風神の加護と逆転の一撃
世界が風に包まれた。
それはただの風ではなかった。
森に存在するすべての生命が、その力を感じ取っていた。
枯れかけていた草木が揺れる。
黒く染まった葉が少しずつ元の色を取り戻していく。
精霊樹海そのものが、長い眠りから目覚めようとしていた。
レインの目の前に、一つの巨大な光が現れる。
それは鳥の姿にも見えた。
しかし普通の鳥ではない。
全身が透明な風でできており、その翼を広げるだけで周囲の空気が震える。
神眼が解析を開始する。
『対象』
『風精霊王シルフィード』
『種族:上位精霊』
『危険度:SSS』
『状態:封印解除』
『神眼継承者との契約を希望』
レインは驚いた。
「精霊王が……僕と契約?」
風精霊王は優しい声で語りかける。
「神眼を持つ者よ。」
「我は三千年、この時を待っていた。」
「かつて初代継承者と共に戦ったように、再び世界を守る者と共に歩むために。」
レインは静かに頷いた。
「力を貸してください。」
「僕には、まだ知らないことが多い。」
「でも、この世界を守りたい。」
その言葉に、風精霊王は満足そうに羽ばたいた。
「その心こそ、資格。」
光がレインを包む。
『契約開始』
『風精霊王シルフィード』
『契約成功』
『風神の加護を獲得』
『風属性魔法使用可能』
『身体能力上昇』
『速度補正+300%』
『空間移動能力解放』
新しい力が身体に流れ込む。
しかし、レインはそれに驚いている暇はなかった。
目の前にはまだ敵がいる。
ゼルギウス。
魔王軍第七軍団長。
彼は信じられないものを見るような目でレインを見ていた。
「精霊王と契約した……?」
「あり得ない。」
「精霊王は人間など認めないはずだ。」
レインは短剣を構える。
「でも、認めてくれました。」
ゼルギウスの表情が歪む。
「……気に入りませんね。」
「神々の力。」
「精霊の力。」
「人間がそれらを扱うなど。」
黒い魔力がさらに膨れ上がる。
「ならば、すべて奪い取るまでです。」
ゼルギウスの周囲に無数の黒い魔法陣が展開される。
『禁呪』
『深淵呪殺』
『発動確認』
『危険度:極大』
エリシアが叫ぶ。
「まずいです!」
「あの魔法は受けたら魂ごと破壊されます!」
レインは魔法陣を見る。
以前なら、恐怖していた。
しかし今は違う。
神眼第四段階。
未来を見るだけではない。
可能性を選ぶ力。
無数の未来が視界に浮かぶ。
死亡。
敗北。
逃走。
そして。
一つだけ。
勝利。
レインはそこへ向かう。
「ルミナ。」
「はい。」
「エリシア。」
「分かっています。」
二人はすぐに理解した。
仲間だから。
言葉にしなくても。
ルミナが光魔法を展開する。
「光よ、彼の道を照らしてください。」
エリシアが魔法陣を描く。
「風よ、その刃を導いて。」
シルフィードが力を貸す。
「我が風は汝の刃となる。」
四つの力が一つになる。
神眼。
神滅短剣。
光の神。
風精霊王。
そして仲間たち。
レインは走った。
ゼルギウスが叫ぶ。
「無駄です!」
「未来は私が書き換える!」
黒い光が放たれる。
しかし。
レインは消えた。
「な……?」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
風の力で加速した。
ゼルギウスの認識を超える速度。
レインは背後へ回っていた。
「未来を書き換えるなら。」
「書き換えられる前に終わらせる。」
神滅短剣が光る。
ゼルギウスが振り向く。
遅い。
神眼が示した唯一の瞬間。
魔力核が完全に露出する時間。
「終わりです。」
一閃。
黒い魔力核が切断された。
その瞬間。
ゼルギウスの身体から呪術が崩れ落ちる。
「そんな……。」
「私の未来干渉が……。」
レインは静かに答える。
「未来を変える力があっても。」
「守りたいものがある人の想いまでは消せません。」
ゼルギウスは膝をついた。
黒い魔力が消えていく。
空を覆っていた巨大な魔法陣も、ゆっくりと消滅していった。
『広域呪術解除』
『精霊樹海侵食停止』
『危機回避成功』
森に光が戻る。
黒く染まった木々が、少しずつ生命を取り戻していく。
フィアが涙を浮かべながら飛んできた。
「ありがとう……。」
「本当にありがとう。」
精霊たちが次々と姿を現す。
長い間隠れていた森の住人たち。
彼らはレインへ頭を下げる。
レインは少し戸惑った。
「僕は……。」
「ただ、助けたかっただけです。」
ルミナは微笑む。
「それがあなたの強さです。」
エリシアも頷く。
「力があるから英雄になるんじゃありません。」
「誰かを守ろうとする心があるから、英雄になるんです。」
レインは少し照れながら笑った。
しかし。
その時。
神眼が突然警告を表示する。
『緊急警告』
『魔王軍本部より高位魔力反応』
『解析開始』
『対象』
『魔王軍第二席』
『危険度』
『測定不能』
レインの表情が固まる。
「測定不能……。」
今まで神眼は、どんな相手でも数値を出していた。
それができない。
つまり。
ヴァルゼクより。
ゼルギウスより。
遥かに上の存在。
ルミナの顔から笑みが消える。
「ついに動き始めましたか。」
「誰なんですか?」
ルミナは静かに答えた。
「魔王軍第二席。」
「かつて私と戦い、唯一私を倒した存在。」
風が止まる。
そしてルミナは、その名を口にした。
「魔将皇グラディオス。」
「世界で最も危険な魔族です。」
レインは短剣を握り締める。
新たな敵。
そして、さらに大きな戦い。
しかし。
もう昔の自分ではない。
追放された青年は、仲間と共に未来へ進み始めていた。




