第14話:4月23日「今日の風、なんか春っぽかった」
《マッチアプリ画面》
千佳:
こんばんは。
今日、ちょっとだけ外に出たんですけど──
なんか風が“春っぽい”匂いしてました。
リョウ:
お、出ましたね、“風の匂いシリーズ”(笑)
昨日は「今日は引きこもれ」って言ってた風が、
今日は春を語ってきたんですね(笑)
千佳:
そうそう(笑)
昨日の風とはまったく別人みたいでしたよ。
少し暖かくて、花の匂いがして。
なんか、空気に色がついてるみたいな感じでした。
リョウ:
あー、わかるなあその感覚。
夕方、ベランダに出たときに、
ふっと鼻に抜ける感じのやつですよね。
ちょっと湿ってて、でも軽くて。
千佳:
そうそう!
そういうの、わかってくれるの助かります(笑)
「え、匂いとか気にしたことない」って言われたことあるから。
リョウ:
いや、めっちゃ気にします(笑)
むしろ、天気と匂いでテンション変わるタイプです。
千佳:
完全に同じタイプです(笑)
あと、コンビニの入り口の空気の匂いとかも好きです。
リョウ:
わかるわかる(笑)
あの、唐揚げとコーヒーとコピー機の熱が混ざったようなやつですよね。
千佳:
そうそうそう!(笑)
あれ、なぜか懐かしくなるんですよね。
リョウ:
「高校の帰り道」感あります(笑)
千佳:
あー、あるある(笑)
わたし、春になると制服がちょっとだけ軽く感じたの、
いまだに覚えてます。
リョウ:
なんかわかる気がする(笑)
自分も学生のとき、
冬は重かったリュックが、春になると急に軽くなってた気がします。
中身は変わってないはずなのに。
千佳:
体の感覚が、外の空気に影響されてたのかもですね。
春って、ちゃんと来るんだなって思いました。
去年も来たはずなのに、
毎年ちょっとだけびっくりしてる気がします(笑)
リョウ:
あ、それめっちゃ共感…。
「お、来たな」って毎年思う(笑)
でも、こうしてLINEで話してるだけなのに、
同じ季節感じてるのがなんかいいですね。
千佳:
うん、離れてるのに、
同じ空気吸ってるんだなーって思える感じ。
リョウ:
実際、わりと近い場所に住んでるはずですけどね(笑)
千佳:
そうですね、都内と近郊なら電車1本の距離かも。
でも、いまのこの距離感がちょうどいいのかも。
リョウ:
うん。
でもいつか、“同じ空気を同じ場所で吸う日”が来たら、
その時は、春の匂いを一緒に感じてみたいですけどね(笑)
千佳:
……ふふ、急に詩的(笑)
でも、そういうの嫌いじゃないです(笑)
リョウ:
良かった(笑)
じゃあ今日は、春の空気を吸った報告ってことで、
お互いゆっくり寝ましょうか。
千佳:
ですね。
明日からまた一週間、春に励まされながらがんばりましょう(笑)
おやすみなさい、リョウさん。
リョウ:
おやすみなさい、千佳さん。
春、ちゃんと来てますね。
◆◇◆
(スマホを閉じた千佳=和人は、ふとカーテンを少し開けた。
夜風が、ほんのり暖かい。
それだけで「今日という日」がやさしく包まれている気がして、
小さな安心が胸に広がっていた)
(リョウ=真子は、ベランダの椅子に座ったまま空を見上げていた。
暗い中にうっすら漂う夜の匂い。
それが、遠く離れた誰かと同じだったら──
そんな想像だけで、今日はなんとなく、よく眠れそうだった)




