第16話:4月25日「ほんとの自分を、少しだけ話したくなる時」
《マッチアプリ画面》
リョウ:
こんばんは。
今日、職場で高校の同級生に似てる人を見かけたんですよ。
めちゃくちゃ懐かしい気持ちになってしまって(笑)
千佳:
こんばんは。
それ、わかります(笑)
街中で誰かに似てる人見ると、一気に記憶が引っ張られますよね。
リョウ:
そうなんですよ。
しかもその同級生、ちょっと不思議なやつで。
美術部なのにやたら早口で、いつも独り言言ってて。
でも、やたら面倒見がよくて。
千佳:
そのギャップ、愛されキャラだったんじゃ?(笑)
リョウ:
そうかもしれないです。
当時は気づいてなかったけど、
今ならたぶん、ちゃんと仲良くなれた気がします。
千佳:
それ、ありますよね。
「今の自分なら、あの子の良さもっと分かったかも」って思う人。
大人になるって、そういうことかもしれないな。
リョウ:
ですね。
あの頃の自分は、まだ「ちゃんとした自分」になろうと必死で、
人の“変なとこ”を笑ってごまかしてた気がします。
千佳:
……
リョウさんって、たまにそういう正直なこと言うからズルいです(笑)
リョウ:
え(笑)
いや、たぶん今だから言えるだけです。
千佳さんと話してると、不思議とそういう部分が出てくるんですよね。
千佳:
それ、たぶんわたしもです。
ふだん誰にも言わないような話を、
気づくとリョウさんにだけ言ってるなって思います。
リョウ:
それは…嬉しいですね。
でも、なんでなんですかね。
やっぱり、会ったことない相手っていう距離が、逆に安心するのかな。
千佳:
うん…
それもあるけど、たぶん、
“ちゃんと話そうとしてくれる相手”ってことの方が大きいかも。
リョウ:
……
千佳さん、今めちゃくちゃ名言言いましたね(笑)
千佳:
あはは(笑)
でも、ほんとにそう思ってますよ。
リョウさん、いつもちゃんと受け止めてくれるから。
(和人:……まただ。
この会話のたびに、
「こんなにちゃんと話してくれてるのに、自分は“千佳”を演じてる」って
心のどこかで苦しくなる。
だけど、やめたいとは…思えない)
(真子:千佳さんの言葉って、
いつも、まっすぐに届いてくる。
なのに私は、嘘をついてる。
リョウなんかじゃないのに──
それでも、ずっとこのままでいたくなる)
千佳:
……もし、
過去に誰かにちゃんと向き合えなかったことがあったとしても、
今こうして“ちゃんと話せてる相手”がいるなら、
ちょっとは救われる気がします。
リョウ:
うん、たしかに。
今の自分を見てくれる人がいるって、
それだけで、変われる気がしますよね。
千佳:
じゃあ…今日も一日、お疲れさまでした。
なんか、ちょっとだけ前向きになれました。
リョウ:
こちらこそ、
千佳さんのおかげで“高校時代の自分”に優しくなれました(笑)
おやすみなさい。また明日、話しましょう。
千佳:
おやすみなさい、リョウさん。
明日も、ちゃんと今日の続きができるといいですね。
◆◇◆
(和人は、今日のやりとりを読み返していた。
これは嘘の中の会話なのか?
それとも、本当の“心”だけがつながってるのか。
答えはわからない。
でも、手放せない。
この、文字のやりとりのぬくもりを──)
(真子は、ベッドに寝転びながら目を閉じる。
“千佳”という女性は、リョウではない自分に、
たしかに語りかけてくれている気がした。
だからこそ、
いま“リョウ”でいる自分を、少しだけ許せた)




