第3話:4月12日「話を聞いてくれる誰かがいること」
《マッチングアプリ画面》
千佳:
こんばんは。
なんだか今日は、ぐったりしてしまって…
人に会いたくない日、ってありますよね。
リョウ:
こんばんは、千佳さん。
ありますよ、そういう日。
お疲れさまでした。
何かあったんですか?
千佳:
うーん、ちょっとしたことなんですけど…。
同じ売り場の子と、ちょっとだけ意見が合わなくて。
「その言い方はないんじゃないかな」って思っても、
その場では言い返せなくて。
(和人:昨日のニュースで見た“職場トラブルあるある”をアレンジ。
でも、なぜか自分のことのように感じてる…不思議だ)
リョウ:
わかります、その感じ…。
言い返せないまま飲み込むって、
あとからどっと疲れますよね。
千佳:
そうなんです…。
「いい人」でいようとしすぎるのかなって、思う時もあります。
でも、売り場って、チームだから空気悪くしたくなくて。
…結局、何も言えなくなっちゃうんですよね。
リョウ:
すごく分かります。
僕も、チームの雰囲気を崩すのが怖くて、
意見を言うときに何度も言い回しを変えたりします。
言いたいことの3割くらいしか出せない時もあって…。
千佳:
3割…。
あ、それ、すごくわかります。
心の中ではモヤモヤしてるのに、
口から出るのは「うん、そうだね」って。
帰り道に「ああ言えばよかった」「いや、こうかも」って
ずっと考えてて…(笑)
リョウ:
そのループ、完全に僕もやってます(笑)
でも千佳さん、そうやって悩めるってことは、
ちゃんと周りのこと考えてるってことですよ。
無理に割り切ろうとしなくても大丈夫です。
悩む自分ごと、千佳さんらしさだと思います。
千佳:
……リョウさんって、時々ズルいですね(笑)
そう言われたら、なんだか救われちゃうじゃないですか。
…ありがとうございます。
(和人:今のやりとり…演技なのに、すごく素直な気持ちで打ってた気がする。
まるで、自分が"千佳"という女性になって、本当に話を聞いてもらっているような)
リョウ:
ズルくないですよ(笑)
ちゃんと、思ってることをそのまま言っただけです。
でも、そんな風に言ってもらえて嬉しいです。
千佳:
ふふ、なんだか、リョウさんに話すと気持ちがほどけていきます。
こういうのって、不思議ですね。
文字だけなのに、言葉ってちゃんと人の心に届くんだなって。
リョウ:
本当に、そう思います。
文字だからこそ、相手の言葉をちゃんと読もうとするし、
伝えようとして書いてる気がします。
だから…千佳さんの言葉、すごくまっすぐに伝わってきますよ。
千佳:
それって、すごく嬉しいです。
今日はもう、ふとんに潜ってアプリしてるんですけど、
リョウさんと話せてよかった。
なんか…ちゃんと寝れそう(笑)
リョウ:
それはよかった(笑)
眠れない夜に、少しだけ寄り添える相手でいられたなら、
僕もとても嬉しいです。
ゆっくり、休んでくださいね。
おやすみなさい、千佳さん。
千佳:
おやすみなさい、リョウさん。
明日は、ちょっとだけ笑顔が多い日になりますように。
◆◇◆
(スマホを伏せた和人は、深く息を吐いた。
女性として話しているはずなのに、自分の本音が出てしまう瞬間がある。
でも、それを自然に受け止めてくれる相手がいるという事実が、
今の彼には、何よりも優しかった)
(布団の中の真子は、画面を見つめながら、微かに口元を緩めた。
“千佳”という名前の後ろに見える表情が、少しずつ想像できるようになってきた気がする。
そしてそれが、自分にとって心地よいものになってきていることに、
まだ気づかないふりをしていた)




