episode 3
ソル「まさか、母親がいたなんてな。 その人きっと純血だよな?」
ラグ「あぁ、おそらく。 しかし、またあの会社に行くのか? 騒ぎ起こしたばかりなのに?」
老人「行け。」
ソル「行けって簡単に言うけど...。」
老人「行け。」
ソル「分かったよ...。」
なんとも簡潔な会議であろうか。 残された男達で開かれた「クラリスさんの母親奪還作戦」会議は老人の勅で呆気無く終えた。
ラグ「今度は派手なことはしないでひっそりと行こう。 まさかついさっきのテロ犯がまた戻ってくるなんて思わないだろう。」
ソル「そうだな。母親の安全のためにも行動は早いほうがいい。 けど、クラリスさんはどうする?」
ラグ「連れて行けないだろう...。 もしもまた捕まってしまったら元も子もない。」
クラリス「私も行きます。」
先ほど女達に連れられてテントを出たクラリスがいつの間にか戻ってきていた。
重そうなドレスは剥がれ、中々目のやり場に困る華美な服装に取り替えられていた。
テニー「あたしのおさがりだよー! クラリんなかなか似合うでしょー!」
ラグ「いつの間にクラリんなんて呼ぶようになった?
ソル「テニー、そんな服持ってたっけ?」
テニー「買ったはいいんだけど、着なかったんだよねー。 あたし、コルセットなんて似合う人じゃないみたい。」
その服装はというと、茶色のコルセットに赤いスカート、グレーのニーソックスに真黒なエナメル製のロングブーツ、肩にはレッドフードをかけている。
ラグ「それはともかく、クラリスさんを一緒に連れて行くことはできない、危険すぎる! ここに残っていてもらわないと。」
クラリス「母さんが何処にいるのかは分からないけど、社内のある程度の構造はわかるし...。 それに私、いざとなったら戦えます。」
ラグ「戦うって...。 今度は騒ぎを起こすつもりはないんだ。 俺たちがこっそり忍び込んで母親を連れて帰る。」
クラリス「母さん、私を見たらきっと安心してくれる。」
ソル「そうだよ、クラリんと母親を会わせたほうがいい。 ちょっと声を上げれば俺たちなんてすぐノックダウンだぞ?」
ラグ「会社の人間は生きているんだから、それなりの方法で監禁してあるんだろう。 それか声を上げられないようにしてあるか...。」
テニー「ちょっと!クラリんの前で変な話しないでよ!」
ラグ「あ、あぁ、悪い。 でも連れて行けない。 俺はクラリスさんを心配して...!」
ソル「クラリんは母親と俺たちの心配もしてくれているんだ。」
ふと沈黙が通った。 呼吸の音すら聞こえてきそうな静けさの中、口を開いたのはテニーだった。
テニー「ねぇ、クラリんも連れて行ってあげようよ。 クラリん、10歳の頃からずっとお母さんに会わせてもらえてないんだよ?」
女とはまったく油断ならない。 彼女らはいつの間にあだ名を決め、身元話にまで舌を回していたのだ。
老人「連れて行ってやりなさい。」
それを聞いて同情したのか、老人がまたも勅を出した。
ラグ「...分かりましたよ。」
このジジイが口開けばなんでもかんでも勅になるんだっ!と内心文句を言いながら、ラグは渋々頷いた。
ラグ「出発は今すぐだけど、大丈夫?」
クラリス「大丈夫です!」
テニー「あたしもー! ほら、勢いあるうちに行っちゃお!」
そう言うとテニーとラグは飛空艇の方へと走っていく。 ソルは何故かその後ろ姿を見送っている。 普段は何も気にならない肩も、今はなで肩にさえ見える。
ソル「...。」
クラリス「...。」
ソル「......。」
クラリス「...いつの間に私をクラリんって呼ぶようになったの?」
ソル「ありがとう...(ぐす」
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飛空艇に乗り、彼女らは真っ直ぐにデルタ社へ向かう。 クラリスの職場であるドーム型のコンサートホールの真横に建っている、上にも横にも長いビルがデルタ社の本社だ。
ラグ「見えてきたな。」
ソル「飛空艇は何処に止める?」
クラリス「待って。 なんだか静かすぎる...。」
確かに静か過ぎた。 ビル周りを人が行き交う様子はなく、街の住人が集まりやすいコンサートホール周りにも動きは見られない。 今まで社内に閉じ込められ、外に出たことのないクラリスでもそれがおかしいことに気付いた。
テニー「ねぇ、どうするの?」
飛空挺を操縦するテニーが不安を隠せない表情で乗員の顔色を伺う。
クラリス「この飛空艇、海には潜れないの?」
ラグ「それはできない。 機体は意外と隙間だらけだから、沈んだ瞬間どんどん水が浸水してくる。 この機体を覆ってくれる膨大な魔力があれば別だが...。」
クラリス「私がこの機体を守ればいいのね?」
あまりにも突然のことだったので皆「は?」という表情を隠せない。
ソル「クラリス、魔法が使えるの?」
ラグ「お前、いつの間にクラリスなんて呼ぶようになった?」
ソル「何で今ツッこむの?」
ラグ「クラリスさん、魔法が使えるの?」
ソル「ねぇ。」
クラリス「えぇ、会社で戦闘の訓練を受けていたの。 マーメイドの血筋は魔力の適性が良いみたいで。」
この世界には魔力というものが存在する。 この飛空艇という乗り物も魔力によって浮遊している鉄の塊だ。
人の体にも微量の魔力が流れているが、極めて微量なために実用的な使い方は出来ない。
デルタ社では魔力をコントロールし、具現化させることを可能にする研究が進められているが、人を対象にそれを可能にすることは未だに出来ていない。 しかし、どういうわけかマーメイドの血を引く者には魔力の適性が見込めるようで、クラリスはそのいい実験台にされていたというわけだ。
クラリス「私なら魔力で機体を守れるし、それで海に潜れば会社に入れるわ。 潜水艦が出入りできるように、海の中にも入口があるの。」
ラグ「しかし...。」
何と言っても自分では使えぬ魔法である。 幽霊が見える人よりもはるかに希少価値の高い「魔法を使える人」の言うことなど信憑性に欠ける、いや、無いに等しい。
それはそうだ、なにせ「自分に流れる静電気で雷を作ります」と言われているようなものだ。 作れたにしても「お前死ぬだろ」という保証の効かないレベルである。 こちらの命もかかっている以上、気安く首を縦に動かすわけにはいかないのだ。
ソル「ラグ、やるしかないぜ? 元々命をかけた作戦じゃないか。 クラリスはほら、海に放り出されても泳いで渡れるから。」
なんの根拠もない、ただ「マーメイドの混血だから」という理由で付けられた迷惑なイメージではあったが、自分の身の事を考えてくれているのだということはしっかりと感じ取った...というのも妙な話か。
クラリス「守るから。」
そう言うとクラリスは機体の窓に手を添える。 もう理屈など言っていられないと判断したのだろう。
テニー「おっけー!クラリん、信じるからね!」
テニーもまたそう判断したのだろう。それとも初からそのつもりだったのか、もう誰の意見も聞こうとしなかった。
ハンドルレバーを倒し、機体は飛行速度を保ったままゆっくりと水面に近づく。
そして...
一瞬だった。 今まで見ていた青色に代わり、今度は緑の世界にどっぷりと沈んだ。
空を飛んでいた時と変わったのはそれぐらいか、相変わらず機体は綺麗な形を保ったまま海の中を進み続ける。
テニー「凄い!本当に海の中進んでるよ!」
ラグ「本当にこんな...。」
一同は魔法という形ならぬ力に見惚れながら器用に海中の景色にも目を見張る。
ソル「なんか、汚くてあんまり見えないな。」
ラグ「無理もないさ。 発展都市から流れ出たありとあらゆる汚物がここに垂れ流されているんだ。 まだヘドロが見当たらないだけマシだな。」
テニー「こんなところでも魚は生きているんだね。」
テニーの視線を追うと、そこには何の目的もないようにまっすぐ泳ぐ魚が一匹。
テニー「マーメイドはもっと楽しそうに海を泳ぐのかなぁ。 ...あ、もしかしてあれのこと?」
魚に夢中になっていると思いきや、今度は目の前にうっすらと浮かび上がった四角い黒い影に注目した。
クラリス「そう、あれだわ。 あの付近は、普段人が立ち寄ることはないところだから、どんどん進んで構わないと思う。」
ラグ「構わないと思うって...。」
テニー「おっけー! じゃ、行くよー!」
ラグ「お、おい!」
入口に近づくと、入口内にあるライトが機体を感知してやんわりと点灯する。 両脇に一定の距離で配置されたライトは、真暗なトンネルの道しるべになっていた。 やがて光の差し込んだ広い空間へ出ると、そこは既に行き止まりだった。 どうやらこの上が社内の船着場らしい。
テニー「いい?浮上するよ?」
普段人が立ち寄らないとは言え、水中から社内の様子を伺うことは不可能。 不安感を抱きつつ徐々に近くなる水面を見つめては、もしもの時の覚悟を決める。
水面からは機体が頭を出し、大きく重い水の音を立てながらその姿を露わにしてゆく。
ソル「ちょっと派手に音立てすぎたかな?」
飛空挺から身を乗り出しながら周りの様子を伺う。 潮の香りが充満したその部屋は、クラリスらが乗ってきた5人乗りの飛空艇2.5倍分といったところか、そこはまぁまぁ広い金属壁の部屋だった。 部屋の隅には何やら箱に詰められた荷物が積まれている。 目の前には象が2頭はすんなり通れそうな大きなゲートがあるのだが...波の音も通さないぐらい分厚い扉は全開に開いていた。
ラグ「なんだこれ...?」
飛空挺から降り、床に足をついた彼らは足元がひどく濡れていることを気にかけた。 しかしそうは言っても部屋が部屋である。 水面と床との差、わずか30cm 部屋が濡れていても不思議ではないが、今回ばかりは違和感を覚える。
水色で半透明、直径3cmほどのプレートのようなものがあちらこちらに落ちている、いや、濡れた床に張り付いている。
クラリス「ウロコ...。」
そう言うとクラリスは濡れた床を辿るように走り出した。 3人はクラリスの一言で大方検討は付けた。 いや、むしろ他に何を想像するだろう。 この「ウロコ」はクラリスの母親のものであり、これが今ここにあるということは、母親はこの会社にはもういない。 社員が連れて行ったか、もしくは母親が自力で逃げ出したか。 ということは、先程から感じていたこの静けさはこれが原因だろうか。 もしもこれが母親の逃亡だったとすると、ここの社員は無事では済まされないはずだ。
クラリスの走っていった方を見てみると、濡れ跡はゲートの先の通路へ真っ直ぐ伸びていた。 もはや引きずられた跡としか考えられない。
テニー「く、クラリん追っかけないと!」
テニーが慌てて追いかけようとすると、クラリスが走っていった通路の奥の方から「バァン」という大きな音が響いてきた。 3人はその音を聞くと急いで走り出した。
ソル「うわ、なんかぬるぬるする!」
濡れた床とは本当に危険なものだ。 プールサイドで走り回る子供たちの転倒事故はあとを絶たないが、今回のこれはまた違った。 床はてかり、よく見るとぬめりのようなものが伸びている。
3人は転ばないように気をつけながら走り、通路奥のドアへとたどり着いた。 今度は人が通るぐらいのサイズの金属のドアだ。 それとは別にまだ広く開放できるようになっており、学校などにある防火扉がこれにあたる。
先ほどの音はクラリスがこのドアを力任せに開けた際の金属の衝突音だろう。
ドアをくぐると今度は薄暗い巨大倉庫へ出た。 少し先には大量に置かれたコンテナの間をくぐり抜け走るクラリスの姿が見える。
クラリスは気が気でないようで、走るスピードもこれまた速い。 なかなか追いつけない3人はクラリスを見失わないようにと必死で走った。
ソル「待って! クラリス待ってって!!」
クラリスは聞く耳を持たず、一人で走り抜けてしまう。 やがて倉庫の入口へたどり着くとまたひとつ、派手な音を立てて光の中へと消えてしまった。
ソル「あれ、もう社内だよな? エントランス? まずくないか!?」
やっとの思いで倉庫入口にたどり着くと、3人はその眩さに目を眩ませながら飛び込んでいった。
薄暗い所に慣れてしまった彼らの目がその明るさに慣れるまで、かなり時間がかかった。
眩しさに耐えられず、勝手に閉じてしまう瞼に抵抗して無理やり目を開く。
ソルの予想通りそこはエントランスで、息が詰まるほど洗礼された空間だった。
金銀煌びやかなライト。 お偉いさんでも来るのかと思わせるような、小さな壺に豪快に入れられたアフロのような花。
それに対し、床はグレーのようなブルーのような中途半端な色のタイルが敷き詰められている。
倉庫入口のすぐ近くには右翼階段が有り、フロントを挟んだ反対側には当然ながら左翼階段がある。
無駄なものがなく、(2度言ってしまいたくなるほど)洗礼されたエントランス。
しかし今回ばかりは明らかに無駄なものが転がっている。
ここの社員であろう、スーツを着た人間が全員倒れているのだ。
社内の船着場の様子を見た彼らにとって、社内がこのような惨事に陥っていることは想定内だった。
想定外だったのは、その人間の有様だ。それらの人間はみな目から、耳から、鼻から、穴という穴から血を噴き出し、目は白目を向いている。
死体以外の何者でもなかった。
テニー「っ!...。」
ソル「うん...。でも、あんまり長くは居たくない。」
ソル「そうだよね。 早くクラリスを見つけよう。」
改めて床を見渡してみると、濡れ跡とウロコは四方八方に広がっており、右左翼の階段両方に伸びている。
追って階段を昇ったエントランス2階には中央にエレベーター。 両脇には個室が並べられた廊下がある。
ラグ「なんで右にも左にも濡れ跡があるんだよ...。母親以外にもマーメイドが居たとでも言うのか?」
ソル「分かんないけど...。これじゃクラリスがどっち行ったのか分からない!」
テニー「ねぇ、手分けして探そうよ!今から1時間後、見つかっても見つからなくてもこの場所で!」
エレベーター上のデジタル時計に目をやると、針は3時16分を指していた。 画面はデジタルなのに映し出されているのは針時計なのである。
ソル「えーっと...どっちかにすればいいのに...じゃなくて、3時15分!今から1時間後な!また後で会おう!」
そう言い放つのを合図に、ソルとラグは右、つまりは東棟、テニーは西棟に向かって走り出した。
ソル「ラグお前!何でテニーと一緒にいてやらないんだよ!」
ラグ「お前がテニーと行くと思ったんだ!もう時間ないからこのまま行くぞ!」
テニーの心配をしつつ、2人はそのまま濡れ跡を追う。
その行き先は相変わらず不規則で、このまま真っ直ぐ伸びているものもあれば、上り階段に続くものもあった。
ラグ「これじゃ本当にどこ行ったかわからないな...。」
ソル「こっちだ!」
ソルは行き先を指差しながら階段を昇っていく。
ソル「今度はこっちだ!」
そう言うと今度はT字になった通路を右に曲がった。
ラグ「なんで分かる?」
ソル「こっちの方がウロコが多い!」
彼の付ける理由にはいちいち考えさせられるが、他に何の手がかりもない今、否定する理由などなかった。
ウロコの多い法を辿り、しばらく走っていると、とうとう張り付いているウロコの量の差が分からない分岐路に至ってしまった。
ソル「えーっと、えーっとね、待ってね、今考えるから。」
ラグ「こんなの考えるものでもないだろ...。せっかく2人いるんだ、ここで別れよう。」
ソル「あぁ、そうだった。 じゃ、また後で!」
いよいよソルのおバカさが分かってきたところで2人は別行動をとった。
ソルがぬめりで滑らないようにしている反対では ドシャ っと勢いよく転んでいる音が聞こえてきた。
ソル「おバカだなぁ、ラグは。」
ソルはポツリと呟くとそのまま走り続け...
そして転んだ。
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西棟でクラリスを探していたテニーもまたウロコの量を目安に走っていた。
しかし、そうしてここまでたどり着いたものの、ここから先の通路にはぬめりもウロコも見られなかった。
テニー「あれ、ここまで来て引き返したてこと?」
ウロコこそ落ちていないものの、相変わらず死体が減ることはなかった。
今まではウロコを頼りに突き進んで死体の脇を通っていたが、道しるべもなく、どこに行けばいいのか分からない状況で死体の転がる道を通るのにはまた別の恐怖があった。
テニー「やだもぉ~...。 クラリんどこ~?」
お化け屋敷の中を歩くような足運びで上へ上へと昇っていき、各階の通路の奥先に目をやってはまた上へ上へと昇っていった。
どこの階も死体だらけでクラリスの影などなく、テニーは適当に部屋の探索をすることにした。
まずは近くの部屋から。 このフロアのドアは下階のノブのあるドアとは違い、近づくとセンサーが反応し、プシューと空気を漏らすような音を立て、真横にドアがスライドして開くという、ハイテクドアだった。
そんなドアに慣れていないテニーは、勝手に空いたドアに驚き、のけぞってバランスを崩し、反対側の壁に頭を強打してしまった。
正確にはドアを誰かが開けたのだと思って驚いたのだが、開いたドアの向こう側には相変わらず死体しかなかった。
テニー「なんだもー びっくりしたぁ...。」
壁に頭を強打しておいて痛くない訳はないのだが、頭の痛みよりも、まだ社員に見つかっていないという安心の方が大きかった。
気を取り直して立ち上がり、部屋の中を覗いてみる。
広い割に何もない部屋だった。
あるといえば、部屋の中央に設置された、ガラス張りの壁に囲まれたフィールド。
その近くには緑やら赤やらと光っているコントロールパネルがある。
部屋の奥にはもう一つドアがあり、スライド式ではなくノブのついたそのドアは半開きになっていた。
テニーはなんとなくそれが気になり、死体をまたいで奥へと突き進んだ。
開いたドアの隙間から静かに中を覗いてみると、綺麗に整頓された剣が壁に大量に並べられていた。
数こそ多いものの、剣自体は大量生産されたであろう、同じ剣ばかりが並べられている。
テニー「剣が沢山ってことは...ここはトレーニングルーム? ...1本ぐらいもらっちゃおーっと。」
壁の金具にかけられた剣の中から適当に1本取り、柄を両手で握り締める。
その剣先を部屋の色んな方向に向けては、いざ敵と鉢合った時のためのイメージトレーニングをする。
こうして剣を構えてみると、それらしく振り回してみたくなるもので、テニーは はっ! と一声あげ、許されるスペースで剣を振り下ろした。
自分の中ではただ振り下ろしただけだったが、事故というのは意思とは関係なく起きるもので...。
振り下ろされた剣先は壁に隣接されたカウンターの上の小箱に当たり、大きな音を立てて床に叩きつけられた。
テニー「うぇ!やっば...。」
テニーは急いで落ちた箱を拾い上げ、中を覗いてみる。
すると中から出てきたのは、リボルバー式の拳銃だった。
その体は銀に輝き、光の角度によって美しい光影を生み出す、丸みと角の整った形状。
グリップはゴム製になっており、人の指に合わせて指のポジションが形作られている。
リボルバーから真っ直ぐ伸びる筒は長く、その長さのせいか細いようにも見える。
その華奢な体つきとは裏腹に、重さはなかなかのもので、男でも片手で撃つのは難しそうだ。
テニー「うわー、銃だ...。 ......これももらっちゃおーっと。」
テニーは銃をショートパンツのベルトに挟み込むと、剣を持ってその部屋の探索を終わらせた。
引き続き同じ階の部屋を覗こうと考えたテニーは適当に廊下を歩き、特になにも考えることなく目に付いたドアも前に立ち、ハイテクドアがスライドして開くのを待った。
が、開かなかった。
よく見てみると、ドアの横に壁に埋め込まれたタッチパネルがある。
壁と同じ色で同化していたので、ただ歩いているだけでは気付かなかった。
テニー「えぇーなにこれ? こんなとこクラリんいるかなぁ? でもここ、きっと重要な部屋だよね?
マーメイドの秘密とか何かあるかもっ!」
そう言うとテニーは持ってきた剣を振り上げ、思い切りタッチパネルに突き立てた。
そういうところは容赦なく、大胆なのだ。
中の回線は切れ、電気が弾けるような音を立て走る。
ドアは開かなかったが、パネルの故障(正しくは破壊)によってドアロックが外されたようで、少しの力を入れて扉を引くと、ドアは簡単に開いた。
すぐに部屋が現れると思いきや、ドアの向こう側はいつかの船着場のような通路が続いていた。
人2人が並んで歩けるぐらいの横幅だ。
2mほど進むと、今度は右に曲がる角があり、更に4mほど進むと今度は左に曲がる角があった。
そこから更に2mほど進んでやっと部屋に至った。
部屋はやはり暗く、部屋の奥から漏れている青い光だけが視界の助けだ。
部屋の中には、人1人がすっぽりと入ってしまう大きさのカプセルが大量に並んでおり、何も入っていないカプセルがテニーの視界を遮っていた。
テニー「なにこれぇ...。まさかここにマーメイドを閉じ込めていたとか...?」
暗がりの中に一つ光があれば、人はとりあえずそれを頼りに進むものだ。
テニーは重い足取りで希望目指して動き出した。
空のカプセルは床から生えているような形で取り付けられており、一寸の狂いもなく縦横きっちりと整頓され並んでいた。
ざっと見たところ、横に5、縦に10個ほどだろうか。
廊下にあれだけドアがあって何故こんな広い部屋を作れるのだろうかと疑問に思いながら、テニーは部屋の奥へ奥へと歩いた。
青の光に近づき、空のカプセル越しに形が見えてきた。
並べられたカプセルの中でたった2つ、隣接した位置で青く光っている。
内一つは、青く光るカプセルの中に人のようなものが入っているように見えた。
テニー「なんだろ、マーメイド...? もしかしてお母さん!?」
テニーは駆け足でカプセルの間を縫いくぐり、進む。
重なるカプセルが減り、人のような形がはっきりと人の形に見えてきた。
迷うことなく走り、ついにお目当てのカプセルにたどり着いたテニーは言葉を失った。
青く光り、2つ並べられたカプセル。
内一つはカプセルの開け口が全開に開いており、もう一つは...
クラリスが入っていた。
先程まで水が入っていたのだろう。 全身はびっしょりと塗れ、浮かなくなった体はぐったりと座り込んでいた。
何より驚いたのは衣服をまとっていないという事だ。 この短時間で社員につかまり、監禁されたとも考え難いが...。
想定外の展開にテニーはショックを隠せないでいた。
テニー「クラリん!? クラリん大丈夫なの!? 何よもう!!」
テニーは持ってきた例の剣でカプセルを割ろうと思い切り叩きつけ、ヒビを入れてゆく。
なるべく破片がクラリスにかからないように注意をはらいながら傷つけてゆくが、焦っている事もあり手元は狂う。
飛び散る破片をクラリスに浴びせながら、やっとの思いでカプセルをカチ割った。
テニーは剣を投げ捨て、起きる気配のないクラリスの肩をゆすり、声をかける。
テニー「クラリン! ねぇクラリんってば! お願い起きてよ一緒に帰ろう?」
いくら体を揺らしてもピクリとも動かないクラリスにテニーは不安を覚える。
水の中に閉じ込められてはいくらマーメイドの血を引いているクラリスでも呼吸まではできないだろう。
テニー「ねぇ...やだよクラリん...死んでないでしょ? 起きてよお願い...クラ......」
テニーは今にも泣きそうだったが、出ようとしていた涙は一瞬で引っ込んだ。
首元に伝わるのは氷のように冷たい何か。
自分の許される限りの視野に入り込んできたのは、先程投げ捨てた剣の刃先だった。
テニーは血の気を引かせ、静止する。
無駄に動くと殺される。 今はそれしか考えることができなかった。
凍りついた沈黙の中、先に口を開いたのはテニーではなかった。
「誰、あんた。」




