魔将撃破と新たな仲間
黄金の刃が闇を切り裂いた。
静寂。
一瞬だけ、世界から音が消えたようだった。
レインの神滅短剣グラムは、確かにヴァルゼクへ届いていた。
しかし、血は流れていない。
傷もない。
ただ、魔将の額に淡い光の線が刻まれていた。
「……何をした。」
ヴァルゼクの声が震える。
自分が傷つけられたことよりも、理解できないことへの恐怖が勝っていた。
レイン自身も驚いていた。
「僕にも分からない。」
神眼が答えを示す。
『魔力核への干渉成功』
『対象の根源魔力を遮断』
『再生能力停止』
『魔王化解除』
次の瞬間。
ヴァルゼクの身体から溢れていた黒い魔力が一気に消えた。
「ぐ……。」
膨れ上がっていた身体が元の姿へ戻る。
巨大な翼も、異常な魔力も消えていく。
魔将は片膝をついた。
「あり得ない……。」
「俺の魔力核を……一撃で。」
レインは短剣を見る。
神滅短剣は何事もなかったかのように静かに輝いていた。
「これが……神眼の力。」
今までの自分なら、絶対に勝てなかった相手。
だが、力を理解し、正しく使えば届く場所がある。
それを初めて実感した。
ヴァルゼクは悔しそうに笑った。
「人間……。」
「貴様、一体何者だ。」
レインは少し考える。
昨日までなら、そんな問いに答えられなかった。
自分には何もないと思っていたから。
しかし今は違う。
「僕は……レイン・アルフォード。」
「神眼継承者です。」
その言葉を聞いた瞬間、ヴァルゼクの表情が変わった。
「そうか……。」
「ついに現れたのか。」
「何を知っているんですか?」
レインが尋ねる。
ヴァルゼクは苦しそうに笑った。
「神眼を持つ者。」
「それは魔王が最も恐れた存在だ。」
「三千年前、神々と魔族の戦争を終わらせたのも……。」
「初代神眼継承者だった。」
レインは息を止めた。
「初代……。」
ルミナが静かに目を伏せる。
「そうです。」
「神眼は、ただ真実を見る力ではありません。」
「世界の均衡を守るための力です。」
ヴァルゼクは続ける。
「だが、まだ完全ではない。」
「今の貴様では、復活する本当の災厄には届かない。」
「本当の災厄?」
ヴァルゼクは空を見上げる。
「魔王ではない。」
「もっと古い存在だ。」
「かつて神々ですら封印するしかなかったもの。」
神眼が警告を表示する。
『未知情報』
『解析不能』
『世界規模危険反応』
レインは背筋が寒くなる。
ヴァルゼクは最後に小さく笑った。
「面白い時代になったものだ。」
「神眼継承者よ。」
「お前が世界を救うのか、それとも壊すのか……。」
「見届けさせてもらう。」
そう言うと、ヴァルゼクの身体は黒い粒子へ変わっていった。
完全な消滅ではない。
撤退。
神眼はそう表示していた。
「逃げた……。」
レインは短剣を下ろす。
しかし勝利の余韻に浸る暇はなかった。
「レイン!」
ルミナの声。
振り返ると、アルヴァインが壁にもたれかかっていた。
鎧は壊れ、身体から力が抜けている。
「アルヴァイン!」
レインが駆け寄る。
「大丈夫です。」
そう言いながらも、声には弱々しさがあった。
「三千年間、この時のために力を残していました。」
「ですが……役目は終わったようです。」
「そんな。」
レインは首を振る。
「まだ終わってません。」
「僕が治します。」
神眼を発動する。
『対象解析』
『神兵アルヴァイン』
『損傷率 九十二%』
『修復可能』
『必要素材』
『神核の欠片』
『神眼使用者の魔力』
「ならできる。」
レインは神核へ手を伸ばす。
神核から小さな光の欠片を取り出す。
そしてアルヴァインへ触れた。
「戻ってください。」
「あなたにはまだ、やることがあるはずです。」
光が広がる。
砕けた鎧が修復される。
失われた右腕も、少しずつ形を取り戻していく。
アルヴァインは驚いたように目を開いた。
「これは……。」
「神眼による修復です。」
レインは微笑む。
「あなたが三千年間守ってきたものを、今度は僕が守ります。」
しばらく沈黙した後。
アルヴァインは深く頭を下げた。
「……認めます。」
「あなたこそ、本当の継承者です。」
その瞬間。
神眼が大きく輝いた。
『条件達成』
『守護者からの承認を確認』
『称号獲得』
『神殿守護者の主』
新たな力が流れ込む。
レインは自分の中に、また一つ新しい力が生まれたことを感じた。
しかし、その時。
神殿の外から別の気配が近付いてくる。
今度は黒い魔力ではない。
強大だが、温かな魔力。
ルミナが首を傾げる。
「誰でしょう……。」
やがて入口から、一人の少女が姿を現した。
茶色の髪。
旅人のような服装。
腰には古びた杖。
しかし、その瞳は普通ではなかった。
レインの神眼が自動的に反応する。
『解析開始』
『対象』
『人間』
『名前』
『エリシア・フォン・アーデル』
『職業』
『魔導士』
『危険度』
『SS』
『隠された能力』
『???』
「SS……?」
レインが呟く。
少女は首を傾げた。
「あなたが……神眼の人?」
「どうしてそれを?」
少女は微笑む。
「だって、ずっと探していたから。」
「三千年ぶりに現れた、世界を変える人を。」
ルミナが警戒する。
「あなた……何者ですか?」
少女は杖を軽く振った。
すると周囲に無数の魔法陣が浮かぶ。
「私はエリシア。」
「かつて神眼継承者を支えた、初代の仲間の血を引く者です。」
「あなたの旅に必要な存在になると思います。」
レインは驚く。
昨日まで孤独だった。
誰にも必要とされなかった。
それなのに今。
世界の秘密を知る者たちが、自分の前に集まり始めている。
しかし。
神眼は最後に不穏な表示を出した。
『警告』
『新たな仲間候補を確認』
『ただし』
『未来分岐に重大な影響あり』
レインは静かに少女を見る。
この出会いが、新たな戦いの始まりになることを。
まだ知らなかった。




