第13話:4月22日「なにもしてない日を、話せる人」
《マッチアプリ画面》
リョウ:
こんばんは。
今日は…ほんとに、何もしてませんでした(笑)
報告できるようなことがひとつもない土曜日です。
千佳:
こんばんは。
それ、まさに私もです(笑)
起きたの11時半で、そこから洗濯だけして…
あとはソファにいました。
リョウ:
あー、いいな。
「今日はもうここから動かない」って決めた時のソファ、
なんか特別ですよね(笑)
千佳:
わかる(笑)
クッションの山作って、毛布かけて、
スマホと飲み物だけ確保して──
“完璧な基地”って感じ(笑)
リョウ:
まさにそれ(笑)
こっちは、朝ちょっと出ようか迷ったんですけど、
ベランダに出た瞬間の風が「今日は引きこもりの日だな」って言ってて。
千佳:
風の声聞こえたんですね(笑)
それは逆らえない(笑)
リョウ:
午後から映画でも観ようかと思ったんですけど、
結局、YouTubeで猫の動画をひたすら見て終わりました。
千佳:
それ、永遠に見られるやつ(笑)
何であんなに癒されるんでしょうね。
私は今日、電子レンジでおもち焼いて、
しょうゆと海苔で食べてたら時間飛びました。
リョウ:
それ最高すぎません?
もちって、なんか“休日感”あるなあ…。
千佳:
そう、もち=休日の味(笑)
しかも焦げ目ついた時点で幸せ確定。
リョウ:
焦げ目はもう、祝福です(笑)
千佳:
でも、こんな「特になにもない日」の話って、
普通あんまり誰かに言わないですよね。
リョウ:
そうですね。
「今日は何してたの?」って聞かれて、
「何もしてないよ」って答えると、
ちょっとだけ申し訳なくなる(笑)
千佳:
うん、あります(笑)
でも、リョウさんには普通に言えるから不思議。
“報告”じゃなくて“共有”って感じがします。
リョウ:
ああ、わかるなそれ。
話してても「会話しなきゃ」って思わないから、
ちょうどいいのかもしれません。
千佳:
なんか、今日一日静かだったけど、
こうしてLINEしてるだけで「悪くなかったな」って思えてきました(笑)
リョウ:
ですね。
予定のない休日も、ちゃんと意味があるって思える。
そういう時間って、すごく貴重かも。
千佳:
たぶん、“何でもない日”を話せる相手がいるって、
けっこう幸せなことですよね。
リョウ:
ほんとに。
じゃあ、明日も“何でもない日”だったら、
また報告し合いましょうか(笑)
千佳:
いいですね(笑)
「今日はカップ麺でした」とか、
「ずっとゴロゴロしてました」とか、そういうやつ。
リョウ:
その報告、全力で待ってます(笑)
ではでは、ゆるい一日にふさわしいおやすみを。
千佳:
リョウさんも、よく休んでくださいね。
おやすみなさい。
◆◇◆
(千佳=和人は、スマホを伏せてひとつ伸びをする。
会話が「盛り上がった」わけじゃない。
でも、心が落ち着いている。
言葉が多くなくても、何かがちゃんと通っている──
そんな安心感が、今日一日の終わりに寄り添ってくれていた)
(リョウ=真子は、スマホを胸元に置いたまま、天井をぼんやりと見上げる。
誰にも見せないような日常の断片を、
笑われもせず、無理に広げられもせず、
そのまま受け取ってくれる相手がいることに、
小さくほっとしていた)




