episode 4
ソル「いってー...。 さっきの言葉、ラグに聞こえてなきゃいいけど...。」
ソルが転んだことにラグは気付いているのか否か。
ともかくクラリスを捜索していたソルは進展を見せることなく相変わらずウロコを追って走り続けていた。
しばらく走っていると、ハンガーのマークが書かれた小さなドアを見つけた。
どうやらロッカールームのようだ。
ソル「あ、いいこと思いついた。」
ソルはロッカールームへ入ると端から一つ一つ見て回り、鍵のかかていないロッカーを探した。
盗まれても困らないものしか入れないような人間は鍵を持ち歩くのも渋るようになる。
そう踏んだソルは一つぐらい開いているロッカーがあるだろうと丹念に探し、そして探り当てた。
ソル「お、やっぱあった! 無用心だなぁまったく。」
ロッカーを前回に開き、ソルが取り出したのは一枚の白衣だった。
これ研究員に成り済まし、生存者に見つかっても味方のふりをしようという魂胆だ。
白衣を羽織り、クラリスの捜索を再開しようとロッカールームの扉を開けた...ところに‘バァン’と派手な音が鳴った。
なんだなんだと開けたドアの裏側を覗き見ると、そこにはクラリスが額を押さえてうずくまっていた。
ソル「え、あ? なんか、ごめんね! でも見つかってよかった!」
クラリス「あっ!...。」
あいたドアにぶち当たったのはお目当てのクラリスだった。
クラリスはそれが恥ずかしかったのか、ソルの存在に気づくと顔を赤らめてうつむいてしまった。
ソル「クラリス。もうここにお母さんはいないよ。この会社を見て分かるだろう?」
クラリス「いたの!」
ソル「なんだって!?」
母親は逃走したと思っていたので、クラリスのまさかの返答に目を丸くする。
もしもこのまま何も知らないで母親に鉢合っていたら、ここの社員と同じ運命を辿っていただろう。
ソルは一人、顔を青くした。
クラリス「遠目にだけど、水色のヒレが曲がり角を曲がったのを見たの! でもすぐに見失っちゃって...。呼んでも全然見つからなくて...。」
ソル「よ、よし。とりあえずお母さんを探そう。テニーもラグもこのことを知らないから、2人よりも早く見つけなくちゃならない。 えーっと...。クラリス、時計持ってる?」
クラリス「いいえ...。」
コンサートホールからドレス姿の主役を連れ出しておいて‘時計持ってる?’と質問し出すソルはいつもに増して頭が回っていないようだ。
ソルは再びロッカールームを覗き、壁に掛けてあった時計を確認すると、クラリスの方へ向き直り、ひとまず息をついた。
ソル「ふぅ...よし。 2人との約束した時間まであと25分ある。 25分後に一応現状報告として、一旦エントランスに戻らないといけない。 お母さんが見つからなくても、時間がきたら俺と一緒にエントランスへ来てもらう、いいね?」
クラリス「えぇ...。」
ソル「よし。じゃあ、それまで一緒に探そう。 クラリスはもう別行動なし! みんな心配するから、ね?」
クラリス「えぇ...ごめんなさい...。」
クラリスは親に叱られた子供のようにしゅんと肩を落とす。
しばらく走り回り、母親を目にしたことで逸る気持ちが少し落ち着いたようで、いつもの大人しさを取り戻していた。
ソル「しかし、見失ったなら手がかりが無いのと同じだな。 適当に探すか...。」
そう言ってソルが歩きだそうとした瞬間、上の階でバタァンと大きな音が鳴り響いた。
2人は顔を見合わせると、階段めがけて走り出した。
初めて見る本物のマーメイド。 興奮状態にあるだろう母親は一目人間を見て声をあげるかも分からない。
いくらクラリスがついているとはいえ、クラリスも見た目は人間である。
それに加え、最後に見た姿がクラリスが10歳の時だと言うのだから、母親がクラリスを認識するかさえも危ういところだ。
目の前に死が待っているかのような緊張感。 階段を1段1段踏み、つばを飲む。
とうとう最後の一段を昇り、壁に這い寄り頭だけ出して通路を覗く。
が、母親らしい影はなく、相変わらず死体しか転がっていなかった。
この辺の死体はエントランスの黒いスーツ達と真反対の白衣の死体が多く転がっていた。
ソル「なんだ、この階じゃなかったのか?」
とはいえ通路は1本道ではない。T字路に十字路にとがあるぐらい1フロアは広いのだ。
ソルとクラリスは自然と腰を落とし、音を立てないように歩き始める。
静かに歩きながらソルは先程羽織った白衣を捲り、ベルトにくっついているポーチを開け、中に指先を突っ込んだ。
しかし中から何かを取り出すわけでもなく、指を突っ込んだそのままの体制で歩き続けている。
クラリス「ソル、何を...。」
ソル「あぁ、これ? 投げナイフ。」
クラリス「そんなこと...!」
ソル「お母さんには投げないよ! あの音を立てたのはお母さんとは限らないと思ったんだ。 もしもの時のためさ。」
クラリス「そう...。 投げナイフなんてできたの?」
ソル「まぁね。 一時期サーカス団でアルバイトをしていた事があってね。 テニーとラグと3人で。 こういう時のために何本か持ち歩いてるんだよ。」
普通だったらサーカスでアルバイトなんかできるのかと聞くところだが、クラリスは違った。
クラリス「サーカスって何?」
ソル「えーっと...。 今度連れて行ってあげるよ。 だから、お母さんと一緒に帰ろうね。」
クラリス「......うん...。」
ソルはクラリスからそんな質問が飛んでくるとは思っていなかったが、クラリスの方もソルからそんな返答が来るとは思っていなかった。
クラリスにとってこんなに自分に優しくしてくれる人は初めてだった。
決して社内で雑に扱われていたわけではないのだが、自分に食事を与えてくれるのも、守ってくれるのも仕事上のものであり、人情ではないのだ。
母親がマーメイドということもあって、小さい頃から人と触れ合うことのなかったクラリスにとって、今回のソルの何気ない一言が嬉しくてたまらなかった。
クラリスは心底ナイフのことに突っ込んでおいてよかったと思いながら、自然に上がってくる頬を隠そうと抑えた。
しかし今はある意味命のかかった状況下である。
2人は余談から気持ちを切り替え、、曲がり角にさし当たる度に顔だけをぴょこりと出し、母親、ないし社員の姿を確認した。
ソル「いない...。まだ上の階だったのかな?」
そう言いながら歩いていると、何かの手がソルの足首を掴んだ。そして...
ソル「いやぁ!!!!」
と、妙な声をあげた。
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別行動をとったラグは各部屋の中を簡単に見て回っていた。
クラリスどころか動く者すらいない状況にラグはため息をついた。
ラグ「まったく、大人しい顔して勝手な女だ...。」
まったく進展しない搜索に苛立ちを覚えてきたラグは、ふと転がっていた死体に目を向けた。
スーツの男の死体。 見たことがあった。
たしか、クラリスをコンサートホールから連れ出した際に騒いでいたガードマンの中にいた。
ガタイが良く、頭はスキンヘッドなのでなんとなく覚えていた。
今となっては覚えていた姿とは全く違う、悲痛な姿になっているが。
ラグ「こんな少人数相手に、役に立たないガードマンだったな。 こんな代物ぶら下げておいてさ。」
そう言って手に取ったのは、ガードマンの腰にくっついていたオーソドックスな拳銃だった。
ラグは中の弾を確認すると、再びため息をついてクラリス搜索に戻った。
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首に剣を当てられ、身動きがとれずにいたテニーは静かに両手を挙げた。
テニー「変なことはしないから、お願い。 斬らないで...。」
「その腰にくっついてるものも危ないね。」
剣を当てながらテニーのベルトに挟まったリボルバーを器用に抜き取った。
「なにこれ、弾が入ってないね。」
テニーはある違和感に気づいた。
トーンこそ低いものの、先程まで聞いていた声ととてもよく似ている。
テニーは恐る恐る、ゆっくりと後ろを向いた。
テニーの目に飛び込んできたものは、正にその違和感を具現化してくれるものだった。
クラリスが立っているのだ。
濡れた裸にどこからか剥ぎ取ってきたであろう、血のついた白衣1枚を羽織っている。
テニー「あなた、クラリス...?」
クラリス「クラリスって、やっぱり有名人なんだ? で、あんたは誰? 何しに来た?」
テニーの首筋に刃を押し当てたままクラリスは問いかける。
テニーはとにかく相手を刺激しないようにと、言葉を選んで口を開く。
テニー「友達を見失っちゃって...探しに来たの。 あなたにとてもそっくりな...。」
そっくりどころか同じである。
クラリスは相手の話を聞き、首を傾けて余裕な表情を見せる。
クラリス「探してるのはそいつじゃないだろ? あんたの言うクラリスはマーメイのことだ。」
テニー「そいつ?」
テニーはふとカプセルの中のクラリスを見る。
テニー「あなたはクラリスの何? この人はじゃあ誰なの?」
クラリス「あんた、ここの人間じゃないね。 マーメイを探してるなら私も連れて行ってよ。」
話を聞こうとしないこのクラリスは自分に都合のいい性格のようだ。
自分勝手に話を進め、テニーの質問になど答えようとしない。
刃を向けられている以上、テニーも勝手な行動は取れない。
相手に殺意があるようには見えないが...テニーは大人しく言うことを聞くことにした。
そのみちクラリスを探すという目的が変わるわけではないのだ。
この事についてはクラリんにこってりと説明してもらおう。
しかし一緒に行動するのはいいが、この動かないクラリスが気になる。ここに置いていってしまうのか?
テニーがカプセルの中のクラリスを気にかけていると、それを感じ取ったクラリスが口を開いた。
クラリス「そいつはダメだ、死んでる。」
テニー「え...?」
クラリス「ほら、連れてって?」
テニー「う、うん...。」
クラリスは剣を下ろし、先程抜き取った銃をテニーに返した。
テニー「え、いいの?」
クラリス「どうせあんたじゃ使えないだろ?」
テニー「弾も入ってないし、確かにそうだけど...。 もしかして、魔法と何か関係してるってこと?」
クラリス「マーメイなら使い方を知ってるさ。 マーメイに聞きな。」
そう言うとクラリスはさっさと歩き出してしまう。
裸体に白衣のみなので当然裸足である。
ペタペタと湿った音を立てながら歩き、2人はカプセルのある部屋を後にした。
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クラリス「ソ、ソル...?」
突然足首を掴まれたソルは裏返った声で悲鳴をあげて驚いていたが、当然それを聞いていたクラリスも驚いていた。
ソルが掴まれた足を見てみると、死体だと思っていたスーツの男が這い寄って来ていた。
ソル「な! な、な...!?」
クラリス「あっ...。」
クラリスはソルに這い寄る男のことをよく知っていた。
例によってクラリスを守っているガードマンの1人だ。
男「う...く、クラリス...?」
クラリス「デント!」
デントと呼ばれたこの男、まだ若い青年である。
ソルとそう年の変わらなそうな青年デントは、鼻から血を流し、瀕死状態に陥っていた。
クラリスはデントに素早く駆け寄り、デントが起き上がろうとするのを手助けた。
デント「クラリス...連れて行かれたはずじゃ...。」
クラリス「...いろいろあって、逃げてきたの。 デント、大丈夫?」
デント「あぁ...。 おい、あんた。」
デントはダミがかかった声でソルに声がける。
デント「こんな有様だが...あんたは平気なのか...?」
デントはソルのことを完全にデルタの研究員だと思い込んでいるらしく、敵意を向ける様子は全くなかった。
もっとも、敵意を向けたとしても戦える体ではないのだが。
ソル「あ、あぁ、俺は大丈夫だ。 あんたこそ大丈夫か? 何があった?」
デント「分からない...。 突然声が聞こえてきたと思ったら、血を出して気絶していた...。 気がつけば社内はこの有様だ...。 ...何があった、あんたに聞こうと思ってたんだけどな...逆に聞かれるとは...へ、へへ...う゛っゴホッゴホッ。」
クラリス「デント!」
むせ込むデントを見下ろし、ソルは一人考えていた。
生存者がこの青年一人とは限らないが、この死体の数の中、生き残るとはなんという確率なのだろうか。
証言からして母親が騒いだことには間違いない。
この人間には何かしらの耐性のようなものがあったのだろうか?
理由はどうあれ、自分たちは今、社員との接触をしてしまった。
この瀕死状態で何が出来る訳でもないだろうが......自分たちがここに来たという証拠隠滅として殺すしかないのか...?
しかし、クラリスはこの青年といやに仲が良さそうだ。
ことの説明次第で何とか味方につけることができれば一番いいのだが...。
ソルが考えを巡らしている中、クラリスはデントの介抱をしていた。
手から溢れる緑色の光。
その光に優しく包まれたデントの表情は、先程のような苦痛に歪んだものではなく、眠りにつくように安らいだものになっていた。
デント「っはぁ...。 いや、噂には聞いていたが凄いな、魔法の力というものは。 これじゃあガードマンなんかいらないじゃないか。」
クラリス「そんなことないわ。 ガードマンが守るのは私だけじゃないもの。」
デント「しかし...あの時観客に被害がなかったものの、一番大事なクラリスを守れなかった。 情けないよ、まったく。 でも、無事でよかった...。」
クラリス「デント...。」
ソルはとてもじゃないが居た堪れなくなり、やたら縮こまって棒立ちになると両口唇を噛んだ。
クラリス「ねぇ、デント。さっきバタンって大きな音を立てたのは貴方?」
デント「いや、俺じゃない。 俺もその音でついさっき気がついたんだ。」
ソル「じゃあ、やっぱりこの近くにいるのかもしれな...。」
ソルは言葉を切った。
先程まで聞こえなかった音が聞こえ、それは徐々に大きくなっている。
しゃらしゃらと何かを擦るような音。 3人は同時に音のする方向を見る。
視線の先の通路角からゆっくりと姿を現したのは...
ソル「いた...。」
クラリス「母さん...。」
デント「なんだ...あれは...?」
とても長い髪に、透き通った尾。
それは青く、正しく床に張り付いているウロコの持ち主。
クラリスの母親である水色のマーメイドだ。
母親はこちらをみてただ唖然としている。
動く様子のない母親にクラリスが駆け寄る。
クラリス「母さん! 私だよ、分かる!?」
16年ぶりの再会に興奮を隠せない。
思えば16年間、同じ社内に居るにも関わらず、一度も面会を許されたことはなかった。
わずか10歳でこの会社に連れてこられ、「母さんに会いたい」と泣き喚いては社員に言われた言葉。
「言うことを聞けば君もお母さんも傷つけない。」
それを忠実に守り、母親の安全の確保をしているつもりでいた。
が、安全どころの話ではない。
今まで這いずってきたために体は擦り傷だらけだったが、容姿自体は最後に見た16年前のものと全く変わらなかった。
しかし母親はクラリスの問いかけに反応を示さない。
成長したクラリスを娘と認識していないのだろうか。
むしろ目の前の人間に怯えているように見える。
クラリス「母さん、大丈夫だよ。 あの人たちは私たちを守ってくれるの。」
何も分かっていないデントも「あの人たち」に含まれているのだろうが...。
クラリスが母親をなだめようと声をかけるが、こちらの言葉すら理解していない様子の母親は挙動不審にかられていた。
中々落ち着かない母親にクラリスが再び声をかける。
その瞬間。
母親が怯えたような声をあげた。
その声には若干の響きがあり、とても人間の肉性では出せないような天然のエコーボイスだった。
途端にソルとデントは耳を塞ぐ。 完全に反射だった。
ソル「クラリス! コレなんかマズい!」
急激に襲ってくる頭痛。 破れそうな鼓膜。
胸からは何かが逆流してきて今にも吐いてしまいそうだった。
キャンプ民に伝えられる伝承では、男マーメイドが激しく荒々しい声をあげて研究員たちが倒れたという。
今の母親の声などそれに比べればほんの序の口といったところだろう。
これ以上声をあげられれば本当に死んでしまう。
クラリス「母さん、だめ! これ以上はあの人たちが死んでしまう!」
混血であるクラリスには無害なようだ。
クラリスはただひたすら声がけ、母親をなだめようとするが、母親は今にも発狂しだしそうだ。
クラリス「母さん!」
クラリスが感情に任せて母を呼ぶ。 すると、クラリスの声にも若干のエコーがかかった。
ソル「っ! クラリス、声!」
クラリスははっと、声を抑える。 感情的になると上手く扱えなくなるらしい。
クラリスは改めて声を抑えて母親と向かい合う。
クラリス「母さん、聞いて...。」
クラリスが言いかけたその時、後ろの方で何か聞いたことのある音が聞こえた。
信じたくなかった。
後ろから銃声が聞こえたなど。
それを証明するかのように、母親が仰向けになって倒れる。
額には黒い穴と、垂れ流れる血液。
後ろを見なくとも分かる。
この会社のガードマンは一人一丁銃を所有している。
マーメイドなど見たことのないデントが身の危険を感じ、発砲したのだ。
ソルもまさかの事態に声が出ず、開いた口が塞がらない。
折角助けに来た母親が目の前で撃たれた。よりによってクラリスの前で。
たとえ自分たちの身のためとはいえ、これはあまりにも惨すぎる。
デント「っくそ!会社がこうなったのもあいつの仕業なんだな!?」
銃を下ろしながらデントは言う。
内心はクラリスの命を救った英雄気取りだろう。
ソルはやっと開いた口を閉じると、デントの銃を素早く取り上げた。
ソル「お前! なんて事するんだよ!? クラリスが‘母さん’って呼びかけてるのが聞こえなかったのかよ!?」
デント「母さんだと?ふざけるな!! この会社の有様を見てみろ!
あのままだと俺たちは確実に殺されていたし、そもそもあんな化物がクラリスの母親?そんなわけ無いだろう!? これはどっかのSF小説じゃないんだぞ!?」
ソル「お前は何も知らないんだ!!この会社の上層部は社員すら騙して非人道的なことをしている!!」
ソルもまた感情的に相手にぶつかった。
ソル「いいか、よく聞け!? この会社で地位が上な奴らはな、ただ単に学歴が良いだとか頭が良いだとかって奴らじゃないんだ!
この会社に小さい頃から教育で洗脳された人間たちなんだよ!
頭が良くて当然だぜ! 己の生涯をこの会社に捧げさせるために必要な躾と知識を植えつけられたんだからな!!
だいたいお前、普段はこの階に立ち寄ることすらできないはずだぜ?
今回はこの惨事になって、それを抑えるために錠が外されたんだ。 ま、それも無駄だったみたいだけどな。」
この会社に乗り込む以上、キャンプ民も己でこつこつと調査を進め、内部に詳しくなっていたのだ。
時には探りまわっているのがバレ、殺された仲間もいたが。
デルタ社のガードマンである青年デントが、一応人間としていくら物分りの良い人間でも、この会社の黒歴史を理解することはできないだろう。
ソルは一度心を落ち着け、クラリスの方へ駆け寄った。
ソル「クラリス、大丈夫か...?」
大丈夫なわけはないのだが、慰めの序章はまずここからだろう。
しかし、クラリスの様子は「大丈夫なわけないよね」を通り越し、ひどいものだった。
過呼吸を起こし、全身はひどく震えている。
同時に力も入らないのだろう。 クラリスはぐったりとその場に倒れ込んでしまっていた。
ソル「クラリス! クラリス...。」
目の前で母親を失ったクラリスに、ソルは何と声をかけていいか分からなかった。
「大丈夫」などという決まり文句(文句というのもおかしいが)は、もはやNGワードのようにさえ思える。
ソルはしばらく考えたあと、倒れこむクラリスを起こし、そして抱きしめた。
母親の遺体が見えないよう、強く抱きしめた。




