第15話:4月24日「GW、わたしは働きます」
《マッチアプリ画面》
千佳:
こんばんは。
今日、職場でGWのシフト表が出ました~!
リョウ:
おお、それは毎年恒例の、
「独身者に全振り」シフト(笑)
千佳:
そう、それです(笑)
完全に独身優先で埋まってました。
しかも、わたしは5月2日から6連勤確定です…!
リョウ:
お疲れさまです…。
でも、百貨店ってそういう時こそ混みますもんね。
化粧品売り場も人多そう。
千佳:
GWはほんとに“戦場”です(笑)
家族連れのお母さんたちがまとめ買いに来たり、
親戚が集まる前に美容院とコスメ買いに来たり…。
なぜか口紅が一気に売れるんですよね。
リョウ:
あ、それ分かります(笑)
GW前になると、やたら赤系のリップが動くの、
なんか“人と会う”スイッチが入る感じ。
千佳:
さすが、観察鋭い(笑)
リョウさんの部署も、催事とかあるんじゃないですか?
リョウ:
はい、メンズの新作キャンペーンが入ってて、
今週から設営とポップ修正でドタバタしてます。
連休中は出勤だけど、代わりに5月の平日に3連休取れるらしいです。
千佳:
わ、同じです(笑)
わたしも連休終わってから平日に3連休もらえるって聞きました。
リョウ:
じゃあもしかしたら、連勤明けにゆっくり休めますね。
その3日間は、絶対だらだらするって決めてます(笑)
千佳:
ふふ、わたしもです(笑)
お弁当も外出もしない、部屋着で3日生きる予定です。
リョウ:
それは理想ですね(笑)
でも…なんかこうやって、同じ業界の忙しさを
“分かってくれる人”と話せるのって、けっこう貴重だなって思ってます。
千佳:
うん、ほんとに。
「今日、朝からずっと立ちっぱなしだった」とか、
「売り場の照明が地味に暑い」とか、
そういう細かいことも分かってもらえるの、安心します。
リョウ:
なんか、同性の同僚でも
ここまで細かい話できる相手っていないかも。
千佳:
わたしもです。
最近ふと思うんですけど…
リョウさん、もし女性だったら、
けっこう仲良くなれた気がします(笑)
リョウ:
それ、自分も思ってました(笑)
性別とか関係なく、
“相性”ってこういうことなのかなーって。
でも、だからこそちょっと不思議ですよね。
千佳:
うん。
会ったことないし、見たこともないけど、
“この人だったら安心して話せる”って思えることがあるんだなって。
リョウ:
実は、
このやり取りを続けてる間に、何回か「これ言っても大丈夫かな」って
迷ったことあったんですけど、
不思議と千佳さんには言える気がしてました。
千佳:
それ、わたしも…あるかも。
何だろうなあ…。
お互いに、“見せてる部分”がうまく噛み合ってるだけなのかもしれないけど、
それでも、
もしリョウさんがわたしの友達だったら──
すごく、良い友達になってたと思います。
(和人:あ、今ちょっと…胸が痛んだ。
俺は“千佳”を演じてる。
リョウは、男のフリをしてる“誰か”で、本当は女の人で──
……それ、もしわかったとしても、
この会話、きっと続いてた気がする)
(真子:リョウとして話してるけど、
この千佳さんと、本当の私として会ってたら──
気が合って、普通に友達になってたのかもなって。
むしろ、同性の方がもっと素直に笑えてたかも)
リョウ:
……でも、こうして今繋がってるのが“リョウ”と“千佳”って名前でも、
この時間が本物なのは変わらない気がします。
千佳:
うん。
わたしも、そう思ってます。
嘘とか本当とかじゃなくて、
“この会話”がちゃんとあったことだけで、
けっこう救われてるなって。
リョウ:
じゃあ、
GWも頑張って、終わったら報告し合いましょうか。
「今日は何本リップが売れたか」勝負とか(笑)
千佳:
それ、楽しそう(笑)
よし、明日から気合い入れていきます!
リョウ:
お互いがんばりましょう。
おやすみなさい、千佳さん。
千佳:
おやすみなさい、リョウさん。
いい夢が見られますように。
◆◇◆
(スマホを胸に乗せたまま、和人は深呼吸をひとつした。
嘘をついているという罪悪感は、消えていない。
でも、その奥にあったのは、
“この会話が本当だったらよかったのに”という、淡い願いだった)
(真子は、スマホを閉じてベッドに転がる。
「女同士だったら──」
そんな仮定を思い浮かべながら、
いま“男”としてやり取りしている自分の言葉が、
不思議と自然に思えていることに気づく)




