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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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第四十五章 ―鳳凰の花嫁―

一 前久からの書状

鳳凰寺七島。

その書状が届いたのは、夕刻だった。

成瀬が持ってきた時、いつもより顔が柔らかかった。

「前久様から——二通届いています」と成瀬は言った。「一通は急報。もう一通は——別の件です」

「どちらから読む」と時貞は問うた。

「急報を先に」

時貞は一通目を開いた。


時貞殿へ。急報。

帝の御意志を、お伝えする。

帝は——信長と義昭の対立について、こうお考えだ。

「朕は乱世の道具として使われることを望まない。

しかし今の京の状況は、朕の望みとは関係なく動いている。

時貞を信じている。時貞が動くべきと判断した時に、動いてくれればよい。

朕は——待っている」

以上が帝の御言葉だ。

武田信玄の西上が止まらない。

信長は東西南北から囲まれつつある。

京の空気が、日に日に重くなっている。

いつ戦が京に届いてもおかしくない状況だ。

近衛前久より。


時貞は一通目を読んで、机に置いた。

「二通目を」と時貞は言った。

成瀬が渡した。

時貞は開いた。


時貞殿へ。

急報とは別に——個人として、お願いがある。

冬姫のことだ。

京は、これから戦場になるかもしれない。

その可能性が、日に日に高まっている。

俺は朝廷の業務で身動きが取れない。

帝のそばを離れることが、今の俺にはできない。

だから——冬姫を、時貞殿に預けたい。

冬姫は言っている。

「時貞様の傍で支えたい。これから時貞様はもっと大変になる方だから、傍で助けたい」と。

鳳凰寺の版図は大きくなった。

これからはさらに大変になるだろう。

その傍に——冬姫がいることが、俺の願いでもある。

急で申し訳ない。

また、こんな時期に、と思う気持ちもある。

しかし——だからこそ、早くしたい。

時貞殿。

冬姫の輿入れを——お願いしたい。

一つだけ、詫びさせてくれ。

婚礼に俺が参加できないことを。

妹の婚礼に、兄が出られない。

それだけが——俺の心残りだ。

しかし冬姫のことは、時貞殿を信じている。

どうか——幸せにしてやってくれ。

近衛前久より。


時貞は書状を読んだ。

読み終えて——しばらく、動かなかった。

成瀬が横で待った。

時貞は窓を開けた。

夕日が、海を染めていた。

「成瀬」と時貞は言った。

「はい」

「冬姫殿を迎えに行く」と時貞は言った。

成瀬が、わずかに目を細めた。

「はい」と成瀬は言った。「準備します」


二 信長の苦境

岐阜城。

信長は地図の前に立っていた。

一人だった。

部屋の外に、近習が控えていた。

しかし——信長は誰も入れなかった。

地図を見ていた。


東——武田信玄。

北——朝倉義景、浅井長政。

西——本願寺。

そして——義昭が、それら全てを束ねようとしている。

信長は指で地図をなぞった。

(囲まれている)

事実だった。

しかし——信長の顔に、恐れはなかった。

怒りがあった。

苛立ちがあった。

しかし——恐れはなかった。

「信玄坊主め」と信長は呟いた。

老獪な戦略家。

遅い。しかし——確実に動く。

信長の苦手なタイプだった。

信長は速さで全てを制してきた。

しかし信玄は——速さで動かない。

時間をかけて、確実に、包囲を狭める。

「……」

信長は地図から目を上げた。

窓の外を見た。

(時貞)

ふと、その名前が頭に浮かんだ。

西を——あの男が押さえている。

九州。四国。中国。

それが今、全て鳳凰寺の影響下にある。

信長の背後は——西からは来ない。

それが今の信長の唯一の安心だった。

(あの嘘つきめ…)

急がないと言いながら、誰より速く動いている。

信長は口元を動かした。

笑った。

この状況で笑えるのは——時貞の顔を思い出した時だけだった。

「前久は?」と信長は呼んだ。

近習が「前久様は今、御所に」と答えた。

「そうか」と信長は言った。「なんでもない」


信長は再び地図を見た。

信玄が止まらなければ——決戦になる。

三方ヶ原の方角に、信長の視線が向いた。

(来い)

信長は思った。

(信玄坊主よ。お前が来るなら——俺も動く)

(しかし)

信長はふと考えた。

信玄の年齢を。

信玄の体を。

(あの男は——どこまで動ける)

乱世の知将・武田信玄。

しかし——人は老いる。

それは信長も知っていた。

(待つか)

信長は珍しく、「待つ」という選択肢を考えた。

速く動くことが信長の本能だった。

しかし——今は、待つことが最善かもしれない。

(時貞のようなことを考えている)

信長は苦笑した。

「急がない、か」と信長は呟いた。

「あの男の言葉が——頭に残っているな」


三 博多の決定

七島の執務室。

時貞は全幹部を集めた。

「二つ、決める」と時貞は言った。

「はい」と全員が応えた。

「一つ——博多に、西日本政務府を建設する。正式に決定する」

「御意」と成瀬が言った。

「博多は西日本の経済と外交の中心になる。鹿児島の九州本拠地が軍事の中心なら、博多は政治と経済の中心だ。九州方面軍の一部を博多の警備に当てる。建設は来春から本格的に始める」

「建設の規模は」と浜村が問うた。

「大きく作る」と時貞は言った。「誰が見ても鳳凰寺の力がわかる規模で。鹿児島の城と同じく——見た目から圧倒される形で作る。政務庁・貿易港の整備・鋳造所の分工場・学舎・診療所を一体的に整備する」

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。「博多の建設計画は既に準備しています。筑前の大名への説明と土地の調整が必要ですが、鳳凰寺への臣従が完了した今、手続きは速やかに進められます。建設期間はおよそ三年と予測されます」

「三年後に——博多が西日本の政治と経済の中心になる」と時貞は言った。「その計画を、今日から動かす」

「御意」

「二つ目——冬姫殿を迎えに行く」

参謀室に、一瞬の静寂が落ちた。

それから——空気が変わった。

成瀬が言った。「輿入れ、ということですか」

「そうだ」と時貞は言った。「前久殿からの願いだ。京の状況が切迫している。冬姫殿を安全な場所に移したい。そして——俺も、冬姫殿に来てほしいと思っている」

「日取りは」

「早い方がいい」と時貞は言った。「京の状況がいつ動くかわからない。前久殿は婚礼に来られない。それは申し訳ないが——冬姫殿の安全を先に確保する」

「迎えの方法は」と倉橋が問うた。

時貞は少し考えた。

「輸送ヘリで迎えに行く」

「京の——どこに着陸しますか」と天元が言った。

「京の郊外。人目が少ない場所を選べ。着陸後、大型軍用トラックで近衛邸まで向かう。護衛は鳳凰寺兵五名。冬姫殿の嫁入り道具と従者を全員乗せて、七島に戻る」

「冬姫様の従者は何名ですか」と成瀬が問うた。

「前久殿の書状によれば——女官、乳母、侍女、雑用係合わせて十名になるとのことだ」

「輸送ヘリに全員乗れますか」と木島が言った。

「大型の輸送ヘリを使う。嫁入り道具の量次第だが——二便に分ければ問題ない」

「では——準備を」と成瀬は言った。目が笑っていた。

「頼む」と時貞は言った。


四 近衛邸

京の都。

近衛邸の庭に、冬姫が立っていた。

前久が隣にいた。

「本当に——ヘリというものが来るのか」と前久は言った。

「時貞様がそうおっしゃっていたのですから、来るのでしょう」と冬姫は言った。

「……あれに乗るのか」

「乗ります」と冬姫は言った。

前久は妹の顔を見た。

緊張していた。

しかし——目が輝いていた。

「冬姫」と前久は言った。

「はい」

「怖くないか」

「怖いです」と冬姫は即座に言った。「しかし——行きたいです」

前久は少し笑った。

「お前は——俺に似ているな」

「時貞様に似てきたのかもしれません」と冬姫は言った。

前久は黙った。

しばらく——空を見た。

「冬姫」

「はい」

「時貞は——良い男だ。俺が保証する」

「知っています」と冬姫は言った。

「幸せになれ」と前久は言った。

声が——少し変わった。

「兄上」と冬姫は言った。

「何だ」

「必ず——また会いましょう」

前久は冬姫を見た。

「ああ」と前久は言った。「必ず」


その時。

空から——音が来た。

轟音だった。

近衛邸の庭木が揺れた。

従者たちが、一斉に空を見た。

「き、来た」と誰かが叫んだ。

巨大な輸送ヘリが、京の郊外に降りてきた。

砂埃が舞った。

木の葉が飛んだ。


大型軍用トラックが、近衛邸の門前に止まった。

鳳凰寺の兵五名が降りてきた。

迷彩服を着ていた。

甲冑はなかった。

しかし——背筋が伸びていた。

一人が前に出た。

「鳳凰寺家より、冬姫様のお迎えに上がりました」と兵が敬礼しながら言った。丁寧な言葉だった。

近衛邸の門が開いた。


冬姫が出てきた。

白い打掛を着ていた。

その後ろに——十名の従者が続いた。

嫁入り道具が、次々と運び出された。

鳳凰寺の兵たちが、丁寧に積み込んだ。


前久が門まで出てきた。

冬姫と向き合った。

「行ってきます、兄上」と冬姫は言った。

前久は頷いた。

「——元気でいろ」と前久は言った。

それだけだった。

しかし——その一言に、全てが込められていた。

冬姫は深く頭を下げた。

それから——トラックに乗り込んだ。


五 輸送ヘリ

京郊外の着陸地点。

輸送ヘリが待っていた。

巨大だった。

近くで見ると——鉄の壁がそびえているようだった。

回転翼が、ゆっくりと回っていた。


冬姫は、ヘリの前で止まった。

「……大きいですね」と冬姫は言った。

「はい」と鳳凰寺の兵が言った。「ご安心ください。安全です」

冬姫の後ろで、従者たちが固まっていた。

乳母の老女が言った。

「あ、あれに乗るのですか」

「そうです」と冬姫は言った。

「む、無理では」と乳母は言った。

「大丈夫です」と冬姫は言った。しかし声が少し震えていた。

侍女の一人が、ヘリのドアを見た。

「開きました」と侍女は言った。

「乗り込みましょう」と冬姫は言った。

自分に言い聞かせるように言った。


冬姫が最初に乗り込んだ。

タラップを上った。

ヘリの内部に入った。

「——広い」と冬姫は言った。

想像より広かった。

座席が並んでいた。

窓があった。

鳳凰寺の兵が丁寧に案内した。

「こちらにお座りください。シートベルトをお締めします」

「シートベルト?」と冬姫は言った。

「体を固定する帯です。外れないようにします」

「わかりました」


従者たちが、おっかなびっくりで乗り込んできた。

乳母が乗り込んだ瞬間、床を踏んで驚いた。

「固い。床が固い」

「鉄です」と兵が答えた。

「鉄の中に乗るのですか」

「はい」

乳母が座席に座った。

シートベルトを締めてもらった。

「これは——なんとも不思議な」と乳母は言った。

侍女の一人が窓の外を見た。

「外が見えます」と侍女は言った。「小さな窓から」

「もうすぐ飛びます」と兵が言った。「最初は少し揺れますが、すぐに安定します」

「と、飛ぶのですか」と別の侍女が言った。

「飛びます」と兵は答えた。

全員が——黙った。


エンジン音が高まった。

回転翼の音が大きくなった。

冬姫は窓を見た。

地面が——動き始めた。

いや、地面が動いているのではない。

ヘリが——上がっていた。

「あ」と冬姫は言った。

地面が遠くなった。

木々が小さくなった。

近衛邸の屋根が見えた。

門の前に——小さく、前久が立っているのが見えた。

冬姫は窓に顔を近づけた。

前久が——手を上げた。

冬姫は窓に手を当てた。

(兄上——)

そして——京の都が、遠くなっていった。


乳母が悲鳴に近い声を上げた。

「う、動いている。空を飛んでいる」

「飛んでいます」と兵が答えた。冷静に。

「なぜ落ちないのですか」

「仕組みがあります」

「どういう仕組みですか」

「少し難しいです」と兵は言った。「しかし安全です。ご安心ください」

乳母が目を閉じた。

「目を閉じていれば落ちない気がする」と乳母は言った。

「落ちません」と兵は言った。


侍女の一人が、恐る恐る窓の外を見た。

「——きれい」と侍女は言った。

思わず出た言葉だった。

他の従者が、ためらいながら窓を見た。

「……本当に」と別の侍女が言った。

雲が、目の前にあった。

山が、下に見えた。

川が——光って見えた。

海が——広がっていた。

「すごい」と誰かが言った。

「怖いけれど——すごい」と誰かが言った。


冬姫は窓から離れなかった。

ずっと——外を見ていた。

日本の全体が、見えるようだった。

山も川も海も——全部、小さく見えた。

(時貞様は——これが見えている場所から、動いているのかもしれない)

ふと、そう思った。

空から見ると——全部が小さく見える。

一つ一つの城も、一つ一つの村も。

しかし全部が繋がっている。

その繋がりを——時貞は見ている。

(だから遠くが見えるのかもしれない)

冬姫は静かに、そう思った。


六 七島が見えた

やがて——海の向こうに、島が見えてきた。

「あれが七島です」と兵が言った。

冬姫は窓を見た。

島が——青い海の中にあった。

緑が濃かった。

港が見えた。

城の形が見えた。

旗が見えた。

鳳凰寺の旗が、島に揺れていた。

「——来ました」と冬姫は言った。

声が、少し震えていた。

今度は怖さからではなかった。


ヘリが降下し始めた。

乳母がまた目を閉じた。

「下りるのですか」

「はい」と兵が言った。

「下りる時も怖いですか」

「少し揺れます」

「やっぱり怖いですか」

「すぐに終わります」


七島の基地。

着陸用の場所が準備されていた。

ヘリが、ゆっくりと降りてきた。

地面に、車輪が触れた。

エンジン音が小さくなった。

回転翼が、ゆっくりと止まっていった。

「着きました」と兵が言った。

乳母が目を開けた。

「——終わりましたか」

「終わりました」

乳母が深く息を吐いた。

「生きていた」と乳母は言った。

「生きています」と兵は答えた。


ドアが開いた。

タラップが降りた。

冬姫が最初に降りた。

七島の空気が——届いた。

海の匂いがした。

夏の終わりの風だった。

冬姫は深く息を吸った。

七島の空気を、胸の奥まで入れた。


桟橋に——時貞が立っていた。

成瀬が横にいた。

幹部たちが少し離れたところに並んでいた。

全員が、冬姫を見ていた。


冬姫は時貞を見た。

時貞は冬姫を見た。

「——来てくれましたか」と時貞は言った。

「参りました」と冬姫は言った。

二人は向き合った。

「遠かったですか」と時貞は言った。

「遠くありませんでした」と冬姫は言った。「あっという間でした」

「怖かったですか」

「怖かったです」と冬姫は正直に言った。「しかし——きれいでした。空から見た日本が」

時貞は少し笑った。

「そうですか」

「はい」と冬姫は言った。「時貞様がいつも見ているものが——少しわかった気がしました」

時貞は冬姫を見た。

その言葉が——胸に届いた。


後ろから、乳母の声がした。

「冬姫様——足が震えております、この乳母は」

冬姫が振り返った。

「乳母、大丈夫ですか」

「大丈夫ではありませんが——生きておりますので、大丈夫です」と乳母は言った。

成瀬が少し笑った。

幹部たちも、こらえた顔をしていた。

従者たちが、おぼつかない足取りでタラップを降りてきた。

一人が七島の地面を踏んで言った。

「地面が——動いていない」

「動いていません」と成瀬が言った。丁寧に。

「ありがとうございます」と侍女は言った。心から。


時貞は冬姫を見た。

「七島へ——ようこそ」と時貞は言った。

「ただいま」と冬姫は言った。

少し驚いた顔をした。

「ただいま、と言ってしまいました」と冬姫は言った。「おかしいですね」

「おかしくありません」と時貞は言った。「ここが——今日からあなたの家になります」

冬姫はしばらく、時貞を見た。

それから——笑った。

七島の夏の終わりの風が、冬姫の打掛を揺らした。

「はい」と冬姫は言った。「よろしくお願いします、時貞様」


七 七島の夜

夜。

婚礼の準備が、七島全体で始まっていた。

しかし時貞と冬姫は——縁側で二人、静かに座っていた。

海が見えた。

星が出ていた。

以前、一緒に見た七島の星だった。

「星が——同じですね」と冬姫は言った。

「はい。星は変わりません」と時貞は言った。

「前久兄上が——婚礼に来られないことを、詫びていました」と冬姫は言った。

「聞いています」と時貞は言った。「前久殿には——必ず、いつか会える機会を作ります」

「はい」

しばらく、二人は星を見た。

「時貞様」と冬姫は言った。

「はい」

「一つ聞いてもよいですか」

「どうぞ」

冬姫は少し間を置いた。

「わたくしは——役に立てますか。時貞様の傍で」

時貞は冬姫を見た。

「役に立つ、とはどういう意味ですか」

「時貞様はいつも、たくさんのことを一人で背負っています」と冬姫は言った。「わたくしに——その重さを、少しでも分けてほしいと思っています。しかしわたくしには、政のこともわかりません。軍のこともわかりません。何ができるか——まだ、わかりません」

「冬姫殿」と時貞は言った。

「はい」

「前久殿は——京で冬姫殿のことを話す時、目が違うと言っていました」

「目が?」

「冬姫殿のことを話す時だけ、前久殿の目が柔らかくなると、俺には見えました」と時貞は言った。「前久殿が帝を守る時の目とも、政を動かす時の目とも——違う目でした」

冬姫は少し驚いた顔をした。

「それが——冬姫殿の力だと思います」と時貞は言った。「前久殿のような人間でも、冬姫殿の前では柔らかくなれる。笹木先生も——冬姫殿とならやりたいことができると言っていました。有村たちも——冬姫殿が診療所に来た時、緊張が取れると言っていました」

「そんなことが」

「人を、温かくする力」と時貞は言った。「俺には——その力がない。鋭くは動けます。遠くは見えます。しかし——温かくすることは、俺には難しい」

冬姫は静かに聞いていた。

「だから——冬姫殿が傍にいてくれれば、俺が届かない場所に届いてもらえる。それが——一番の役に立ち方だと思います」

冬姫はしばらく、時貞を見た。

「……ありがとうございます」と冬姫は言った。声が、少し揺れていた。

「こちらこそ」と時貞は言った。「来てくれて——ありがとうございます」

二人は並んで、七島の星を見た。

天の川が、静かに流れていた。

夏の終わりの夜が、静かに更けていった。


(第四十六章へ続く)

急遽、冬姫が時貞の元へ来ることになってしまいました(;^_^A

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― 新着の感想 ―
>桟橋に——時貞が立っていた。 →船ではなくヘリで来た冬姫を出迎えるのに、桟橋に立っているのは変では?
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