第四十八章 ―播磨の若者―
一 帝への奏上準備
七島。
冬の始まりだった。
浜村と天元が、奏上の準備を進めていた。
前久との書状のやり取りが、毎日のように続いていた。
前久からの書状には、帝の様子が書かれていた。
帝は——毎日、時貞の準備を待っておられる。
「時貞はいつ来るのか」と、自ら問われることが増えた。
春までにはなんとか準備を整えてほしい。
時貞は書状を読んで、浜村に言った。
「春まで——何が残っているか、確認させてくれ」
「三つあります」と浜村は言った。「一つ、統治の仕組みの全体像の整理。天元が分析した世界の事例と、日本の歴史からの学びを一冊にまとめます。二つ、民の声を政に届ける仕組みの具体案。現在の直訴制度をより細かく設計します。三つ、百年計画の言語化です。時貞殿の頭の中にある百年先の日本の姿を——帝にわかる言葉で書き表すことが、最も難しい部分です」
「三つ目が一番難しいな」と時貞は言った。
「はい。百年先のことを、この時代の言葉で伝えることは——天元でも、最適な表現を探しています」
「冬姫殿が手伝ってくれている」と時貞は言った。「難しい言葉を、帝にわかる言葉に変える作業を」
「北の方様の力を借りていいと思います」と浜村は言った。「帝は公家の世界の人間です。公家の言葉を知っている北の方様の表現は、俺たちより帝に届きやすい」
「そうしてくれ」と時貞は言った。
その夜、時貞と冬姫が並んで書類を見ていた。
「この部分が——難しい」と時貞は言った。「『帝を頂点とした合議制統治』という概念を、帝にわかる言葉で説明したい」
冬姫は書類を読んだ。
「帝がお決めになることと、帝がお決めにならないことを、明確に分けることですね」と冬姫は言った。
「なるほど」
「では——こういう言い方はいかがでしょうか」と冬姫は言った。「帝は日本の根っこです。根っこが揺らがない限り、どんな嵐が来ても木は倒れません。しかし根っこが全ての枝の向きを決める必要はありません。枝は枝の仕事があります。根っこが根っこの仕事をすれば、木全体が育ちます」
時貞は少し間を置いた。
「……それだ」と時貞は言った。
「帝に伝わる言葉だ。根っこの比喩は——俺も使ってきた言葉だ。しかし冬姫殿の言い方の方が、はるかに美しい」
冬姫は少し照れた顔をした。
「公家の世界では、比喩で話すことが普通です。難しいことを直接言わず、比喩で伝える。その習慣が——役に立つなら、嬉しいです」
二 権限委譲の具体化
翌日の会議。
成瀬が議題を出した。
「権限委譲の件を——今日、具体的に決めたいと思います」
時貞が頷いた。
「以前から指摘されていた問題だ。今日、決める」
「現在の問題を整理します」と浜村が言った。「対外方針の決定、統治の方針、軍の指揮、外交の判断——全てが時貞殿に集中しています。時貞殿が何らかの理由で動けなくなった場合、鳳凰寺全体が止まります」
「解決策として——五つの権限を分割することを提案します」と天元が言った。
「聞かせてくれ」
「一、軍事権。熊谷新兵衛に、陸軍の実戦指揮権を委譲します。時貞様の承認なしに、防衛のための作戦行動を取れる権限を与えます」
「二、内政権。成瀬に、西日本全体の内政の日常的な決定権を委譲します。道路・診療所・学舎などの整備については、成瀬が単独で動けるようにします」
「三、諜報権。風間に、諜報活動の全権を委譲します。情報収集・分析・対応の初期判断は、風間が行います。重大な案件のみ時貞様に報告します」
「四、財政権。浜村に、鳳凰寺の財政の管理と運用の権限を委譲します。鋳造所の運営・建設費の配分・税の管理を担います」
「五、外交権。対外的な書状のやり取りと、初期交渉については、成瀬と倉橋が担います。重要な外交判断のみ時貞様に集める形にします」
「時貞様が最終決定権を持つのは——重大な軍事行動、帝との関係、版図の変更、そして新しい方針の決定です。日常的な業務は、各担当者が動く」
時貞は全員を見た。
「異存はあるか」
全員が首を振った。
「では——今日から、この体制で動く」と時貞は言った。
「一つだけ」と成瀬が言った。
「何だ」
「権限を与えていただくことは——ありがたい。しかし」と成瀬は言った。「自分たちが動けるのは、上様の方針があるからです。方針だけは——常に、上様から示していただきたい。方針の中で、自分たちが動きます」
時貞は成瀬を見た。
「わかった」と時貞は言った。「方針は俺が示す。細部はお前たちが動く。それが鳳凰寺の仕組みだ」
「御意」と全員が応えた。
三 信玄の報せ
その日の夕刻。
風間が飛び込んできた。
「殿。武田信玄の体調について——決定的な報せが入りました」
時貞が顔を上げた。
「信玄は——西上作戦を中断しました」と風間は言った。「体調の悪化が深刻で、甲斐への帰還を決断したとのことです。信玄自身が輿に乗り、撤退を開始しています」
参謀室が静まり返った。
「天元」と時貞は呼んだ。
「はい」と天元が答えた。「史実では、信玄は西上途中に病死しています。しかし現在の状況では——帰国後の経過が史実と異なる可能性があります。帰国して回復すれば、再び動く可能性があります。帰国後に病が進めば、史実通りになります」
「信長はこれを知っているか」
「おそらく、まだ知らないと思われます」と天元は言った。
時貞は筆を取った。
信長殿へ。
急報です。
信玄が——西上を中断しました。
体調悪化のため、甲斐への帰還を決断したとの情報があります。
確証ではありませんが、信頼できる情報源からです。
包囲網が——崩れ始めています。
今が——動ける時かもしれません。
時貞より。
「急いで届けてくれ」と時貞は言った。
成瀬が頷いた。
「この報せが届いた時——信長はどう動くか」と木島が言った。
「わかっている男だ」と時貞は言った。「信玄が退いたとわかれば——朝倉・浅井・本願寺に向けて動く。信長の本性は速さだ。機会を見つければ、すぐに動く」
「包囲網が崩れますね」と浜村が言った。
「崩れる」と時貞は言った。「しかし」
「しかし?」
「崩れた後の世界が——史実と全く違う形になっているかもしれない」と時貞は言った。「信玄が生きて帰れば、また動く可能性がある。義昭もまだいる。信長の前には、まだ多くの問題が残っている」
「鳳凰寺は——どう動きますか」と成瀬が問うた。
「今は動かない」と時貞は言った。「帝への奏上が先だ。西日本の統治を固めることが先だ。信長と義昭の問題は——信長が解決する。俺たちの仕事は、帝を守ることだけだ」
四 博多、進む
その頃。
博多では、政務府の建設が大きく進んでいた。
政務庁の壁が立ち上がっていた。
港の整備が進んでいた。
博多の商人たちが、毎日のように建設を見に来た。
「いつ開きますか」と商人の一人が聞いた。
「来年の秋には、一部が使えるようになります」と工事担当者が答えた。
「早い」と商人は言った。
「鳳凰寺の建設は早いのです」と担当者は言った。
浜村が博多から戻ってきた。
「博多の状況を報告します」と浜村は言った。
「どうだ」
「順調です。しかし——一つ、面白いことがありました」
「何だ」
「博多の商人たちが——自ら、鳳凰寺の政務府に協力を申し出てきました」
「申し出?」と時貞は言った。
「はい。政務府が開けば、外国との貿易がより活発になる。それが商人たちには見えているから、建設費の一部を負担したいと言ってきました」
「……受け入れるか?」と成瀬が時貞を見た。
時貞は少し考えた。
「受け入れる」と時貞は言った。「条件として——商人たちの意見を政務府の運営に反映させる会議を、定期的に開く。商人が政に参加できる形を作る。これは統治研究部門が提案していた民の声を届ける仕組みの、最初の実験になる」
浜村が目を細めた。
「博多の商人を——民の代表として使う、ということですか」
「そうだ」と時貞は言った。「読み書きができて、情報を集める能力があって、損得を正確に計算できる。商人は——民の中で最も政に参加する準備ができている層だ。まずそこから始める」
「しかし絶対条件として商人たちの意見に力を持たせるな。もし持たせれば商人たちの都合のいいように政が動かされる危険性がある。自分たちへ有利に働くような政にさせる可能性が高い」
「わかりました」と浜村は言った。「商人たちへの返答を準備します」
五 風間の報告
その日の夕刻。
風間が執務室に入ってきた。
「殿」と風間は言った。「今回の播磨での情報収集について、報告があります」
「播磨?」と時貞は言った。「版図外だな。何の用で行っていた」
「毛利領の西端から、さらに東の情報を集めていました。播磨は——鳳凰寺の版図と隣接しています。今後の動向を把握しておく必要があると判断しました」
「何かあったか」
「面白い若者がいます」と風間は言った。
時貞が少し顔を上げた。
「どういう若者だ」
「黒田家の若い家老です。十九歳。名を——官兵衛といいます」
「続けてくれ」
「今年、室山の戦いで初陣を経験しました。敗北しました」と風間は言った。「しかし——その負け方が、普通ではありませんでした」
「普通ではない負け方、とは」
「負けを正確に分析して、なぜ負けたかを記録していました。それだけではありません。今年、妹を赤松政秀に殺されました。婚礼の当日に」
時貞は——少し止まった。
その表情が、変わった。
「……婚礼の当日に?」と時貞は繰り返した。
「はい」と風間は言った。「赤松政秀が急襲しました。婚礼の場が、そのまま修羅場になりました」
「官兵衛は——どうした」
「しかし——官兵衛は、その怒りを感情のままにぶつけませんでした」と風間は言った。「記録していました。赤松政秀の動き方を。弱点を。いつか必ず、という目で」
時貞はしばらく考えた。
(黒田官兵衛)
この名前を、時貞は知っていた。
後に秀吉の軍師として日本の歴史を動かす男。
天才的な軍略家。
しかし今はまだ——十九歳の、播磨の若い家老。
「……天元」と時貞は呼んだ。
「はい」と天元が答えた。
「黒田官兵衛という人物を知っているか」
「はい。播磨の国人・黒田家の家老。十九歳。父・職隆とともに国府山城を整備中です。今年の室山の戦いで初陣を経験し敗北。同年、妹が赤松政秀の急襲で命を落としています」
「その男を——どう見る」
「非常に優秀な人物である可能性が高いです」と天元は言った。「十九歳での判断力と状況分析の正確さは、この時代の平均を大幅に超えています。特に——敗北から学ぶ姿勢が、際立っています」
時貞は少し間を置いた。
(婚礼の当日に、妹を殺されたのか)
時貞自身の婚礼が、つい最近のことだったからだ。
冬姫の顔が浮かんだ。
あの夜の。
星を見た夜の。
指輪をはめた夜の。
(もし、あの婚礼の日に、誰かが冬姫を)
その想像だけで——時貞の胸に、何かが走った。
重い、熱いものが走った。
「官兵衛は今——どういう状態だ」と時貞は問うた。
「怒りを抑えながら、耐えています」と天元は言った。「しかし赤松政秀への敵意は、消えていません。むしろ——冷えた怒りとして、沈殿しています」
「赤松政秀は——鳳凰寺の版図に入っていないか」
「播磨は版図外です」と天元が答えた。
「直接動くことはできない」
「はい」
時貞はしばらく考えた。
窓の外を見た。
夜の海が広がっていた。
(十九歳で——婚礼の当日に妹を失って。それでも感情で動かず、記録している)
(俺も十六歳で、多くのことを背負ってきた)
(しかしこの官兵衛は——俺が転生という助けを持って動いているのとは違う。何も持たずに、この乱世の真っ只中にいる)
「官兵衛に——書状を送れ」と時貞は言った。
風間が少し驚いた。
「書状を、ですか。相手はまだ、播磨の一国人ですが」
「知っている」と時貞は言った。「しかし——俺が直接書く。鳳凰寺の名で」
成瀬が少し顔を動かした。
しかし——何も言わなかった。
時貞が直感で動く時は、いつも理由がある。
成瀬はそれを知っていた。
時貞は筆を取った。
しばらく、考えた。
そして——書いた。
黒田官兵衛殿へ。
突然の書状、失礼します。鳳凰寺時貞と申します。
妹御のことを、俺の諜報部が知りました。
婚礼の当日に——命を落とされた。
言葉が見つかりません。
ただ——深くお悔やみ申し上げます。
俺事で恐縮ですが——俺も先日、婚礼を終えたばかりです。
だからこそ、官兵衛殿の痛みが——わずかながら、想像できます。
一つだけ言わせてください。
その怒りを、無駄にしないでほしい。
いつか必ず——正当な形で、報いる日が来ます。
鳳凰寺時貞。
封じた。
「届けてくれ」と時貞は言った。
「はい」と風間は言った。
六 官兵衛の反応
播磨・国府山城。
黒田官兵衛は、書状を受け取った。
差出人を見た。
「鳳凰寺?」と官兵衛は言った。「西の島の——あの化け物勢力か」
父・職隆が横にいた。
「官兵衛、これは——相手にしてはならないかもしれない」と職隆は言った。
官兵衛は書状を読んだ。
最初から最後まで、黙って読んだ。
読み終えて——しばらく、動かなかった。
「父上」と官兵衛はようやく言った。
「何だ」
「鳳凰寺時貞という者は——十六歳だと聞いています」
「そうらしい」
「十六歳が——婚礼の当日という言葉を使って、俺の痛みを想像した」と官兵衛は言った。
職隆は黙っていた。
「この書状は、形式的な弔いではありません」と官兵衛は続けた。「本気で書かれています。俺には、それがわかります」
「どうする」
「それに——」と官兵衛は一呼吸置いた。「この書状を書いた者は、俺のことを知っています。室山の分析のことまで。これは——試されています」
「試されている?」と職隆が言った。
「ええ」と官兵衛は言った。「俺が返事を書くかどうか。どんな内容で書くかを——見ている」
職隆は少し考えてから、地図を広げた。
「播磨から見れば——すぐそこまで、鳳凰寺の影響圏が来ている」と職隆は言った。
「ええ」と官兵衛は言った。「しかし——俺が気になっているのは、版図の大きさではありません」
「何だ」
「鳳凰寺のやり方です」と官兵衛は言った。「島津を降した時——負傷した敵の兵を手当てした。四国を制圧した時——死者を少なくすることを優先した。そして全ての大名に先に書状を送ってから動いている」
「力があるのに——丁寧に動くということか」
「はい」と官兵衛は言った。「それが——理解できません。なぜそこまで丁寧に動くのか。力があれば、力だけで動けます。なぜそうしないのか」
官兵衛はしばらく考えた。
鳳凰寺の噂を、改めて頭の中で並べた。
七島の本拠地。謎の知恵の源「天元」。空を飛ぶ鉄の化け物。見えない距離からの砲撃。
島津が三ヶ月で降った。
毛利が十万貫を払って、恭順し、最終的には西日本の全ての大名と国人が臣従した。
帝が直接、綸旨を出した。
(この勢力が——十六歳の当主に率いられている)
(そしてその十六歳が、俺に直接書状を書いてきた)
官兵衛は書状を再び読んだ。
その怒りを、無駄にしないでほしい。
いつか必ず——正当な形で、報いる日が来ます。
(正当な形で、と言っている)
(力があれば、今すぐ報いてやると言えばいい。しかし——正当な形で、と言っている)
「父上」と官兵衛は言った。
「何だ」
「返書を書きます」と官兵衛は言った。「この者とは——繋がっておくべきです」
職隆が少し驚いた。
「鳳凰寺と繋がる、ということは——いずれ、鳳凰寺の影響下に入ることになるかもしれないぞ」
「知っています」と官兵衛は言った。「しかし——それが悪いこととは、俺には思えません」
「理由は」
官兵衛は少し間を置いた。
「播磨の現状を——どうにかしたい。赤松政秀の問題もある。この乱世で、播磨が生き残るためには——誰かと繋がる必要があります。その相手として、鳳凰寺は悪くない」
「悪くない、どころか——最も強い勢力だぞ」
「はい」と官兵衛は言った。「しかし——強いだけでは、俺は繋がろうとは思いませんでした」
「では何が」
官兵衛は書状を見た。
「この書状を書いた者が——本物かどうか、確かめたい」と官兵衛は言った。「この乱世で、ここまで人に誠実な者が本当にいるのか。力を持ちながら、なぜ丁寧に動くのか。その答えを——直接聞いてみたい」
職隆は官兵衛を見た。
「……返書を書くか」
「はい」と官兵衛は言った。「書きます」
官兵衛は筆を取った。
書いた。
鳳凰寺時貞様へ。
書状、確かに受け取りました。黒田官兵衛と申します。
妹のことへの——お言葉、ありがとう存じます。
婚礼の当日という言葉を使ってくださったこと。
それだけで、時貞様が形式だけの弔いを送ってきたのではないことが、わかりました。
一つ、聞かせてください。
鳳凰寺は——力があります。圧倒的な力があります。
その力があれば、丁寧に動く必要はありません。
しかし時貞様は、丁寧に動いています。
なぜですか。
私には——その理由が、理解できません。
理解できないことが、私は気になって仕方がありません。
お答えいただければ、幸いです。
黒田官兵衛。
封じた。
職隆が横で見ていた。
「正直な返書だな」と職隆は言った。
「書状を送ってきた相手に、正直に返す。それは礼儀であり、この時貞という人物と接する上では、それが正解だと考えます」と官兵衛は言った。
「試されていると言っていたが——お前も試しているな」
「ええ」と官兵衛は言った。
「どう試している」
「この問いに、どう答えるか——それを見ます」と官兵衛は言った。「誤魔化せば、この者は信用できない。しかし——本当のことを答えれば、この者は本物だ」
職隆は少し笑った。
「お前らしい」
「父上」と官兵衛は言った。
「何だ」
「もし鳳凰寺を——うまく引き込むことができれば」と官兵衛は言った。
「引き込む?」と職隆が言った。
「赤松との問題も。播磨の現状も——変えられるかもしれない」と官兵衛は言った。「鳳凰寺の力があれば、播磨は変われます」
「鳳凰寺を利用しようということか」
「いいえ」と官兵衛は言った。「利用ではありません。共に動く相手として、鳳凰寺が相応しいかどうかを——確かめようとしています」
職隆は官兵衛を見た。
十九歳の息子の目が——静かに、しかし確実に何かを見ていた。
「……行き先が同じなら、共に動ける。ということか」
「その答えが、あの書状にあるかどうか——待ちましょう」と官兵衛は言った。
七 七島、返書を読む
数日後。
官兵衛からの返書が届いた。
時貞は読んだ。
読み終えて——少し、笑った。
「風間」と時貞は呼んだ。
「はい」
「この男は——正直だ」
「どういう内容でしたか」と成瀬が問うた。
「なぜ丁寧に動くのか、と聞いてきた」と時貞は言った。「直接、正直に」
「その問いに——どう答えますか」と成瀬は言った。
「正直に答える」と時貞は言った。即座に。
時貞は筆を取った。
黒田官兵衛殿へ。
正直な問いを、ありがとうございます。
正直に答えます。
力があるからこそ、丁寧に動きます。
力だけで動けば——服従は得られます。しかし信頼は得られません。
服従は、力が衰えれば消えます。
しかし信頼は——力が衰えても残ります。
俺が百年後まで残る統治を作ろうとしている。
百年後まで残るためには、信頼が必要です。
信頼を作るためには、丁寧に動く必要がある。
だから——力があっても、丁寧に動きます。
それが答えです。
一つだけ、俺からも聞かせてください。
官兵衛殿は——この乱世に、何を作ろうとしていますか。
鳳凰寺時貞。
封じた。
「届けてくれ」と時貞は言った。
「はい」と風間は言った。「この先——官兵衛との関係は、どうなっていきますか」
時貞は少し考えた。
「わからない」と時貞は言った。「しかし——面白い男だ。これからが楽しみだ」
「殿が『楽しみだ』と言う時は——大抵、何かが起きますね」と成瀬は言った。
「そうかもしれない」と時貞は言った。
夜の七島の海が、静かに広がっていた。
播磨の若者が——西の方角で、同じ夜を生きていた。
二人の間に——最初の言葉が、届き始めていた。
(第四十九章へ続く)
官兵衛が出てきちゃいました…(゜Д゜)wao!!!!!!!!




