表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/12

神眼第三段階

 ヴァルゼクは余裕の笑みを浮かべたまま、巨大な戦斧 を肩に担いでいた。


 レインの姿を見ても、脅威とは思っていない。


「どうした、小僧。」


「その短剣で俺と戦うつもりか?」


 魔将は鼻で笑う。


「人間というのは、自分の力も分からず無駄な足掻きをする。」


 レインは何も答えなかった。


 神眼に表示された数字を見つめる。


 勝率九八・七%。


 その数字に嘘はない。


 だが、どうしてここまで一気に上昇したのか。


 神眼はすぐに答えを示した。


『第三段階起動』


『未来演算開始』


『敵の行動を〇・五秒先まで予測』


『魔力の流れを可視化』


『最適行動を自動演算』


 レインの視界が一変する。


 世界が止まったように見えた。


 いや、止まったのではない。


 自分の認識速度だけが異常なほど加速している。


 ヴァルゼクの身体から溢れる黒い魔力。


 筋肉の動き。


 呼吸。


 視線。


 すべてが手に取るように分かる。


 そして、黄金色の一本の線が浮かび上がった。


 その線はヴァルゼクの右肩から胸元、そして心臓へと続いている。


『最適攻撃軌道』


 レインは静かに息を吐く。


「なるほど……。」


 神眼は勝ち方まで教えてくれるのか。


「終わりだ。」


 ヴァルゼクが床を砕きながら突進した。


 巨大な戦斧が振り下ろされる。


 その一撃だけで神殿の床が割れ、衝撃波が周囲へ広がった。


 普通なら避けることすらできない速度。


 しかしレインには、その攻撃がゆっくりと見えていた。


「右へ二歩。」


 神眼の指示どおり身体を動かす。


 戦斧は紙一重で空を切った。


 ヴァルゼクが目を見開く。


「何?」


 レインは止まらない。


「左へ半歩。」


 再び指示どおり動く。


 振り上げられた肘をかわす。


「前へ。」


 懐へ飛び込む。


 巨大な身体の死角。


 そこだけが唯一の安全地帯だった。


「馬鹿な!」


 ヴァルゼクは慌てて距離を取ろうとする。


 しかし遅い。


 レインは神滅短剣を一閃した。


 キィン。


 金属が鳴るような澄んだ音。


 鎧へ刃が触れた。


 それだけだった。


 ヴァルゼクは笑う。


「そんな細い剣で俺の鎧を――」


 言葉が止まる。


 胸元へ一本の細い線が走っていた。


 その直後。


 ガキン。


 漆黒の鎧が真っ二つに割れた。


「なっ!」


 ヴァルゼクは慌てて後退する。


「神鉄の鎧が……。」


 神滅短剣グラム。


 あらゆる防御を無効化する神話級武器。


 どれほど頑丈な鎧も意味を成さない。


 アルヴァインが静かに頷く。


「さすが……神剣。」


 ヴァルゼクは初めて表情を変えた。


 余裕は完全に消えている。


「面白い。」


「ならば本気だ。」


 黒い魔力が神殿中へ広がる。


 床が溶ける。


 柱が軋む。


 天井から瓦礫が落ち始めた。


 神眼が警告を表示する。


『魔王化』


『戦闘能力三・六倍』


『勝率五三・二%』


「下がった!」


 レインは思わず息をのむ。


 ヴァルゼクは大きく口を開き笑った。


「どうした?」


「さっきまでの威勢は。」


「これが魔将の本当の姿だ!」


 全身の筋肉が膨れ上がる。


 角はさらに長くなり、背中から黒い翼が現れた。


 魔力だけで空間が震えている。


「死ねぇ!」


 一瞬だった。


 ヴァルゼクが消えた。


 いや、速すぎて見えない。


 神眼だけが赤い線を映し出す。


『後方』


 レインは反射的にしゃがむ。


 頭上を巨大な戦斧が通り過ぎた。


 髪が数本切れる。


 あと一瞬遅ければ首が飛んでいた。


「速い……!」


 神眼がなければ反応できなかった。


 それでも、神眼は次々と指示を出す。


『右』


『後退』


『左回転』


 レインは一つも迷わず従う。


 攻撃をかわし続ける。


 十撃。


 二十撃。


 三十撃。


 ヴァルゼクの猛攻は一発も当たらない。


「あり得ん!」


 魔将が叫ぶ。


「なぜ当たらん!」


 レインはようやく気付いた。


 未来演算とは、未来を見る能力ではない。


 相手の動き、魔力、癖、筋肉の収縮。


 あらゆる情報を瞬時に計算し、最適な未来を導き出しているのだ。


 だから避けられる。


 だから勝てる。


 その時、ルミナがレインへ呼び掛けた。


「レイン!」


「今です!」


 神核が黄金色に輝き始める。


 どうやら共鳴の準備が整ったらしい。


 神眼が新たな文字を映す。


『神核共鳴』


『使用可能』


『神滅短剣へ神力注入』


 レインは短剣を握り直した。


 刃が黄金色へ変わる。


 神殿全体の魔力が一本の光となり、短剣へ吸い込まれていく。


 ヴァルゼクが顔色を変えた。


「まさか……。」


「神核を使う気か!」


「止めろ!」


 巨大な身体で突進する。


 しかしアルヴァインが最後の力を振り絞った。


「ここは……通しません。」


 神剣と戦斧が再び激突する。


 その隙を逃さず、ルミナが叫んだ。


「レイン!」


「神眼を信じて!」


 レインは静かに頷く。


 黄金の線が一本だけ浮かぶ。


 それはヴァルゼクの額へ向かって伸びていた。


『勝利への唯一の軌道』


 レインは床を蹴った。


 身体が風になる。


 ヴァルゼクの瞳が驚愕に見開かれる。


「速い!」


 神滅短剣が黄金の軌跡を描く。


 そして刃がヴァルゼクの額へ触れた、その瞬間。


 神眼が最後の表示を映し出した。


『神眼第四段階への進化条件を達成』


『対象の魔力核を切断してください』


 レインは迷わず、その一撃を振り抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ