第30話:5月8日(後編)「見たい、けど…」
《マッチアプリ画面》
千佳(17:38)
こんばんは。
お昼食べてから、
録画してたドラマ4話ぶっ通しで見ちゃいました(笑)
リョウ(17:41)
こんばんは(笑)
ドラママラソン、いいですね。
こっちは久々に昼寝して、さっき起きました。
すごい夢見て、ちょっとまだふわふわしてます(笑)
千佳(17:43)
どんな夢だったんですか?
リョウ(17:45)
なんか…知らない人たちと一緒にテーマパーク行って、
最後に誰かと手をつないで歩いてる夢でした。
でも顔は全然覚えてない(笑)
千佳(17:47)
なんかロマンチックなような、不思議なような(笑)
顔が思い出せないってところが夢っぽいですよね。
リョウ(17:49)
うん。
夢の中ではすごく安心してたんだけど、
起きたら何も覚えてなくて、
でも「よかったな」って気持ちだけが残ってる。
千佳(17:52)
……それ、ちょっと分かるかも。
わたしもたまに見る。
誰かが隣にいるのに、その人のこと何も分からなくて、
でも一緒にいるだけで、安心できる夢。
リョウ(17:55)
現実でも、
そういう感覚、
あるのかもしれませんね。
何者か分からないままでも、
ただ一緒にいられることで、
救われるような関係。
千佳(17:58)
……ねぇ、リョウさん。
今日の午前中の話なんだけど。
リョウ(18:00)
うん。
千佳(18:03)
あれ、
ちょっとだけ、
現実味が出てきちゃってる気がしてて。
リョウ(18:06)
……自分も。
昼間、ずっと考えてました。
“見るだけ”って本当に可能なのか、
それで満足できるのか、
それとも逆に、余計に苦しくなるのか。
千佳(18:09)
そう。
満足するためじゃなくて、
気持ちを終わらせるために見るような気がして。
リョウ(18:12)
それって、
もう“会いたい”と同じじゃないのかなって、
思ったんです。
千佳(18:14)
わたしも。
“見るだけ”って、
ただの言い訳なのかもしれない。
会いたいわけじゃない、
でも、知らないままでいたくない。
そう言ってるだけで、
結局、わたし…
リョウ(18:17)
“知りたい”んですよね。
でもそれがどこまで許されるのか、
わからなくなってきてて。
千佳(18:20)
リョウさん。
仮に、ほんとに同性同士だったら──
わたし、
たぶん迷わず「会おうよ」って言ってたと思う。
リョウ(18:22)
……自分も、そうです。
たぶんもうとっくに、
会って一緒にコーヒー飲んで、
どうでもいい話で笑い合えてたと思う。
千佳(18:25)
なのに今は、
“見るだけ”の話ですら、
こんなに慎重になってる。
リョウ(18:28)
それくらい、
この関係が壊れるのが怖いってことなんでしょうね。
千佳(18:31)
うん。
壊したくないって気持ち、
どんどん強くなってる。
リョウ(18:33)
じゃあ、
もう少しだけ、今のままでいましょうか。
千佳(18:34)
……うん。
もう少しだけ、
“話すだけの関係”で。
リョウ(18:36)
でも、
もしどこかですれ違ったら、
その時は気づかないふりをしてもいいから、
目だけは、
合わせられたらいいですね。
千佳(18:38)
……それ、
すごく嬉しい言葉でした。
ありがとう。
リョウ(18:39)
こちらこそ、ありがとう。
夕飯、しっかり食べてくださいね。
千佳(18:40)
リョウさんも。
また夜、少しだけでも話しましょう。
リョウ(18:41)
はい、ぜひ。
◆◇◆
(和人は、
「見るだけでいい」と言いながら、
自分が“見られる側”になったときのことを考えていた。
リョウが、自分を見たらどう思うだろう──
その不安と、期待と、恐怖が、ぐるぐると混ざっていた)
(真子は、
「目を合わせられたらいい」
その言葉の意味を何度も反芻していた。
もし、千佳が自分を見て、
“男”だとしか思っていなかったら──
その時、自分はどうなるんだろう?)




