラル・ド・マーメイ 死亡」


クラリス「この年は私が10歳だから、ここに連れてこられた年。 あまり覚えていないけど、たしかここに連れてこられたのはこの日の3ヶ月くらい前。 クローンだけ作ってオリジナルは死んでしまったんだわ。」


ソル「そんな...。今までお母さんのために頑張ってきたようなものなのに...。」


クラリス「この会社はそういう所よ。私と母さんを手に入れるために、父さんまで簡単に殺してしまうんだから。」


ソル「...分かったかよ、この会社はそういう所だ。」


ソルはデントに押し殺した声で言う。


デント「そんな、信じられない...。じゃあ、クラリスが今まで歌っていたのはなんだったんだ...?」


ソル「マーメイドの声色だ。 洗脳能力で信者と金を集めていた。 お前、客の様子とか見ておかしいと思わなかったのか?」


デント「さぁ、俺には普通に見えたが。」


クラリス「私は観客だけ洗脳するなんて高度なテクニックは持ち合わせていないの。 音なんて皆聞いてしまうでしょう?」


デント「...俺も洗脳されていたのか...?」


次から次へとあらわになる信じ難い事実にデントは同様を隠せない。

今日突然「あなたは洗脳されています」と言われたって信じられるわけがないのだ。


クラリス「ごめんなさいね。騙していたわけではないの。」


デント「分かってるさ。 この会社に利用されていただけだ。」


デント箱の会社の裏を知り、徐々に受け入れてきている。

ソル達から言わせれば、正気に戻ったというところだろう。

今ならいけると踏み込んだソルはすかさず行動に出る。


ソル「デント、だったな。お前、俺たちとこないか?」


デント「何?」


ソル「俺さ、実はここの研究員でもなんでもないんだ。 怒らないで聞いて欲しいんだけど、ついさっきテロを起こしてクラリスを連れて行ったのは俺だ。」


まさかの告白にデントは目を丸くする。

自分とそう年の変わらないソルがテロ犯だと言うのだから、人の人生とは年だけでは計り知れない。


ソル「俺はこの会社からマーメイドの混血であるクラリスを助けるためにテロを起こした。

騒ぎがでかくなったことは謝るよ、ごめん。 お前、クラリスを守るガードマンだろ?

助けるも守るも似たようなもんだし、この会社ももう終わったようなもんだし...。

一緒に来てくれると嬉しいなって。」


デント「確かに俺にはもうこの会社にいる理由はないが...。

俺が行ったところで何をするつもりなんだ?」


ソル「この会社の中をいろいろ見て回ってやっと辻褄があったんだけど...なぁ?」


ソルは頭を掻きながらクラリスを見る。

クラリスも同じことを考えていたようで、全て分かっていると頷いてみせた。


クラリス「ここに閉じ込められていた母さんのクローン達は、社内を徘徊したあと、海に出たわ。

潮の香りをたどって社内の船着場を見つけたのね。 カプセル数からして、クローンの数は50ってところかしら。

さっき社内に残ってた一人を除いてあと49体。

そこまでは分かっても、どうしてあのクローンが逃げ出したのかまでは分からないわね。」


デント「ちょっと待てよ!それってつまり、まだこの会社内にいる可能性もあるってことだよな!?」


クラリス「そうね、否めないわ。」


デント「冗談じゃない!あれはクラリスの母親で間違いないんだろう?次見かけたら...。」


事の重大さを理解したデントはここまで言いかけておずおずとクラリスを見る。

クラリスはその先のことも理解し、決意もとっくだった。


クラリス「殺して構わないわ。あれは母さんじゃないもの。私の母さんは死んだのよ。 亡霊は排除するわ。 一匹残らず。」


とても歌手をやっていた女の子の発言とは思えない。

クラリスは逃げた母親のクローンを一人残らず始末しようと言うのだ。


ソル「クラリス、本気か!?」


クラリス「本気よ。 だって、マーメイドが海に逃げて、これから世界中に広がっていくのよ!?

大人しく海で生活していくとは思えないわ。 これから人間の死人がたくさん出てしまう!」


ソル「でも...でもさ!」


クラリス「人間とマーメイドは共存はできない。」


それを聞いたソルは言葉を失ってしまった。

クラリスがこの会社の人間と同じことを言っている。

それはクラリスがこの会社の洗脳を受けてしまっているようで、見ているのが辛かった。

同時に苛立ちを覚える。 しかしソルはまだ冷静でいた。

共存はできると信じていたからだ。

それにははっきりとした確証があった。


ソル「でもさ...クラリスは今こうしてここにいるんだぜ?」


クラリス「...何?」


ソル「クラリスはさ、だから...人間とマーメイドの愛の結晶だろ? 共存できるさ。俺はそう思う。」


その言葉を聞き、クラリスは静止する。

母親と父親の仲睦まじい記憶が蘇る。

しかし、愛していた両親はもういない。

世界には偽物の母が散らばっている。それが許せなかった。

人間が危ないなどというのはただの口実だった。

違う母親を見たくないが故の口実。 いくら姿が同じとはいえ、今の自分なら迷うことなく殺せる気さえしていた。


クラリス「ソル、私はね...。母さんの姿をしたあれを見たくないの。

あれがいて良いことなんて無いのだから、それなら...。」


ソル「俺だって、クラリスが自分のお母さんを何人も殺していくのなんか見たくないよ...。」


クラリス「ならどうすればいいの? マーメイドが世間を騒がせるのをただ見て生きていればいいの?

そんなの、、忘れたくても忘れられないじゃない...。」


ソル「1人じゃなくてさ、みんなで考えようよ。

一度キャンプに戻ってさ、改めよう。

何かいい方法が見つかるかもしれない。」


クラリス「私...まだ着いていっていいの...?」


ソル「当たり前だろ! まぁ、良い言い方が見つからないんだけどさ...。

クラリスはもう、帰るところがないだろ? このままキャンプ民になっちゃいなよ。

いや、クラリスが良ければだけどさ、俺たちは歓迎するぜ!」


どんどん話は変わっていってしまうが、何かと良い方向に流れていくのがソルのいいところである。

元々キャンプ民はクラリスを助けると全員で意志を固めた集団である。

クラリスがキャンプで生活するなんてことはむしろウェルカムと歓迎するだろう。

それに加えてキャンプ民には手が足りないでいた。

クラリスという若い女性は人手としても欲しい人材なのだ。


ソル「な!デントも是非考えてくれよ!」


デント「お、俺も?」


ソル「勿論! 別に、彼女とかいるわけじゃないんだろ?」


デント「こいつ...。」


ソルが冷やかしをいれ、なかなか雰囲気が良くなってきたその時、ソルは部屋のドアの隙間から白い布を垣間見た。

それは白衣だとすぐ分かった。 生存者だ。

何者かがいつからかそこに立ち、自分たちの会話を聞いていたのだ。


デント「どうした?」


ソルはデントに目だけを合わせると、黙ってドアへと近づいていった。

すると、向こうもタダ事でない雰囲気を感じ取り、走って逃げ出してしまった。


ソル「待て!」


ソルはドアを開け放ち、白衣を追いかける。

事を理解したクラリスとデントもソルについていくように追いかける。

しかし、白衣の逃げ足はとても速く、その距離はどんどん開いてしまう。


ソル「クラリス!魔法であいつの動きを止めてよ!金縛り!」


クラリス「できないわよそんなこと! 魔法はサイコじゃないのよ!」


そう言いながらもクラリスは手に魔力を集め、青の光を白衣に向かって投げつける。

が、白衣は角を利用し、うまく逃げてしまう。

投げた青の光は曲がり角の壁に当たり、弾けた光は一瞬で氷へと姿を変えた。

壁から結晶が生えてきたかのように出来上がった氷は更に質量と面積を増やしてゆく。

ある程度まで大きくなると、氷はぴたりとその成長を止めた。

3人は氷の位置までたどり着くと、すかさず角から身を乗り出し、通路を見るが、すでに白衣の姿はなく、早くも見失ってしまった。


ソル「くそ! 逃がした...。 ......あ、さむっ。」


氷の傍で身震いし、改めて氷を見る。

手から放たれた光はしっかりと冷たい本物の氷になっており、魔法の神秘さを感じさせられた。


ソル「すっごいな...。じゃなくて、あいつ、まだ探せば見つかるかな? あ?今何時だ?」


デントはすかさず自分の腕時計を確認し、16時10分だと告げた。


ソル「集合時間5分前だ。 一旦エントランスに戻ろう。 デントも来るか?」


デントは少し考えたあと、ソルに目を合わせて口を開いた。


デント「俺は腐ってもこの会社のガードマンだ。 俺はこの会社の社員の生存者を守らなくてはならない。

さっき一人、生存者を見つけてしまったからなぁ...。」


そこまで言うとデントとソルはニヤリと口角を上げ


デント「俺が責任を持って保護しなくちゃな!」


ソル「仕事熱心だな、将来有望だ! 頼んだぜ、デント。 後でどこかで落ち合うか?」


デント「いや、先にキャンプへ帰れ。 俺はあの研究員搜索と...ついでにあの部屋の資料に目を通しておこうと思う。

お前らの拠点を教えてくれないか?」


ソル「あぁ。 でもキャンプだから、所々移動しちゃうんだ。

よくテントをはる場所をリストにして渡しておくよ。 えっと、紙とペン...。」


デントはスーツの胸ポケットからメモ用紙とペンを取り出し、ソルに渡す。

ソルは受け取ったメモ用紙にサラサラとペンを走らせた。


クラリス「デント...。」


デント「クラリス、あの母親は俺に預けてくれないか? 海にでも返しておこう。」


クラリス「うん...ありがとう、デント。」


ソル「ほら。 俺たちはいつもこの15ヶ所くらいのことを回ってるよ。」


デント「なるほど。あまり広く移動はしていないんだな。 分かった。」


ソル「待ってるぜ。 じゃ、またそのうちな! 行こう、クラリス!」


クラリス「えぇ。 デント、待ってるね!」


デント「あぁ。」


2人は微笑み合って言葉を交わすと、ソルはクラリスを連れてエレベーターに乗り込み、エントランスへ真っ直ぐ降りていった。


デントはエレベーター扉の上にある階数を示すランプが2階に点灯したのを確認すると、まずは白衣の捜索から始めた。

階段で移動し、フロアの隅々まで探してみるものの、この馬鹿でかい会社からたった一人を見つけ出すのは至難の業だ。

それでいて相手は研究員である。 初めてこのフロアに足を踏み入れた自分とは違い、相手にとってここはテリトリーも同じだろう。

明らかに部が悪いのはこちらだが、研究員一人見逃した所で大した相手ではない。

この会社が行ってきた悪行の証拠は全てあの部屋にあるのだ。


ん、証拠?

もし自分が研究員を探している間にあの証拠を燃やされでもしたら大変だ。

デントは白衣捜索を中断し、先程のファイルの部屋に戻ろうと、近くにあった階段を登ろうと足をかけた、その瞬間。

いつの間にか自分の体は階段の上に倒れ込んでいた。

みぞおち辺りから垂れ流れてくる生暖かいぬめり。

服の上から触れてみると、指先には血がついていた。

撃たれたのだ。

自分が撃たれた方向を頭だけ動かして見てみると、そこにはスーツでもない、白衣でもない格好の男が銃をぶら下げてたっていた。

この会社の者ではない。まさか、ソルの仲間か?とにかく事情を説明しなくては。

もらった拠点のメモ用紙を取り出そうと胸ポケットへ手を突っ込むと、紙を取り出す前に今度は頭を打ち抜かれてしまった。


ラグ「生きている奴がいるなんてな。油断ならないな。」


ラグはそう呟くとソル同様、近くのエレベーターに乗り込みエントランスへ降りていった。

そしてその場には誰もいなくなる、はずなのだが、そこにはまだ人影があった。

その一部始終を見ていたのは例の白衣だ。

白衣を着た男はデントが取り出そうとしていた紙を探り取り出した。

そのメモ用紙に目を通すと、無造作に白衣のポケットに突っ込み、再び社内に消えた。


ソルとクラリスの乗っているエレベーターがエントランスの2階につき、自動的に扉が開くと、その先には既にテニーとクラリスが待っていた。


テニー「あ、ソル...と、クラリん!! 見つかったんだね、よかったー!」


元気なのはテニーだけだ。

ソルはこの場にクラリスが2人いるという事態に言葉を失い、目を見開くばかり。


テニー「この子ねー、クラリんのクローンなんだって。 もうひとり同じ子がいたんだけど、

その子は作った当時から動かなかったらしくてね、仕方ないから置いてきちゃった。」


正に尋問のプロである。

何も答えようとしなかったクラリスに諸事情を全て吐かせたのだ。


ソル「そういや言ってたな、クラリスもクローン作ったって...。

くっそー...この1時間でだいぶ物知りになったと思ったのに、テニーもかよー...。」


そこへラグも到着し、ソルと同じようにクラリスを見て固まる。

ソルとテニーは自分たちの方が明らかに物知りになっただろうと顔を見合わせ、笑い出した。


ラグ「お前たちはだいぶデカい収入があったようだな...。

さ、誰かこの状況を説明してもらおうか?」


ソル「もうこの会社に用はないな。話は飛空艇の中でしよう。

だから、今は帰ろう。」


ラグ「おい待て、その...もうひとりのクラリスは双子か何かか?」


ソル「それもあとで話するからさ、とりあえずキャンプに連れて行こうぜ。

クラリスなことには変わりないさ。」


ラグ「...いいだろう。早く帰ろう。」


こうして一同は乗員を1人増やし、墓場と化したデルタ社を去るのだった。


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