第23話:5月2日「同じ場所にいたことを、まだ知らない」
《マッチアプリ画面》
千佳:
おはようございます。
ちゃんと寝坊して、ちゃんと朝からダラダラしてます(笑)
リョウさんはもう起きてました?
リョウ:
おはようございます(笑)
自分も9時に起きて、
とりあえずベランダでぼーっとしてました。
千佳:
いいですね、それ。
なんか、
“何もしないことをする日”って感じで。
リョウ:
名言すぎます(笑)
今日はもう、ダラダラするために呼吸してますからね。
千佳:
あはは、それ最高(笑)
これからちょっとカフェに行こうかと思って。
歩いて15分くらいのとこにある、
川沿いのテラス席があるカフェなんですけど。
リョウ:
え…?
自分もさっき、
“川沿いのテラスカフェ”行こうかなって思ってたとこだったんですけど(笑)
あれ、偶然すぎる?
千佳:
ちょっとびっくり(笑)
でもまあ、
こういう日は自然と同じ行動になっちゃうのかもですね。
リョウ:
そうかも(笑)
ちなみに今日の飲み物、何にしますか?
千佳:
うーん…
気分的には、カフェラテだけど、
アイスハーブティーも気になる。
どうしよう(笑)
リョウ:
悩み方、完全に同じです(笑)
自分、今メニュー見てて
カフェラテとハーブティーで迷ってました。
千佳:
ちょっと怖いんですけど(笑)
もしかして、今日わたしたち…どこかでニアミスしてそう?
リョウ:
それはもう、
テラスで隣の席だったとか、あってもおかしくないレベル(笑)
千佳:
あはは、さすがにそれは(笑)
でも、
それぐらい近くにいる気がするって、
ちょっと嬉しいですね。
リョウ:
うん。
どこにいても、
“今日もこの人も同じ空見てる”って思えるのって、
すごく穏やかです。
千佳:
……
リョウさん、
たまに言葉が染みすぎます(笑)
リョウ:
すみません(笑)
職業病ですかね。
言葉、売ってますし(笑)
千佳:
あ、たしかに(笑)
わたしは逆に、
お客様に“言葉をかけられる側”だから、
たまにリョウさんみたいに言葉をくれる人、
すごくありがたく感じます。
リョウ:
じゃあ今日ぐらいは、
千佳さんの“お客さん”になります(笑)
心の栄養、補給されました。
千佳:
それはお互い様です(笑)
今ちょうどラテ飲んでるんですけど、
カップの底にシロップがたまってて、最後めちゃ甘かったです。
リョウ:
あ、それ自分も今日それでした(笑)
カップの底って、なんでいつも急に“濃厚ゾーン”になるんですかね(笑)
千佳:
それめっちゃ分かります(笑)
でも、最後甘いってなんか幸せ。
“オチがいい”って感じ。
リョウ:
今日一日がそんなふうになったらいいですね。
最後まで“おいしい日”。
千佳:
それ、
明日からまた仕事でも頑張れそうな言葉です(笑)
ありがとう、リョウさん。
リョウ:
こちらこそ。
こんなふうに“ただの休日”の話で笑えるの、
なんだか貴重ですね。
千佳:
うん、ほんとに。
こういうのがあるから、
また日常に戻れるのかも。
リョウ:
……じゃあまた夜にでも、
今日の“オチ”報告し合いましょうか(笑)
千佳:
しましょう(笑)
その時に「実はすれ違ってました」とかあったら面白いのに。
リョウ:
本当にあったら、
ちょっと運命信じます(笑)
千佳:
その時は、
お互いに「ニアミス記念ドリンク」でも飲みましょう(笑)
リョウ:
決まりですね(笑)
では、後ほど。
千佳:
うん。
楽しい午後を。
◆◇◆
(和人は、テラス席から川を眺めていた。
すぐ隣のテーブルには、
ラテを飲みながらスマホを見て笑っていた女性がいた。
その時は気にも留めなかったけれど、
あとでふと、その笑い声がどこかで聞いたような気がした)
(真子は、帰り道の川沿いでふと振り返った。
さっき、あの隣のテーブルにいた男性、
カフェラテを持って、スマホを静かに見つめていた。
その横顔、なぜか心に引っかかる──けれど、まさかね、と思って歩き出した)




