第24話:5月3日「気づかないふりが、少しだけしんどくなった」
《マッチアプリ画面》
千佳:
こんばんは。
連休明けの職場、想像以上に地獄でした(笑)
体が休みを覚えてる分、動きがのろのろで…
リョウ:
こんばんは(笑)
わかります、その“連休ボケ”現象…。
休んだのたった1日なのに、
朝の制服着るのに3分かかりました(笑)
千佳:
わたしも、
メイクの順番いつもと逆になってて、
下地の後にアイライン描いてました(笑)
リョウ:
それは斬新すぎる(笑)
むしろ、今日一番笑いました(笑)
千佳:
あ~、こういうやり取りで
やっと今日の疲れが少しだけ解けてきました…。
リョウ:
自分もです。
ところで、昨日の“休日”、
なんか変なことありませんでしたか?
千佳:
えっ、変なこと…?
うーん……
あ、ひとつだけ。
カフェで隣の席にいた男性が、
ちょっとだけ…なんか見たことあるような気がしたんです。
リョウ:
え?
それ、時間はいつ頃でした?
千佳:
13時半くらいかな。
川沿いのテラスのところで。
リョウ:
……自分、その時間、
川沿いのカフェでラテ飲んでました。
千佳:
……。
ちょ、まって(笑)
そんな偶然あります?!
リョウ:
いやでも、
隣に座った人がスマホ見ながら微笑んでたのは覚えてます(笑)
まさか、それが千佳さんだったなんてこと…
千佳:
さすがに偶然…ですよね?(笑)
だって、お互い顔知らないし…
リョウ:
でも、
もし本当にそうだったら、
なんか運命にちょっと遊ばれてますよね(笑)
千佳:
うん(笑)
ていうかリョウさん、
隣にいた女性の服装とか覚えてます?
白のブラウスに、ベージュのパンツで──
リョウ:
……
ほんとに、それでした。
千佳:
……
…………。
リョウ:
怖いですね、これ(笑)
でも、なんか……
ちょっとだけ嬉しくもあります。
千佳:
わたしも、です。
その時、
なんでか分からないけど、
隣の人の雰囲気、ちょっと落ち着いた感じで、
印象に残ってたんです。
リョウ:
それ、たぶん自分です(笑)
千佳:
ほんとに、会ってたのかも。
でも、
“知らないままでいた”ことが、
なんだかちょうどよかったのかも。
リョウ:
そうですね。
あの距離感、
今だから成立するものだった気がします。
千佳:
リョウさん。
もしまた、どこかで偶然すれ違ったら──
今度は、気づかないふりしますか?
リョウ:
うーん……
その時の自分に、任せます(笑)
千佳:
……わたしも、そうします(笑)
でも、
“気づかないふり”って、ちょっとだけ切ないですね。
リョウ:
そうですね。
でも今は、それがちょうどいいのかも。
千佳:
うん。
それでも、
今日も話せてよかったです。
リョウ:
自分もです。
じゃあ、また明日。
千佳:
おやすみなさい、リョウさん。
明日もがんばりましょうね。
リョウ:
おやすみなさい、千佳さん。
◆◇◆
(和人は、画面を閉じて深く息を吐いた。
“気づかないふり”という言葉が、
今夜はやけに胸に残っていた。
でも、それでもこの関係が壊れないなら、
今はそれでいいと思った)
(真子は、スマホを伏せて天井を見つめた。
リョウとして話していたのに、
“あの人”が目の前にいた可能性を思い出すたびに、
心が少しだけ揺れる。
でも、今はまだ、
揺れてるだけで、十分だった)




