第31話:5月9日(前編)「見る日を決める前に、心の準備がいる」
《マッチアプリ画面》
千佳(10:14)
おはようございます。
連休もあと2日…
そろそろ生活リズム戻さないとヤバいかもです(笑)
リョウ(10:18)
おはようございます(笑)
ほんとそれ。
このままだと出勤日に寝坊する未来が見えます…!
千佳(10:20)
さすがに明日からは早寝練習しようと思います(笑)
でも今朝はなんか、ちょっと気持ちが静かで。
リョウ(10:23)
分かります。
昨日までいろいろ考えすぎたからか、
今日はちょっと落ち着いてる感じあります。
千佳(10:25)
……ねぇ、リョウさん。
昨日の「見るだけ」の話、
あれってもし“する”としたら、
どういう風にするのが自然なんでしょうね。
リョウ(10:28)
うーん…。
たとえばですけど、
お互いに休憩時間が分かる場所だったら、
自然なふりしてすれ違うとか?
本当に“見るだけ”に徹するなら。
千佳(10:31)
その場合って、
どっちが先に見るか決めないといけないのかな。
それとも、お互いが気づかないふりして、同じ時間に?
リョウ(10:33)
同じ時間…ちょっと難しいけど、
でももし同じビルとか、
同じ空間にいるとしたら、
不自然じゃないかもしれないですよね。
千佳(10:36)
なんか、
まるでスパイみたいですね(笑)
でも、
それぐらい慎重にならなきゃいけない関係なんだなって思うと、
ちょっと切ない。
リョウ(10:38)
切ないですね。
でも、
“見てしまったら終わり”っていう怖さもあるし。
千佳(10:41)
うん。
見たことで、全部壊れてしまう可能性もあるし、
逆に何も変わらないってこともある。
どっちもこわい。
リョウ(10:44)
……でもね。
最近、
“壊れたらそれまでだった”って思う自分と、
“壊れるくらいならこのままでいたい”って思う自分がいて。
どっちが本音か、まだわかってません。
千佳(10:47)
わたしも、同じです。
もしも、
リョウさんが“ちゃんと目の前にいる人”だったら、
って何度も思うんです。
そしたら、
もっとシンプルに「会おうよ」って言えるのに、って。
リョウ(10:50)
ねえ千佳さん。
今って、
どこまでが“本当の気持ち”なんでしょうね。
千佳(10:53)
わたしにとっては、
この会話も、本当の気持ちです。
設定とか、名前とか、性別とか、
そういうの抜きにして、
リョウさんと話してる時の感情だけは、全部本物です。
リョウ(10:56)
自分も。
嘘の中に、本当があるって、
こんなに不思議なんですね。
千佳(10:58)
……じゃあ。
「見るだけ」をもしするとしたら、
“いつにするか”よりも、
“どんな気持ちで見るか”が大事なのかもしれない。
リョウ(11:01)
その通りだと思います。
だから、
見る日を決める前に、
もう少しだけ“心の準備”をしたい。
千佳(11:04)
うん。
焦らずに、
でも、
ちゃんと向き合えるようにしておきたいですね。
リョウ(11:07)
はい。
……ありがとう、
こんな話、できてよかったです。
千佳(11:09)
わたしも。
少しだけ、軽くなりました。
リョウ(11:10)
じゃあまた、夕方にでも話しましょうか。
気持ち、整理しながら。
千佳(11:11)
うん、楽しみにしてますね。
◆◇◆
(和人は「心の準備」という言葉を反芻していた。
見た後、自分はどんな顔をするだろう。
リョウの姿を見て、笑えるだろうか。
それとも──ただ、後悔するのだろうか)
(真子は「本当の気持ち」という言葉に、ほんの少し泣きたくなっていた。
ずっと嘘をついていた。
けれど、それでも本気で誰かと向き合おうとした自分は、
もう“ただの遊び”ではいられなくなっていた)




